閑話 第19話 満足して死になさい
ズーデンヴァルト 街壁の外 北方面 ウィルダネス
―第6紀 369年12月57日(火曜日)6刻
「で,力づくで突入か?」
ズーデンヴァルトの北部のウィルダネスに集結した魔族軍はキマリザルド将軍とウァサーゴシュラゼズス将軍の率いる大軍でズーデンヴァルト攻略を行うため,北側から半包囲を開始していた.
「いえ,四魔殺の援軍がいまス.この街は人口が多いので占領した後が大変なのでス.少しでも兵力は温存しまス.」
「だれが来ているんのだ.」
「夢迷不醒のシトラビナでス.」
「ふん.あいつか.」
「なんで,あんたたちついてきたの?」
夢迷不醒のシトラビナは一緒に来ていたヅォーク3匹に言った.
「ブヒブヒヒ,ブヒーブヒヒブヒブヒブヒヒブヒ.」
「ふーん,ウァサーゴシュラゼズスも心配性ね.私なら一人でも大丈夫なのに.もしかして,私,彼に大事にされているのかしら,なんてね.きゃははは.」
「「「ブヒヒヒヒィ.」」」
「あんたたちが笑うんじゃないわよ!永眠させるわよ!」
「ブヒィッ.」「「…」」
「きゃははは,冗談よ.さて,どうやって,街の中に入ろうかしら.」
「ブヒ,ブブヒブヒィブヒ.」
「そうなの? 小さい門があるのね.そこに案内して.」
小さな鉄の門があるところに行くと,街壁の上に多くの兵士が護衛をしていた.シトラビナたちに気が付くと,上から魔法と矢で攻撃してきた.
ヅォークたちはちゃんと仕事をして,矢を盾で,魔法を防御結界で防御する.
「ちょっと,視線をふさがないで!」
【集団昏睡】
兵士たちの何人かが昏睡してバランスを崩し,壁の外に落ちてきて地面で血を流していた.残りの兵士も壁の上で眠っている.
「きっと睡眠不足なのね.きゃははは.あんたたちはちょっと待っていなさい.扉を開けて来るから.」と言って,【羽飛行】魔法で街壁と街壁の防御結界の上を飛び越していった.
しばらくすると,内から扉が開く.
「いらっしゃいませ! きゃはははは.」
「「「ブヒブヒ!」」」
その門の近くにいる兵士や住民は皆,眠っていた.
「あれ? 転移門を運んできていないの?」
「ブヒブヒ,ゴブヒン ブヒブヒーブヒ,ブヒヒブヒブヒー.」
「そうなのね.じゃあゴブリン隊を呼んで来なさいよ.」
ヅォークたちは【音真似 狼】魔法を使って,ゴブリンたちを呼び寄せた.
数周分後に,ゴブリンの転移門設置部隊はその門からズーデンヴァルトに入っていった.こうして,街壁はあっさりと突破された.ゴブリンは転移門を設置し,さらにゴブリンの転移門設置部隊が転移してくる.ズーデンヴァルトの東側は魔族が現れたことで阿鼻叫喚であった.
襲撃の鐘が鳴っていたため,ほとんどの人は家に隠れていたが,東マルクト広場には食料やランプの燃料,魔晶石など生活必需品を買うために,それなりの人が買い出しに来ていた.そこに,魔族たちが突入してきたのである.逃げまどう市民たちに魔族たちを襲い掛かり,次々を惨殺していった.老若男女も関係なく,手当たり次第に刃にかけて行った.家に隠れている人々も通りから聞こえる悲鳴や魔族の叫び声を聞き,生きた心地がしなかった.いつ,家の扉をぶち破られて,家の中に入ってこられるかわからない.家の奥で震えているしかなかった.
勇敢なマグニル市民たちが集まって,包丁や金属の棒を武器にして,魔族たちに対抗しようとしていたが,ゴブリンくらいなら囲めば殺せないことはなかったが,ヅォークですら対等に戦うことできず,オルグ鬼やトロールに至っては,人の力では包丁が刺さりもしなかった.こういった集団はいくつかあったが,魔族軍の数によって,簡単に蹂躙されてしまった.
「東側の5つの区に侵入されました.それ以降は区壁*の門を閉めて,一旦隔離することができました.」
「…高い塔の壁守殿に”尖四角錐の光槍“で東の五区を砲撃するように連絡せよ.」
「え…はっ,連絡するであります.」
「何を考えているのですか!”尖四角錐の光槍“で街の中を攻撃するなどできません.」カトリーヌは伝令に反論した.
(軍本部の命令だとしても,こんな命令受け入れられるわけがないわ.私たちの街よ.それに取り残されている街の人はどうなるの?)
遠くで爆発音が聞こえる.たぶん,高い塔#109と#110が命令を受諾して街に砲撃を開始したのだろう.
「私に反論されても困ります.軍本部へ直接反論ください.私は#112へ伝令に行きます.壁守様,ご覚悟をお願いいたします.ズーデンヴァルトにはまだ750万人も残っています.避難に時間がかかっているのです.」
「東側の5区の人たちを見捨てるのね!」
「失礼いたします.」と,話を打ち切って走り去って行った.
(私だって言っていることぐらいわかるの.だけど,そんなことって….)
ズーデンヴァルトの中央に住んでいるカトリーヌだって,東側の区に遠出することもある.幼い頃の思い出とか,最近エイブラムとデートに行ったこととかを思い出した.思い出すあの町並みを自分の手で破壊すると思うと,震える思いがした.
(高い塔#112に入ってる壁守のミリーは東側の区に家があるのよ,私だってそれを知っているの,撃てるわけがないでしょう.)
どうしたらいいのか悩みながら,“高い塔”の中を右往左往する.
(あれ?静かになった.)
先程までなっていた爆音が止まっている.
コツコツコツ.ドスドスドス.2人分の足音が聞こえてくる.
(ヅォーク! ええっ?魔族の子供?)
そう見えたシトラビナの目を見た瞬間,彼女の【昏睡】魔法にかかり,カトリーヌは床に激しく倒れ込み,昏睡した.
「ふーん,ほんとに女性ばかりなのね.」
「ブヒブヒヒブヒ.」
「ほんと好きだよね,あんたたち.きゃははは.それがヅォークの本質だもんね.遊んだ後はちゃんと殺しておくのよ.もうすぐ800万のおもちゃが手に入るんだから,適当にね,きゃははは.さて,どんな夢を見ているのかしら,ちょっと覗いてみよう.」
【夢閲覧】
…カトリーヌは白いドレスを着て,椅子に座って待っている.そこに待ち人であるエイブラムがこちらも白いドレススーツを着て扉をゆっくり開けて現れる.カトリーヌは喜び立ち上り,エイブラムのクビに抱きつく.そして,二言話をして,手を繋ぎ,扉を二人で出て歩き出す.大きな扉の前で二人見つめ合い,そして,扉を開ける…
「彼氏かしら? 何をしているのかわからないけど,嬉しそうな感じはわかったわ.でも,あなたはここで死ぬのよ.愛しの彼氏とも永遠にお別れね.最後に偽りのいい夢でも見て,心身とも満足して死になさい.きゃは,きゃはははははは.」
シトラビナが次のマギアスを殺すために高い塔を出ていくと,残ったヅォークはニヤニヤしながら,昏睡しているカトリーヌの魔導ローブを乱暴に引き裂いた.
ズーデンヴァルトは徐々にほころびを見せ始める.戦死者が増えるにつれ,街壁の防御が消えている場所ができ,いろいろな場所から魔族軍の侵入を許すようになってきていた.3方向から中央のズーデンヴァルト軍駐屯基地に向けて,キマリザルド,ウァサーゴシュラゼズス,シトラビナで各自進撃を進めていた.敵味方の進軍の様子をドラゴニュートのストラスシャールシズスが上空から監視し,それを3人に【念話】や【視覚共有】で伝えていたのだ.土地勘のないズーデンヴァルトの街中で迷うことなく,軍を進めていたのである.
「副軍団長,見つけました.ドラゴニュートです.10刻30周分の方向,距離2300メルテ,高度海抜2000メルテです.」と,クリスは報告した.
「やはり,上空から見てやがったか.敵の進軍があまりにも直線的過ぎると思ったんだ.地上は陸軍にまかせて,偵察監視部隊は敵の目を落とすぞ!」
「「「ヤー,マイン マイスター.」」」
ハンティントン強行偵察小隊は飛行箒ドラウフゲンガーに乗り,空を翔ける.6人小隊を半数ずつに分け,東と南方向から挟み撃ちにする作戦である.接敵までわずか20周秒である.
ドラゴニュートのストラスシャールシズスは当然ハンティントン隊の襲撃に気がつく.前回よりも明らかに接近速度が速い.一旦,様子見するため,西方向へゆっくり移動し,ハンティントン隊が魔法領域に入ってきたところで攻撃魔法を撃つ.
しかし,それを難なく回避される.
「いやはや,そんなへなちょこ弾幕じゃ,当たらないな.ハンティントン隊は,飛行箒のエース中のエースなんだ.」
【魔力誘導魔弾】では全くドラゴニュートのスピードに追い付いていけないことを学んでいたので,今日は威力よりも【閃光矢】で当てることを念頭に攻撃する.【魔力誘導魔弾】と違って,一度に1発ずつしか撃てないが,6人で波状攻撃を仕掛ける.
小回り性能はドラゴニュートの方が上だが,スピードはいい線を行っている.あまりスピードを出し過ぎると,イサラミナの言っていたように,箒がブルブル震えだすので,限界が分かる.6人のフォーメーションでドラゴニュートに襲い掛かる.
「シャッ!」
ストラスシャールシズスは相手の人数が多いと言うだけでなく,ハンティントン隊の連携や飛行箒の制御技術に舌を巻いた.ドラゴニュートは数が少ないため,リザードマンの中でもとても大切に扱われていた.彼もすでに200恊歳を超えていたが,ドラゴニュート同士で空中を競争したことすらなかった.一人で優雅に空を飛んでいることがほとんどだったのだ.
一方のハンティントン隊は寿命の短いトールマンばかりであるものの,毎日のように攻撃性森林の木々の間を通り抜け,3 vs 3で空中戦の練習をしたりして,訓練密度がストラスシャールシズスとは全く異なっていた.厳しい訓練で鍛えた飛行箒の運転技術はエースと自慢するだけのことはあった.
壮絶な空中戦を繰り広げる.小回りの利くストラスシャールシズスが辛うじて回避できているものの,ストラスシャールシズスはだんだん追い込まれていく.
『ストラスシャールシズス,こっちにおびき寄せてください.』
【魔法領域内念話】でウァサーゴシュラゼズスから連絡が来る.地上から援護してくれるようだ.
ストラスシャールシズスは急降下する.ズーデンヴァルトの市街地を建物の間をビュンビュンとジグザグに飛び回る.旋回性能に劣る飛行箒ドラウフゲンガーを巧みに操り,建物にぶつからないようにハンティントン隊6人とも飛び続けているのはさすがである.ストラスシャールシズスは区壁*の方へ飛行する.
「やりやがる!待ち伏せだ!全員,蛇行最高速急上昇!」
「「「ヤー!」」」
区壁の向こうにはウァサーゴシュラゼズスの率いる魔法部隊が控えていた.ストラスシャールシズスは区壁を超えると急減速し,そのまま着地し,地面を足の裏で滑るようにくるっと回転して向きを変えて,ウァサーゴシュラゼズスの前に止まる.
その瞬間,魔族軍がハンティントン隊に向けて魔法で一斉攻撃を加える.ハンティントンもクリスもくるくる旋回しながら,魔法攻撃を躱していく.他の4人も上手に躱し始めていたが,1人がよけきれず爆散する.
「ちっ!やってくれたな!」
と,仕返しとして魔族軍魔法部隊にお土産をプレゼントする.イサラミナが各人に一つずつ渡しておいた試作品アーティファクトを下に放り投げる.
「!」
ウァサーゴシュラゼズスは嫌な予感がして慌てて叫ぶ.
「全員,散開でス!」
ソーサラーたちが逃げまどう.
ヒュルルルーーーーーー.
ウァサーゴシュラゼズスはストラスシャールシズスと共に,防御結界を何重にも展開する.
ドドドカーーーーーーーン!
と,轟音と共にいくらかのソーサラーたちが砕け散っていく.
「やってくれまスね!箒マギアスども.」
*) 区壁 : 街の中で区を分けるための壁.もし,街壁を突破された場合,区単位で隔離する.街壁とは異なり,高さ3メルテで厚さ0.5メルテしかない.
注:地図はAIにて生成したものに地名を入れています.
※ スケールの単位が謎単位になっており,間違ってます.正しくはキロメルテです.




