第十八話 教国最後の刺客
「ねぇッ…!ジル!起きて!」
「ん〜?もう朝ですか…?」
…何か焦げ臭えな…何の匂いだ?
焼き魚でも失敗したのか?
てか、何か泣いてる?怖い夢でも見たのか?
「今日の朝ごはんは焼き魚ですか?」
「ッ…何言ってるの!今は夜だよ!」
じゃあ何で起こして…
目のピントが会った時、其処には黒い煙が立ち込めていた。
「な?!火事?!何でこんなになるまで誰も気が付かなかったんだ?!早く逃げなきゃ!」
「ッ…逃げられないの!」
「何言って、アッツッ!」
部屋のドアノブはめちゃめちゃに熱くなっていた。
「まさか、もうそこまで火が!」
「…ッ…ッ…もう、無理だよ…シナも来てッ…くれないしッ…どうすればッ…いいのよッ…」
ここまで火が回ってると、シナさんも助けにこれないのかもしれない。
なら…もう俺がやるしかない!
この部屋には窓がある。ここは2階だが、俺は一回崖から生還してるんだぞ!これくらい、人が居たってできる!
「大丈夫。俺が助けるから。」
「ッ…どうやって…?」
俺は窓の目の前に椅子を運び、その上でお嬢の腰に手を回して言った。
「え、嘘でしょ?飛び降りるの?無理だよ!」
「レナ!」
「ッ!」
俺はこの時、初めてお嬢を名前で呼んだ。
彼女の事は必ずお嬢様と呼ぶように言われていたので今まで言ったことも無かったが、今はこの子は『お嬢様』じゃない。『保護対象の子供』だ。
「死んでも守る。だから、絶対俺から離れるな。」
「…は、はい。」
前回と違うのは猶予がないから、魔術の展開タイミングをミスったら、二人とも大怪我…最悪死ぬ。
回復してもらうのも、レナが回復できる状態である事が前提条件。
つまり、失敗は死だ。
「行くぞ!」
「ッ…!」
飛び降りると同時に両手からウォーターウォールを放つ。
今回は高さが低いからウィンドボムで調整する必要はなく、むしろ、2人分耐えられるほどの厚さが必要だと判断した。
これが功を奏し、俺が背中に少し衝撃が入ったが、二人とも無事だった。
「…生きてる…?」
「言ったろ?絶対守るって。」
「…うん。」
その時、何処からかナイフが飛んできて、間一髪でシナがそれを弾いた。
「お嬢様無事でしたか!」
「シナ!」
「シナさん!」
ナイフが飛んできた方を見ると、黒い格好の一人の男が佇んでいた。
「死ななかったのか。運が良いやつだな。」
「シナさん、彼奴は…」
「長男の付き人。そして、私の兄弟子です。」
まさか!国境を越えてからかなり経っているというのに襲ってきたのか?!しかも、人里に降りてから?!
「こんな所まで何で付き人が…」
「何でって、殺すためだ。そこの小娘をな。」
「一応聞きますけど、こんな派手に暴れて良いのですか?」
「あぁ。俺はこの仕事をする前に解雇された。
だから、あくまでこれは俺の私怨だ。」
私怨…だから長男は関係ないと。クソみたいな理論だな。
「そんな危ない橋を渡ってまで殺しに来るのか。」
「あぁ。殺す。最も危険な奴だからな。」
「危険…?」
「其奴は兄弟姉妹の中で一番『白竜の血』が色濃く出てる。だから、覚醒する前に殺すんだ。」
『白竜の血』?なんだそれ?
まぁ、とりあえず、倒すしかない。
「…ジルさん。お嬢様を連れて街まで逃げてください。」
「…え?」
「逃がすと思ってるのか?」
「街に入ってしまえば、流石の彼奴でも手は出せません。お嬢様を頼みましたよ。」
「駄目ですよ!」
「行けっつってんのよ!私じゃ彼奴は殺せない!早く行け!」
「行かせるわけねえだろ!」
シナ達は切り合いを始めた。
…何時まで持つか分からない。お嬢には悪いが、ここは…
「行かない!」
「でも…」
「私はシナが居ないと何にも出来ない!
お父様は、冷たいし。お母様も、私は会ったことない!
シナが私のお母さんなの!ッ…もう嫌なの!
兵士さん達が死んじゃった時も、凄い悲しかった!シナが死んじゃったら、もうッ…本当に立ち直れない!」
「…」
「ねぇ、何で私ばっかりこうなの?
何でこんな人生なの?」
「…」
「…ねぇ、さっき何があっても守るって言ってくれたよね。
シナが死んだら、私も必ず死ぬわ。
…だから、助けて。
私を!シナを!助けてください!!」
「…」
[シナ視点]
「(やっぱり、腕は全然落ちてない!此方なんてあの頃に比べて絶対に弱くなったのに!)」
「弱くなったな。侍女なんてやるからだ。
お前は、血の中で佇んでいるべきだったのに!
何故弱くなる道を選んだ!あの中で2番目に強かったお前が!何故だ!」
「私は守りたかったんだ!仇以外殺したかったわけじゃない!快楽殺人鬼のアンタと一緒にするな!」
さらに速度が上がった。
「(まずい、もう、追いつけな…)…!」
その時、横から魔術の横槍が入った。
私達は動きを停めてその方向を見る。
其処にはジルが居た。
「何で!」
「シナ!私を置いていくなんて許さないわ!」
「お嬢様…何で…」
「貴方、前言ったわよね!『こんな小娘残して死ねるか』って。
私はまだ小娘よ!貴方には私が大人になるまで見守る義務がある!勝手に死ぬなんて許さないわ!」
「でも…」
「シナさん!一人では無理でも、二人いれば何とかなることは世の中たくさんあるんです!
人は支え合うものです!
僕はこの旅でたくさん支えられました!
今度は僕があなたを支えます!」
「…」
[ジル視点]
「魔術師がゴチャゴチャ言ってんじゃねぇ!邪魔しやがって!まずはお前からだ!」
ナイフの対処の仕方はシナさんが何度も何度もおしえてくれた。
こんな舐め腐ったクソみたいな一撃くらい、ちゃんとかわせる!
俺はナイフをかわし、腹に直接ウォーターボールをぶつける。
「グハッ…!」
硬っ!殺す気で撃ったのに、何で木を貫けるレベルの奴が腹に当たって、服しか破れてねぇんだよ!
「…お前、雇われの身だろ?何で勝ち目の低いそっちに付くんだ?」
「女の子の涙に弱くてね。」
「実に馬鹿馬鹿しい理由だな。」
「撤退してくれないかい?」
「却下だ。」
「そうか。なら、殺す。」
後ろからシナが霧かかると同時に俺は下からロックスピアを展開する。
ロックスピアは奴の足に刺さり、俺は再びウォーターボールを放つ。
しかし、奴はそれに耐え、シナをロックスピアの上へ投げた。
俺は直ぐにロックウォールを展開し、シナが刺さるのを防ぐ。
だが、それを使ってロックスピアからは脱出された。
その後は奴は俺をターゲットにし、シナに庇って貰いながらウォーターボールをチマチマ当てていた。
だが、時間が立つに連れ、徐々に魔力量に底が見えてきた。
幾ら魔術がバカスカ撃てるとは言え、こんだけ撃っていたらそりゃ尽きる。
「「「ハァ…ハァ…」」」
長時間の戦闘で全員疲弊していた。
今は俺の乱入で何とか均衡を保っている。
これで俺の魔力が切れたら本当に終わりだ。
「…シナさん、どうにかして彼奴の動きを三秒止めてくれませんか?」
「三秒?」
「魔力量の底が見えてきました。そろそろキメないと本当にまずいです。」
「本当に三秒で良いんだな?」
「はい。三秒有れば確実に殺します。」
「分かった。絶対に殺せよ?」
「はい。」
「何喋ってんだよ!」
シナは最後の力を振り絞って、奴に突っ込んで行った。
奴は直ぐにナイフで応戦したが、今回彼女はそれを避けなかった。
「?!」
シナの腹にナイフが刺さる。しかも、そのナイフは毒付き。
そんな物が刺さっているというのに、シナは一切止まらず、奴の身体を押し倒した。
「今だ!やれ!」
俺は奴の頭の上に跨り、顔面に向けてウォーターボールを撃った。
だが、これはただのウォーターボールでは無い。
魔術を相殺する時、その魔術のパワーを吸収して魔術は消す。
だから、火魔術を水魔術で相殺する時、水魔術は熱くなる。
俺は今回それを其奴の口のなかに向けて撃った。
此奴の身体は硬い。
だが、内側まで硬いのか?
熱にはつよいのか?
喉を水で満たせば、窒息するんじゃないのか?
「ゴフッ!ガボッ!」
予想は当たり、奴はもがき出した。
「熱っ!」
「大丈…」
「構うな!急げ!」
直ぐ様、ロックスピアを展開し、体を串刺しにする。そのまま数分間抑え続け、最終的には窒息で殺しきった。
「…死んだのか…?」
「…脈も無いので、完全に死にましたね。」
「…そうか…」
その瞬間、どっと疲れが襲ってきて倒れそうになった。だが、まだ終わってない。
シナさんの顔の火傷なんかより先に腹の止血と、解毒をしないと、本当に取り返しがつかなくなる。
その時、シナさんはぶっ倒れた。
その後、お嬢に直ぐ様治療もしてもらい、何とかシナさんは一命を取り留めた。
泊めてくれた家族は全員亡くなっていた。
俺達は遺体を埋め、供養した。
そして、次の日の朝、街へと出発した。




