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蕾は転生し、深愛に咲く。  作者: 紗羽
第四章

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15 特別な力

 

 アデルは祈りを捧げる女神信教徒達を見渡した後、床に落ちたクッキーを拾ってそれを食べようとするヘレナに気付いて溜息をついた。


「拾い食いは駄目だと何度も言っているだろう?全く……」

「!」


 アデルがヘレナの握っていたクッキーを取り上げると、ヘレナがムッとしながらアデルを見上げた。

 しかし、彼女が何かを言う前に、すぐにお皿の上にあった新しいクッキーをヘレナに差し出すと、ヘレナは頷いてそれを食べ始めた。




 ブレイドは、アイリスを守るように抱き締めたまま、アデルを見ていた。


「(今の気配は何だったんだ……?)」


 魔力のようで違う。

 しかし、黒魔術とも違う。

 短時間ではあったが、それは明らかにアデルから発せられていた。


「ブレイド様……」

「あぁ……」


 ルイスも感じ取っていたらしい。

 険しい表情で剣の柄に手をかけていた。



 アデルは、こちらを睨んでいるブレイドとルイスに気付いて口角を上げた。


「ん? どうした、黒竜。顔が怖いぞ?」


 その笑みは、今までと変わらない筈なのに、どこか異様に感じてしまう。

 アデルの後方で祈りを捧げ続けている女神信教徒達の姿が、その異様さに拍車を掛けているようだった。


「いや……」


 ブレイドはそれ以上何も言えなかった。

 得体の知れないものに対する拒絶本能が働いている。

 そんなブレイドに対し、アデルは楽しそうに目を細めた。


「安心しろ、黒竜。さっきも言っただろう? 俺は金眼の天使様に忠誠を誓ったと。」

「……!」

「あとでちゃんと説明してやる。」


 アデルはそう言うと、手をヒラヒラさせながらヘレナと共に女神信教徒の元へ歩いて行った。



 ゼインは、険しい表情で静かに会場を見渡した後、口を開いた。


「……これにて謁見を終了する。」



 ゼインの声が響き渡り、その日の謁見は終わった。






 謁見の間から参加者達が退室した後、アデルは一人、窓から見える中庭を眺めていた。

 手入れの行き届いているそれは、日が暮れてしまっても美しいと感じられる。


 アデルは、背後から感じた気配にクスッと小さく笑った。



「……そんなに警戒しなくていいぞ? 俺は何もしない。」



 そう言いながら、自身の後方に立つ者達を振り返った。



「まぁ、未知のものに対して警戒するのは当たり前の本能だな。」



 こちらを睨むように見据えているブレイドとゼインに笑みを深める。

 ゼインは、そんなアデルに目を細めながら口を開いた。



「お前から出ていたあの魔力のようなものは何だ?」



 ゼインの声は、低く唸るようだった。

 すぐに本題に入るゼインに、アデルはまた小さく笑った。

 そして、ゼインとブレイドを見据えて楽しそうに言った。



「お前たち異種族は、"何故、人族に魔法が使えないか"、考えたことはあるか?」



 アデルの問いに、ゼインとブレイドは何も答えない。

 アデルは言葉を続けた。


「きっと、お前達のご先祖様、ラドリス帝国初代国王――ラドンが残した記録を元にして、"女神様が弱い立場の動物たちに魔力をお与えになったから"なんて答えるだろうが、それは間違いではないと俺は思うぞ?

 人族は異種族より知恵も働くし、指先も器用だからな。今でこそ異種族で人間の姿になれる者たちと人族の差がなくなってきたが、天界にいた頃はお前たちはただの動物だった。

 だから、女神様は人族には魔力をお与えにならなかった。


 ……だが、一人だけ、特別な男がいた。」



 アデルは、自身の右手の親指に付けられた宗教国家ディアロスの紋章の入った指輪を撫でた。



「ディアロス。

 彼は天界にいた頃から女神様を深く愛していた。

 女神様は、天界で多くの者たちに慕われながらも、愛に飢え孤独に苦しんでいた。

 そんな女神様の力になりたいとディアロスは願い、祈り続けた。


 ……そして、ディアロスは手に入れた。」



 右掌を上に向けて力を籠める。

 すると、紫色に揺らめく炎が出現した。



「「!」」



「異種族たちが持つ魔力と同等の力……、俺たち女神信教はこれを"神聖力"と呼んでいる。


 これは、ディアロスの血を引き、王位に選ばれた者のみが受け継ぐ能力だ。」



 アデルはそう言って妖艶に笑った。

 薄暗い空間を炎が照らし、アデルの黒水晶の瞳は淡く光っている。

 先程と同様に、冷気のようなものがブレイドとゼインの背中を撫でた。


「……っ」


 ゾクゾクと鳥肌が立つようなその気配に、二人の表情が険しくなる。


 そんな二人を見てアデルは笑みを深めると、炎を消した。

 それと同時に、冷たい空気も消える。



「この神聖力は、女神様が異種族にお与えになった魔力と同じ力を持つ。だから俺も、歴代の国王たちが創り上げた独自の魔法を使うことができる。それ以外の使い方が分からなかったが、今回お前たちの魔法を見て多くのことを学ばせてもらっているぞ。」



 アデルはそう言いながら右手を前に翳した。

 それと共に、紫色の魔法陣が出現する。


「……!、これは……!」


「お前が使っていた守護魔法だ。初めて使ったが、やればできるもんだな!」


 アデルは楽しそうに笑いながら言った。

 しかし、それはすぐに、シュン、と音を立てて消える。


「あ。維持するのは無理そうだ。盾くらいしか役に立ちそうにない。」


 アデルはそう言うと、自身の右手を確認するように眺めた。

 感触を確かめているような動作をするアデルに、ゼインは彼を見据えながら言った。



「……お前は、金眼の天使アイリスに対し忠誠を誓っていた。

 ならばアイリスが望むように、アイリスにも、我が帝国の者たちにも危害を加えるつもりはない、そう捉えて良いのだな?」



 ゼインの言葉に、アデルは頷いた。



「あぁ、俺は天使様の意思や言葉を尊重する。だから、この力をお前たちを傷つけるようなことに使うつもりはない。……だが、天使様が歴代の天使様のように体を酷使されてお亡くなりになる姿をただ傍観するつもりもない。

 天使様は、女神信教を信仰する我が国にいた方が安全だ。だから、女神様ご自身の意思で我が国に来てもらう。そのために俺はこの国に残った。」



 アデルは、ゆっくりと歩き出すと、ブレイドの前で立ち止まった。


 そして、ブレイドの深紅の瞳を見据えながら口を開いた。




「もう一度言わせてもらうぞ、黒竜。


 俺は金眼の天使様であるアイリス・クレディを口説き落としてやる。

 そして、アイリス自身の意思で、我が国に来てもらうぞ。


 ……まぁ、その前にお前が魔力暴走を起こす方が先だろうがな。」




 そう言って口角を上げたアデル。


 ブレイドは、アデルの黒水晶の瞳を見据えながら口を開いた。




「アイリスはお前に渡さない。

 彼女を死なせるつもりもない。


 この膨大な魔力も、必ず俺が使いこなしてやる。


 お前の滞在など、ただの観光に終わるだけだ。

 つかの間の休暇を存分に楽しめ。」



 そう言って鼻で笑ったブレイドに、アデルはまた楽しそうに目を細めながら口角を上げた。



 睨み合う二人から互いの魔力が溢れている。


「(どうしたものか……)」


 ゼインは瞳を光らせて睨み合う二人を見て頭を抱えながら、深く溜息をついた。


危害を加えないと分かっても監視は外れないかもしれませんが、

ゼインにとっては、手のかかる息子が増えた感じかもしれません。


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