澄み空の寒月
−2週間もすると、売り場はもちろん職場の雰囲気にも慣れてきた。
遅番には私以外に女の人が二人居る事も判明。
同じ1階の堤下希絵さん。
私の5つ上でお姉さん的な存在。
希絵さんは既婚者で、必ず終電までの勤務にしてもらってるみたい。
もう一人は2階の五條薺さん。
ナズちゃんは3つ上だけど、私より背が小さくてテンションも高い。
彼女は自宅が遠いので、やっぱり終電まで。
たまに人手が足りない時は閉店まで勤務し、始発で帰ったりするらしい。
「お先でーす!トーコ、また明日ね」
「ナズちゃんお疲れ様〜」
終電近くになると、店内も大分落ち着いてくる。
「トーコ、眠くない?」
この人は那波龍斗さん。
私の2つ上。初日に家まで送ってくれたのは竜ちゃんだった。
売り場を案内してくれたのもね。
面倒見が良くて仕事もきっちりこなすから、年上年下関係なく慕われてる。
「平気。根本的に夜型だから絶好調かも」
「今日は休憩誰からですかぁ〜?」
この人は橋本健君。
人懐っこい性格だけど礼儀正しくて可愛がられるタイプのタケ。
1つ下だけど、高校生でもまだまだ通りそう。
「あっ、私からだ。休憩行ってきまーす」
『いってらっしゃい』
2階へ上がる時は、1階で返却された2階の商品を持って上がるのが鉄則。
「お疲れ様でーす」
「お疲れ〜。休憩?」
この人は星紀人矢さん。
3つ上の自称ゲーマーさん。聞かなくてもお勧めゲームを教えてくれる。
キリヤンは話し始めると止まらないのが特徴。
「今日は1番のりなの」
「シューマが5分くらい前に行ったんだけど寝てると思うからさ、トーコが休憩出る5分くらい前に起こしてやって」
「かしこまり。行ってきまーす」
ラッキィィッ。
こうなると1分でも時間が惜しい。
足早に休憩室に向かった。
「マッキー」
「あ、お疲れ様です店長」
「休憩?」
「そうです」
「ついでにこれ、画像チェックしてくれるかな?後半辺りから進まないってクレームなんだけど」
「恋する惑星…」
「宜しく」
寝顔どころじゃなくなったかな。
−コンコン−
軽くノックをしてドアを開ける。
[スー… スー…]
椅子を3脚繋ぎ合わせ、縮こまる様にしてる姿がちょっぴり可笑しくて、とても可愛い…。
夢にまで見そうな勢いだ。
「お疲れサマ…」
そう囁いて彼の髪に少しだけ触れてみる。
この2週間で少しだけ知る事が出来た。
視力が悪くコンタクトと眼鏡は必需品って事。
ちなみに今日は眼鏡だから今はテーブルの上。
写真が苦手でカメラを向けられると反射的に回れ右してしまう事。
煙草はHOPEでお酒を飲むと眠くなる事。
3つ上って理由だからかは解らないケド、たまに私をお子様扱いする事。
女の子は彼女以外下の名前で呼ばない事。
彼女は…。
居てもおかしくないケド定かじゃない。
携帯で彼女らしい人との会話も聞いた事もないし、他のスタッフにひやかされてる姿も見た事ない…。
まぁ考えても解決するもんじゃないし、とりあえず画像チェックしなきゃ。
−DVDをセットして、彼の向かい側の椅子に座った。
後半だからこの辺かな?
結構好きな映画で何度か観てる作品だ。
見終わった後は恋したいって気持ちになる。
進行形の時は好きな人に会いたくなる。
今は目の前に居る事で幸せ度MAXかな?
「絶好調じゃん!」
[クスクス…]
笑い声の主は目を細め私を見ていた。
「うそー!!」
「画像チェック楽しい?」
「もしかしてずっと見てたの?」
「違うって。絶好調じゃん!くらいかな」
「タヌキなんてズルイ!」
「ばっか。俺がタヌキならマキはオオカミじゃん。
頭なんか撫でるからチューまで来るかと思ったぞ」
「やっぱ起きてたんじゃん!」
「ヤベ。ヤブヘビっ」
「せっかく起こしてあげようと思ってたのに」
「俺の寝顔レアだぞ〜」
「自分で言ってるしー。シューマさんからかってるでしょ?」
「あっ!」
「あ…」
「"さん"はやめろって言ったじゃん」
「だって…」
「シューちゃん。
言ってみー?」
「…………やっ。」
「ヤじゃないー」
「皆と同じじゃ芸がないもん」
「芸はいらないし。
じゃあシューマ。」
「……………………」
「赤面しながら黙んなよ」
「分かった。クマタンは?楠シューマだから、略してクマタンにするよ〜。可愛いから呼びやすいもん」
「待て。俺がハズイっつーの!」
「じゃ、シューマさん」
「…本気?」
首を大きなく頷いてみせる。
「…わかった。特別だぞ?」
「うん!やったね」
「っと。
休憩終わりっ。先行くな」
「いってらっしゃ〜い」
−こーやって少しずつ距離が縮まっていく。
ほんの少し彼を独り占め出来ただけで、世界中を味方につけた気にさえなるなんて…。
そんな心の中を、澄んだ月が見透かしてる様だった。




