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第29話 まじでやべぇ

エーデルシュタイン街中 エーデルシュタイン川吊り橋まで後2ブロック

―第6紀 370年2月11日(風曜日)5刻



「まじでやべぇ,もうマナが足りねぇぞ,おい.」

「魔族の動きが速すぎます.このままでは橋のたもとに着く前に囲まれてしまいます,殿下.」

「なんとかできねぇのかよ,おい.」

「ちょっと,援軍を出せないか聞いてみます.時間を稼いでください.」

「おうよ!」

『こちらイクセル.本部聞こえますか?』

『ハウエルズだ.聞こえている.』

『今,ライオネル王子と共にエーデルシュタインの吊り橋の近くにいます.すみませんが,箒を6本持って来てくれないでしょうか?』

『誰か行かせる.少し待て.』

『了解.』



エーデルシュタイン付近 エーデルシュタイン川対岸 渓谷の上 北東船団

―第6紀 370年2月11日(風曜日)5刻



「ウィリアム隊,各人箒2本を持って,ライオネル王子を救出に行くぞ.」

「「「「ヤー,マイン マイスター.」」」」



エーデルシュタイン付近 ウィルダネス 東船団駐屯地 付近

―第6紀 370年2月11日(風曜日)5刻



「ぎやぁぁぁっ!」

がおぅ.グシャ,グシャ,ゴリゴリ.

「ひぃっ!」

ウィルダネスに住む魔獣たちは決して愚かではない.何十万もの魔族の集団を襲ったり,とんでもない魔力を有するものを安易に襲ったりはしない.

しかし,弱いものに対しては積極的に襲ってくるのである.エーデルシュタインからウィルダネスを走ってきているものの内,マナの所有量が少ないもの,足の遅いもの,小さくて弱そうなものから襲われた.

勝算もないのに襲われたものを助けてはならない.それは自分の死を招く行為にしかならない.とにかく走り抜けて,飛空艇にまでたどり着く必要があった.誰かが襲われて食われている間は安全なのだから.見て見ぬふりをして,通り過ぎるしかなかった.


避難は徒歩組が悲惨な状況であることを除けば,時間的には順調であった.予定よりも早く飛空艇のいくつもが乗船人数を超えて人を乗せ,イルミンスールへ向けて飛び立っていた.3万人分の船しか用意していなかったが,無理やりに詰め込み,この乗船率なら5万人近くは脱出させることができる見込みであった.しかし,魔族軍がこの東船団の近くに攻め入まれるまで,あと少しという切羽詰まった状況になりつつある.


「そろそろ限界ですね,軍団長.東船団は完全撤退しましょう.」

「ああ.まだ,走ってこちらに向かっている人たちがたくさんいるがな.…仕方ないのか.」

「ええ,魔族軍の魔法範囲に入る前に飛び立たないと,飛空艇が落とされてしまいますので,仕方なしです.残っている人たちは北東船団の駐屯地に走ってもらいましょう.…ここから42キロメルテもありますけれども.」

「よし,東船団全船浮遊開始.収容完了したものはイルミンスールへ.未収用のものは北東船団に合流せよ.」

「旗艦ヘレルシュテルン号,面舵一杯!」

「面舵いっぱ~い!」


「こんどは42キロメルテ走るのか.」

(足の遅い人たちばかりが残っている.すでに18キロメルテを走ってきたところなのに,さらに42キロメルテを走らせるのか….)

エリザベートはエルフなのでさらに42キロメルテを走るのはまったく苦がない.しかし,この人たちはどうなのか.

(でも,なぜ命からがら逃げる時に,こんなにもたくさんの荷物を持って逃げてきたのか全く理解できない.)

「荷物はあきらめてください!命より大切なものだけ,持って逃げてください.魔族軍が全速力で走ってきています!早く!」

「「「「!」」」」

ほとんどの人がここに来て,あきらめて荷物を投棄する.しかし,命より大切らしい荷物を持っている人たちはあきらめずにそのまま走った.



エーデルシュタイン街中 エーデルシュタイン川吊り橋まで後2ブロック

―第6紀 370年2月11日(風曜日)5刻



「ぐぉっ!うぐぁあぁーーーっ!」

「殿下!」

魔人2人同時の極大魔法攻撃に対して,マナ後払い方式の範囲防御魔法が発動し,とうとうライオネルはクラスブレイクした.イクセルは失礼などと言っている暇もなく,ライオネルの襟首をつかんで引きずり,建物の陰に隠れた.ライオネルは根性で四つん這いになり苦しみ続けているが,マナを回復する手段もない.今の攻撃魔法を防御するために,相当量のマナを消費したはずである.前方に合った建物がすべてがれきとなって,見晴らしがよくなっていた.それほどの威力であった.自分のマナを分けるとなると,今度は自分が危なくなるのである.

「くそぅ.もう,これまでなのか!」

バババン.

空中で緑の花火が3つ上がる.

「遅いよ!」

イクセルは【花火(フォイァヴェルク) 赤】【花火(フォイァヴェルク) 青】【花火(フォイァヴェルク) 青】と順番に上げ,救出隊に位置を教える.


ドカーン!

イクセル隊の周りで爆発が起こり,箒の煙幕と共に,視界が著しく悪くなる.

「お待たせしました,イクセル殿.」と,箒に乗ったウィリアムは満面の笑顔で答えた.

「ウィリアム殿! 殿下がクラスブレイクしてしまったのだ.魔晶石を持っていないだろうか?」

ウィリアムは持っているだけの魔晶石でライオネルのマナを回復したが,まったく足りなかった.

「荷物になるから規格2号魔晶石とかは持って来れなかったんだ.」

「仕方ないです.このまま,殿下を運びましょう.」

箒はたくさんあるので,箒を担架代わりにして,ライオネルを箒4本に縛り,【質量軽量化(フラウミグ)】魔法をかけたうえで,3人で引っ張ることにした.

「そっとです!せぇの!」

ウィリアム隊とイクセル隊とで一斉に飛び上がる.その瞬間に魔法領域が展開されるのを感じる.

「突破しますよ!急いで!」

ギリギリ足元で【極大獄炎地獄(インフェルノ)】が発動する.

「殿下!?」

「はぁっ!殿下のローブに火がついてる!」

ウィリアムとイクセルは慌て,

「消火しないと!」「たいへんだ!」

純水(ヴァサー)生成(エルツォイゲン)】【消火(フォイァロッシェン)】とそれぞれが魔法を発動して,ライオネルを守る.

燃えるエーデルシュタインにて2人の魔人が上を見上げていた.強い風が吹き,当たりの煙幕を吹き飛ばす.青い肌の魔人が右手を上げて,魔法を撃ってくる.すでに十分な距離があり,まず当たらないであろう.懲りずに何度も撃ってくる.

「ぐはっ!」

不運にもそのうちの1発がウィリアムの右太ももを貫通した.

「ウィリアム殿!」

「うぐぐ.大丈夫…です.少し足を貫通しただけです.このまま,北東船団まで飛びましょう.」



エーデルシュタイン付近 ウィルダネス 北東船団まで後5キロメルテ

―第6紀 370年2月11日(風曜日)5刻



「これはひどいな….」

エリザベートは2回目の逃避行の壮絶な残虐行為を目の当たりにしていた.おおよそ10キロメルテ時点で,遅い人々に魔族軍が追い付き,殺戮が始まった.

「ほら!これをやる黄金の天使像だぞ.」と,追い付かれた太った商人は,15グランはある像をゴブリンに見せた.

ゴブリンは魔道具かと思い,商人の腕ごと弾き飛ばす.

「ぎぃやぁぁぁーーーーーっ!」と悲鳴を上げたが,ゴブリンは返す剣をそのまま口の中に突き刺した.

ごぼっ.と音がして,そのまま商人は動かなくなった.ゴブリンは黄金像に目もくれず,次の獲物に向けて走っていった.


ウィルダネスの魔獣たちは静かに待っていた.後でゆっくりと食事にありつけることを期待した.

結局,東船団のところに到達できていた約18000人いた人々は約1400人しか北東船団に到着できなかった.



「ライオネル王子殿下がやけどを負われている.早く治癒神官は治療を!」イクセルとウィリアムはライオネルを北東船団に運ぶことができた.しかし,ウィリアムは出血がひどく,運び終わるとその場に倒れ込んだ.

「ウィリアム殿!すごい出血ではないか!治癒神官こちらも治療をお願いします.早く!」


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