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いつもどこかズレタセカイ ~人喰い  作者: 裃 左右
『非日常』は『日常的』から

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~藤咲マミの視点 2

「ふうん、小学校が同じだっただけなの。へえ……」

嫌そうに加藤先生をしかめる。「それじゃあ、つまんない」と言わんばかりに。

こんなんなのに、この人はこの学校のカウンセラ。

「ええ、先生のご期待に添えなくて申し訳ありません」

私は出来るだけそっけなく言う。

早くこのおしゃべりをやめて、今日の分の勉強に取り掛かりたい。

と、そのセリフを聞いた先生は表情を変えた。

「でもね、あなたが本当にただそれだけで彼のことを見ていたとは思えないの」

急に先生の目が細くなる。

笑っているような、怒っているような。時々、先生はそんな顔になる。

「恋愛感情なんて単純で安っぽいものじゃなくてね、何かこう複雑な別の想いを抱いてる」

「違う?」と先生は首をかしげて私に聞いた。

私はうつむくしかない。答えようがない、そんなことは。

そんなことを考えたことはなかったけど、違うとは言いきれない何かがある。

考え込んだ私を見て先生は笑った。

「別にいいよ、無理に答えなくて。ただ、なんでも自覚があるのに越したことはないかなって。そういうお節介だから」

私は少し顔を上げる。

先生が私の方を見ていた。

「ごめんね。余計なことだったかもしれない」

先生は立ち上がって部屋の隅にある流し台に向かう。

「コーヒーと紅茶、どっちがいい?」

加藤先生は自分の家からコーヒーポットやティーセットを持ってきて、保健室やカウンセリングルームで楽しむのを趣味にしている。

私は自宅で楽しめばいいとか、職員室でもコーヒーは飲めると思うのだけれど。

先生が言うには「学校で食べるカップラーメンやパンは格別なのよ。それと同じ」とのことらしい。私には全然わからないんだけど先生には特別なこだわりがあるらしく、そのために勉強もしたと言っていた。

その勉強が教師になるための勉強なのか、お茶とコーヒーを入れる技術の勉強なのかは不明。どっちにしたって、私の感覚だと「なんだかなぁ」って感じだけど。

「でも先生、いいんですか。恋愛感情が安っぽいなんて言って。恋愛相談に来る娘もいるんじゃないんですか?」

先生は笑う。

「私だって言う相手は選ぶよ。それに恋愛感情は原因が見えてる分、単純なのは確かでしょう。安っぽいどうかは、ね。人生永く生きればそんな結論も出るよ」

先生はまだ永く生きてるって言うほど歳でもないと思う。多めに見ても30代なったばかり……かな。

いや、もしかしたら「実は20歳ほど若作りしてます」の可能性もある。

「あなたねぇ、女性の年齢探るなんて無礼の極みよ?」

先生がテーブルにコーヒーを二つ置く。

相変わらずテレパストみたいな人だ。

先生は椅子に座りながら、コーヒーを飲み始めた。

「私が恋愛相談で思うのはね、好きな人を好きになれたわけでしょ。何を悩むことがあるのかなって思うの。好きになれた、それだけでもう幸せでしょう。あとは、自分が相手とどういう関係でいたいか、それぐらいしか考えることはないと思うけどな」

先生はコーヒーの香りを楽しみつつ、もう一言付け加えた。

「その中で恐れるべきはただ一つ、相手を冷静に見てないことよ」

「冷静に見てないから、好きと言うのではないんですか」

少し、ムッとして先生に言う。

先生は微笑む。

「好きな相手だけでなく、誰に対してだってなかなか冷静には見れないものよ、そしてそれは少しだけなら許される。でも、相手を常に完全に冷静に見れないならそれは一時の気の迷い。勘違いでしかないわ。その状態では、例えどんなに好きだと思っていても、それは自分の作り出した感情に酔ってるだけなの」

先生はコーヒーを飲んで一息つく。

「藤咲さんも飲んでいいよ」

私は頷いて、コーヒーにミルクと角砂糖を入れ始めた。角砂糖は多めに3個。

それをスプーンで混ぜながら、私は先生に聞く。

「絶対に冷静に見れないと好きじゃないんですか」

先生は首をかしげて、困っているような顔をした。

「そういうわけでももちろんないけど。お酒と同じでね、酔っ払ってるようなものだから。その状態で好きって言ってもねえ。恋に冷めた後に、それでも好きって言えてようやく本物なんじゃないかな」

「それは恋じゃなくて愛なんじゃないですか」

「恋愛には恋も愛も含むでしょう。どっちにしたって嫌いな相手を好きになったり、好きな相手を嫌いになるよりは安っぽい問題と思うわけ」

また一息つく。

今、先生の言ったことがいまいち想像できない。

嫌いな相手を好きになる。好きな相手を嫌いになる。それこそ単なる勘違いだっただけのことじゃないのだろうか。だとしたら、そっちのほうが安っぽい問題じゃないのかな。

私は先生の言うことに、どうもさっきから納得できない。

「藤咲さん、さっきから質問ばかりね。うん、やっぱり女の子なのね。こういう話に食いつきいいし」

なんか、私としてはそういう言われ方は嫌だな。

ふと、流し台のほうに新聞があるのが目に付いた。

「加藤先生も新聞読むんですね」

「何度も失礼ねぇ、そりゃ読みますよ。なんて言ったって……」

コンコン、と戸をたたく音。

「……授業中に誰かな」

先生は立ちあがって、ドアに向かう。

そして、先生はゆっくりと戸をあけた。

「はい、何の御用?」

扉の前に立っていたのは見覚えのある男子生徒。

そこにいたのは、なんと先程不本意ながら話題になった八賀谷君そのひとだった。

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