クラスメイト<前半>
クラスメイト紹介、……にはなってませんね。
俺が教室に入った頃には、クラスメートのほぼ大半がそろっていた。恐らく今ここにいない連中は、たぶん遅刻か欠席だろう。
まぁ、全員欠席で全然構わない。クラスメートなんていないに越したことはないしな、その方が静かだし授業も受けやすいし?
教室はいつもどおり、生徒のおしゃべりでがやがや騒がしい。
俺は自分の席に向かう。
だが、なぜか既にその席に先に座っている奴がいた。髪の毛を茶髪に染めたソイツは、俺が席に近づいたのを見て立ち上がる。
顔と柄、さらに頭も悪そうな野郎だった。
ソイツはなんとも聞き取りにくいしゃべり方で話しかけてくる。
「よお、スバルちゃん。また、朝から下手糞なお絵かきでもしてのか?」
うん、悪そうなじゃないな。実際に悪いんだ。顔も柄も頭も、ついでに品も。
ちなみに、スバルはろくに交流もない一部の人間が使う俺のあだ名だ。
身近な人間はあだ名で呼ぶ必要がないし、へたをすれば身近すぎて名前も呼ばないものだ。
その話しかけてきた男子の髪型は、死にかけたライオンのようで、耳には似合いもしないピアスを光らせている。
だいだい、髪を染めるのが似合う人間と似合わない人間がいるって知ってるのだろうか。たぶん、知らないんだろう。ついでのついでに鏡の存在も。
死にかけたライオンヘアの男子は、まだ俺に向かって話している。
「なにだんまりこいてんだ? あんまり調子に乗ってるとテメェの生意気なその面ズタズタにすんぞ。てめぇは佐才の野郎がいなきゃ何にも出来ないんだろうが?」
その男が目の前に接近してきた。
まったく、近づくな。制服も臭ければ吐き出す息も臭い。俺の周囲の空気を汚染するな。
よく見ると、後ろにも似たような男子がもう一人いる。
ああ、二人でつるんで因縁つけに来たのか。似た格好すぎてどちらがどちらか俺には見分けがつかない。
そんなことを考えながら見ていると、未だに何も言わない俺に痺れを切らしたその男は、突然近くにあった机(俺の席の机だ)を蹴る。
教室が一気に静まった。これはいいな、授業中にも是非して欲しい。
「黙ってねえで何か言ったらどうなんだよ」
怒鳴りちらして男子が言った。
俺は首をかしげる。
「……君、だれ?」
教室が沈黙に包まれる。
俺を除くその場にいるほぼ全員が、何を言ったかわからないという顔をしていた。
が、すぐに周りのクラスメート達は笑い出す。
怒りからか恥ずかしさからかは分からないが、茶髪の男子の顔がだんだん顔が真っ赤に染まっていく。後ろにいる奴などあたふたしていた。
俺はその様を見てなんとなく笑みを浮かべる。
「……!?」
身体に衝撃を受けたような気がして、反射的に身をそらそうとする。
だが瞬間、すでに茶髪の男子が顔を真っ赤にしたまま殴りかかってきていた。既に体の前にある拳。
完全に油断していた、これで直撃するのが確定した。避けきれない。
世界が中途半端にさかさまになる。一瞬、何が起きたかわからない。ただ、複数の何かが崩れるような大きな音がしたことだけは把握している。
気が付くと俺は机に向かって倒れかけていた。いや、ほとんど倒れていた。わずかに体が机に引っ掛っているだけになっている。
だが、当たり所は直前に身をそらしたためそれほど悪くない。背中が若干痛むかな、という程度だ。
目に入るのは散乱する教科書類、いくつか机と椅子が倒れているようだった。
赤い顔の男子はざまあみろ、といった調子で口を開く。
「いい加減にしろよ。それ以上調子に乗ればどうなるかわからねえのか」
ずいぶんと高い声でさえずるものだな。とてもそれが癇に障る
自分の顔の笑みがいっそう深くなるのを自覚する。なんだか心臓がバクバク言っている。それが……とても心地良い。
「それ以上しゃべらないでもらえるかな、息が人間とは思えないほど臭いんだよね」
俺は制服を手で払いながら立ち上がった。
どうしよう、楽しすぎてどうにかなってしまいそうだ。
案の定、俺の言葉を聞いた茶髪は激情して飛び掛ってくる。
キレた奴を倒すなんて簡単だ、でもちょっとテンションがあがりすぎて倒すだけで済むか自信がない。
突然、目の前に影が割り込んでくる。
遮られる視界。
と同時に、ドスンッと何かが倒れる音がした。
静寂にして、無音。それは僅かな一瞬の出来事。
視界を隔たった何かは呟く。
「アンタ、邪魔」
その声はボソッとして聞き取りにくいかった。
気が付けば、茶髪の男子は赤い顔のまま床に倒れこんでいる。
よく見てみれば、その影は眼鏡をかけた感情の無さそうな男子生徒……ウツロギだった。 そいつはいきなり俺と茶髪の間に割り込んだのだ。
教室は先程と同じように静まり返っている。
――こいつ、今何をしたんだ?
ウツロギは周囲の全てを無視して、鞄を背負って自分の席に向かう。
そして、何事もなかったかのように席に座った。
戸が開く音。
全員が(倒れこんでる茶髪と、今席に座ったウツロギ以外)教室の戸に注目する。
そこにいたのは、眠そうなうちの担任だった。
周囲を見渡して、言う。
「どうしたんだ、お前ら」
クラスメートたちは互いに顔をあわせ始めた。俺ですらこの状況に戸惑っている。
気が付くと心臓の鼓動が落ちついていた。
俺はため息をつく。
なんというか気分がしらけてしまったな。
さっきまで、あれだけ高揚していたのが嘘だったかのようだった。




