表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/59

第33話 とんでもない大失態ですよ

ヴィッセンスブルク イルミナウ区 リエリの家 地上階

―第6紀 370年2月21日(土曜日)8刻



「さて,モーガン女史.詳しい話をお聞かせください.」

「実は…」

話を聞いて,パスカルは頭を抱えた.

(最悪だ.本当に関係ないことに巻き込まないでほしいよ.)と思った.


「モーガン女史.とんでもない大失態ですよ.」

「えっ?!」

パスカルは話の内容から考えられる複数のケースを思いついたのだが,関係ないことに巻き込んだ腹いせにベアトリスをいじめることにした.

「状況はこうだと思います.

まず,クライトン賢爵閣下はエーデルシュタインから脱出できないことに危機感を募らせて,家で秘匿していたレリック級アーティファクトを決死の覚悟で魔族軍を突破し取りに帰り,試運転をしていた.そこでバッタリ,モーガン女史に出会った.

撤退作戦は元々飛空艇の乗員数が足りていなかったので,北方改革派は乗船を辞退して,数人だとしても他の人が乗れるようにアーティファクトで転移した.

しかし,内務省大臣はあなたの言い分を信じて,北方改革派が謀反を起こそうとしていると勘違いして,騒ぎを起こしてしまった.勘違いとわかったので,下手をすれば国を二分させるような大失態だと思ったので自殺された.そして,赤蝗が真の下手人であるあなたを暗殺しに来たのです.」


ベアトリスはみるみる青ざめていき震えだした.

「わ…私,今から司法治安官詰所に出頭します.」

(こういうところは好ましい性格をしている.さすが若くて出世しているだけはある.いつも肝がとても座っているし,自分のミスから逃げない姿勢もとてもよい.)

「すみません.からかいました.冗談ですよ.」

「えっ!?」

パスカルは立ちあがったモーガンの肩を持ち,椅子に座らせた.


「可能性の一つを言っただけです.クライトン賢爵閣下の性格を考えたら,このシナリオは可能性が低いです.」

「…」

「最初から謀叛を起こすつもりだったかもしれませんし,今の情報だけではわかりませんよ.内務省大臣が動いたので,謀叛を起こす方向に舵を取ったシナリオが一番あり得ると思います.」

「そうだとしても,私が北方改革派のトップの動きが怪しいと報告したのが,きっかけなのでは? はぁ,私,とんでもないことをしたのでは?」

「いえ,最有力シナリオでも,あなたは悪くないですよ.どう考えても,北方改革派の動きが腹黒いのは確かです.」

ベアトリスは考え込んで,黙りこんだ.そして怒り出した.

「そ,それにしても,ひどいではないですか!私の人生が終わったかと思いました!」

「はぁ,モーガン女史.人生が終わる危機はまだ終わっていませんよ.赤蝗について,知っていることを隠し立てなく,すべてしゃべってください.でないと,今日人生が終わってしまうかもしれませんよ.」

再び,ベアトリスは黙る.そして,知っているわずかなことを,意を決して喋りだす.


「赤蝗はマギアスで構成された暗殺部隊です.政府の汚れ仕事を担当している部門です.各地で支局で分かれていて,支局ごとに依頼を受けている様です.ヴィッセンスブルクは大臣会議がコネクションを持っていて,私も内務省大臣の付き人ですので,緊急時の連絡先を知っています.中央だけでなく,大きな街も赤蝗を持っていますが,横の繋がりはないはずです.一人のトップが仕切っているとの噂もありますが,私は思い当たる人物を知りません.」

「暗殺の手段は?」

「知りません.でも,アンチマナニウム*でできた武器を使うって言う話は聞いたことがあります.」

「なるほど.あなたの潔白を証明する必要もありそうだし,赤蝗は捕まえましょう,この3人で.」

「「えっ?」」


「パスカル 大丈夫 なの?」

リエリはずっと黙っていたが,さすがに心配になった.暗殺部隊とか,一般市民には無縁の世界である.

「リエリはまだ例の特技はできるんだよね?」

「えっと, タロット ダーツの 飛んでいる カードの 絵柄を 当てる やつ?」

「そんなことができるんですか!」

タロットダーツとはタロットカードを投げて,的に当てるゲームである.飛んでいるときに回転させながら飛ばすのでどのカードが投げられたのかを当てるのは難しい.


「はぁ…,違うよ! ティルールローゼの【空弾(フルトバレット)】を1周秒に16連射するやつだよ.」

「えっ? そんなこともできるのですか!…すごい.」

「できると 思う.」

「よし,リエリは階段のところから,この部屋に入ってきた知らない人物の目を狙って連射して.後は,僕とモーガン女史が臨機応変に対応するから.」

「わかった.」と言い,杖を自分の手元に抱き寄せた.

「臨機応変.わかりました.」

「じゃあ,部屋を薄暗くするよ.」


「来たよ.3人だ.しっー.」

カチャカチャ音がする.魔法を使わずに鍵を突破するようだ.

ゴクリ.リエリは若干ドキドキする.手が汗ばむ.

カチャン.開いた.ゆっくりとドアノブが回る.そして,音がしないようにゆっくりとドアが開いていく.

そして,一人,二人,入ってくる.パスカルが合図する.

連射(シュネール)空弾(ルフトバレット) 16発/周秒 連続発動】

リエリは交互に二人の目を狙って連射する.

「ふがっ,あばばば.」「ぐががががが.」

気絶(ベタウベン)雷撃(ボルツェン) ×2】

バタ,バタ.

パスカルは一人ずつ部屋の真ん中に引きずっていき,

(ツゥリューク)(ハルツング) ×2】と,動けなくさせる.そして,開きっぱなしの玄関の扉から手だけを出して,こっち来いと言う一般的な仕草をする.

手だけでもう一人来ることを二人に合図すると,二人はうなずく.


相手は入ってくるなり,

閃光(ブリッツ)】と目眩ましを放ってきた.

「ひぃ.」 リエリはまともに見てしまった.そのまま,驚いてしゃがみ込む.そこに【気絶(ベタウベン)雷撃(ボルツェン)】が飛んでくる.それを閃光で滲んだ視界でも【動体視認加速(リュックブレンデ)】で確認し,後ろに倒れてギリギリ回避できた.

「ふわっ!」バタン.

「ちっ.」

連射(シュネール)空弾(ルフトバレット) 16発/周秒 連続発動】【気絶(ベタウベン)雷撃(ボルツェン)】【気絶雷…】

「なっ!あがががが.うっ!」

バタン.

リエリすぐに体を起こし,目がくらんで狙いが甘かったものの,マナ覚を頼りに顔には当たっていた.

「なんか弱くないですか?赤蝗.」

(ツゥリューク)(ハルツング)

「僕もそう思います.リエリ,大丈夫?」

「大丈夫.」リエリは目をパチパチと瞬きを繰り返していた.

「今のはすごく良かったよ.」

リエリはパスカルに褒めてもらえて,顔をニマニマしながら真っ赤になり,体をくねくねしていた.

「さて,朝まで3人を見張って,司法治安官に引き渡せばいいですね?モーガン女史.」

「たぶん,それで良いと思います.ありがとうございます.この感謝は忘れません.リエリさんも,すごいのですね.さすがエリーさんのお友達だけはありますね.」

「えへへ.」と,照れ笑いする.


「朝まで待たなくても,私に引き渡してくれたら,それでいいのだが.」

「「「!」」」

気づかないうちに4人目の人物がヌゥッと立っていた.

気絶(ベタウブング)雷撃(ボルツェン)】【気絶(ベタウブング)雷撃(ボルツェン)】【連射(シュネール)空弾(ルフトバレット) 16発/周秒 連続発動】【魔法照準反転(ツィールンケーァ)

3人の魔法が跳ね返された.

「うわっ!」「きゃぁっ.」「いだだだだだだ.」


「いきなり何をするのですか? 失礼ですね.」

パスカルとモーガンは体が痺れて,しゃべれないし,動けない.動けるのは服が淡赤色に染まっているリエリだけである.杖を構える.

「赤蝗?」

「もう,失礼ですね,ガブリエリナ・フォレシガールさん.私は“白梟”の“黃栗鼠”と言う者です.」

「「!」」

「ふくろうさん? りすさん? どっち? 名前と 見た目が 合って ない.  変な 人.」

「本当に失礼ですね!私は味方ですよ.…それにしても,こんな素人にやられるとか,赤蝗もたいしたことないですね.

さて,ファンデルメーデン将軍とモーガン参事,お役目ご苦労様です.この3人は“白梟”に連れて行きますね.悪いようにはしません.北方改革派は謀反を起こしました.失礼なやつらです.

そして,先ほど失敗を悟って,アイゼンシュタインへ逃げ帰りましたね.それと,療養中のライオネル王子をアイゼンシュタインへ連れ去りました.本当に失礼極まりないやつらです.どうするつもりか知りませんが,ややこしいことになりましたね.

将軍はしばらく自宅で待機しておいてください.

モーガン参事,お母様は残念でした.病死と言うことにしてあります.帰って葬儀を上げてください.」

「「…」」

「あっ,しびれてしゃべれないんですね.それは残念です.ではまた,失礼します.」

浮遊(シュヴィメント) ×3】

黄栗鼠を名乗る人物は3人を連れて行った.

「パスカル, 大丈夫?」

「…」

リエリは二人を引きずって部屋の真ん中に敷いていたラグの上まで移動させた.

「「…」」

二人はまだ動けないし,しゃべれないようだ.

「どう しよう. う~ん, 寝たら 治る よね?」

「「!」」

そうして,リエリはパスカルの右腕を借りて枕代わりに寝っ転がった.

「くぅ~,くぅ~,くぅ~.」

と,すぐに寝てしまった.

「「…」」

ベアトリスも断念して,寝てしまった.一晩寝ずに走り回っていたし,リエリの行動を見て,緊張の糸がぷっつりと切れてしまった.

こうして,朝を迎えた.



「ママ おはよう. パスカル は?」

「二人とも帰ったわよ.…パスカル君,右腕をさすりながら,だいぶあきれていたようだったけど,何かあったの?」

「ふ~ん, 何に あきれて いたの  かな?」

「….」

エリアーヌは固まった.自分の娘ながら,

(リエリって,大丈夫なのかしら.)と,心底心配になった.


エリアーヌが朝起きた時,三人で川の字で寝ていた.しかも,リエリがパスカル君の腕枕で寝ていたのである.

「リエリ,あなたもしかして,パスカル君のこと,す…いや,なんでもないわ.朝ご飯食べなさい.」

「うん. ママ の 料理 久しぶり.」

(なんだか わからない けど, ママが 少し 元気に なったよ. よかった.)

それは,落ち込んでなどいられないと思ったのだろう.



*) アンチマナニウム : どの極性のマナも吸収する黒光りする金属.飽和量のマナを吸収すると,強いエネルギーを発し,鉛に変化する.



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ