第19話 種族間若手士官交流会
イルミンスールの森 ストーンヘンジ
―第6紀 369年10月4日(土曜日)3刻
「エイブラム殿,僕の想定を超えている.」
「いやはや,そういうなよ,パスカル殿.」
会の準備を通して,二人は仲良くなり,ファーストネームで呼び合うことにしたのだ.何がパスカルの想定を超えているかと言うと,“種族間若手士官交流会”を設定したはずなのに,出席しているメンバーが大物過ぎることだ.数日の準備期間しかなかったのに,たくさんの人が集まり,世間の危機感の高さがうかがわれた.
発起人 アベル・ル・ノートル卿,パスカル・ファンデルメーデン,エイブラム・フォン・ハンティントン準爵,エリザベート・ラ・フィーユヴェルト女史で初めのだが,
本日の出席者には,
アラグニア王国 第一王子 ルーク・ストックデール殿下
アラグニア王国 近衛隊隊長 オブライアン準爵
アラグニア王国 第一王子付き護衛 アルバート・エステルルンド
アラグニア王国 内務省 情報機関“白梟“ 参事 コードネーム 蒼鴉
ヴィッセンスブルク 壁守防衛隊 隊長 アースキン杖爵
エーデルシュタイン 街壁防衛隊 隊長 マーロー準爵
ズーデンヴァルト軍 陸軍総参謀 クレリヒュー法爵
ズーデンヴァルト軍 後方支援部隊 軍団長 スタンレイ準爵
北方改革派 陸軍総参謀 ソーケル杖爵
イルミンスール第2軍 軍団長 ル・ヴォー将軍
ユグドラシルの森 女王の頭脳 ラメエル・ラ・セルダ大臣
ユグドラシル イルミンスール常駐軍 軍団長 ラ・フォルジュ将軍
東方蓬莱国 イルミンスール大使館 大使 イーウェン第一席大使
神聖ミカエリアス教会国 聖装騎士隊 隊長 デシャネル戦闘司祭
神聖ミカエリアス教会国 聖装騎士隊 副隊長 ドルピニー戦闘司祭
ヴィッセンスブルク大学校 文官育成課程 魔族語研究科 ルンドホルム教授
ヴィッセンスブルク大学校 軍士官育成課程 魔族軍研究科 ラーゲルクヴィスト教授
もちろん,想定していた若手も多く参加している.
ズーデンヴァルト軍 第1軍 キングトン中尉
ズーデンヴァルト軍 街壁防衛隊 レスター少尉
ズーデンヴァルト軍 強行偵察隊 副隊長 クリス伍長
ヴィッセンスブルク軍 第1軍 ハウエルズ杖爵
ヴィッセンスブルク軍 第1軍 新人 グラート中尉
エーデルシュタイン 街壁防衛隊 新人 ミック少尉
北方改革派 陸軍 第2軍 副隊長 ブランキーニ大尉
北方改革派 陸軍 第2軍 新人 イクセル少尉
アラグニア王国 軍務省 女性軍立ち上げ準備室 室長 アンジェリカ・フォン・アシュベリー杖爵
ヴィッセンスブルク軍 陸軍 第3工作大隊 イサラミナ・フォン・エルレンマイヤー特務大尉(商工会“踊る針と歌う鎚” 七賢)
内務省 参事 ベアトリス・フォン・モーガン杖爵
友達枠 ウィリアム・アームストロング
他,多数.
「さて,種族間若手士官交流会の第一回 交流会をはじめさせてもらう.この会は複数の種族が集まっているので,他種族への配慮を忘れずに,また,言語や習慣の違いによる行き違いがあるかもしれないので,いきなり激怒するのではなく,まずは質問して意図を聞き直してほしい.発言は全て共通語でお願いしたい.それと難しい表現は避け,敬語もなしとさせてほしい.この会は若手の会であることご理解ください.よろしいですか?」
「「「異議なし.」」」運営のサクラによって,細かいことで止まらないようにする.
「最初の議題は,数日前に,“プッペンスタット魔族襲撃事件”と言う悲惨な事件が起こったことは知っての通りだが,その当事者であるプッペンスタットの壁守エリザリーナ・フォン・エインズワース準爵の【視覚聴覚記憶】が残っている.」
会場がざわつき,驚きの声があがっている.
「それを彼女の婚約者であり,ここにいるファンデルメーデン殿の苦渋の決断により本交流会に特別に公開することになった.かなり,残酷な内容だ.そして,これは彼女の遺言でもある.その部分については,口外不可だ.見てほしいのは,彼女が見ていた魔族なんだ.彼女の視界には魔族の情報がかなり含まれている.その部分を見て,どうやって魔族を攻略するかを議論したいと思う.」
「ファンデルメーデンです.彼女の遺言を公開するつもりはなかったのですが,この内容の重要性を考えて公開することにしました.ご存じの通り,【視覚聴覚記憶】は見ると記憶が消えます.この会が最後の公開になります.ぜひ,【思考加速】や【視認加速】などを使って,よく確認ください.2刻です.ノンストップでお見せします.見ている最中はお静かにお願いします.」
これを見せても,残り2回なのだが,もう公開するつもりはない.遺言をおいそれと他人に見せるものではないと言うパスカルたちの考えである.
「この会の目的は対魔族攻略なので,彼女への批判も禁止だ.では,準備いいだろうか?」
記憶は魔族軍が移動式転移門を組み立てているところからはじまる.組み立てが終わると,ぞろぞろと部隊が出てくるが,その部隊がさらに移動式転移門を組み立てていった.かなりの数の転移門が組み立てられると,そこから膨大な数の魔族が次々と出てきていた.ヅォーク,ゴブリンが中心だが,トロールやオーグル,コボルドなど多くの種族が混ざっていた.それでも隊列を乱すことなく粛々と行進しており,練度が高いことが伺える.
彼女が高い塔の”尖四角錐の光槍“で応戦するが,魔族軍の数が多すぎて,効果が薄く,敵の勢いを減らすことができていなかった.また,”尖四角錐の光槍“で転移陣を攻撃すると魔法が跳ね返されている様子が見えていた.
街の北壁の外が”尖四角錐の光槍“の死角になって攻撃できないため,マギアス1名を派遣するが,あっさりと敵軍に仕留められていた.
その後,魔族軍が広範囲の魔法キャンセル魔法を使ってくると,高い塔が機能停止したので,街を放棄する決断をした.高い塔や神殿を魔法で破壊され,街のいたるところでマグニルたちが苦しんで亡くなっている様子が見えた.
魔族の進攻は早く,【壁歩き】でどんどん街中に侵入されており,あっという間に3人は囲まれ,一人ずつ殺されていった.エリーが最後まで抵抗し,一人で万を超える魔族に囲まれていたが,粘り強く戦い続けた.最後に,魔人であるグシオニブブが出てきて,所有マナがなくなりつつあったため,最後に彼女の全マナを使い,街ごとグシオニブブを焼き払い,相打ちとなった.
最後の記憶は彼女が最後の魔法を使うために,空中に浮かんでおり,グシオニブブと街中を埋め尽くす魔族たちが見えていた.一瞬,視界が乱れた後,上空は一面銀の鏡に覆われていた.その後で,視界が真っ白になって,記憶は途切れた.
その後に続けて,パスカルの記憶を公開した.破壊しつくされたプッペンスタットの街並み,そして,その周りの平原を埋め尽くすような数の魔族の死骸などである.
ストーンヘンジに映し出された記憶の閲覧が終わると,しばらくは誰も声を上げなかった.
重い沈黙は まず大物からの発言で破られた.
「…女王の頭脳,ラメエルだ.…アベル殿,貴殿が最初に“彼女への批判も禁止”と言ったから,エインズワース準爵が何か失敗をしてプッペンスタットが陥落したのかと思っておったのだが,これは全く違うではないか!…新生アラグニア王国はとても有能な人材を失ったのじゃぞ.彼女ほどの魔法の使い手は数百年に一度現れるかと言う逸材ではないか!何ということじゃ.この暗い時代に向かっているこの時期に彼女を失ったのはとんでもない人的な損失ではないか.」
「そうぢゃ! なぜ,エリーを失わなければならなかったのぢゃ.」と,イサラミナはモノクルをしていない方の目から涙をボロボロ流しながら,そう叫んだ.隣に座っていたアンジェリカが,あのイサラミナが泣いていること驚いて,口をポカンと開けていた.
「新生アラグニア王国 内務省のモーガンです.私は彼女と知り合って,1恊年も経っておりませんが,彼女の優秀さは知っております.魔法だけではありません.壁守としても,かなり優秀でした.…あの,私から提案するのも違うのかもしれませんが,彼女のために1周分の黙とうをしてはどうでしょうか?」彼女も目をうるうるさせながら,そう言った.
「ああ,そうだな.では,皆さん,英雄エリザリーナ殿に黙とうを捧げたく思う.…では,黙とう.」
静かに黙とうを捧げる.祈りの捧げるために,両手を組み,口の前もしくは額の前にかかげるのが一般的である.アベルは俺でも街を破壊して魔族の進攻を遅らせる手を取っただろうと考え,モーガン女史は私なら魔族の数に恐れをなして何もできなかっただろうと考えていた.それぞれに思いを持って,黙とうしていた.
「イルミンスールのラ・フィーユヴェルトです.まず,事実確認からいたします.先ほどの彼女の記憶にありました魔人はイルミンスールの先代の森長マリアンヌ・ラ・ロシュを殺害し,遺体を持ち去った魔物と同一個体です.“四魔殺 中断のグシオニブブ”そのものであることに間違いありません.」
「それから,魔族どもが雄たけびを上げ,足で地面を叩いて鼓舞する場面があった.これは四魔将ごとに違う拍子をつけているはずだ.俺の知る限り,これは“四魔将 威風堂々のキマリザルド”のものだ.」
「つまり,四魔殺と四魔将が一度に攻めて来たと….」
「ラメエルだ.貴重な記憶を見せてもらったので,ユグドラシルからも貴重な情報を公開しよう.我々の情報機関“女王の目耳”によって,あの日にグシオニブブが死亡したのを確認している.そして,キマリザルドは翌日にシグリス河の対岸クブールに移動しており,移動後は一歩も動いておらん.1メルテすら動いておらんのじゃ.」
「どうやって確認されたのが知りたいところですが,キマリザルドは重症で動けないということですね?」
「そう考えておる.」
「イサラミナぢゃ.先ほどは少し取り乱してしもうて,申し訳なかったのぢゃ.魔族の使っていた移動式転移門の類似品は商工会“踊る針と歌う鎚”で製造することができるのぢゃ.
ただ,魔族のやつら,…転移門を通して,さらに転移門を作っておる.これは人類種の知っている【転移門】魔法では実現不可能なんぢゃ.
しかし,直接転移したいところに箒で持って行けるさらに小さいものはすぐにでも製造して見せるのぢゃ.」
「イサラミナさん,転移門の魔法陣は入口と出口を魔導線で接続する必要があります.つまり,魔導線を転移門に通すと,そこで魔導線は切れてしまうのですか?」
「そうぢゃ,切れてしまうのぢゃ.昔,転移門を作ろうとしたときに,手を抜こうとしてやってみたので,知っているのぢゃ.」
「あれは我々のとは別の魔法の可能性があるということですね.僕が文献を探してみます.」
「それも大事ですが,防衛策の立案が大変難しくなりました.魔族軍の八匹隊1隊でも見逃すと,そこから大軍に化けると言う恐ろしさがあります.エインズワース準爵が言っていたように,ヴィッセンスブルクへでも攻め込むことが可能です.現在の監視体制はズーデンヴァルトとイルミンスール間,それにエーデルシュタイン周辺にしかありません.国防が脆弱すぎると思います.」
「ヴィッセンスブルク街壁防衛隊のアースキンです.あの移動式転移門は“街壁”の存在を危うくします.壁の中に転移門を持ち込まれると街壁の意味をなくします.街壁に防御結界を張っても,転移できると思われますか?」
「転移できるはずぢゃ.でないと防御結界を張った後で,街の住民を転移陣で他の街に避難できなくなるのぢゃ.」
「空を飛んで街中に持ち込まれるのを防ぐ方法が必要です.ハルピュイアとドラゴニュート対策として,箒を使って空戦をする部隊が必要なのでは?」
「空だけでなく,地中もあるぞ.地面に穴を空けて突破すれば,そこから移動式転移陣を増やして,一気に軍を突入させることができるぞ.」
「ちょっと魔族軍強すぎないか?」
「皆さん,あまり悲観的になるもののではないな.ハルピュイアは頭が悪すぎて移動式転移陣を組み立てられないし,ドラゴニュートなど伝説上の生き物みたいなものだ.世界に10匹もいないという噂だし,リザードマンたちが神のようにあがめるドラゴニュートを最前線に出してきたりしないだろう.地中を掘り進めるのも時間がかかる訳で,それができる街は少ないだろう.」
その後も,議論は白熱したが,時間切れとなり,次回開催を約束して,解散となった.
魔族によるプッペンスタット襲撃はズーデンヴァルトへの進攻の実地演習であり,本来の目的地はズーデンヴァルトであって,新兵器である移動式転移陣を実践投入する意味合いであったと結論付けた.今後もこの手法でズーデンヴァルト以外の都市に直接攻撃できる可能性があることは周知された.
イルミンスールからも四魔殺 グシオニブブと名称不明の青いウーズがマリアンヌと戦闘した時の抜粋記憶などが共有され,魔族の幹部らしいもの名前ビフロザルド,ガミジナガルなどの情報が提供された.
ハイドワーフであるイサラミナから,生まれ故郷のフィーレリザーフェン鉱山を焼き払い,彼女の師匠と友達を焼き殺した魔人“獄炎のフラウファボス“のとてもよく描けている似顔絵が公開された.




