勇者と料理人、邂逅
刻星歴1550年。魔神の侵攻によってエスト大陸はおよそ半分が陥落した。
まだ攻め入られていない地域も魔神の恐怖に怯え治安が悪化していき、いよいよ人類の時代の終わりが見えてきた。
そのとき1人の勇者が現れた。
そのものは仲間を引き連れ瞬く間に侵攻されていた土地を解放していった。
その勢いのまま魔神を討伐したのは、勇者が侵略された地域に立ち入ってからわずか2年のことであった。
英雄となった勇者一行は無事帰還し、数々の祝福、褒美を与えられるも、魔神の首だけを差し出しそのまま剣を置いたという。
伝説の英雄が大陸をわかせてから10年。勇者を知らぬものはいないけれども、平和になった大陸では勇者に憧れるものはほとんどいなくなっていた。
ここは大陸東部、酒と踊りの街モードルード。
街の住人、他の街からの旅人、冒険者など多種多様な人々が集まる酒場に1人の男がカウンター席に突っ伏していた。
「おいあんた、飲むのはいいけど寝るなら家に帰ってくれよ」
「それはぁ、かえるいえがあるやつにゆうんだなあ」
男は回らない口で言い返す。
「お前さん旅人か冒険者か?文無しは勘弁してくれよ」
話している相手が文無しの可能性が出てきたので酒場のマスターは露骨に面倒そうな顔をする。
「だいじょうふ。さらあらいならまかへろ!」
「文無しじゃねぇか!」
「もんなしでついさきほろいえもうしなったりょうりにんれす!やとってくだはーい」
「おおい!近づくな!おーい、レーナ!こいつつまみ出してくれ」
「はーい」
レーナと呼ばれた長い金色の髪を1つに束ねた、太陽という言葉が似合いそうなくらい快活な少女が嫌な顔ひとつせず返事をする。
「お兄さん、行きますよ♡」
レーナが男に肩を貸して笑顔で話しかける。
「…はぁい」
その笑顔と声音に男はホイホイついていった。
「ふう、お仕事終わりっと」
男はレーナと呼ばれた女性に酒場の外どころか街の外まで連れていかれていた。
「さいごに、よっと」
レーナは持っていた水筒に入った水を男の顔面にぶちまける。
「つめて!な、なにすんだよー」
「ようやく酔いが覚めましたか。マスターがツケにしておく、ただし逃げたら承知しない。との事です」
「な、なんの」
男は言いかけるも先程まで自分がいた場所喋っていたことを思い出す。
「あーなるほどぉ」
「それとも本当はお代を支払えたり?」
レーナは優しさとも脅しともとれそうな言い方をしてくる
「い、いやー、酒場での発言に嘘偽りはないというかここは出世払いとやらで許してもらえないかと」
男の言い訳をひとしきり聞きおえたレーナは満面の笑みを作り
「これ、差し上げます♡」
男に赤い札を押し付けるのだった
酒場の看板娘のプレゼントをポケットに押し込んで男は立ち尽くす。
「わざわざ街の外まで連れていかなくてもいいのによお」
1度ポケットに入れた赤い紙、つまりは借金の証を取り出して改めて見る。
「どうしたもんか。本当に冒険者にでもなろうか」
今後の人生設計を思案していた時、街の外側から人が倒れるような音が聞こえた。
「人か?」
男は目を凝らすと間違いなくそれは倒れた人の姿だった。
「お、おい!大丈夫か!」
男は倒れている人の肩を揺らし呼びかける。
「なか…た」
「え?なに?」
「おなかへった」
「あぁ」
病気やら大怪我などではないことを知りすこしホッとする。
「でもおなか空いたって言われても」
「なんでもいいんだ」
そんなことをいわれても、男が持っているのはさっき貰った借金の札と一応料理人であるため自身の調理器具一式ぐらいだ。
「せめて食材と調味料、あと水があればなぁ」
男の呟きに倒れていた男は目を見開いて反応する。
「食材があればいいのか」
「ま、まぁ」
それを聞いて倒れていた男は水を得た魚のように飛び起きる。
「そうと決まれば食材を手に入れるぞ!おい!」
「は、はい!」
「名前は?」
男は勢いに押されるが、自分の名前を聞かれているのだと気づき答える。
「る、ルーク」
「俺の名前はライト。よろしくなルーク」
ライトと名乗った男は今まで被っていたフードを取ると、どこにでもいるような流浪人のような服装であったものの、どこに居ても目立つ真っ白な髪を持つ壮年の男であった。
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