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第20話 英雄エリザリーナ

ヴィッセンスブルク イルミナウ区 リエリの家 地上階

―第6紀 369年10月11日(火曜日)1刻



「ふぁーっ.おはよう,パパ.」

「おはよう,リエリ.」

リエリはエリーが亡くなった後はだらけた生活を見直して,朝早く起きるようになっていた.

「はい,新聞.エリーちゃんの記事が載ってるよ.彼女は本当にすごかったんだね.それを思うと…本当に残念だよ.」


[ 英雄エリザリーナ,四魔殺グシオニブブを討伐


プッペンスタットの壁守であったエリザリーナ・フォン・エインズワース準爵は,魔族軍8万の襲撃を受け,従者であるアンジェリーヌ・ル・メールとメアリー・フォスターの3名でこれに対抗していた.その結果,四魔殺 中断のグシオニブブを討伐し,四魔将 威風堂々のキマリザルドに重傷を負わせていたことがわかった.これにより,魔族軍のズーデンヴァルト侵攻を未然に防止したものと考えられる.たった3名で8万の軍隊に果敢に立ち向かったことは称賛に値するとして,エルフたちは彼女を英雄と呼称し,星に還ったことを惜しんだという. ]


この記事もリエリは二度読んで,さらに,もう一度噛みしめるように読んだ.

(エリーを 良く 書かれて いる のだけど, パスカル の 話とは 随分と 印象が 違う ように思う.  やっぱり,エリーを よく 知っている 人と,そう でない人とでは 受け 取り方が 違うんだ. わたしは ほんとの エリーを 知っている.…知っている よね?)


半分,家に引きこもっているようなリエリでも,世間の話は聞こえてくる.聞こえてくる話はどれも暗い話ばっかりであった.そこに,この記事は大きなインパクトを与えた.方々で“英雄エリザリーナ”や“プッペンスタット三女傑”などの単語が話題にのぼっていた.



リエリは大学校の帰りになんとなくエリーの家の上を飛んでいたところ,すごい人が集まっていた.どうやら英雄エリザリーナの実家に献星(献花ではなく,星の形をしたお菓子や置物や灯りなど)をお供えしようと集まっているようだった.空気の読めないリエリでもこれはダメだと思い,慌ててクロエのところに飛んで行った.


クロエはエリーの家の近くの集会場を貸し切りにしてもらい,どこからか献星台を用意して,会場を設営すると,リエリとクロエで集まっている人をそちらに誘導した.リエリも[エリザリーナ献星台こちら➡]という看板をたくさん作って,誘導するようにした.落ち着いたところで,エインズワース夫妻に断りもなくそうしたことを謝ったところ,夫人から

「買い物にも行けなくて困っていたの.街にでたら,すぐに囲まれてしまうし,どうしたものかしら.」と,言われたので,エインズワース一家をこっそりと家から連れ出して,静かな辺境の区へ隠した.

アンジェの家も同様だったので,ル・メール夫妻と相談して,エリザリーナ献星台へ案内するようにした.こちらには星だけでなく,生前彼女が集めていた“うだうだうさちゃん”シリーズの人形がたくさんお供えされていた.


「二人にはすまない.感謝しているよ.僕がいつも見てあげていられたらよかったのだけれども,こんなことになるなんて.これだから嫌だったんだ.プライバシーを何だと思っているんだ!」と,パスカルはちょっとだけキレぎみ言ったが,二人はその発言のすべての意味が理解できず,

「いいのよ.私たちにできることはこれくらいだから.」

「お二人 には 静かな 時間が 必要 だよ.」

と,答えた.リエリはパスカルをちょこちょこ見ては,

(少しは 気持ちが おさまったの かな?)と,心配していた.


翌日には誰かが,エリー,アンジェ,メアリーの3人が仲良く笑っているとてもよく描けている巨大な絵画を献星台にお供えしていた.それが話題になると,さらに人が集まっていた.

集会場がお供えでいっぱいになった頃,ひょこっとイサラミナがやって来て,

「スペースが足りんようになったんぢゃろ.夜の間に空けておくのぢゃ.」と言って,大量のお供えをどこかに持って行った.


「イサラミナ 先輩, お供えを 売って 儲けてる わけじゃ ないよ ね?」

「そんな訳ないぢゃろ!いや,でも,食べ物は腐る前に食べてしまったのぢゃ.良いぢゃろ?」

「うん, わたし たちで 食べ きれない から.…でも 先輩が ぷくぷく 太っちゃう よ.」リエリの言う“私たち”は当然エリー関係者全員のことである.

「うむ~,さすがのうちでも一人では食べきれんかったのぢゃ.食べ物を粗末にしてはならんから,2000人くらいで分けたのぢゃ.」

「それから 3人の絵 ありがとう ございました.」

「ふにゃ,なんでうちが描いたとわかったんぢゃ!」

挿絵(By みてみん)


ズーデンヴァルト ノルデン区 ローラット商会 本店3階

―第6紀 369年10月11日(火曜日)2刻



「旦那様,お茶をお入れしました.」

公文書虚偽記載の罪を犯した罰として,エリーによってプッペンスタットからズーデンヴァルトへ追放刑になったメアリーの母親であるマージョリーは,マグニルの大商人であるローラット商会の会長のメイドとして働いていた.ローラット商会は武器商人であり最近のズーデンヴァルト軍の軍備強化の影響で急激に大きな利益を上げていた.大きな商会になったにも拘わらず,メイドはマージョリー一人である.というのも,メイドがすぐに辞めるからである.


「おお,ありがとう.」そう言い,お茶の入ったカップに手を伸ばしもせずに,その手をマージョリーの太ももにやって,スリスリと触っていた.そう,会長のセクハラが酷かったのである.

(もう私も歳をとったオバさんなのに….女性なら誰でもいいのかしら,このクソ爺は! まあ,アビゲイルのように,気に入らない人を殺したり,殴ったりしないだけましか.)と,思いながら,

「旦那様,カップはこちらです.」と,冷静な声でツッコミ,会長の手を足から引っぺがし,カップを持たせた.

「ああ.」と,椅子に座ったまま,マージョリーを見上げながらお茶を飲み,「今日は会合で遅くなる.飯もいらん.」と,言った.

「わかりました,旦那様.」と答え,玄関まで見送る.奥様はたぶんまだ寝ているだろう.大きないびきをかきながら,とんでもない寝相で.

「いってらっしゃいませ,旦那様.」

「ああ,いってくる.」


食堂の片づけをしていると,旦那様の読んでいた新聞に目がいった.そこには自分を追放刑にしたあの生意気な壁守の小娘と自分の娘の名前が書かれていた.読んでも意味がよく分からなかったため,たまっていた数日間の新聞を見つけて読みふけった.そして,プッペンスタットで何があったのかを理解した.


「あはははは! 私を追放刑になんてするから,罰が当たったのよ! マギアスのお前たちが死んで,マグニルの私が生きているなん て,いい 気味よ っ!」

そう口に出したものの,最後の方は声が震えていた.


マージョリーはマギアスを嫌っていた.以前にメイドをしていたプッペンスタットの壁守のアビゲイルには,気に入らなければ殴られたし,美味しいはずの熱いスープをまずいと言われて頭からかけられたこともあった.

そして,アビゲイルが気に入らない人々を次々と殺していったのを見ていた.アビゲイルの周りにいたマギアスどもはそれを見ても容認していた.

だから,マージョリーはマギアスと言う存在自体を許さず,毛嫌いしていた.だから,自分の娘であるメアリーがマギアスとして生まれてきたため,娘に対して,とてもつらく当たってしまった.


「英雄エリザリーナ,その従者メアリー・フォスター.魔族軍からズーデンヴァルトを守って…そして星に還った.」


(しかし,アビゲイルの次の壁守は生意気な小娘だったが,アビゲイルを断罪した.そして,私の小さな罪も同様に断罪したわ.

しかし,私がアビゲイルを殺したのを知っていたのに,それについては見逃したわ.しかもそのことで,私に敬礼したのよ.まるで,“私の代わりに断罪してくれてありがとう”と言わんばかりに.

娘のメアリーはそんな壁守の小娘にすごく懐いていた.まるで尊敬できる人物かのように.)


新聞に小さな染みができた.それが二つ,三つと増えていく.

「なんで,あの子はこんなにも親不孝な子なの.マギアスで生まれてきたと思ったら,親より先に死ぬなんて!」

涙が止まらなかった.


(なぜ,メアリーはマギアスとして生まれてきてしまったのか? 何度も自分と娘に問いかけたわ.でも,わからなかった.メアリーに対して,どう接したらよいのか,自分の感情がどちらの方向を向いているのかすら,わからなかった.あの子は私の方を向いていたのに,私は背を向けてしまっていたのよ.もっと,優しくすればよかった.なんであんな態度で接してしまったのか….なんでこんなことに.)


「あああ,メアリー,ごめんなさい.わたしが間違っていたわ.お母さんを許して,メアリー.あああああ!」

マージョリーはメアリーにしてきたことに対して,この時,本気で後悔したのであった.



新生アラグニア王国 首都ヴィッセンスブルク 王城 国王謁見の間

― 第6紀 369年10月11日(火曜日)3刻



「プッペンスタット魔族襲撃事件につきましては,・・・(以下省略)」

と,異種族間若手士官交流会の情報や内務省 情報機関“白梟”が得た情報を内務省大臣が国王のジャック・フォン・ストックデイル・ツー・アラグニアに説明した.

続いて,軍務省大臣が報復として魔族領に攻め込んだ場合の勝率について,五分五分であることを説明した.

「ズーデンヴァルト軍だけなら,五分五分でしょうが,北方改革派が8万の兵をズーデンヴァルトへ派兵しましょう.」と,グレイブ・フォン・クライトン賢爵がそのように提案した.

「内務省大臣の話が本当なら,クブールにいる四魔将 威風堂々のキマリザルドは負傷しているようですし,チャンスかもしれません.」

「私は反対です.まずは国内の防衛策の強化を進めるべきです.」

「内務省大臣,なぜそんなに弱気なのです!貴殿のお気に入りだったエインズワース準爵が魔族に殺されたというのに.」

「すぐに派兵するのに反対しているだけで,魔族を討伐することに反対しているのはありません,閣下.」

静かに伝令が入ってくる.

「軍務省大臣閣下,緊急魔法伝信です.クルメルフルス街から魔族八匹隊 8隊を確認との一報が参りました.」

「「「「!」」」」

「国王陛下,やはり国内の防衛策の強化が先と考えます.」

「まどろっこしいことをせず,直接魔族を殲滅すればよいのだ!」


パチン!

国王ジャックは強く椅子の手を叩き,立ち上がった.

「相分かった.もう,我慢ならん!人類種の怒りを魔族どもに思い知らしめてやらん.魔族どもは一匹残らず殲滅せよ!」

「「「「はっ!ツゥ ダイナ エーレ!」」」」

国王ジャックの決断により,魔族との戦争を開始する方に動き出した.内務省大臣は嫌な予感しかしなかった.


そうして,男性マギアスに対する強制従軍令が施行されることになった.



魔族領 地下迷宮都市コキュートス 魔法城 八つ裂きの間

― 第6紀 369年10月11日(火曜日)6刻



「あのグシオニブブが死んだ…のか?」と,四魔殺 陰影腐敗のビフロザルドは驚いた.

「きゃはははは,あの色男が死ぬだなんて信じられないの.きゃはははは!」と,四魔殺 夢迷不醒のシトラビナは不謹慎にも大爆笑していた.

「笑いごとじゃないだろ.」と,シトラビナをたしなめるが,

「うふふふ,でも,グシオニブブは四魔殺の中でも最弱.」と,四魔殺 とろり流れるフォカラビナはそう言い切る.

「“白の魔法使い”か,何なのか知らないけど,相打ちになるなんて,四魔殺の恥さらしだよねっ!きゃはははは!」


確かに,この四魔殺 4人で戦えば,グシオニブブは最弱だろう.一人は影なので物理的に切れないし,一人は液体なので切ってもダメージがないし,もう一人は目を見ただけで眠ってしまうのだから,グシオニブブに勝ち目はない.


だが,戦いには相性と言うものがある.どんな魔法でもキャンセルできる魔法*は人類種には最悪だった.他の四魔殺よりグシオニブブの方が人類種には相性が悪かったのである.ビフロザルドだけはそれを考え,惜しい友を亡くしたと思っていた.


「そうだ!マリアンヌちゃんはどうするんだろう? みんなで食べるのかなぁ? やわらかくておいしそうだよ.きゃはははは!」


グシオニブブからマリアンヌを預かっていた考え過ぎのウァサーゴシュラゼズスは考え過ぎた挙句,マリアンヌをイルミンスールの森に返すことにした.若く勢いのあるヅォークたちのみからなる八匹隊にマリアンヌを丁重にイルミンスールの森の手前に置いてくるように言いつけた.自制と言う言葉を理解しないヅォークたちは道中にてマリアンヌで遊びたおしたうえで,イルミンスールの森の入り口に放置してきた.


褐色エルフたちはまたしても魔族たちに激怒したが,同時に困りもした.このマリアンヌの形をしたマリアンヌでない()()をどうすればよいのか決断ができなかったからである.瘴気もだしてないし,ご飯は食べるし,普通に寝るし,生きているように見えるが生きていない.マリアンヌにしか見えないこの無害な不死の魔物を無下に殺すことができなかった.





*) 言葉のあや です.マリアンヌが言った通り,体内で発動する魔法はキャンセルできません.


4/6 挿絵を追加(挿絵はAIにて生成)

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