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第23話 勝利にカンパイ

魔族軍占領下ズーデンヴァルト 仮設司令部前

―第6紀 369年12月58日(風曜日)8刻



「きゃははは.勝利にカンパイ.うぃっ.あー,あたし,とっても気分がいいの.でもでも,なんかぁ,うぃっ,キマリザルドが3人に見えるの,きゃははは.」

「誰だ,子供に酒を与えたのは.」

幼女にしか見えないシトラビナが街で見つけたワインボトルを開けて,ラッパ飲みしていた.どう見ても,いけない絵面である.

「あたしは子供じゃないよ,キマリザルド.うぃっ.そんなこと言ったら,眠らせちゃうわよ,きゃはははははは.あれ,魔法が発動しないよ.あれれ? うぃっ.きゃはははははは.」

「おい,誰かこいつを何とかしろ!眠らされてはかなわん.落ちつて飯も食べられんぞ.」

キマリザルドは焚き火で長い串を使って肉を焼いて,街で見つけた蒸留酒をチビチビ呑んでいた.椅子に座って,右足であるミギーを分離し,ミギーにも焼いた肉を与えていた.酒を与えてもいいのか悩んでいたが,シトラビナを見てやめておこうと思っていた.


そこに考え過ぎのウァサーゴシュラゼズスとドラゴニュート ストラスシャールシズスがやってきた.

「将軍,おつかれさまでス.最後に敵の大将みたいな人物と一騎討ちされて,勝ったと聞いたのでス.」

「そうだ,なかなか根性が座った感じのマギアスであった.」

「私も将軍が戦っているところを見たかったでス.」

「今,そのマギアスの肉を焼いているところだ.一緒にどうだ?」

「私は生肉の方が好きでス.まだ焼いてないのはありまスか?」

「そこに腕があるぞ.」

「では遠慮なくいただきまス.」といい,ストラスシャールシズスにも食べるか聞いていた.仲良く分けて,そして,

グチュリ.いい音をさせてかぶりついた.グチュ,グチュ,ゴク.

「こう言う筋肉質で硬くて噛み応えがあるのも美味でス.さっきまで,女マギアスの足を食べていたのですが,そちらも柔らかくて適度に脂肪があって美味しかったのでス.マギアスたちの肉はマナが豊富で,戦の後のマナ不足にちょうどいいでス.」

「違いない.」「シャッスシェー.」


「しかし,死体はそのうち腐って食べられなくなります.さすがに多すぎて,全部食べられません.もったいないですが燃やします.“不死”が発生しても嫌ですからね.私はまだ堕転したくはないのでス.」

「自分で覚悟を持って不死になるのはいいが,巻き込まれて不死になるのは嫌なものだ.」

「その通りでス.」

振り向くと,シトラビナはワインボトルを持ったまま地面に寝転がりかわいい寝顔でスースーと寝息を立てていた.


挿絵(By みてみん)


「さて,これからどうするのだ?」

「すぐにでもイルミンスールの南端に進軍して,戦場を構築しまス.で,将軍はエルフどもに睨みを効かせてください.攻めてきたら対処をお願いします.こちらからは焦って攻め込む必要はありません.私が西のエーデルシュタインとか言う街に行って来て,陥落させてきますので,それが終わった後で,四魔将揃ってイルミンスールを攻めまス.10万恊年以上生きる世界樹の一つを焼くもの楽しみの一つでス.」

「そういえば,数は少なかったがズーデンヴァルトでエルフ軍を見た.」

「へぇ,やっと人類種側も同盟を結んだのでスね.ということは…」

ウァサーゴシュラゼズスは考え込んだ.こういう時は黙って考え込ませた方が良いことを知っている.


キマリザルドは焼いた肉をミギーにあげたり,酒を飲んだりして,しばら待っていた.ストラスシャールシズスも肉を食べては,ちらちらとウァサーゴシュラゼズスを見ていた.

「どう考えても,イルミンスールの南に陣を張った方が良いでス.将軍,イルミンスールの南端で森を少し燃やしてください.」

「ほう.」と,楽しそうな顔をする.

「エーデルシュタインの方にもエルフ軍が配属されていると思われます.イルミンスールを襲撃すれば,人類種側の同盟を揺さぶれるかもしれません.

もし,イルミンスール襲撃の連絡を受けてエルフ軍が帰還し,その後ですぐにエーデルシュタインが陥落したら,エルフたちはアラグニア王国とぎくしゃくスるでしょうね.」

「さらに,イルミンスールを焼きやすくなるわけか.」

「そういうことです.」

「がはは.」「シャシャシャ.」

「では,魔族軍の勝利に!」

「「乾杯!」」ゴツン.


「・・・きゃは,ウァサーゴシュラゼズスはあたしのこと好きなのよ,きっと.…むにゃむにゃ.」

「そんなことないでス,シトラビナ.」ただでさえつぶらな瞳を点にして,答えた.

「寝言に本気で突っ込むな,がはは.」

ストラスシャールシズスは「シャーシャー.」と,怒ったような声を出していた.



ヴィッセンスブルク イルミナウ区 リエリの家 地上階

―第6紀 369年12月58日(風曜日)6刻



「ママ, ラフィー が 泣いて るよ.」

リエリは母エリアーヌがだんだんとおかしくなっているのに気が付かないわけにはいかなかった.さっきから,ラファエリーナがギャンギャン泣いていたのに,死んだような目で宙を見つめたのだ.

「あっ,ラフィーごめんね.はい,どうしたの? はいはい.」

(ママが 変に なってる. どうしたら いいの.)


エリアーヌは戦争がはじまると店を閉めた.軍が魔晶石を大量にかき集めはじめると,街から魔晶石の流通が止まった.エリアーヌとリエリの二人で毎日,規格6号魔晶石を作り,毎恊週土曜日に軍に売っていたのである.軍への販売は市井の8割引きで売るしかなかったが,最低限の収入が得られ,食べてはいけた.


リエリは父ジョエルの空いた穴を埋めなくてはと思い,清書屋以外に軍需品産業の工員として働きはじめお金を稼いだ.大学校は休み期間である.“例の会”の会長業務は自然と縮小していた.こんな時勢にゆっくり趣味の読書に没頭できる人は少なかった.

(みんな どうして いる の かな? わたし こんな 感じで いいの かな. もっと 何か できることが ある 気がする.)

漠然とそう思いながら,何かができるわけでもなく,何かするわけでもなく,不安定な母の様子を見ては家の手伝いをはじめた.



ヴィッセンスブルク 聖山アラマト大神殿 付属天文台

―第6紀 369年12月59日(水曜日)1刻



「うううう,ひっく,う~うう,私,もうダメです.こんなの耐えられません.」と,濃い紺に金の星が刺繍されているストラ着た女性は天文台入口外の段差に座り込んで泣いていた.

ツカツカツカツカ.

「どうしたのです.」

朝1刻に天文台に現れた女性は自分の部下が泣いているのを見て,心配して何事かと尋ねた.


「主席占星神官(アストロローゲ)様!」彼女は袖で涙をぬぐい,立ち上がってこう続けた.

「昨晩から南天を中心に超新星が増え続けていて,夜が明けた今になっても数が多すぎて数え終えることができませんでした.」

「え?なんですって? 昨日の当直は何名いたのです?」

「10名です.10人で50万まで数えて,それでもまったく数えきれませんでした.」

「…君たちは朝からくるメンバーと交代して一回休みなさい.」

「はい,失礼いたします,主席占星神官様.」

主席占星神官は来た道を戻り,神殿長室へ向かった.この情報は白い梟の足に手紙を括り付けてヴィッセンスブルク方面へ飛ばされ,内務省情報機関“白梟(ヴァイス オイレ)”へ伝えられた.


[ 昨日,南半球のどこかで50万人を超える人々が星に還った. ]と.




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