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蕾は転生し、深愛に咲く。  作者: 紗羽
第四章

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7 苦労人

 

 アデル国王のラドリス帝国滞在が決まり、舞踏会の最中にも関わらず使用人たちは慌ただしく働いていた。


 舞踏会に戻ったアデル国王が「ラドリス帝国に滞在する!」と社交界で高らかに宣言してしまったため、アトロイとゼインは、アデルに滞在を諦めるよう説得するはずが外堀を埋められ彼の意見に同意せざるを得なくなってしまったからだ。


 別室で食事を楽しんでいたアデルとヘレナの前に仁王立ちしたアトロイは、声を荒げた。


「全く!もう少し考えて発言をしてくだされ!」

「考えたさ。だからラドリス帝国に滞在すると皆に――……」

「その発想こそが考えておらぬのですっ!」


「以外にお前も苦労していたのだな……」


 顔を真っ赤にして怒っているアトロイに、ゼインは軽く同情した。



 そして、ゼインの息子であるブレイドと、その婚約者アイリス。

 二人のいる舞踏会会場は、


 "ブレイド皇太子殿下は金眼の天使アイリスと婚約を破棄してヘスス族の混血の女性ヘレナと婚約するのではないか"


 という話題で持ちきりだった。

 そんな中、それを否定するようにブレイドがアイリスの手を握り締めたまま、互いに顔を合わせることなく接待を続けていた。

 舞踏会会場に戻ったゼインは会場を見渡した後、こちらへ向かって歩いてきて頭を下げたロナルドとエマを見た。


「……ドレイクは?」

「父上は既に宮殿へ戻りました。」


 ロナルドの言葉に、ゼインは鼻で笑った。


「奴はこういう場が嫌いだからな……やることやって早々に退散したか。」



 ドレイクの演技も多少は役に立った、……と言いたいところだが、ラドリス帝国の貴族たちからゼインへ向けられる心配や疑念の視線を考えると、あまり褒められたやり方ではなかった。

 それに、女神信教と繋がりがあると明言した彼の行動を警戒しなければならない。


 ラドリス帝国にとって……、黒竜であるブレイドにとって、女神信教は"敵"なのだから。


 アデル国王がラドリス帝国に滞在するならば、宗教国家ディアロス側の出入りも多くなるだろう。

 そのことを考えると、ドレイクは今後も社交界に顔を出す可能性がある。



 ゼインは静かにロナルドを見た。



「……ロナルド、悪いがドレイクに監視を付けさせてもらうぞ。」



 険しい表情で言ったゼインに、ロナルドは真剣な表情で頷いた。


「それは勿論です。僕も可能な限り父上に接触したものを心眼で――……」

「いや、見なくていい。」

「……!」


 ゼインは、ロナルドの頭に手を乗せた。

 ロナルドが驚いて顔を上げると、ゼインは小さく笑った。


「そう言っても、お前のことだから無理するんだろうがな。」

「……っ」

「大丈夫だ。お前は何も心配しなくていい。」


 ゼインはそう言った後、少し考えるそぶりをしながらロナルドの頭を撫で続けた。


「……そうだな、ドレイクのことより、ブレイドとアイリスのことをもっと気にかけてやってくれ。あの二人だけじゃあ、きっと拗れる。」

「ブレイドとアイリスを……?」

「あぁ。アデル国王を中心に見張ってくれ。……信頼しているぞ、ロナルド。」



 ゼインは、そう言って優しく微笑むと、最後にロナルドの頭をポンポンと優しく叩いてブレイドとアイリスに向かって歩き出した。

 ロナルドは、ゼインのその大きな後ろ姿を眺めながら、笑っているような・・・泣きそうな顔でゆっくりと息を吐いた。



「本当に、陛下もブレイドも優しすぎだよ……」



 そう言って顔を俯かせたロナルドに、彼に寄り添うように立っていたエマが、労わるように彼の背中をそっと撫でた……。







 舞踏会が終わる頃、アデル国王のいる別室は大騒動だった。



「お前はさっさと従者を連れてディアロスに帰れ。」


「はい!?」


 アデルの言葉にアトロイは絶句した。

 黙々と食事を摂るヘレナの隣で、アトロイを追い払うように しっし、と手を振ったアデルに、顔を引き攣らせるアトロイと汗を流す従者たち。


「アデル国王!ここは敵国なのですぞっ!」

「でも襲われていないぞ?」

「そんな堂々と襲う馬鹿な国はおらぬでしょう!?」


「「(うわぁ……)」」


 あの差別主義なアトロイが常識人に見える謎の現象が起きている。

 ブレイドとアイリスは、ゼインの隣で軽く引きながら彼らのやり取りを眺めていた。


「襲うつもりはないが……まぁ、せめて二、三人は従者を置いていくべきだろうな。」

「ほら!ゼイン殿もそう言っているでしょう!?」


 思わず助け舟を出したゼインに、アトロイがすかさず便乗して説得すると、アデルは渋々といった様子でようやく頷いた。

 そして、嬉々としてゼイン達を見た。



「俺の寝る場所は勿論アイリスと同じ部屋だろう?」



「あぁ!?」

「んなわけあるか。」


 平然と言ったアデルに今度はブレイドが怒りに顔を引き攣らせ、ゼインが呆れたように溜息をついた。

 そして、宮廷内にあるゲストルームでの滞在だと聞いて今度は「アイリスと同じ宮殿じゃないと嫌だ!」と騒ぎ出し、また怒りでブレイドの魔力が溢れた。


「アイリスは()()婚約者です。俺と一緒に皇太子宮に住んでいるのですから、アデル国王が寝室を共にするのは無理です。」


「なら黒竜。お前が宮廷に住め。そして俺がアイリスと皇太子宮に住む。」


「何言ってんだこいつ。馬鹿なのか?」



 怒りのあまり敬語を止めたブレイドを宥める者は誰もいなかった。

 あのアトロイですら毛嫌いしている黒竜のブレイドに言い返すこともできずに、アデルの言動に頭を抱えていた。


「アデル国王を外に出すべきではなかった……っ」

「最初に訪れたのが我が国で良かったな。他国なら即暗殺されるかディアロスを侵略されているぞ。」



 皇太子宮に住ませろ! と騒ぐアデルに、ゼインはまた溜息をつくと、ブレイドとルイス、そしてエマを見た。


「皇太子宮に住ませるとなると、お前達に負荷が掛かるが……どうする?」


 ゼインの問いに、ブレイドへと視線が集まる。

 ブレイドは嫌そうな顔をしながら口を開いた。


「見えないところで変な行動をされるよりはマシかもしれないが……本音を言うと嫌だ。」

「だろうな。」


 ゼインは頷くと、ルイスとエマを見た。


「お前達はどうだ?」


 ゼインの問いに、ルイスとエマが頭を下げた。


「私めは陛下とブレイド様の御指示に従うのみでございます。……ですが、私の目の行き届く範囲でディアロスの者達が不審な行動をするのであれば、どんな状況でもブレイド様とアイリスお嬢様を守ってみせます。」

「私もルイス卿と同じでございます。」


 そう答えた二人にゼインは頷くと、最後にアイリスを見た。



「アイリス。お前はどうしたい?」



 ゼインの問いかけに、全員の視線がアイリスへと集まった。

 彼女の言葉で、全てが決まる。


 アイリスは暫しの沈黙の後、そっと口を開いた。



「寝室を共には無理ですが、皇太子宮に滞在することは……ヘレナ嬢も一緒ならば、私は構いません。」



「っ、」


 アイリスの言葉に、ブレイドは眉間に皺を寄せた。

 それに気付いていながら、アイリスは彼を見ることなくゼインのみを真っ直ぐ見ている。


「アイリス、お前っ……!」

「分かった。ならばアデル国王とヘレナ嬢の皇太子宮滞在を認めよう。」

「……!!」


 アイリスに意見しようとしていたブレイドの言葉を遮って言ったゼインに、ブレイドは目を見開いた。

 ゼインはアデル国王を見据えた。


「皇太子宮に滞在するには準備が必要だ。今日は宮廷に滞在し、明日以降から皇太子宮へ移らせる。それで良いな?」


「あぁ、いいぞ。よろしく頼む。」


 要望が叶って満足げに頷くアデルと、不安そうにしながらも小さく頷いたヘレナ。

 そして、それを静かに見つめるアイリス。


「―――……っ」


 アイリスの、感情を抑えた冷静な横顔を見てブレイドは歯を食いしばると、彼女から顔を逸らした。


次回、ブレイドによるアイリスへの愛の鉄鎚。

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