第26話 日が登ったよ
エーデルシュタイン付近 エーデルシュタイン川対岸 渓谷の上
―第6紀 370年2月11日(土曜日)1刻
「日が登ったよ.ザフキエリナちゃん,照準お願いだよ.」
ゆっくりと西から日が登る.日が登るのがエーデルシュタイン撤退作戦の開始の合図である.アルミラージパンツァーの中でクラリスは作戦開始を同乗者のザフキエリナに指示する.
逆光で眩しさを感じながらも,ザフキエリナは照準を定める.
「ん,最大のテント.」
距離が遠いため,若干慎重に照準を合わせている.今日はイサラミナの代わりにマグニルドワーフ女子が魔晶石の交換をしてくれている.規格2号魔晶石はかなり重いのである.
「では,撃ち」ピカッ.斜め下の方,日の光がまだ当たっていない部分が光る.
「ん?」
ドカーーーン.
隣にあったアルミラージパンツァーが爆発する.
「きゃぁ!」「!」「わぁっ!」
ザフキエリナの反応は早かった.
「撃って!」
「えっ!撃ちますよ.」
一瞬で撃って来た方向に照準を合わせ直して,“尖四角錐の光槍”を撃ち返した.
まさか,崖下に流れるエーデルスタイン川の河原に魔族軍がソーサラーリングを作っているとは.陣地を展開するときに行った偵察ではいなかったはずである.
しかし,もう撃ち返してこない.敵のソーサラーたちを無力化できたようだ.
「ん,完璧.」
「ふう~.びっくりしたよ.さて,どんどん,撃ちますよ.」
「「了解.」」
「ファンデルメーデン副軍団長,敵に気づかれています.」と,空中に浮かせていた飛空艇からアルミラージパンツァーへの初撃を見ていたアシュベリーは旗艦ヘレルシュテルンへ【念話】魔法で連絡する.
『大丈夫です.想定の範囲内ですよ.』と,パスカルは何でもないように返信する.
「了解です.作戦を続行します.」
「艦長,本部はなんて言ってました?」
「想定の範囲内…だとさ.」
「そうですか.」と,両手のひらを上に向けた.
「何処から現れた!」
本部,つまり,東船団と,南東船団はややパニックになっていた.北東側で敵に気づかれていることなど些細な問題にしかならない大問題が発生していたのである.南東船団を配置した場所の約18キロメルテ東に魔族軍の一団が進軍してきているのを発見したのである.
「これはさすがに想定外です.出処はイルミンスールの南にいた一団の一部が移動してきていると思われます.距離と兵士の一般的な兵士の移動速度を考えると,49恊日前にイルミンスールを出発していることになります.イルミンスールの偵察部隊に苦情を入れないといけません.
ほんとうにギリギリでした.撤退作戦が一日遅かったら,エーデルシュタインは全包囲されて救出できないところでした.」
「どうする?」
「ちょっと計算させてください.」
ほんの8周秒で答えを出した.
「南東側は合流地点をココに移動して,空中回収に変更します.」と,現在の位置から見て北西方向の空き地を指さす.
「そして,南東側の撤退を半刻早めます.歩兵撤退は東側に変更してください.」
「すぐに作戦変更だ.」
「アルミラージパンツァーも集合位置に移動して,背後の軍の迎撃に切り替えましょう.」
「南東船団に詳しい状況を報告させろ!」
「軍団長,旗艦を南東船団に移動させますか?」
「そうだな.東船団の隊長代行はエルレンマイヤー殿とする.旗艦ヘレルシュテルン号,帆をたため.魔法推進全速力.取舵いっぱい.」
「取舵いっぱーーい.」
「土極基準,5刻20周分方向です.15周分で敵軍視認できます.」
エーデルシュタイン 司令本部
―第6紀 370年2月11日(土曜日)2刻
「撤退だと!ふざけんなよ,おい.」
ライオネル王子はモーガン女史に食ってかかった.
「ライオネル王子殿下,申し上げにくいのですが,エーデルシュタインはもう陥落します.我々は負けました.」
「最後までやらなきゃ,わかんねぇだろうが!この俺様はなぁ,魔族のゴミどもを消し炭にしないと,気がすまねぇんだよ,おい.」
「そう言われましても,他の皆様は撤退やむなしと,合意していただきました.」
「俺様は合意しねぇぞ.」
モーガン女史はなぜこんなにも頑なに拒む意味がわからなかったが,ライオネル王子はリストの2番目に書かれているのである.しかし,わがまま王子の合意を得るのも面倒だとも思った.彼以外の人物たちにも連絡が必要であり,時間がないという判断もあった.
「どうしても,最後まで戦われるのですか?」
「くどい!」
近くにいた最後尾脱出隊のイクセルを見つけて,彼を呼び寄せた.
「殿下,彼はイクセルと申します.」
「あん?」
「彼は勇気ある方で,撤退の最後尾を行きます.最も危険な隊に志願してくださったのです.殿下も最後まで戦うと言うことなら,彼と共に行動されて手助けいただけるとか,どうでしょうか?」
「ちょっと!モーガンさん!」
「こいつが?こんな芋っぽい奴がか,おい.」
「い,芋っぽい….」
「殿下は芋っぽい彼に負けたりしませんよね?」
「当たり前だ,おい!だれに向かって言ってるんだ.」
「ちょっとモーガンさん!ひどいじゃないですか!」
「さすが殿下です.では,殿お願いいたします.」
「モーガンさん,そんなこと勝手に決めては!」
「イクセルさん,殿下をお任せしますね!」
「ちょっと!」
ライオネル王子はイクセルの肩を両手で掴んで,
「おい,イクセルとやら.てめぇは俺が使ってやる.ついてこい!」
「あれ? なんでこうなった?!」
「どこに行かれたのかしら,クライトン賢爵閣下は?」
モーガンは北方改革派のリーダーであるクライトン賢爵を探しているのだが,もう2刻も探し回っているのに,まったく見つからないのだ.エーデルシュタインがそれなりに広いと言っても,上級貴族が足を延ばす場所は東の一角くらいである.
「おかしい….」 行き違いになっているのかもと,クライトン賢爵の拠点を訪ねたのは,これですでに3回目である.いないのは彼だけでなく,コバンザメのようにくっついている彼の取り巻き達も全員いないのだ.
「困ったわ.」と,彼の拠点の前で途方に暮れる.
すると,
「モーガン女史ではないか.こんなところでどうしたのだ?」と,何食わぬ顔で拠点から出てきたクライトン賢爵,以下取り巻きのメンバーが全員勢ぞろいしていた.
(あれ? 拠点を留守にしているのかと思ったのに….)
「クライトン賢爵閣下,探しましたよ.エーデルシュタインを撤退することになりました.」
「ああ,仕方ないな.もうエーデルシュタインが耐えられないのはわかっていた.もう少し早く判断しても良かったな.」
「ええ,そう思います.では,撤退のご説明をさせていただきます…(以下略)」
『…ということで,ライオネル王子はしんがり部隊に入られました.』
「モーガン女史,リストの順番は守ってもらわなくては困る.あなたは交渉役として来ているのだ.」
『ライオネル王子の決意ですので,仕方なしです.』
「…まあいい,ライオネル王子だし…な.」
ライオネル王子の日頃の行いの悪さから,渋々納得したハウエルズであった.
エーデルシュタイン 箒脱出部隊 東方面マッコンキー隊 集合場所
―第6紀 370年2月11日(風曜日)3刻
「最後の命令を与える.よく聞いてほしい.君たちには箒を与える.煙幕を撒きながら東へ飛べ.できるだけバラバラに飛んで行くのだ.飛空艇が待っている.それに乗って,イルミンスールへ撤退する.わかったか?」
「「「「ヤー,マイン マイスター.」」」」
(撤退か.やっと,この地獄から抜け出せるよ.イルミンスール行きか.一度,エリアーヌに会いたいよ.ラフィーはもう歩いているかな?リエリは…大丈夫かな?心配だよ.)
リエリの父ジョエルはエーデルシュタインから脱出する最後の作戦を指示された.
魔法の飛行箒は実は棒だけで飛行できる.掃除に使う穂の部分は座るときのクッション替わりであり,煙幕やキラキラ(飛行エフェクト)を生成して,だんだんなくなっていくのである.今回はすべてを使い切るほど煙幕を作りながら,飛行すればいいらしい.一斉に出発して,敵をかく乱する作戦のようだ.
(大地母神アリアンフィール様,流れ弾に当たりませんように!)
「敵を確認.数は…約39万です.イルミンスールの南にいた半数です.」
旗艦ヘレルシュテルン号を南東船団の集合場所に移動させると,パスカルはさっそく敵軍の数を数える.
「数えるのが速いな.」しかも誤差がなかった.
「南東側で【土壁】が使えるマギアスがいますよね.集合場所に壁を作りましょう.」
エーデルシュタイン街中 最後尾最前線
―第6紀 370年2月11日(風曜日)3刻
「さすがライオネル王子.すごいとしか,感想が思いつきません.」
壁守も避難すると防御結界が停止する.魔族軍は大軍を進行して来た.それをライオネル一人で拮抗していた.
「がはは,俺はすごいんだぜ!そう言う てめぇもなかなかやるじゃねぇか,イモセル.」
「王子!イクセルです! 芋から離れてください.」
「おおう,すまねえ.おらよ!」
ドゴーーーーン.
狭い町中であるため,敵が道路に集まる.どうせ放棄する街だ.何をしようが もうどうでもいいのである.そこを低燃費範囲魔法で効率良く焼き払う.魔力量管理も完璧なようにイクセルには思えた.
(伊達に“ドラゴンスレイヤー“を名乗ってないな,この王子様.本当にドラゴンを討伐したのかは知らないけど.
戦術に関しては,それなりだしな.良いアドバイス役がいると化けるかもしれない.
…えっと,俺がするのか,それを….
勘弁して欲しい,胃が痛くなりそう.)
※ マップは生成AIを使用しています.
( 何度生成しても,完璧なものにならなかったので,妥協していますw.そのため,一部,正確でない部分があります.)




