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蕾は転生し、深愛に咲く。  作者: 紗羽
第四章

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12 アデルの考え

 

 アイリスが十数人程の患者の治癒を終わらせると、傍に立っていたロナルドが手に持っている書類を確認しながら口を開いた。


「アイリス、今日の分の治癒は終わりにしようか。まだ誕生祭の最中だし、アデル国王たちの他にも接待や謁見が続くからね。暫くはこのペースでいこう。」


 ロナルドは書類から顔を上げると、ニコッと微笑んだ。


 彼の言う通り、アイリスは今日の午後から謁見を控えていた。


 "金眼の天使誕生祭"は五日間行われる予定だ。

 初日だった昨日は、民衆に顔見せをした後上流階級の女神信教徒や貴族達と舞踏会を行ったが、今日から四日間は宮廷を開場して、下級貴族や女神信教徒たちのために謁見の時間を設けることになっている。

 そして、誕生祭最終日に、また初日と同様バルコニーから民衆へ向かって挨拶をし、閉幕となる。



 ロナルドは、アイリスの頭をそっと撫でた。


「暫く忙しいだろうから、無理しないようにね。」

「ありがとうございます」


 アイリスが微笑むと、ロナルドも小さく微笑み返してくれた。




 医療棟を出た後、アイリスはエマと共にすぐに謁見に向けての準備に取り掛かった。

 宮廷の浴室で湯浴みを済ませて、用意されていたドレスに着替える。


「「あ。」」


 そこで二人は気付いた。



 キスマーク、どうしよう……。



 アイリスとエマは、昼過ぎになっても綺麗に残っているキスマーク達を見て頭を抱えた。


 アイリスが宮廷へ赴く時などに着ているドレスは、首元まで覆われている露出の少ないドレス。

 しかし、謁見の時やダンスパーティーの時に着用するドレスは、肩や背中が大きく開いている物だ。


「あらあら素敵っ!」

「アイリス様はブレイド皇太子殿下から愛されていらっしゃいますのねぇ〜!」


「〜〜〜〜っ」


 湯浴みと着替えを手伝ってくれていた宮廷の若い使用人達がキスマークを見てキャッキャッと騒ぎ出し、アイリスは羞恥に顔を赤く染めた。


「コホン、とにかく化粧でできるだけ隠しましょう。」

「はい……」


 エマの言葉に、アイリスは赤くなった顔をこくりと頷かせた。



 首から胸元にかけて付けられていたキスマーク達も、なんとか分かりにくい程度には隠すことができた。

「隠すなんて勿体無い……」と心底残念そうに呟いた使用人達に苦笑する。

 一つ二つならまだしも、これだけの数を公の場で晒すわけにはいかないだろう。

 アイリスは、冷静に対処してくれたエマに心の底から感謝した。


 着替えを終えて控え室から出ると、正装に身を包んだブレイドがルイスと共に立っていた。


「……隠したのか。」

「当たり前ですっ」


 キスマークのあった場所を見ながら少し不機嫌そうに呟いたブレイドに、アイリスは顔を真っ赤に染めて頬を膨らませた。

 自分が悪いからブレイドに強くは言えない。

 よく見れば化粧越しに薄らと見える跡に、ブレイドは ククッと笑いながらアイリスの髪が乱れないよう優しく彼女の頭を撫でた。




 今回の謁見は、以前行ったものと異なったもので、アイリスが壇上に立ち、挨拶をしたい者が順番にアイリスに声をかけていく、というスタイルだ。

 飲み物や軽食も用意されているため、立食パーティーも兼ねている。

 今はゼインとロナルドが謁見の間で会場を仕切っている頃だろう。


 謁見の間の扉の前に立つと、アイリスは深呼吸をした。

 いつも、この扉の前に立つと緊張する。


「大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ」


 アイリスがブレイドを見上げてそう言うと、ブレイドがアイリスの背中を優しく撫でた。


 静かな廊下に立っていると、遠くで賑やかな音楽が流れていることに気づいた。

 アイリスが辺りを見渡していると、それに気付いたブレイドが小さく微笑んだ。


「この誕生祭に合わせて帝都の街でも祭りをやっているんだ。一週間ほどやると聞いている。謁見が一段落したら一緒に行こう。」

「えっ、私が行ってもいいの?」

「勿論だ。お前の誕生祭なんだからな。……まぁ、外見は少し変えないといけないだろうけどな。俺もだけど。」


 そう言って笑ったブレイドに、アイリスは顔を輝かせると嬉しそうに微笑みながら頷いた。




「ブレイド様、アイリス様、お時間です。」


 エマの言葉にブレイドとアイリスは頷いた。


「行くぞ。」

「えぇ。」


 アイリスは頷くと、ブレイドと共に謁見の間に入った。


 眩しいくらいのシャンデリアの灯りが二人を照らす。

 後ろからエマ、ルイスが入室し、参加者達から歓声が上がった。


「金眼の天使様だわ!」

「噂に違わぬ美しさだな」


 様々な声が聞こえてくる中、ブレイドとアイリスは壇上にいるゼインに一礼した後、壇上に上がった。

 ゼインの隣にアイリスが立ち、その隣にブレイドが立つ。三人の後ろにエマとルイスが控えた。


「これより"金眼の天使アイリス"の謁見を許可する。」


 ゼインの声が響き渡った。




 参加者達は互いに交流しながらタイミングを見てアイリスに挨拶に来る。

 ゼインも壇上から降りて初日に参加できなかった小国の王族達の接待をしていた。


 謁見は特に問題もなく淡々と進められた。

 何回目かの挨拶を終えた後アイリスが気持ちを落ち着かせるようにゆっくりと息を吐いていると、そんなアイリスに誰かが近づいてきた。




「やはり俺の天使様は美しいな。」

「!」


 アイリスが顔を上げると、アデルとヘレナ、そしてディアロスの従者たちがこちらへ向かって歩いてきていた。

 アデルは正装に、ヘレナはドレスに身を包んでいる。

 会場が騒つき、二人に視線が集まった。


 アイリスはアデルの隣に立つヘレナの姿に目を見開いた。


「……!」


 ヘレナは、とても美しかった。

 昼間のローブ姿でも彼女の美しさが伝わっていたのだから、着飾ればその美しさに磨きがかかるのは当然かもしれない。


 二人の姿を見て、ブレイドは眉間に皺を寄せた。



「アデル国王陛下。今日の謁見には王族などの上流貴族は出席できません。招待状にそう記載していた筈ですが。」


 上流貴族たちとの交流、謁見は昨日の舞踏会で終わらせている。

 今日からの四日間は、理由があって初日に出席できなかった上流貴族は参加可能だが、基本的に謁見を望んでいる下流貴族たちや女神信教徒たちの為に設けているものだ。

 そのため、宗教国家ディアロスの国王であり、初日に舞踏会に出席しているアデル達は、今回の謁見には参加することはできない。


 しかし、アデルは笑みを浮かべながら首を横に振った。


「俺は女神信教の教祖ディアロスの血を引く男だ。女神様の遣いである金眼の天使アイリスを守るのも、女神様に愛された男である俺の役目。誕生祭の期間は俺も出席する。」


 アデルはそう言うと、アイリスの前に立って壇上に立つアイリスの手を握った。


「!」


「天使様を脅かす者から、俺が必ずお守りいたします。貴女様に忠誠を。」



 チュッ、と手の甲にキスを落としたアデル。

 唇を触れさせたままアイリスを見上げるアデルの姿は、他の貴族女性達なら一瞬で彼の虜になるのではと思うくらい妖艶だった。


 もうアデルとヘレナだけで充分なのではないかというくらい会場が華やかに見える。

 美麗という言葉は彼らのためにある言葉かもしれない。


「……やはりな。」


 アデルはアイリスの手を握り、触れていた唇を離しながら口角を上げて言った。


「挨拶のために触れる時は守護魔法が発動しない。」

「…………」

「そして今俺はアイリスへ忠誠を誓った。だから……」



 "俺には守護魔法が発動しなくなる"



「それがお前の守護魔法の欠点だっ」



 アデルがそう言ってアイリスの体を引き寄せた。

 次の瞬間。



 ベシッ。



「……あれ?」


 アデルとアイリスの間にある、立派な魔法陣。


「…………。」


「あの、アデル国王陛下……?」



 アイリスが魔法陣の壁に押し付けられているアデルを見て顔を引き攣らせた。

 アデルの隣に立っているヘレナは目を輝かせている。


「俺がそんな欠点残してるわけねぇだろ。」


 ブレイドが冷めた目でアデルを見ながら言った。


 黙っていればイケメン。

 その言葉も、きっと彼の為にあるのだろう。

 魔法陣の壁に押し付けられても必死にアイリスの手を握って離さないアデルの手を、ブレイドがはたき落とした。




 アデルはアイリスから離れて咳ばらいをすると、ブレイドとアイリスを見た。


「でも、アイリスに忠誠を誓うことは本当だ。誕生祭の間は俺がいればきっとこの守護魔法より役に立つ。」

「……!」


 いつに無く真剣な表情のアデル。

 アイリスがブレイドを伺うように見上げると、ブレイドは暫しの沈黙の後、溜息をついた。


「……変な行動をすればすぐに退席していただきます。」

「分かった、感謝する。」


 深く頷いたアデルは、先程までふざけたことをしていた男には見えない。

 ここにいる者達と何か企んでいるのかもしれない。

 こちらを睨んでいる女神信教徒たちを見て、ブレイドはゆっくりと深呼吸をした。


今更ですが、第四章は結構長くなります!

二十話前後で収まりきれないのでのんびりお付き合い頂ければと思います。


よろしかったら、ブックマークやリアクション、評価を頂けますと嬉しいです。

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