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蕾は転生し、深愛に咲く。  作者: 紗羽
第四章

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14 似て非なるもの

 

 この誕生祭の間は、女神信教徒だけでなく、全ての者達に警戒しなければならない。

 公の場で行動した者をすぐに捕えることができたならば、ラドリス帝国の権力誇示、今後行動を起こそうする者達への牽制、抑止に繋がる。

 険しい表情で汗を流している謁見の参加者たちは、あわよくばと考えていた者達なのかもしれない。


 男が連行されていく姿をアイリスとブレイドが静かに見つめていると、二人に声がかけられた。



「賑やかだったなぁ!」

「!」


 ハハッ、と笑いながらアイリス達の立っている壇上に向かって歩いてくるアデルと、アデルから腰に手を回されてエスコートされながらも人目を気にせず手に握り締めたクッキーを頬張りながら歩いてくるヘレナ。


 アデルの頬には、女性にキスをされたような口紅の跡が付いている。

 後ろから「格好いい!」「素敵!」という女神信教徒の女性達の黄色い声が聞こえてきて、アデルはその女性達に向かって顔をキラキラさせながら手を振った。途端に黄色い歓声が上がる。


 二人の自由な姿に、アイリスは思わず苦笑してしまった。

 アデルは女遊びが激しいタイプなのかもしれない。離れていてもアデルの服から女性たちの香水の匂いがこちらまで漂ってきた。

 ブレイドは、アデルとヘレナを見てイラついたように顔を引き攣らせた。


「"守護魔法より役に立つ"と言っていたが、随分と楽しんでいるようだな、アデル国王陛下?」


 言葉の棘を隠す事なく言ったブレイドに、アデルは口角を上げた。


(ひが)むな、黒竜。男の僻みはみっともないぞ?」

「僻んでなどいない。呆れているだけだ。」


 ブレイドは深く溜息をついた。

 アイリスを口説き落とす、と言っていたのは、自分がモテていると自覚している事と、後ろの女性達のようにアイリスも自分に惚れてくれるという自信からくるものだったのだろう。


 アデルは、ブレイドの隣で苦笑しているアイリスに気付くと、女性達に向けていたキラキラの笑みをアイリスに向けた。



「アイリス、心配するな。俺が愛しているのは君だけだ。今夜二人だけで愛を語り合おう。」



 そう言って愛おしそうにこちらを見つめながらアイリスの手を握ろうとしたアデルの手を、ブレイドが払い除けた。


「アイリスに触るな、軟派野郎。」

「何言ってるんだ、俺はアイリス一筋だ。」

「頬にキスマーク付けといて、よくその台詞が言えたな。お前の頭はお花畑か?」


「あはは……」


 アイリスは乾いた笑いをしながら睨み合うアデルとブレイドを眺めた。



「飲み物……」

「!」


 ポツリとヘレナの呟く声が聞こえてそちらを見ると、ヘレナが飲み物が並べられているテーブルへ向かって歩き出しているところだった。


 アデルが女性達と体を寄せながら話していても、特に気にしている様子が一切無かったヘレナ。

 今も飲み物を取りに行くことに集中している。

 アイリスが挨拶を受けている間、美人なヘレナは何度も男性達から声をかけられていた。

 その度に、離れた場所にいたアデルが自然とヘレナの元へ行って男性達と距離を置かせ、そしてまたアデルとヘレナは離れる。

 それを何度も繰り返していた。


 そして、さっきアイリスの元へ歩いてきた二人は寄り添いあっていて、恋人同士に見えるくらい親密に見えた。

 単純にアデル自身が、女性に対する距離が近すぎるだけなのかもしれないが、なんとなくアデルがヘレナへ向ける眼差しは他の女性に向けるそれとは違うような気がしていた。


「(異種族差別をする国の国王と、異種族と人族の混血のヘレナさん……一体どんな関係なんだろう?)」


 アイリスは心の中で呟きながら、ヘレナが変な男性貴族から声をかけられないか密かに見守り続けた。



「何なの、あの異種族の女……。」


 アデルとヘレナの関係に疑問を抱いているのは、アイリスだけではなく、女神信教徒たちも同じだった……。






 飲み物を堪能した後に追加のクッキーを持って、アデルの元へ戻ってきたヘレナ。

 そんな彼女の頭を撫でるアデル。

 その様子を見ていた女神信教徒の女性達は、拳を握り締めながら口を開いた。


「あの、アデル国王陛下! その女は異種族の者ですっ! 高貴な貴方様がそのように触れてはなりませんっ!」

「女神信教の教えに反しておりますっ!」


 女神信教徒の女性達があからさまにヘレナに対して嫌な表情をしながら言った。

 その表情はブレイドに対して向けているものと同じ、嫌悪を帯びたもの。


 彼女達の声が響き渡り、女神信教徒達の視線が、アデルとヘレナ、そして女神信教の女性たちへと集まる。

 しかし、その視線は好奇心からくるものではなかった。

 アデルのヘレナに対する態度について不信感を抱いているものは彼女達だけではなかったらしく、女神信教徒たちは皆一様に女性達と同じ視線をヘレナに向けていた。


「(ヘレナさん……)」


 アイリスが心配そうにヘレナを見つめるが、ヘレナはチラリと女性達を見ただけで、特に気にする様子もなくまた口をもぐもぐと動かし始めた。

 それに苛ついたように睨む女神信教の女性がヘレナの腕を掴んで無理矢理アデルから引き剥がした。


「異種族との混血のくせにっ、さっさとアデル様から離れなさいよ!」

「アデル様が穢れるわっ!」


「っ、」


 ヘレナの手に持っていたクッキーが床に落ちた。

 それを静かに見つめているヘレナ。


「アデル様に色目使ってるんでしょ!?」

「邪竜みたいにアデル様を洗脳してるんじゃないの?」

「絶対そうに違いない!」


「…………」


 ヘレナに向かって次々と罵声を浴びせる女神信教徒達。

 それに何も反応せずに無表情で立っているヘレナを見て、ブレイドは顔を歪ませた。

 まるで、昔の自分を見ているようだった。



「止めなきゃ……っ」


 アイリスが一歩足を踏み出した、次の瞬間……



「っ、!!!」


 ブレイドの背中に悪寒が走った。


「アイリスっ!」

「!」


 ブレイドはすぐにアイリスの腕を掴んで引き寄せた。


 会場に冷気のようなものが流れている感覚。



「(なんだ、この気配は……っ!)」



 黒魔術と、似て非なるもの。


 その気配を目で辿っていくと、それはヘレナの隣に立つアデルから発せられていた。


 無表情。

 黒水晶の瞳が淡く光っている。


 ……しかし、それは一瞬にして笑顔に変わった。




「お前達、少し落ち着け。」



 アデルの笑いを含んだ声が響いた。


 女神信教徒たちの顔が強張っている。

 アデルは妖艶な表情で女神信教徒達を見渡しながら、ゆっくりと口を開いた。



「ヘレナは、俺のペットだ。」



 アデルの、いつもと変わらない声が、会場に響いた。


 アデルは視線をヘレナに向けた。

 ヘレナの頬にある蛇の鱗模様を指先で撫でると、ヘレナの視線がアデルへと向けられた。


 暫しの沈黙の後、ヘレナに向けていた黒水晶の瞳を、ゆっくりと女神信教徒たちに向けた。



「女神信教の教えは、国王である俺が一番分かっている。だからヘレナはただの愛玩動物……俺の玩具(おもちゃ)だ。」


「……!」


「俺は女神信教の教祖であるディアロスの血を引く男。俺が愛するのは女神様と、その遣いである金眼の天使アイリスだけ。それは女神信教徒であるお前達が一番分かっているんじゃないのか?

 ……異種族との混血であるヘレナを見て何を勘違いしたかは分かりたくもないがな。」



 そう言って小さく笑いながら女神信教徒の女性達に冷たい視線を向けたアデルに、女性達はビクッと肩を揺らした。

 それを静かに見据えながらアデルは言葉を続けた。



「だが、金眼の天使様は女神信教徒である我らに対し、異種族とも関わりながら知見を深めていくことを深く望まれている。それなのに、お前達のその態度は何だ? 天使様の意に反しているではないか。」


「「……っ」」


「"金眼の天使様の言葉は女神様の言葉"。それを無視する行為は、我らの信仰する女神様への冒涜であり、俺の顔に泥を塗ることと同じであることを肝に銘じておけ。」



 アデルの言葉が、会場全体に響き渡った。



 すると、女神信教徒達が一斉にアデルとアイリスに向かって頭を下げた。


「「!!」」


 まるで女神に祈りを捧げているような彼ら姿に、ブレイドとアイリスは目を見開いた。




 アデルはそれに満足そうに頷くと、ゆっくりと息を吐いた。

 それと同時に、謎の気配も消えていく。


 アデルは、壇上に立つブレイドを振り返った。



「な? 俺は役に立つだろう? 撤回しろ、黒竜。」



 そう言って、いつものように口角を上げて笑った。


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