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蕾は転生し、深愛に咲く。  作者: 紗羽
第四章

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22 陰謀と、それぞれの想い

 


 "口封じの印"


 それは、ラドリス帝国に滞在しているディアロスの従者、一部の女神信教徒たち、そしてヘレナに持たされている、とても小さな宝玉に施されているもの。


 アトロイ大司教から聞いたことだが、この宝玉に宿された力のことを他国の者達は"()()()"と呼んでいるらしい。



 この宝玉の正体。



 それは、


 アデルの持つ"神聖力"を、ヘスス族の能力で宝玉に封じたもの。



 歴代の国王や王族たちは、こう考えた。


 "国王だけでなく、我々も神聖力を使い続けるためにはどうするべきか"


 女神の愛に飢えている者達ばかりの王族。

 退位した後も、女神様の愛を感じ続けたい、という思いは、父エリスだけでなく歴代の国王たちも同じだった。


 模索する中、たどり着いたのは、ヘスス族の創造魔法だった。


 天界で女神様に使役していた蛇の末裔とされている一族――ヘスス族。


 "我々と同じ、女神様を愛する一族だ"と都合の良い解釈の下、ペリア公国に赴き、宗教国家ディアロスのヘスス族受け入れを申し出たのだ。



 だが、王族たちにとって、ヘスス族の存在も嫉妬の対象だった。


 女神様の傍に仕え、尚且つ創造魔法という他の異種族が使えない特別な魔法が使える弱いヘスス族。

 "彼らは女神様に愛されていたのではないか?"という考えが過ぎるたびに嫉妬に狂い、ヘスス族を受け入れた目的すらも忘れ、彼らの体に鞭を打った。



 そして、宗教国家ディアロスと密かに繋がった貿易の国、ペリア公国。



 利益を優先するこの国は、



 "神聖力を人族すべてに広めれば()()()()()として多大な利益へと繋がる"



 その思考の下、ヘスス族断絶を阻止するために、宗教国家ディアロスにしかいない"純粋な人族"との間に混血を生み出し、宗教国家ディアロスと共にヘスス族の能力保護に踏み切った。


 そして、それを宗教国家ディアロスと敵対国であるラドリス帝国とその他の国々に悟られぬよう、"ヘスス族は断絶した"、"これ以上派遣することは無理だ"と言い続けた。



 ディアロスの王族に受け継がれる神聖力と"似て非なる魔力の玉"を作り上げた宗教国家ディアロスとペリア公国。


 その力を試すために、ペリア公国と繋がりのある、"ヘルデ"と呼ばれる"情報屋と暗殺業を生業としている集団に宝玉を持たせた。


 どこの国にも属していないその謎の集団(ブローカー)が黒いローブを羽織って謎の力を使っている、ということから"黒魔術"と呼ばれるようになったのだろう。



 女神を愛した末に手に入れたはずの、ディアロスの神聖力。


 それを、宗教国家ディアロスの王族たちが女神の愛に飢えるが故に欲望に塗れた結果、


 女神の愛したこの世に生きる者たちを貶めることに使われてしまった。



 今回の計画も、


 "金眼の天使アイリスを手に入れたい"というエリス前国王と、


 "黒竜とゼインの暗殺"の依頼を何者かから受け、エリス前国王の味方のフリをして密かに影で指揮を取り、暗殺の機会を窺っているヘルデ、


 そして、己の手を汚すことなく、宝玉の力をラドリス帝国を通して世界に知らしめることで自国の利益に繋げようと目論んでいるペリア公国。


 この三つの陰謀が重なり合って、計画は動いている。



 これ以上我々は罪を重ねるべきではない、

 愛し合っているアイリスとブレイドを引き裂きたくない、

 ディアロスの血に抗いたい、


 そんな思いで、奴らの計画を潰してしまおうとしたが、複数の者達が絡むそれを潰すことは、やはり無理だった。



「(本当に俺は、罪深い男たちの血を受け継いでいるな……)」



 そして俺も、その罪深い者の一人。



 アデルはゆっくりと息を吐くと、女神信教徒の貴族と話しているアイリスを見た。

 そして、彼女の隣に立つブレイドと、彼を見守るゼイン皇帝を見る。



「(……すべてを守ること、救うことはできない。ならば国王として優先すべきは、自国の民の命。)」



 結局俺は、偽善者なだけだったな。



「(すまない……)」



 この謝罪も、誰のための謝罪だろうか……。




 * * * *




 謁見が終わり、ブレイドとアイリスは、ルイス、エマと共に謁見の間を出て廊下を歩いていた。

 険しい表情のブレイドと、哀し気な表情のアイリス。


 アイリスは、隣を歩くブレイドの袖をそっと握った。


「ブレイド……っ」

「……あぁ、分かっている。」


 ブレイドはその一言だけ言って、自身の袖を握るアイリスの手を握って歩き続けた。


 謁見の間で感じた、黒魔術と魔力の気配。


 そして、アデルとアトロイを監視していた鼠騎士たちと、


 宝玉を持っていないアデルの"全て"を視たロナルドからの報告……。



「どうなさいますか?」


 ルイスは、ブレイドの後姿を見ながら小声で問いかけた。


「ご命令とあらば、今すぐ黒服の怪しい者達を仕留めてきますが。」


 いつもと変わらぬ表情で淡々と言ったルイスに対し、ブレイドは首を横に振った。


「まだ待て。捕らえるのは今じゃない。司令塔……アデル国王の弱みを握り、脅しているヘルデの依頼主がまだ特定できていないだろ。それに、心眼で得た情報だけでは足りない。今動けば勘付いて逃げられる可能性だってある。」


 ブレイドはそう言うと、自分の執務室の扉を開けた。


「少し見張っててくれ」

「「承知致しました。」」


 ルイスとエマが頭を下げる。

 ブレイドはアイリスと執務室に入り扉を閉めると、すぐにアイリスと向き合い、彼女の両手を握りしめた。


「アイリス。お前はどうしたい?」


 ブレイドの声が、執務室に静かに響いた。

 彼は険しい表情のまま言葉を続けた。


「主犯を今炙り出すとするならば……アイリス、お前にも危害が及ぶ可能性が高い。今いる者たちだけを捕らえて時間をかけて取り調べをする方が安全だが、そうなると……」

「アデル国王とヘレナさんを主犯として捕らえないといけなくなるのよね?」


 ブレイドの言葉に続けて言ったアイリスに、ブレイドは小さく頷いた。

 不安そうに、それでいて迷っているような表情でアイリスを真っ直ぐ見つめているブレイド。


「……正直、俺はまだアデル国王達を信用していない。だからと言って、ただ捕らえて終わり、ということもできない。……全部知ってしまったからな。」


「うん……」


 アイリスは頷くと、ブレイドに握りしめられた自分の両手に視線を落とした。



 ブレイドはきっと、私に危害が及ばない選択をしたい、と思っている。

 それに、相手は女神信教を主軸とする国――宗教国家ディアロス。

 アデル国王やアトロイ大司教たちに対する彼の本心は、もっと冷たいものかもしれない。


 それでも、アデル国王たちの過去を知り、己が暗殺される可能性がある中、アデル国王の境遇に同情し、彼らを救いたいと思い悩んでいる優しいブレイド。

 複雑な心境の中、私の気持ちを聞いて尊重してくれようとしている。


 彼や私が今後狙われない為には、共に二人で生きていくにはどうすればいいかを、一番に考えてくれている。



 アイリスは、そっと口を開いた。



「私は、アデル国王陛下やヘレナさんを助けたい。そして、ゼイン陛下の提案のようにディアロス国が開国して、交流して……差別のない平和な世界を作りたい。」


「あぁ」


「でも、ブレイドが嫌な思いをしてしまうなら、無理して私の意見に合わせないでほしい。私はブレイドの気持ちを、一番大切にしたいから。

 貴方には、生きていてほしいから……」


 一つ一つ丁寧に言葉を紡いだアイリス。


 ブレイドは、そんな彼女を愛おしむように小さく微笑んで頷いた。



「大丈夫だ、アイリス。お前が俺との未来を望んでくれるなら、それだけで十分だ。」



 迷いのない、覚悟を決めたブレイドの表情。


 その男らしい彼を見つめながら、アイリスはそっと彼に微笑みかけた。



「ここで、全て終わらせましょう。」



 そっとブレイドの手を解いて、彼の頬に触れる。



「私は、みんなを信じてる。

 ブレイド……貴方の事も」



 そっと視線を落として彼の左手首に付けられた金の腕輪を見つめる。

 ブレイドは頷くと、アイリスの額に自身の額を合わせた。

 そして、深紅の瞳と金色の瞳で、見つめ合う。



「あぁ、信じていてくれ」



 アイリスは頷くと、そっと目を閉じて彼からの愛を受け入れた。




 * * * *




 謁見の時間が終わり、残りの時間を他種族との交流の時間として立食パーティーが行われている中、食事を楽しんでいるヘレナを眺めているアデルの姿を、アトロイは静かに見つめていた。


「(本当に、これでいいのだろうか……)」


 アデルに説教し、指示に従うよう促したのは自分なのに、アトロイはずっと迷っていた。



『心配するな、アトロイ大司教。……俺の未来は変わらない。

 俺がどう動こうが奴らの計画は実行される。女神信教も、宗教国家ディアロスも、きっと変わることはないだろう。……だから、今は俺の好きなようにさせてくれ。』



 全てを諦め、死を覚悟したアデル国王の表情。


 そんな息子に見向きもせず、欲に忠実に生きるエリス前国王。


 己が守りたいものはどちらか、

 選ぶべき道はどちらか、

 本当は分かっている。

 そして、複数の陰謀が絡み合い、自分一人ではどうすることもできないことも、分かっていた。


 だからといって、女神信教の大司教である自分が他国に助けを乞うことなど、できるはずもなかった。

 それでいて、"誰かこの状況を打破してくれる者はいないだろうか"と他力本願なことを考える。


「(虫のいい男だな、私は……)」


 アトロイは自嘲気味に笑った。



【アトロイ大司教様】

「!」


 突然頭の中に声が響き、ハッと顔を上げた。

 優しげな男の声。


【そのままお聞きください】


 諭すような優しい物言いは、ペリア公国の者でも、ヘルデ達でもない。

 アトロイは口を閉じると、何事もなかったように会場を見つめた。


【ありがとうございます】


「……」


【ラドリス帝国ゼイン皇帝陛下よりアトロイ大司教様へお話があります。至急ゼイン皇帝陛下の執務室へお越しください。

 人払いをしてありますので、ご安心を。】


 そう言って、男の声が途絶えた。

 アトロイは、ゆっくりと深く息を吐き、額の汗を拭った。


 戦場に赴く騎士はきっと、こんな思いをしているのだろう。


 そんなことを考えながら、アトロイは扉を開けてゼインの待つ執務室へと向かって歩き出した。



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