勇者、正体を明かす
「な、なぜこんなことに」
ルークはライトと名乗る怪しい男とともに森の中通りかかる獣を待ち伏せていた。
ライトは食材があればいいというルークの言葉を聞いて、あっという間に森の中へと入っていってしまった。
こっそりといなくなってしまう手もあったが、そうすれば本当に彼が死んでしまいそうな気がしたので付き合うことにした。
「といってもおれも家無し文無しだからこのままだと死んじゃうしな」
隣には先程まで野垂れ死にそうな姿からは想像もつかないくらい活動的なライトがいた。
「さて、どいつが今回の飯になるんだ?」
「そうですねぇ」
年上っぽかったからついつい丁寧な口調になってしまう。
そんなことよりも辺りを見渡してちょうどよい獲物がいないか探す。
「あ、あれなんかちょうど良いですよ」
そう言ってルークが指さしたのはシーフドッグ。
冒険者や旅人の荷物を盗む習性をもつ厄介な魔物だが、ルーク含め料理人界隈では出汁もでるし肉そのものもそこそこイけるちょうど良い食材である。
しかしライトは露骨に顔を顰める。
「あれってシーフドッグだろ。あいつは一度食ったことあるけど肉が固くて食えたもんじゃねぇ。あと臭い」
「へ?」
ライトのいうことに素っ頓狂な返事をしてしまう。
「ライト…さん。シーフドッグの肉は酒場とかでもたまに出てきますよ?」
ルークの言うことにもライトは納得せず。
「酒場で?そもそも酒場なんてほとんど行ったことないからな。とにかく、あいつは却下だ」
納得しないライトにルークは少しだけ熱くなる。
「いえ、あいつは美味しく食べれます。あれを狩ってください」
「やだね、あんな布みたいな肉よっぽど飢えた時にしか食べたくない」
さっきまで倒れるくらい飢えてたじゃないかというツッコミを飲み込む。
「僕が美味しく調理しますから!いいからお願いしますよ!」
「お前が?」
ライトはルークの全身を一度見回して
「別のにしよう」
と言ったため。
「いいから狩れよ!」
獲物がいる近くで大声を出したうえ、分かりやすく動いてしまった。
それをシーフドッグが気づかないはずもなく。
「アオーン」
遠吠えをされて仲間を呼び寄せてしまうことになった。
仲間の声を聞きとった他のシーフドッグが20、30と続々と集まってきて2人を逃がさないように囲んでくる。
「あわわわ」
ルークは自分のせいでこんなことなってしまったということと、恐怖で固まってしまう。
「おいおい、こんなに集まってくることなんてなかなかないぞ」
一方ライトは不思議なくらい落ち着いている。
「おいルーク」
「は、はい!」
「こいつら、本当に美味いんだろうな」
「お、美味しいです!」
恐怖で声をうわづらせながらも答える。
「そうか、だったら任せとけ。こいつら今日の飯だ」
ルークの返答に満足したのか、ライトは元気な声とともに拳と手のひらをぶつけ合わせる。
「こいよ」
戦闘態勢に入ったライトに対して、シーフドッグの群れは一度伺うような体制をとる。
「ガウ!」
そして1匹の突撃とともに逃げ場の無いように全方向から一斉に攻撃を仕掛けてきた。
「ひっ」
ルークは恐怖で目を瞑る。
「いらっしゃーい」
しかしライトはそれを待っていたかのように、全身に力を込めると右足を強く地面に踏み込んだ。
その瞬間右足を起点に地面が割れていき、足場が上下左右に揺れ出す。
ルークもシーフドッグ達も同様にその場から動けなくなる。
「なにが、起こって!」
ルークは膝をつきながらライトがいた場所を見るもそこにはライトがいなかった。
「あれ?どこに」
「ここだ」
気づけば後ろから肩を叩かれていた。
「全員倒したぞ、あとは任せたからな」
「なにを言ってってええ!」
気づけば辺り一面にいたはずのシーフドッグは軒並み首の骨を折られて絶命していた。
ものの1分程度の出来事にルークは絶句してしまう。
「あ、あなたは一体」
「俺?さっきも言っただろうライトだ」
そういうことを聞きたいんじゃないとルークは声を荒らげたくなったがここは一度落ち着く。
「あなた程強い人は見たことなくって」
「確かに俺と同じくらい強いやつなんて3いや4人くらいしかいないんじゃないか?」
「は、はあ」
本気なのか冗談なのか分からないライトの言い草にルークは更に疑問を抱く。
白髪の旅人、名前、見た目の年齢などからルークはある結論にたどり着く。
「も、もしかして」
「ん?」
「ゆ、勇者ライト?」
ライトはルークの言ったことにほおけてしまう。
その反応を見てルークは人違いであったと思い。
「す、すみません!そうかなって思っちゃって」
「あぁ!そうだった!」
ライトの大声にルークは跳び上がる。
「俺って勇者だったわ」
「え、えぇ」
そして次の瞬間には呆れていた。
「いやーここんとこ言われてなかったからすっかり忘れてた」
自身が英雄であったことを忘れるなんてとんでもないな思うとともに、ルークの中の勇者イメージが崩れていった。
「では改めて」
ライトは一度咳払いをしてルークに向き直る。
「勇者ライト・トゥ・エディットだ。よろしくな」
今度は肩書きとフルネームを名乗り手を差し伸べてくる。
「…ルーク・ベルモンドです」
ルークはその手を取りながら、勇者に出会った感動と、思い描いていた理想との乖離によるガッカリ感がごちゃ混ぜになった感情に支配されていた。
「それで、こいつらをどうするんだ」
ライトは周りを見渡してルークに問う。
「えーと」
元々1体のみのつもりだったのに、30体近い数のシードッグを一体どうしろというのか。
一度落ち着くために深呼吸する。
血なまぐささと獣臭で鼻ひん曲がりそうになるものの心は落ち着いた。
その落ち着いた心で冷静に状況把握してルークは答えた。
「とりあえず血抜きからってことで」
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