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第31話 この責任はいずこに

ヴィッセンスブルク センテル区 王城正門前広場 大噴水の六石柱前

―第6紀 370年2月17日(天曜日)3刻



「ウィリアムはライオネル王子を救出する作戦で命を落とした.すまない.僕が一緒に居ながら彼を守れなかった.僕の責任だ.」

リエリとクロエはパスカルに呼び出され,一言目にそう言われた.その日のパスカルは明らかに落ち込んでおり,悲しみに満ちた顔をしていた.

「えっ? ウィリアム が   星に 還った の?」

「う,ううう,うわぁぁん.」クロエは泣き出した.

「クロエ, クロエ, 泣かない で.」と,リエリはそう言ったものの,自分も泣き出してしまった.リエリの父ジョエルがなくなり,そして,次に,親友のウィリアムの死去を聞いたのだ.エリーとアンジェが星に還った以降,悲しいことが多すぎる.


パスカルは二人が泣いている間,下唇を噛み,黙って二人が落ち着くのを待っていた.

「わたし のね, パパも エーデル シュタインに 出兵 していたんだ よ. 正式に 連絡は ない けど,   パパも 星に 還ったん だよ.」

「…リエリのお父さんも出兵していたんだね.知らなかったよ.すまない.ほんとにすまない.もっと,うまくやれていたら….」

「ぐすん.なんでパスカルが謝るの?意味がわからない.ぐすん.」

クロエにそう言われ,リエリも(ほんと だ.)と思った.

「すまない.…この救出作戦は僕が立案して,事実上,僕が指揮していたんだ.」

「「!」」二人とも一瞬固まった.

そして,ほぼ同時にパスカルのローブに掴みかかった.

「どういうことよ!ぐすん.パスカル!答えて!ぐすん.」

「パスカルの 作戦で パパが 星に 還った の?!」


「僕らはエーデルシュタインから兵士や住民の脱出を手助けする作戦を行っていたんだ.ウィリアムはエーデルシュタインに取り残されたライオネル王子を救出するために,最後に突入したんだよ.無事にライオネル王子を救出できたんだけど,足に魔法を当てられて,出血がひどくて….彼の隊のメンバーの話では青い肌の女魔人がウィリアムにけがをさせたらしい.」

「つまり,そいつがウィリアムを殺したのね?」

「ああ.」

クロエはパスカルのローブをつかんでいた手を緩める.

「すまない,リエリ.君のお父さんがどこの隊に所属していたか,知らないんだ.後で確認して,ちゃんと連絡するよ.すまない.」

「ううう.」

「僕は行かなくちゃ.これから忙しくなる. あまりにも大切なものを次々と失い,心が痛いよ.でも,進むしかないんだ.エリーたちを殺した魔族の奴らを間近で見たよ.


グシオニブブと共にプッペンスタットに攻め込んだキマリザルド.

その作戦を考えて指揮していたらしいリザードマン.

ウィリアムを殺した青肌の女魔族.


みんな,僕が殺すから….


そして,元凶の魔王も.


約束するよ.」

「「….」」

そう言って,パスカルは後ろを向いて,歩いて去って行った.



翌日の新聞には箝口令が解除され[エーデルシュタインが陥落]したことが記載され,その翌日に[両王子救出撤退作戦が成功]したことが記載された.その記事の中に,ハウエルズ軍団長のコメントと,パスカルの名前が記載されていた.

リエリは新聞を読んで,複雑な気持ちだった.

(救出作戦  成功 って, 成功 なんて してない よ. パパは 助から なかった. これは ママに 絶対に 見せては いけない.)と思い,破り捨てた.



新生アラグニア王国 ヴィッセンスブルク 王城 謁見の間

―第6紀 370年2月18日(火曜日)3刻



「ズーデンヴァルト,そして,エーデルシュタインの陥落.両地域だけ見れば,人類種連合軍 43万人を動員したが,終わってみれば生き残った兵士は7万人と壊滅状態,政治的に主要な人物は救出されたが,多くの軍人が戦死したのじゃ.そして,魔族軍占領下のズーデンヴァルトにはまだ600万人の市民が残っている.この責任はいずこにあるのじゃ!」

その責任は本来 国王ジャックにある.しかし,この魔法省大臣は北方改革派に責任を押し付けようとしていた.

「言わせてもらうが,魔法省大臣.我々が手助けしなければ,もっと悲惨な敗北をしていたでしょうな.」と,北方改革派のクライトン賢爵は魔法省大臣の意図を十分に理解したうえで幾分かの自虐を含めた口調で反論した.北方改革派の陸軍第二軍も壊滅状態であり,立て直すのは時間を有する.

「何を言うのじゃ.貴殿の言う通り,クブールで魔族軍を退けたのはよかった.その後はなんじゃ.ひどい負けっぷりではないか.」

「後からではなんとでも言えますな,魔法省大臣.」

「わしは戦争に賛成しておらんぞ.後出しではないのじゃぞ.」

「ふん!おいぼれが!」

「なんじゃと!」


「お二人とも!責任論も大切ですが,ズーデンヴァルトをどうされるつもりですか? ズーデンヴァルトの衛星都市の防衛の問題もありますし,今やシグリス河の北を魔族軍が好き放題闊歩しています.監視体制も再構築する必要もあります.とにかく,資金も,材料も,マナも,時間も足りません.」と,内務省大臣は絶望的だと言わんばかりの発言をする.

「相変わらず悲観主義だな,内務省大臣.人と食料だけは足りている.総徴兵制度を採用したんだ.これを利用して何とかするしかあるまい.」

「国内に不満が溜まっています.これ以上何かあると,国が機能しなくなるかもしれません.」


「最終的に勝てば良い.余は反撃を指示する.」

「しかし…」

「内務省大臣!国王命令であるぞ.」

「はっ!」

「少なくとも,私の首は交代ください.後任はメイスフィールド賢爵を推挙いたします.」と,軍務省大臣は進言する.

「追って沙汰を申し渡す.」

「国王陛下の仰せのままに.」



「魔法省大臣,待って下さい.」

「内務省大臣,何かね.」

「ええ,このままでは軍務省大臣は投獄されます.最悪,処刑と言う可能性もあります.何とかならないものでしょうか?」

「彼と仲が良いからと言って,彼の覚悟を無駄にするのはどうかと思うぞ.」

「しかし….はぁ,わかりました.実は魔法について,ご意見を伺いたいことがあります.」

「どのような?」

「北方改革派の不審な行動についてです.」

「不審? 魔法とどんな関係があるのかね?」


「ええ,関係があるはずです.モーガン女史を知ってらっしゃいますか?」

「もちろん,彼女は目立っているからな.」

「エーデルシュタイン現地上層部と撤退の合意を得るために交渉役として,彼女もエーデルシュタインに行きました.ところが,北方改革派のトップメンバー全員が見つからなかったそうです.最終的に,彼らの拠点から出てきたところばったり出会ったらしいのですが.」

「会ったのなら良かったではないか.」

「ところが,拠点に何度も訪問して留守だったそうです.行き違いにしてはおかしいのです.拠点にいないことを確認して,しばらく拠点の前で途方に暮れている間,拠点から出てきたそうです.」

「地下にでも隠し部屋があったのではないか?」

「モーガン女史もそう思ったそうです.しかし,貸主に確認したところ,地下にも屋根裏にも階段下にすら隠し部屋はないと言うことでした.」

「ほう.白梟が調べてそういう結論だったのだな?」

「ええ,そうです.しかも,おかしいのはそれだけではないのです.撤退は南東,東,北東の3つの船団に分かれて撤退したのですが,どの船団にも北方改革派のトップメンバーが乗っていたのを見た人がいませんでした.しかし,イルミンスールではちゃんと彼らはいたのです.どう思われますか?」


「ほう~,それを魔法でか? まず前提条件を確認しておく.エーデルシュタイン撤退作戦は魔族との戦闘で転移陣が破壊され,脱出できなくなった.それがきっかけで始まったんじゃな?」

「ええ,壊れてすぐではなく,梟を飛ばして連絡がついてから始まっています.イルミンスールからエーデルシュタインへは転移できていたのです.」

「常識的に考えて,危機的な状況で転移する方法があるのに隠していることは非難できるな.」

「全くそのとおりです.王子二人ともがエーデルシュタインにいて,全滅しそうだったのです.王国存続の危機ですよ.それなのに黙った上,自分たちだけで運用する.許されることではありません.消極的な反逆罪ではないですか.」

「面白い表現じゃな.まあ,それはいい.現存の魔法では無理じゃ.レリック級のアーティファクトを使えば,可能じゃが都合よくそのようなものが…あっ!ついてこられよ.」



魔法省のとある資料室に連れてこられた内務省大臣は魔法省大臣が資料を探している間,本棚を見つめていた.

「けっして本に触るでないぞ.呪われても知らんぞ.」

「あはは.」


「これじゃ.」と,資料[貴族家個人所有 レリックアーティファクト一覧]を見せた.

「この資料,白梟にも【本複製(コピーレ)】してください.」

「ダメじゃ.」

「え!?」

「このページをみるのじゃ.アイゼンシュタットが“密会の白銀円鏡”を所有しておる.」

「転移できるのですね?これで.」

「そうじゃ.」

「クライトン賢爵を逮捕しましょう.」

「それを決めるのはわしじゃない.」

「そうでした.ヴィッセンスブルク主席断罪官に相談します.」



「何が問題なのです?内務省大臣閣下.」

「私の説明がわかりにくかったのでしょうか,主席断罪官?」

(まさか,北方改革派が断罪府に手を回しているのか?)

「いいえ,理解できています.レリック級のアーティファクトなのでしょ?それなら存在を秘匿しておくのも,普通じゃないかしら?」

「普通じゃないです,主席断罪官.この国の二人の王子が街に閉じ込められていて,脱出できない危機的な状況だったのです.その時に使わずに,自分たちだけで運用していたのです.十分問題です.」

「う~ん,国への忠誠心としても倫理的にも道徳的にも問題なのはわかります.しかし,どの法令にも違反していません,内務省大臣閣下.」

その発言を聞いて,内務省大臣は唖然とした.そして

「わかりました,主席断罪官!」と,内務省大臣は怒って,去って行った.

「内務省大臣にも困ったものです.もう少し利口に行動された方が良いのでは?ふふふ.」



ヴィッセンスブルク 王城 北館 地上階 応接室“黒白鳥の間“

―第6紀 370年2月18日(火曜日)3刻



「ファンデルメーデン殿,よくやってくれました.ルーク王子を救出しただけでなく,多くの重要人物を救出したそうな.まあ,…ライオネル王子は救出する必要はなかった…のよ.でも,素晴らしいいぞな.」

「お褒めの言葉ありがとうございます.」

「将軍の椅子だが,用意してやろう.」

「大変光栄の限りです.女王陛下に感謝の言葉では足りないくらいです.」

「今度ともわらわのために働くのです.」

「はっ.ルーク王子に大変良しなにしていただいております.王子の元におりますので,お声がけください.」

「そうかそうか,王子についているのであるなら,王子を大いに助けるとよい.」

「はっ.今後とも,ご高配のほどお願い申し上げます.」

「ふむ,下がってよいぞ.」



「ファンデルメーデン殿,貴殿には感謝しても感謝し切れない.それと,…我バカ弟を助けるために貴殿の大切な腹心を失ったと聞いた.心中痛み入る.大変申し訳なかった.」

「誠実な謝罪に感謝いたします.」

「しかし,貴殿は母上につくつもりなのか?感心しないな.」

「いいえ,僕は女王陛下にルーク王子をご紹介いただいたものと思っているのです.勝手ながら,次期国王には殿下こそ相応しいと思っており,殿下の傘下に加えていただきたく,参じた次第です.」

「そうなのか,貴殿のような優秀な人物に我陣営に加わってもらえるとは,百人力というもの,重ねて感謝する.」

「いえ,こちらこそ,これからよろしくお願いいたします.」

「では,ファンデルメーデン()().魔族への対応を頼んだぞ.」

(ふん,星に還った婚約者のために,魔族を殺すか.哀れなものだ.何をしても,その婚約者は生き返るわけでもないのに.せいぜい私のために働いてくれればよい.母上に使わせるにはもったいない人物だからな.私がうまく使いこなしてやる.)

「ヤー, マイン マイスター.」

(この王子は僕を使って,第二王子派を牽制したいのだろう.僕がなぜ第二王子に付かずに第一王子に付くと? 制御できないバカよりも,小賢しい方がその行動を読みやすいから,その1点に尽きるだけだよ.僕の目的に合うように動いてもらうだけのこと.それが人類種のためになるのだから.)



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