クラスメイト<後半>
俺が保健室に行ったのは、結果的に言えば当然のことだったと言える。
担任は教室に入ってきてから、俺と、茶髪とつるんでいた男子(西川と言うらしい)から事情を聞き、その後確認の為にクラスメート全員を問いただした。
しかし、誰も関わりたくないのか口を開こうとするものはほとんどいなかった。人間というのはそういうもので、だからこそ世の中が成り立っている訳なのだが、くだらない連中だなと思わざるを得ない。
そんな中、一人だけ俺を積極的に弁護をしてくる女子がいた。
隣の席の女子、佐々木だ。
佐々木はうるさくて騒がしい、どこにでもいるような感情だけで生きているような奴だが、悪い奴ではない。せいぜい悪意のない軽犯罪者というところだろう。
「スバルは手を出してないよ。一発殴られたけど、やりかえさなかったもん」
そこは実際、やり返す前に終っただけだった。訂正を加えたくなったが、加えた方が格好悪くなる訂正ってなんだろう。
佐々木が俺の顔を心配そうに覗いた。
……なんだ、さっきから。
佐々木の言葉を聞いた担任は、眠そうな顔で腕を組む。
ちなみに担任が眠そうなのは朝だからではない。朝、昼に関係なくいつも眠そうな顔をしている。さすがに夜はどうなのかは知らない。もしかしたら夜行性の可能性もありうる、と俺は勝手に思っている。
「じゃあ、なんで古田は倒れてるんだ」
どうやらあの茶髪は古田という名前らしい。
「ウツロギがやったんだけど。こう、合気道っていうか柔道なのかよくわかんないけど」
「ウツロギ?……ああ、宇都木か。なんで宇都木がそんな真似するんだ、殴られたのは八賀谷だろうが」
佐々木は言葉に詰まった。
「……アタシにわかるわけないでしょ、本人に聞いたら?」
もっともな意見だと俺は思う。だが担任がウツロギに聞かずに佐々木に聞いたのも、当然と言える。
担任は顔をしかめる。寝不足で機嫌が悪くなったようにしか見えないが。
「宇都木に聞いてまともな答えが返ってくると思うのか」
さすがにそれを本人を目の前にして言うのはどうかと思うが、当の本人は全く持って気にした様子がないので、別にいいのだろう。
担任の言動にムッとしたのだろうか、今度は佐々木が顔をしかめた。
「本人に聞いてから言いなさいよ」
佐々木の言葉に、担任は沈黙する。
佐々木の言っていることは常識的な意見ではあるが、別に佐々木が常識人ってわけでもない。女子はたまに感情で論理的に動くことがある。いつも常識のない人間に、常識的な意見を言われた担任の心境はさぞや複雑に違いない。
担任はウツロギのほうを見て、口を開く。
「で、なんで古田をぶん投げたんだ。宇都木」
機械的に返すウツロギ。
「邪魔だったから。それに投げたんじゃない、倒したんだ」
「どう違う」
「姿勢を崩させただけで倒れたのは奴自身だ」
担任は頭を軽く抑えながら、首を軽く左右に振る。
「……なにが、どう邪魔だったんだ」
「古田が、自分の席を行く為の進路を阻害したから、邪魔だった」
「だから投げたのか」
「投げてない」
再び、沈黙する担任。
担任もウツロギからまともな答えをあきらめて話せばいいのに。
担任は佐々木に向き直る。
「橋本はどうした」
「さあ、遅刻じゃないの」
橋本と言うのは、この『話すでく人形』とまともに力づくで会話ができる女子である。力づく自体がまともかどうかは俺にはわからない。
担任はため息をついた、俺もつきたい気分だ。
「八賀谷」
突然、担任は俺を呼ぶ。
「なんですか」
「お前、保健室行って先生呼んで来い。頭を打ってるかも知れん奴を、あまり動かすわけにはいかんだろう」
頭を打ってるかも知れん奴と言うのは古田のことだろう。確かに、それは動かさないほうがいいのかもしれない、が。そんなのアンタが行けばいい話だ。
俺は担任に不満を隠しながら、担任に言う。
「なんで俺なんですか」
担任は自分の口の左端を指を指して言った。
「切れてるぞ、結構深く」
俺は自分の口の端を触る、指に鮮やかな赤いものが付着していた。
舌で舐めてみると鉄の味がする。かなりの出血をしているようで、服を見てみると所々赤く染まっていた。
「腕も引っ掛けて血が出てるしな。手当ての受けついでだ、行って来い」
冷静になって自分の身体を見回す、擦り傷があちらこちらにあるようだ。気付くとなんとなく身体が痛くなってくる、さっきまではなんともなかったのに不思議なものだ。
俺はしぶしぶ頷いて、教室を出て行く。
先程の佐々木の心配そうな視線の意味をようやく理解した。




