閑話 第18話 いったい,どういうことだ!
ズーデンヴァルト街壁から北方向 3キロメルテ地点 ウィルダネス
―第6紀 369年12月57日(火曜日)1刻
「いったい,どういうことだ!」エイブラムは怒鳴った.
しかし,何に対して,怒りをぶつけたらいいのかわからなかった.
寒さがさらに厳しくなってきている.エーデルシュタインに出兵が行われた後のズーデンヴァルトは非常に静かになった.市民たちは魔族軍がズーデンヴァルトの戦力を恐れて,落としやすそうなエーデルシュタインに標的を変えたのだと,思っていた.市民たちは日常の生活をほとんど取り戻していた.
そんな折,エイブラム率いるハンティントン強行偵察小隊は定時偵察中に,ズーデンヴァルトの裏側に魔族軍 八匹隊 8隊が現れたのを確認したと思ったら,そのままどんどんと転移陣を設置して魔族たちが進軍してきていた.数がどんどん増え続けている.
現在,エーデルシュタインで人類種連合12万 vs 魔族軍68万で決戦を行っているはずである.それなのに,なぜズーデンヴァルトにまで,何十万もの魔族がいるのか? 現在進行形でさらに魔族は増えつつある.
クブールからドンナーハルへ撤退した魔族軍68万がそのまま転移陣を使ってエーデルシュタインに攻め込んだと見越していたが,全く見当違いであったのか?
現在,ズーデンヴァルトに2万,クブールに2万と足しても4万しか残留していない.すでに10倍以上の魔族が防御の薄い街の裏側に集結していた.このままでは川の反対側から半包囲されてしまう.魔族の増える数が止まる.
「やつら,68万いるぞ.ドンナーハルへ撤退した魔族軍はエーデルシュタインになど行っていなかった.人類種連合がズーデンヴァルトからエーデルシュタインへ兵を動かすのをドンナーハルで待っていたのか.」
「副軍団長,我々ははめられたのです.エーデルシュタインはただの囮だったのです.」
「いやはや,魔族どもがとんでもないことをやってくれたものだ.本部に掛け合って来る.」
「・・・という状況です.このままでは2刻も持たずに街壁を突破されます.人類種連合軍の本体がズーデンヴァルトの壁守の1/3をエーデルシュタインに連れて行ったので,ズーデンヴァルトが全域で防御が手薄になっています.」
「さきほど,王国首都におられる軍務省大臣閣下とエーデルシュタインに駐在している人類種連合軍 メイスフィールド総大将に連絡してみた.」
「まさか,どこも援軍をだせないと言ってきたんではないでしょうね?」
「軍務省は混乱していて,イルミンスール経由でエルフ軍の増援を当たっているとのことで,ヴィッセンスブルクの街壁防衛隊は動かせないと言ってきた.」
「ちっ!自分たちの防御は最優先と言うことか.」
「メイスフィールド総大将からは,エーデルシュタインは魔族軍に押されていて,兵をこっちに戻したら,エーデルシュタインが落ちると言ってきた.」
「なぜだ!ズーデンヴァルトとエーデルシュタインとで,どっちが軍事的に大切な拠点だと思っているんだ!高い塔が120塔あって,最大20万人の軍人を収容できる広大な軍事施設があるんだ.それに,ズーデンヴァルトには800万人も住民がいるんだぞ!エーデルシュタインなどただの農作地ではないか!バカなのか!」
「言いすぎだ!ハンティントン副軍団長.」
「失礼いたしました.少なくともクブールは放棄しませんか.駐屯している2万の兵をこちらに戻しましょう.少しは持ち堪えられる時間が延ばせます.」
「仕方ないな.クブールは放棄すると軍務省大臣に連絡する.」
クブール街 占領軍 仮設転移門ステーション
―第6紀 369年12月57日(火曜日)2刻
「ここは住民の立ち入りは禁止です.」と,転移門前を警備していたクブール占領軍の兵士は急に多数の住民たちが集まってきたのでそう説明した.が,
「アリソイ!カク マニ ディアボロス!」
「ウイウイ!ディアボロス!」
「何言ってるか,わからん.なあ,どういう意味だ?」
「さあ?」
「えっ? うぎゃあ~~っ!」突然,住民の一人が兵士の首にナイフを突き刺す.首から血しぶきが飛び散る.
「ひぃっ! うわあっ!」そして,もう一人の兵士も襲われる.
占領軍が奴隷身分だと思っていたクブールの住民であるファブエルやロベルマンの中に,魔族軍に所属している軍人のファブエルたちが混ざっており,考え過ぎのウァサーゴシュラゼズスの計画通りに内乱を起こした.司令官詰所や転移門,軍需品倉庫,アルミラージパンツァーなど重要な施設が襲撃された.
クブールの内部でも混乱が生じていたのである.クブールの状況はズーデンヴァルトよりも危機的であった.ズーデンヴァルトからの撤退命令は粛々と実行できる状況ではなかった.
ズーデンヴァルト 司令部 中央作戦室
―第6紀 369年12月57日(火曜日)3刻
「クブール司令官から返答がありません.」
ドン.
「魔族どもが,ふざけやがって!」
「落ち着け!」
「落ち着いている場合ではありません,軍団長.まずは壁守を裏側に移動させて,裏側の防御強化を,そして,住民に避難勧告をだすことを提案いたします.」
「カトリーヌ,君もズーデンヴァルトから避難するんだ.」エイブラムは伝令として,壁守を街の裏側の高い塔に移動させるために来ていた.高い塔#111に移動していた婚約者のカトリーヌが心配になって声をかけに来たのである.
「エイブラム,壁守の私は最後まで避難などしません.心配していただけるのはうれしいのですけれども,私もズーデンヴァルトの女です.私たちズーデンヴァルトの民が人類種の盾になること,子供の頃から理解しています.」
「くぅ~.…いいか無理はするな.今は住民の避難勧告だが,軍人を含めた全員退避の可能性がある.」
「それほどなのですか?」
「ああ,残念なことに,ズーデンヴァルトは陥落するかもしれん.」
「私たちの街が魔族に奪われる日がくるなんて!」
「常に箒を持っておけよ.魔晶石もあった方がいい.」
「はい,エイブラムも気をつけて.」
「ああ,わかっている.」
(偵察監視部隊も実戦に投入されるんだがな.カトリーヌにはそんなこと言えないな.ただ心配させるだけだしな.)
エーデルシュタイン 街壁 警鐘塔
―第6紀 369年12月57日(火曜日)3刻
「敵が一旦引いて,隊の組み換えをしているのでしょうか?」
エーデルシュタインの街壁から魔族軍を見ていた人類種連合軍の幹部は敵の意味不明な行動に不思議がっていた.すると,
ファーーーーーー,ファ,ドドドドドドドド,ドン,ドン,…ドン.と,四魔将 獄炎のフラウファボスの符丁で残り半分を鼓舞してきた.
パッパラパパラパーーーパララパー,ドン…ドドンドン…ドン.と,四魔将 威風堂々のキマリザルドではない符丁で鼓舞していた.
これをさらに2回繰り返す.
「どう言うことだ?キマリザルドが死んで,別の四魔将に変わったのか?」
ズーデンヴァルト付近 街壁の外 北方面 ウィルダネス
―第6紀 369年12月57日(火曜日)5刻
「キマリザルド将軍,足の調子はどうでスか?」
「ああ,気持ち悪いの一言に尽きる.」
「私も混沌種濁のハーゲンドゥラムから預かったときはそう思ったのでス.」
カポッ.っと,足を取り外す.先ほどまでキマリザルドにくっついていた足はイソギンチャクのような触手をうねうねさせている.“足”と呼ばれたモノは,確かに見た目は足であるが,足とキマリザルドをくっつける部分は爪のような触手になっていて,その爪触手が“足”とキマリザルドから離れないようにしがみついていたのだ.そして,その触手の中心には口があった.
「“足”は生きていまス.餌と水を与える必要があるらしいでス.ちゃんとトイレにも行かせないといけません.」
「面倒だな.ペットを飼っているようだ.」
「そうでスね.でも,ジャンプして自分でトイレに行くそうでス.」
「想像しただけで気持ち悪い.」
カポッ.と取り付けると,触手がうねうね動いて,固定する.
「確かにキモイでス.」
「…」
「ハーゲンドゥラムが言うには,猿くらいの知性があって,将軍の動きに合わせて,足が勝手に歩いてくれるように女に孕ませたらしいでス.おなかがすいたら,自分で水と餌を食べるそうでス.まあ,やらない方がいいですが,堕転したら足と一体になるらしいでス.」
「足だけで生まれて来る生物か.…どう考えても気持ち悪いな.」
「ペットみたいに名前を付けたらどうでスか? “ミギー”と“ヒダリー”とか.かわいく思うようになるかもしれないでス.」
「ふん!ばかばかしい!」
「シャシャシャ.では,将軍の復帰祝いにズーデンヴァルトを陥落させましょう.景気づけにいつものやつを将軍からどうぞ.」
「ああ.」
ウォーーー,ウォゥ,ウォーーー.ドン,ドドン,ドドン…ドン.
四魔将 キマリザルドの配下の魔族軍が鼓舞する.そして,
ドゥワーン,ドゥワーン,ドゥワーン.ドンドンドン,ドンドンドン.と,ウァサーゴシュラゼズスの配下も鼓舞をする.
こちらもさらに2回繰り返した.




