第28話 こっちは燃やし尽くしてきたぜ
エーデルシュタイン街中
―第6紀 370年2月11日(風曜日)4刻
「ベリアラビア,やっと合流できたぜ.こっちは燃やし尽くしてきたぜ.ははははは!」
「遅い!獄炎,殺すぞ!」
「まあまあ,そう怒るな.例の赤い金髪と交戦中だな.」
フラウファボスはそう言い,ライオネル王子を見た.
「そうよ.こっちは“千日戦争“になっている.」
「そんじゃあ,俺が来たら勝ちだな.」
「期待している.」
「王子,やばそうな魔人がもう1匹増えました.あれって,獄炎のなんちゃら ってやつですよ.障害物のあるところまで少し下がりましょう.」
「ちっ!しゃあねぇなぁ.あの十字路まで下がるぞ,おい.」
「スイッチしながら,下がりますよ!はいどうぞ.」
「おう!」
十字路まで下がり,建物の角から魔人を見る.
「ほんと悠々と歩いてきますね.おら!」イクセルは短杖を構えて【魔力誘導魔弾 ×6】を両者に撃ちこむ.
「ちっ!いいかげんくらえよ!」ライオネルは【過熱の槍】を連射して,両者を攻撃する.
両者とも魔法障壁で打ち消す.
相手の魔人フラウファボスが範囲攻撃を行って来るが,ライオネルが領域展開して,【獄炎地獄】を押し返す.炎が横方向に広がり,街を燃やす.
「ちっ!ほんと決め手がねぇぞ!イクセル!なんとかしやがれ!」
「少しずつ下がりましょう.時間を稼いでください.」
(さて,本格的にヤバくなったんで,なし崩し的に撤退しましょう.王子はまだやる気のようですけども.)
「おう!わかったぜ!」
しんがり部隊は魔人2名に押される形でやっと撤退を開始した.
旗艦ヘレルシュテルン号 艦橋
―第6紀 370年2月11日(風曜日)4刻
「こちらの作戦に乗ってきませんね.」
パスカルは地図を見ながら,考え込む.相手の力量を上方修正する.
「誰か,ココに【土壁】を作れる人がいませんかね?」
パスカルは攻撃性森林に挟まれた狭い部分を指さした.
「そこで止められたら,時間が稼げるな.いい案だ.」
『誰かマナが余っている者はいるか?』
『南東隊キングトンです.行けます.』
ハウエルズはキングトンに作戦を伝える.
「ファンデヴェールトさん,ここは危ないのですよ.」
「わかっています.【土壁】を作るのを手伝います.」
「ありがとうございます.でも,作り終わったら,飛空艇に戻ってくださいね.ここはキングトン隊が死守します.」
「わかりました.オベリスクがあったら,お手伝いできましたのに.」
「ええ,お気持ちだけでもうれしいです.」
二人がかりということもあり,魔族軍が到着するまで十分に時間があったので,安全に壁を完成させることができた.まだ,魔族軍は見えない.
「攻撃性森林の近くはどうしようもないですね.」
「ええ,ココでも攻撃性森林の射程範囲内ですから,怖いですね.」
「この隙間はどうするのですか?」
と,ファンデヴェールトは森との10メルテくらいの隙間を指さす.
「このままです.ココで魔法戦をはじめたら,我々と魔族,こっちの森,あっちの森の四つ巴の戦いになりますから,この隙間は通れないと思います.流れ弾に当たらないように,鏡面金属盾で防御が必要ですね.」
「大丈夫なのですか? 聞いただけでも,危なそうです.」
「危ないです.でも誰かがこれをやらないといけませんので.」
「無理をなさらないようにしてください.」
「ええ,時間稼ぎに徹します.」
「では,飛空艇に戻ります.」
「あ,あの.もし,良ければ,イルミンスールで一緒にご飯でもいかがですか? 俺が誘ってもかまわなければ…ですけども.」
「私と…ですか? うふふ.構いませんよ.」
「では,約束です.」
「はい.ではイルミンスールで.」
エーデルシュタイン街中 エーデルシュタイン川吊り橋まで後3ブロック
―第6紀 370年2月11日(風曜日)5刻
「どこまで下がるんだよ,おい.」
「橋までですよ.」
「あの吊り橋か?」
「そうですね,おっと!」
イクセルは前方から飛んできた魔法を体さばきで回避する.
ドカーーーン.
流れ弾が背後で爆発する.
「ポ,ポーターが,魔晶石ポーターが吹っ飛びましたよ,殿下.ヤバいです.」
「何だと,おい!シャレにならんぞ.」
しんがり部隊はマギアスだけでなく,マナを補充するためにドワーフに魔晶石を大量に運ばせていたのである.そうしないと,こんなにバンバン魔法を使えない.
二人は慌て捲る.
「僕はそれなりにマナ満タンです.殿下は?」
「もう少ししたら,補充しようと思ったんだぞ,おい.残りは少ないぞ.」
対して,青色の魔人はその辺りにいるヅォークやゴブリンソーサラーから死ぬほどマナを奪って,戦闘を続けていたのである.とうとう全力で逃げる場面になったのである.
「イクセル,全力で走るぞ.」
「ええ,殿下.隊も続け!」
「おらよ!」【過熱の槍】
しかし,魔族軍はそれを許す訳がなかった.
エーデルシュタイン付近 ウィルダネス 土壁防御陣前
―第6紀 370年1月5日(風曜日)5刻
「来やがった.全員,魔法準備.引きつけるぞ.」
キングトン隊の作った壁の前まで,足の速いヅォークたちが走って来る.
「フゴー!」
先頭のヅォークは2メルテ幅の溝と溝の先にある2メルテの高さの土壁をジャンプで超えてくる.見た目は豚でも運動神経抜群なのである.
「撃て!」
【魔力誘導魔弾】
ドカーン.
先頭のヅォークが爆散する.
最初の15周分くらいは余裕で対処できていたが,だんだん数が増えていく.ヅォーク1匹に突破されたのを折に,キングトンは仕方なく,範囲攻撃を使う.
【炎の壁】
土壁の向こう側で炎の壁をあげると,敵軍の足が止まる.
壁の向こうでヅォークたちがたまりはじめる.
「勢いを止めれたぞ.」
「隊長! 左側の森が魔力励起はじめてます.」
「鏡面金属盾で森方向に防御.」
攻撃性森林の真横で炎を使ったので,木々が魔法で攻撃する.もちろん,人類種か魔族か関係ない.手当たり次第,魔法を撃ってくる.盾を用意していた人類種側は,ほとんど損害はなく,耐えていた.
「よし!このまま,魔族軍を押し返すぞ.」
突然,魔法領域が展開された.
「まずい,範囲魔法が来るぞ.集結して領域を弾き返せ.」
空気の温度が100テルビムほど上昇する.
キィーーーーーーーーッ.キィーッ.キィーーーーーッ.
森のいたるところで木が悲鳴をあげる.
森から透明な水蒸気が上がり,魔法範囲内から外れた上空で霧に転ずる.
攻撃性森林の主格木が対抗魔法を発動させて,気温が下がってくる.
不穏な雰囲気が周りを包み込む.先ほどできた霧が上空で渦を巻いている.
その速度がだんだん増していく.キングトンは嫌な予感がした.
(これは魔法だ!)
「全員,金属盾から手を離せ!」
その瞬間,空に無数の龍のような光の帯が現れ,そして,
バリバリ,バン.バン.バリバリ,ドン.バン.ドドン.ドドーン.
左側の森に数えられない雷が落ちる.
「あばばばぁっ!」
盾から手を離し損ねた兵士が悲鳴を上げる.背の高い木に次々と落雷し,木々が裂け,倒れ,そして,燃え始める.とどめに爆発魔法が飛んでくる.
ドカーン!
土壁の左側で爆発が起き,あっさりと壁を突破される.
「まじかよ.こんなにあっさり突破されるとか,ありえない.」
キングトンは驚きながらも,
「撤退!」
と,自分の隊を下がらせた.
旗艦ヘレルシュテルン号 艦橋
―第6紀 370年2月11日(風曜日)4刻
「…ほんと,すごいですね,魔族の軍師.3つの範囲魔法だけで突破するのか.」上空から見ていたパスカルは感心する.
「思ったより時間が稼げなかったな.」
「仕方ありません.本艦の”尖四角錐の光槍“で援護しましょう.左側の攻撃性森林はこちらに反撃できる状況ではないでしょうから,撃ってみましょう.」
普段なら飛空艇から森もしくは森の近くへ攻撃などしたら,攻撃性森林から反撃されて飛空艇が撃墜されてしまう.でも,今は森も混乱していて”尖四角錐の光槍“を使えるチャンスである.
「敵の正面から接近して,”尖四角錐の光槍“を使った後,念のため,取舵で上空へ退避しましょう,軍団長.」
「よし,一度なら撃ってみよう.」ハウエルズ軍団長も腹をくくる.
すばらしい操船術で地上すれすれを飛行する.そして,”尖四角錐の光槍“を撃ちこむ.一直線に魔族が消滅する.旗艦ヘレルシュテルン号は上昇しながら左に旋回する.魔族軍から魔法による反撃があったが,混乱でまばらであったため,防御結界でしのぐことができた.下に広がる攻撃性森林からの攻撃はなかった.




