閑話 第21話 あーあ,見てられねぇなぁ
エーデルシュタイン 司令本部
―第6紀 370年12月60日(土曜日)1刻
「報告します!ズーデンヴァルトが陥落しました.」
クリスはズーデンヴァルトを出てすぐに6周分ほど止まっていたものの,それ以外は180メルテ/周秒の速度で飛ばし続け,約5刻でヴィッセンスブルクへ到着した.軍務省に駆け付け,ズーデンヴァルトが陥落したことを伝えた.1刻ほど状況を聞かれたが,後でハンティントン準爵が説明に来ると言い残し,転移門を使用して,イルミンスールに行き,ここでエルフ軍総大将のアベルにも説明し,その後でエーデルシュタインに転移した.人類種連合 メイスフィールド総大将らを早朝に集まってもらい,ズーデンヴァルト陥落の様子を説明した.
「つまり,魔族軍は初めから130万匹くらいの軍勢を用意していたのだな.兵を上手に動かして,我々を翻弄したと,そういうことなのだな?」
「その通りです,総大将.」
「そんなバカなことがあるか.魔族など知性のない けだものの集まりではないか.そんな高度な戦術を使ってくるなど考えられん.」と,クライトン賢爵が反論する.
「いいえ,閣下.間違いなく高度な戦術を使ってきています.それとエインズワース準爵がプッペンスタットで使ったのと同種と思われる【超広範囲殲滅魔法】がズーデンヴァルトで使用されました.しかも,街壁を簡単に突破した後,一直線に司令部に向かって進軍し,それを使ったのです.間違いなく魔族軍は高度な知性を持って高度な戦術を使ってきます.」
「信じられん.」
「それで,数日前から魔族軍が本気を出してきたのだな.ちっ,方針を変更する.2刻後に幕僚会議を執り行う.該当者を公会堂大広間に集結させよ!」
「イサラミナさん!」
「ふむ~,ハンティントン殿のところの…えっと,名前は何ぢゃったか.」
「クリスです.」
「失礼したのぢゃ,クリス殿.ズーデンヴァルトからエーデルシュタインにお遣いぢゃろうか?」
「あまり大声では言えないのですが,2日前ズーデンヴァルトが陥落しました.」
「ふなっ!なんぢゃと!ズーデンヴァルトが陥落!」
「しぃ!まだ兵士たちには秘密です.」
「す,すまんのぢゃ.それはほんとなのか?ハンティントン殿は?」
「本当です.副軍団長は遅れてズーデンヴァルトから脱出したはずです.記憶結晶を預かってきましたので,お渡しします.
箒ドラウフゲンガーはかなり使えます.速度リミッターはつけない方が良いです.イサラミナさんがおっしゃったとおり,感覚で壊れるかどうかわかります.」
「ドラゴニュートを撃墜できたのぢゃろか?」
「いいえ,逃げられましたが,かなり追い詰めることができました.」
「そうか.では,ドラウフゲンガーをもう少し発注しておくのぢゃ.」
「ええ,そうしてください.では,少し休憩したら,またヴィッセンスブルクに帰ります.副軍団長を待たないといけませんので.」
「了解ぢゃ.ではまたなのぢゃ.」
クリスから受け取った記憶結晶から飛行時の様子を確認する.スピード感があり,迫力の映像を確認できた.特に,エイブラムとクリスの飛行テクニックのすばらしさにイサラミナは感激した.いつかコツを教えてほしいと思っていた.そして,ズーデンヴァルトの陥落の様子,さらにその後に,最後の衝撃の映像を見つけてしまった.イサラミナは泣きながら,慌ててクリスを捕まえに行った.
「ど,どうしたのですか?イサラミナさん.」
「うぐっ,クリス殿,そなた何も知らんのか? この記憶結晶を見るのぢゃ.」
「すみません.私の魔法地位では【閲覧】ができないのです.」
「そうか,それはすまなんだ.うちが魔法発動の補助をするから,最後の記憶をしっかりと見るのぢゃ.」
そう言いクリスにエイブラムの最後を見せた.
「そ,そんな…副軍団長.うそ でしょ?」
クリスは膝から崩れ落ちた.
イサラミナは記憶結晶をクリスに返却し,
「そなたが副長ぢゃったのぢゃろ? ヴィッセンスブルクに帰って,軍のえらいさんにこれを見せるのぢゃ.すべてを…よいな.」
「ええ,そうするしかないですね.」
と,とぼとぼと歩いて転移門に向かった.
エーデルシュタインでの幕僚会議は大荒れに荒れた.特に,ズーデンヴァルト軍の第2軍はズーデンヴァルト奪還作戦を決行したいと強く主張した.数日前から魔族軍の戦法が大きく変わり,人類種連合はかなり押されていた.魔族軍よりも兵士数が少ない現状で,ズーデンヴァルト第二軍 4万をズーデンヴァルトに返すとなると,大幅な戦力ダウンになる.そうなるとエーデルシュタインも陥落してしまう危機にあった.
逆に,ズーデンヴァルトに兵を返さないとなると,ズーデンヴァルトの衛星都市群であるクルメルフルスやズュドリヒツィターデル要塞などの中規模都市や,プッペンスタットのような小都市群11つが危険にさらされるのである.これらの都市群にいる人口だけでもエーデルシュタインの人口の2倍以上はいるのである.その市民を放置することもできない.
しかし,ズーデンヴァルト第二軍 4万人で,ズーデンヴァルトを奪還できるのかと言うと,それもかなり難しいと言わざるを得ない.
根本的に人類種連合は魔族軍の力量を読み間違えていたのである.しかも,その主力ほとんどをエーデルシュタインという地方都市に集められた挙句,魔族軍のたった半分に動けないように包囲されているのである.そして,残りの半分は好きに動かせる状況にあった.この時点ですでに戦況はかなり詰んでいた.魔族軍はとどめを刺すかのように次々と手を打ってきた.
エーデルシュタイン 周辺 魔族軍 野営テント
―第6紀 369年12月58日(風曜日)5刻
「さて,獄炎.そろそろ我々も本気を出そうではないか.」
「そうだなぁ,冷血無情のベリアラビナ.俺も燃やし尽くしてやるぜ.」
「ウァサーゴシュラゼズスから指令が来ている.これはまた,時間がかかる攻略法だな.」
「あーー,面倒なのは,嫌だぜ.」
エーデルシュタイン 街壁
―第6紀 369年13月17日(水曜日)9刻
「ふぅ~,寒いな.今年は異様に寒い.」
「そうですね,隊長.」
夜の見張りをしていた街壁防衛隊のマーロー隊長らは南国の冬にしてはとても寒く,会話が白いモヤになる.
「最近,魔族軍の奴ら,昼間の攻撃が激しいですね.夜が静かなのはほんと助かりますね.」
「攻撃しやすい箇所を集中攻撃しているな.そう簡単に魔法防御を突破できるものでもないのにご苦労なことだな.」
「ほんとそうですよ.」
魔族軍はここ数日の間,街壁の2箇所を中心に魔法攻撃を集中していた.そこは元々平坦な地形であり,そこをさらに魔族軍が地面を慣らし歩きやすいように舗装していた.魔族軍はこのような場所をどんどん増やしつつあった.
エーデルシュタイン 街壁のすぐ外側
―第6紀 369年13月40日(火曜日)2刻
「そろそろ,良さそうだな.兆候が見られているし.」
いつもは魔人2名が別々に行動していたのだが,今日は一緒に進軍してきた.
「ウァサーゴシュラゼズスの野郎が言ってた通りだなぁ.ほんとめんどくさかったぜ.こういう地味なのは俺には合わないぜ.」
「考えなしにでは,突破できないから,仕方ない.さあ,楽しい殺戮の時間よ.」
「ぐはは,燃やし尽くしてやるぜ!」
街壁の一箇所に小さな亀裂がいくつも見える.昼間は獄炎のフラウファボスが熱し,夜の寒さで冷却される.夜寒いのは偶然ではない.冷血無情のベリアラビアの魔法の影響である.魔法は防御できても温度の上がり下がりは魔導レンガに伝わる.例え,レンガが熱を伝えにくいと言ってもである.
二人は街壁のヒビの入っているところにやって来て,ヒビのすぐ隣,右側をフラウファボスが加熱し,左側をベリアラビアが冷却する.壁表面では右から左へ膨張し,裏面は変化しない.すると,密に詰まっている街壁はとてつもないひねりの力を受ける.そして,その力で物理的に街壁を倒壊させる.
ビキビキビキビキッ.…ピキッ.
ガラガラガラ.
「おらよ!これで崩れろ!」
ドカーーーン.
フラウファボスが倒壊した部分に爆発魔法を発動させて,完全に街壁を倒し切る.街壁が壊れるとその防御結界もクエンチする.
「おら,ここから獄炎の時間だぜ!」
結界の破れたとこから見える街の内部にいた人類種の兵士たちに【獄炎地獄魔法】で燃やし尽くした.
「第六軍団,突入!」と,ベリアラビアが叫ぶ.
「「「オオオー.」」」と魔族軍が一斉に突入した.
エーデルシュタイン 街壁 倒壊部分の内側
―第6紀 369年13月40日(火曜日)6刻
「一時はどうなるかと思ったぜ,おい.…ふん,魔族どもが俺様の実力を見たかよ,おい.」
ライオネルはマナをかなり使いこんでしまったものの突入した魔族軍を全て焼き払った.一面,魔族か人類種かわからない丸焦げの死体が山積みになっている.
とうとう,エーデルシュタインは街壁を1個所破られてしまった.人類種連合軍は相当の打撃を受けてしまったのである.そして,明日からはこの亀裂から何度でも侵入されてくると言うことでもある.
「おととい来やがれ!」
崩れた街壁越しに青肌の女魔人が見えたので,両手で侮辱する手つきをしてからかう.女魔族もライオネルを指刺し,その後,首を切る動作をし,後ろに下った.
「ヘン,今度とっ捕まえてヒイヒイ言わせてやるぜ,おい.」
「マーロー隊長,マーロー隊長.どこ,どこにいらっしゃるのです.マーロー隊長.」
ローラは,夫でもあるエーデルシュタイン街壁防衛隊の隊長マーローを探していた.どこにもいないのだ.
ひどい混戦だった.そして,遺体は全て燃えているし,数が多過ぎる.見つからないとはそういうことだ.
「壁守様,隊長は….」
「いやよ,いやぁーっ.」と,その場で泣き崩れた.
「あーあ,見てられねぇなぁ,おい.」遠くからライオネルがそうつぶやいた.




