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閑話 第16話 クブール上陸作戦

ズーデンヴァルト 第二軍 駐屯広場

―第6紀 370年12月33日(風曜日)4刻



「第二軍,順次転移せよ!」

人魔大戦の初戦であるクブール上陸作戦は,第二軍がズーデンヴァルト正規軍で,第三軍は北方改革派の陸軍が,第四軍は第二王子派,第五軍は諸国連合,第六軍は第一王子派が担当していた.


「よう!アニキ.久しぶりだな.」と,第二王子ライオネルは第一王子のルークに声をかけた.

「ああ.」

「相変わらず,素っ気ないなぁ,おい.アニキは第六軍かよ.くじ運が悪いなぁ.アニキが対岸に着いた頃には,俺様が魔族軍をケチらせ終わっているから,何もすることなんてないぜ.これで俺様の方が次期国王に一歩近づくなぁ,おい.」

「ライオネルが公務を執行して,王国の役に立つのならそれは結構なことだな.」

「ちっ,つまらない返答だな!じゃあ,言って来るぜ.てめぇたち,俺に続けぇ!」

「「「「「おぅ!」」」」」


「ルーク様,あのバカは相変わらずですな.」

「そう言うな.今は貴重な戦力なのだから,せめて国の役に立ってほしいよ.」

「敵対していたり,知らぬ身分の低いものには“俺様”“お前”,仲間だったり,知らぬ身分の高いものには“俺”“てめぇ”か“貴様”で使い分けているようですね.」

「そうだな,そして“アニキ”と“お前”は同列だな.小さい頃は何か深い考えがあってそうしているのかと思っていたのだが,最近素で言っていることがわかったよ.弟の頭の中では他人は敵と味方にきっぱりと分けているんだろうな.」

「そして,第一印象で敵と味方に分けているようです.」

「我弟ながら,救えないな.やはり,魔力量が少なくても,僕が次期国王になる必要があるな.」

「ええ,我ら第一王子派はルーク様をお慕いしております.新参の北方改革派は地方と軍を,我々が内政を支援いたします.」

「ああ.」

(僕に魔力さえあれば,こいつらみたいな打算ばかりで自己保身しか考えていないような連中など相手にせずに,自分一人だけで国をまとめられていたものを….クソッ! そして,母上様も邪魔ばかりする.僕に北方改革派とかいう厄介者を押し付けてくるなど,どういうつもりなのか?! 考えただけで腹が立つ. しかし,この戦争でうまく立ち振る舞えなければ,先はないのは確かなこと.いくらバカでもトールマン最強のマギアスである弟に勝つためには,この戦争で役に立つことを証明しないとならない. 北方改革派でもなんでも,使えるものは全部使い潰してやる!)



考え過ぎのウァサーゴシュラゼズスは,戦端が接触すると,第25軍団から順にドンナーハルへ撤退を開始する.それと同時に,第1軍団から第4軍団に前進を命ずる.4軍団で13万,人類種の側はズーデンヴァルトに集結した16万の兵力の内,4万をズーデンヴァルトの防衛に残し,12万の兵力をもってシグリス河を渡ってきた.ここまではウァサーゴシュラゼズスの読みの範疇で人類種側は行動していた.12万 対 13万.これの初戦で人類種側の兵の強さが読めることになる.強さが読めれば,今後の戦いに有利になる.300恊年間で人類種側がどの程度,進歩しているのか知っておく必要があったのである.魔族軍の兵士13万をつぶすのはもったいないとは思わない.この情報はウァサーゴシュラゼズスにとって,最も重要な情報であるのだ.

「さて,人類がどれほどのものか,見せてもらいまス.シャシャシャ.」



「お前ら,ザコ魔族どもがっ! 俺様の魔法でもくらえ!」と,聖剣アスカロンを天にかかげる.剣の形をしているが,実質,魔法の杖と同じ効果を有するものである.ライオネルの趣味でこれを使用している.

【両手掌握法印から聖剣へ接続 聖剣から第32魔法領域内で第26魔法領域を展開-第22階梯魔法 魔物肉体発火燃焼(エントツィンデン) 発動-322Mマナエルグ消費】


ライオネルは範囲攻撃魔法一つで魔族 1個大隊 約500匹を丸ごと焼き払う.人類種側はマギアス(魔法使い)マグニル(非魔法使い)の割合はほぼ10:90であるが,魔族側は16:84と推測されている.【魔物肉体発火燃焼(エントツィンデン)】は魔法障壁で簡単に防御できるので,魔法が使えない魔族にしか有効ではないが,一挙に500匹の8割以上を焼き殺すことができる.

魔力誘導魔弾(マナブラスト)】のように相手を爆散するほどの威力がないため,魔族たちは全身から炎を吹き出し,叫び踊るように燃えていた.やがて力尽き,倒れて燃え続ける.魔法を使える魔族だけが何事もなかったのかのように生き残り,魔法で反撃をしてくる.


「盾隊,整列陣形!」

対人攻撃魔法の多くは鏡面のようなきれいな面を持つ金属の盾“スピーゲルシールト”で方向を変更できる.つまり,相手のいる方向に跳ね返すことができる.魔族の撃ってきた魔法の多くが跳ね返り,地面などに当たり,爆散する.跳ね返った魔法が偶然,魔族に当たっても,当然,魔法障壁に阻まれる.魔法使いを殺すには同時に複数の魔法を当てるか,間髪置かずに連続して当てるしかないしかない.


「ソーサラーどもはこれでもくらえ!」

【両手掌握法印から聖剣へ接続 聖剣から第32魔法領域内で第20魔法領域を円柱展開-第26階梯魔法 過熱槍(ヒッツスペア) 発動-1.3Mマナエルグ消費】

と,多段ヒット型の攻撃魔法を使用して,次々に魔族ソーサラーたちを殺していく.

トールマン最強の男は伊達ではなく,戦闘バカなだけあって魔法戦の実力はすさまじいものがあった.当たれば確実に殺せる【魔力誘導魔弾(マナブラスト)】のような高威力単発魔法ではなく,低威力の攻撃魔法を上手に使いこなしていた.



「しかし,揺れが酷くて乗れたものではないのぢゃ.」

「そうですね.足回りは相当改良が必要 ぐふっ!いーー,いたい!舌噛んだ!」ローゼンフェルゼンの壁守であり,商工会“踊る針と歌う鎚”の七賢の一人クラリス・フォン・ローランド準爵は賢者級マギアスが必要という理由だけで,イサラミナに無理やり連れてこられたのである.

「…ゴミ魔道具.」イサラミナがどこからか拾ってきた天才少女ザフキエリナはイサラミナの作品をゴミ扱いした.

「なんぢゃと!ザフキエリナ! ゴミ魔道具は言いすぎぢゃろ.“アルミラージパンツァー”は試作機なんぢゃ.何事も失敗してみてわかるというものぢゃ.揺れがあると思って,車輪の太さをゴーレム馬車の5倍にしたのぢゃが,まだ足りんかったようぢゃ.」

「車輪は舗装された道用.未舗装には機構的にムリ.考えればすぐわかる.」

「ふにゃっ!相変わらず,手厳しいのぢゃな!」

「そろそろ視界開けますよ.」

「ふむ~,ぢゃあ 壁守殿,ぶちかましてやるのぢゃ.」

「ええ,わかりましたよ.」

「照準任せて.全魔法陣,正常稼働確認.」

「よっこらしょ!規格2号魔晶石,設置オッケイぢゃ.」

「では,撃ちます!」


イサラミナの乗っている“移動式尖四角錐の光槍(グングニール)”ことアルミラージパンツァーは,もう使われなくなった初等教育学校送迎用ゴーレム馬車を魔改造して作ったもので,外見がとんでもなく場違いであった.リアカーのようなものに,高い塔の地上階,制御用の石柱と頂上部尖四角錐を無理やりくっつけただけの代物を,ゴーレム馬車から人が乗る場所を取り外して,引っ張る構造であった.時間がなかった関係で,いろいろな街で使われなくなったゴーレム馬車を買いあさってきたので,引っ張る方の魔道具ゴーレム馬車は同じものがほとんどなかった.イサラミナたちの乗っているアルミラージパンツァーはその中で最もファンシーなデザインをしていた.


挿絵(By みてみん)


それでも,”尖四角錐の光槍(グングニール)“の威力は変わらない.尖四角錐の先端から一直線に魔族どもが消滅した.



「ふふ,あははははは!やはり,魔族どもなど大したことはないではないか!」 クライトン賢爵はもう勝利を確信していた.魔族軍は前線部隊で徐々に数を減らしはじめ,魔族軍側の戦線は崩壊しつつあった.

「後一押しです,賢爵閣下.そうすれば,敵は敗走をはじめるでしょう.」

「うむ,そうか.では,最後の突撃だ! 前進!」

こうして,第三軍は魔族軍を最も先に敗走させた.


「ちっ.アニキの取り巻き,北方なんちゃらとかいうやつらに先を越されたぜ,おい.俺らも最後の突撃だ!」


「魔晶石はまだまだあるのぢゃ,どんどん撃ってしまうのぢゃ.」

「了解ですよ!」

「…規格2号魔晶石 1つ 金貨720枚.」

「お金に換算するのやめてよぉ!」

「ふむ~,やっぱもったいなから,撃つのやめるのぢゃ.」

「「なんで!」よ!」


人魔大戦の初戦 クブール上陸作戦は人類種側の大勝利で終了した.魔族軍82万を人類種側連合軍12万で後退させ圧勝した形になった.魔族軍の死者 7万匹を超え,人類種側は2万未満であった.



人類種連合軍 占領下 クブール街 内部

―第6紀 370年12月33日(風曜日)8刻



「うっ!くさい.これはひどいな.」

勝利した人類種側はシグリス河南岸の街クブールを占領することにした.街の中に入った占領軍は街の状況に唖然とした.


街の住民,いや,奴隷たちしか残っていないが,彼らは皆食料もない中,一部のものが餓死していた.街中に死臭がただよっていた.


占領軍は奴隷であった住民の分の食事を提供するしかなかった.エイブラムが強行偵察したとき,58万いた奴隷たちは現在45万しか生き残れていなかった.13万の奴隷が餓死していたのである.魔族の行いに人類種側は心胆を寒からしめるものであった.人の所業ではないと,これが魔族なのだと,再認識させられた.


「おい,アニキ!こんな辛気臭い場所に留まるつもりじゃないだろうな,おい.魔族軍を追撃するぞ!」

「バカも休み休みにしろ,ライオネル.ここは魔族領だぞ.このまま魔族軍を追跡などしたら,土地勘のない我々は罠にはまるのがオチだ.」

「そうですぞ,ライオネル殿下.せっかく土地と労働力を獲得できたのですぞ.来年には莫大な食料を生産して,我らの国益を上げ,そして,さらに魔界奥地に進攻したらよいのです.焦って罠にはまってやる必要などないのですぞ.」

「ちっ,俺様の勘が言ってるんだよ.今,進軍した方が相手の意表をつけるってな,おい.」

もちろん,第二王子派以外はだれもそんな話を聞きはしなかった.北方改革派は今回の作戦でもっとも功績をあげたため,強い発言権を得ることになった.



飛空艇 ヴェレゲフュール号 船橋

―第6紀 369年12月34日(水曜日)2刻



「はぁ,工作大隊は休みなしとは,ひどいものぢゃ.食料品と種,農作用具をクブールに運んでこいとは….クブールの奴隷たちを解放するのはいいが,無償で45万人1恊年分の食料を提供するなんてことをしたら,後で新生アラグニア王国の食料品物価が高騰するんぢゃぞ.…イヒヒ,これは儲かるかもしれんのぢゃ.この情報は“踊針”にリークしておかなければならんのぢゃ.」

作戦が終了したその日に,イサラミナは飛空艇 ヴェレゲフュール号でアイゼンシュタットへ飛行した.




※ 挿絵はAIにて生成.

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