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雪解けの頃  作者: 四季
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霰(アラレ)の襲来

−事の始まりは先週。

バイト先のレンタル店が大手書店企業に吸収される事になってしまったから。

基本的にスタッフはそのまま既存する形なんだけど、やっぱり映画が好きな私は系列店で働ける様に頼んでもらい、運良くOKの返事をもらえたのだ。

距離的にはほとんど変わらないけど、乗る電車の向きが変わった事で少し緊張ぎみ。

系列とは言っても、事実上新しい職場な訳で、一番心配なのは人間関係。

とにかく、挨拶だけはしっかりしなくちゃ…。

 

「おはようございます。北崎店からきた牧瀬です」

「あ、おはよございます。店長に繋ぐんで少々お待ち下さい」

 

北崎店の倍くらいある広さだ。

1階と2階のツーフロアになっていて、1階は洋画とCD、2階は邦画とアニメに分かれてるらしい。

 

「店長が事務所へ上がってくださいとの事です。2階の左奥が事務所になります」

「ありがとうございます」

 

軽くお辞儀をして私は階段を上った。

 

−トントン−

 

「失礼します。北崎店から移動してきました牧瀬トーコです」

「初めまして。高洲店、店長の林道です。そこにかけて」

「はい。失礼します」

 

見た感じ30前後。

店長にしては若く見えるけど、北崎店の店長も33才にしては童顔だったっけ。

 

「高洲店の印象はどう?来るのは初めてだよね?」

「はい。想像より広くて驚きました。でもその分少し楽しみです。

それに広さに関係なくメンテナンスが行き届いててかなり好印象です」

「それは良かった。大丈夫そうだね」

「はい!」

「特に希望とかはある?」

「時間帯は特に希望はありませんが、邦画より洋画が好きなんで…出来れば洋画担当にして欲しいです」

「んー…それだと閉店までの時間帯で帰りは深夜になるけど、平気?」

「深夜…」

 

自転車で来れない距離じゃないし大丈夫かな。でも帰り道真っ暗だと少し怖いかも。

 

「朝番か中番にする?」

「あ…大丈夫です!」

 

半分は勢い。でも何より好きな事に携われるなら夜道くらいどうにでもなる。

大きい道路や、街頭のある道を選んで帰ればそんなに怖くないかも。

 

「本当は来週からシフトに入ってもらう予定だったんだけど、遅番のコが2人来れなくなってね。都合が良ければこのまま今日からでもお願い出来るかな?」

 

今日から!予定はないケド…。

 

「都合は構わないんですが、今日は電車で来ちゃいまして…」

「あ−帰りか〜。

…わかった。今日は誰かに送らせるよ。遅番はほとんど男子だから」

 

ほとんど男子?!そして深夜。

余計な心配と緊張が押し寄せてくる。

 

「休憩室の方に皆出勤してる頃だから行こうか」

「はいっ」

 

人見知りはしないタイプ。

いや、ホントはちょっとだけしちゃうかも。なんてそんなコト冷静に分析してる場合じゃない。

とにかく心の準備を3秒でしなくちゃならない。

落ち着け。

いち…

にぃ…

 

−ガチャ−

 

「おはよ〜」

『はよーざいまーすっ!』

 

さん…。

 

「店長だれ〜?」

「もしかしてニューフェイス?」

「あっわかった!北崎から来るっていってたコじゃん?」

「なるほど」

「女の子だったんだぁ〜」

 

女の集団が最強だと思ってたけど訂正。集団に男女関係なし。

 

「はいー。とりあえず話し聞いて。

急遽今日から遅番に入ってもらう事になった、牧瀬トーコさん。

北崎店からの移動だから即戦力になると思います。

1階なんで後で売り場案内してあげて。以上」

 

−バタン−

 

「まさか女の子が来るとはな〜」

「遅番は人気ないからね。」

「帰りは夜道だし」

「もしかして格闘技とかやってんの?」

「えー。華奢だからそれはないじゃん?」

「だよなー」

 

返答の隙がない。

疑問符付きの言葉が次々降ってくる。

男子6人。個性も様々な感じ。私も聞きたい事は沢山あるのに。

 

−ガチャ−

 

「おはよーっす」

「あれ?シューマ今日出だっけ?」

「いや。タケと相馬君が休みになったからって呼ばれた」

「ラッキーじゃん」

「今日から遅番に女の子入ったんだ」

「ちょーレアだぞ。」

「しかも1階!洋画好きなんだよな?」

「音楽かもよ?」

 

「待った。

みんな喋り過ぎ。畏縮させてどーすんのさ」

 

そう言うと、彼は私の前で立ち止まった。

 

「2階担当、楠シューマ。君の番だよ?」

 

彼の言葉が私の中で響いた。

少し首をかしげ、真っ直ぐ私の目を見てる。

私の言葉を待ってくれているんだ…。

 

「トーコ…

牧瀬トーコ。

洋画が好きなので1階勤務になりました。

今日から宜しくお願いしますっ」

 

そう言って深く頭を下げた。

 

『よろしくーっ!』

 

皆の声が聞こえ顔をあげようとした瞬間、大きな掌が見えた。

恐る恐る右手を差し出し顔を上げると、彼の笑顔が見える。

 

「リラックス。頑張れ」

 

そう言うと彼は私の頭にポンポンッとを手を置いた。

 

「シューマずりぃ」

「お前キャラ変わってるぞ」

「うっせー。挨拶は基本だろ。常識」

「俺も握手握手〜」

 

 

−皆の声が賑やいでいる。

けれど私の頭の中は真っ白になり、彼の言動だけが何度もリピートされていた。

 

−そう。

様々な偶然が重なって今、彼に出会えた事も偶然だったのかもしれない。

ただ、その瞬間に落ちてしまった事実は、他でもない自分が気付いてる。

 

−急降下−

 

その時、恋落ちのメーターは、既に振り切っていた…。

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