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閑話 第22話 トリフェルティアの安寧に感謝を

ヴィッセンスブルク 王城 謁見の間

―第6紀 369年14小月1日(土曜日)2刻



「余は総動員令を発する!」

新生アラグニア王国では国王ジャックの命のもと,総動員令が発動され,兵士の増員が行われた.強制徴兵は特定の条件に該当する者以外の男性の全市民が対象になった.要は,全員が兵隊だが,呼ばれるまでは現在の仕事を続けるというやり方であった.

農会や商会などの団体に対して,労働者の5%相当の人数をすぐに出兵するように命令されてきた.半年後にはさらに5%を追加徴兵する可能性を暗示していた.

なお,特定の条件に当たる者とは,マギアスなら貴族,領主,壁守,官僚,上級教授,代弁官,代書官,高額納税事業主(複数事業主の場合,そのうちの一人),学生,女性,子供だけであった.マグニルなら,学生,女性,子供だけである.未就労者は全員対象とされた.


このように徴兵によって,154万人も兵士を増やし,数の上では魔族軍よりも多いと思われる兵士を確保した.この人数を南部の街に分散させて配置していった.人数が増えると自然と士官が足りなくなる.戦争が始まる前から軍に所属している者は自動的に1階級昇進し,それぞれの新しい地位についた.

また,ヴィッセンスブルク大学校はすでに士官育成半年過程を立ち上げており,パスカルはその1期生として入学して教育を受けていた.人類種連合はズーデンヴァルト陥落という屈辱を受けてから,やっと本気になったのである.


しかし,実際に新兵を運ぶには数ヶ月はかかる.特に,ズーデンヴァルトの衛星都市は転移門がズーデンヴァルト経由しかなかったので,飛空艇で兵士運ぶとなると,手配などに時間がかかるのである.


エーデルシュタインにいる兵士たちも同様である.新兵を訓練しないといけなくなるし,配属異動とかゴタゴタしてしまうのである.それを嫌って,新兵訓練はイルミンスールに丸投げすることにした.



エーデルシュタイン イサラミナ特務工作中隊 廠舎

―第6紀 370年1月1日(風曜日)3刻



「大地母神アリアンフィール様のご神力によって,新年の初日に3つの太陽が重なり,トリフェルティアの安寧に感謝を!」

「大地母神アリアンフィール様,今年も良き安寧を願うのぢゃ!」

とうとう,エーデルシュタイン防衛戦は年を超えてしまった.イサラミナとクラリスは新年の挨拶を交わす.定型の挨拶であるが,エーデルシュタインの戦況とはまったくかみ合っていなかった.


トリフェルティアの空を回る3つの太陽,赤い太陽ゾーラス,青い太陽シーリス,黒い太陽ヌザリアスは毎年1月1日に恒星直列となって,赤い太陽の裏に他の2つの太陽が隠れる現象が起こる.この日を1年の始まりとしているのである.


聖典に記述されていることを信じるならば,今年も“崩壊の年”ではないらしい.トリフェルティア崩壊の年には恒星直列が見られないと記載されているのである.その年を迎える前に人類種は【天空飛行(ラケーテ)】の魔法を開発し,保持神六柱神様方と共に,トリフェルティアを離れる必要があると,聖典 崩壊の章に記載されているのである.

今年は“崩壊の年”ではないことをアリアンフィール様に感謝しての挨拶である.なお,【天空飛行(ラケーテ)】魔法は“黒のマギウス・ウル・マギアス”が開発し,それを“白のアリエル”と“赤のユリアス”を含めた3人で成功させたと歴史の教科書には記載されているが,残念なことにアラグニア大消失によって,失われてしまった.


新年は,季節としては,北半球は秋,南半球は春である.そして,これから発情期の季節でもある.そして,発情期があるため,皆ほとんど同じ誕生日に重なるので,新年をもって,年齢が一つ上がると言う,数え年齢を基準にしていた.よって,今日は皆の誕生日を祝う日でもあるのだ.

「お誕生日おめでとう! イサラミナはいくつになった?」

「女性に年齢を聞くのは失礼なのぢゃ.」

「え? 女同士でもダメなの??」

「いや,ダメぢゃない…ダメぢゃないんぢゃが,言いたくないのぢゃ!」

「その落ち着きのなさのわりに歳をとってるから?」

「ふにゃっ! ひどいんぢゃ!」


魔族軍はゴブリンたちが年末に撤退しており,どうやら魔族軍も交代で休暇に入るようだ.魔族でも新年休暇を与えないと反乱が起こるのである.新年休暇,いや,発情期休暇を舐めてはならない.

「包囲は解除するつもりはないようぢゃが,1恊月はゆっくりできるぢゃろな.結構なことぢゃ.」

「そんなことわからないよ.魔族たちは殺る気満々なんだし.はぁ,新年休みはおうちに帰りたいよ.」

「これを機に,女性陣は一時撤退とかならんぢゃろか?」

「ならないよね,きっと.」

「「はぁ.」」


ところが,帰れることになった.飛空艇ヴェレゲフュール号で新兵を運ぶように命令されたのである.一旦,帰って,新年休暇後に再始動でよいと言うすばらしい待遇であった.イサラミナは女性陣に声をかけて,飛空艇に乗せられるだけ乗せてイルミンスールに飛んだ.



「新年休みで女たちを帰しただと,バカかアニキは,おい.」

「ライオネル,お前がいるから女性たちの貞操が危ないから帰したのだ.文句あるのか?」と,ルークはサラッと言い切った.

女グセの悪いと自覚していたライオネルは,さすがに目を白黒させて,数秒固まっていたが,

「アニキ覚えとけ,おい.」と言って,引き下がって,部屋から出ていった.

「言ってやりましたね,殿下.」

「ああ.…魔族軍でも新年休みくらいは大人しくしてくれるだろうか?」

「そう願いたいですな.」


過去の歴史的に見て,発情期の頃に攻め込んだ方の勢力はほぼ負けている.攻め込まれた方は最高にイラっとするし,発情期は体力的にも最高の状態になっている種族が多いからだ.そういう歴史を知っていれば,当然この時期は攻め込まないものである.


しかし,マジメな魔族軍は残っている兵士で攻め込んできた.それを機嫌の悪いライオネルがバンバンと魔族どもを殺しまくっていた.これにより,魔族軍からも目立った人物として,マークされることになった.



「ねぇ,獄炎.人類種側に派手な赤いローブを着て,金髪で頭が悪そうな とても目立っているマギアスがいるのを知っているか?」と,ベリアラビアがフラウファボスに聞いた.

「俺に対抗して,炎魔法を使ってくる奴だろう? 俺が燃やしてやりたいぜ.」

「獄炎に対抗しているのかは知らないが,そいつだ.」

「そいつがどうかしたんだぜ?」

「さすがにムカつくから〆めようかと思う.」

「…怖ぇ.」と,冗談ぽく言ったのだが,ベリアラビアはギロリと,フラウファボスをにらみつけた.

「…ほんと怖ぇぜ.」と,降参の合図をした.



イルミンスールの森 南部のウィルダネス

―第6紀 369年14小月6日(土曜日)7刻



「【土壁(シュタインマウエル)】急げ!完成する前にイルミンスールに何もさせるなよ!」

キマリザルドとウァサーゴシュラゼズスの2将軍はズーデンヴァルトを2恊月で平定し,たった1個軍団にまかせて,移動式転移陣を使って16個軍団を引き連れてイルミンスールの森の南端1.5キロメルテに展開した.


一旦,【土壁(シュタインマウエル)】魔法(地面を2×2×2メルテの立方体に切って,それを持ち上げる魔法.壁と溝が同時にできる.)を使って,防壁を作るのかと見せかけて,彼らは“壁”でなく,“溝”の方を使った.つまり,塹壕を作っていったのである.森の魔法は光系の魔法であることが多いので,壁よりも溝の方が狙いにくいと判断した.イルミンスールの森に沿って横向きの塹壕を掘ると今度は縦に少し掘って,その後また横に長い塹壕を作って,徐々にイルミンスールの森に近づいていった.


「そろそろ魔法が届く距離になったぞ.」

「そうでスね.では,地味に【空気(フルト)乾燥(トロックネン)】魔法から始めまス.そして,森が乾燥しきった頃を見計らって,一挙に火責めしまス.作戦は頃合いを見て将軍に任せてもいいでスか?」

「任された.」

「では,その頃に私は半分を連れて,エーデルシュタインの主力部隊を殲滅しに行きまス.将軍には陽動と時間稼ぎをお願いしまス.」

「承知.」



イルミンスールの森 南部

―第6紀 370年1月68日(土曜日)9刻



「川から水を運べ!マギアスには魔法で鎮火させろ!」

アベルはエルフ軍だけでなく,アラグニア王国から訓練兵として預かっていた兵士も総動員して消火活動を行っていた.魔族軍が陣地を作成していたのを知っていたが,何もしてこなかったので,エルフ軍の方から何度も陣地に攻め入ったのだが,そのたびにどこかへ逃げて行っていたのだ.


しかしここにきて,突然,積極的に攻撃に転じ,イルミンスールの森の南側40キロメルテの広い範囲で火攻めをしてきたのである.しかも,南風の強い日を選んで攻めてきたのである.キマリザルドは強い風が吹くのを待っていたのである.


「イルミンスールが燃えている….」

エーデルシュタインに援軍で来ていたエルフたちに動揺が走った.援軍のエルフ軍団長であるラ・フォルジュは総司令官であるメイスフィールドにエルフ軍をイルミンスールへ移動させたいと相談しに来た.

「さすがにそれは困ります.戦力が落ちすぎてしまう.」

「しかし,イルミンスールは人類種連合の要となっている.軍を動かさないと,大きな拠点を失う.ズーデンヴァルトに続いてイルミンスールが陥落すると,人類種側は総崩れになりかねません.エルフ軍が減った分を新兵で補えば良いのでは?」

「いやさすがに,エルフ軍3万と新兵3万とでは戦力に差がありすぎる.魔法戦闘の火力が落ちすぎてしまう.」

兵士数で言えば,エーデルシュタインに兵士が集まり過ぎている.エルフたちの言い分はもっともなのだが,この人数で魔族軍と釣り合っているのである.エルフ軍がイルミンスールに行けば,エーデルシュタインは危機が訪れるだろう.

こう言う話は平行線になりやすい.エルフ側が譲り,1/3をエーデルシュタインに残す形で妥協した.

所詮外国の軍隊であり,仕方がなかった.



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