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いつもどこかズレタセカイ ~人喰い  作者: 裃 左右
『非日常』は『日常的』から

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~藤咲マミの視点 1

ここでもう一人の主人公の視点が入ります。


 今日、私はとても意外な人と関わることになった。

 ……その人の名前は、八賀谷コウ。

 高校に入って、あまり彼とは関わりがなかったわけだけど、とても意外なきっかけで私は彼と話せたのだった。


 この日も私は、他の生徒より早めに学校に登校することにした。

 学校前の公園を足早に通り過ぎようとする。

 というより、登校中はいつも足早だ。自分の姿を誰にも見られたくないと言う意識が働いているのかもしれない。


 この辺は車の通りも少なく、登下校の生徒と近所の人以外はほとんど人通りが無い。

 多少、登校時間をずらすだけでもほとんど人と合わずに済む。そうやって人目を避けながら校門を通る。


 今の時間帯ならせいぜい部活で朝練のある人たちがいるぐらいだから、あまり避ける必要もないけれど、理屈では分かっているのになんとなく警戒してしまう。

 ……私って駄目だな、本当にどうしようもない。

 そう思いながら玄関で上靴に履き替える。

 

 私の向かう先は、自分のクラスの教室……ではない。向かう先は保健室だ。

 最近、私は教室に行っていない。こういう場合は、なんていうんだろう。学校には来ているのだから登校拒否ではないとは思う。

 

 高校に入学してから最初の頃は、少なくとも表面上は普通に教室へ行っていた。今だってクラスメートと仲良く出来ない訳じゃない。

 でも、嫌なのだ。

 理由は自分でも分からない。

 クラスメートが嫌いだと言うわけじゃない。もちろん全員が全員好きってわけにも行かないし、苦手な人だって沢山居るけど、決してそんなことが理由じゃない。

 クラスに馴染めなかった訳でもないのだ。特に、クラスが出来てすぐの頃は「みんな仲良くしよう」って雰囲気があったし。


 いや、それが逆に苦痛だったのかもしれない。

 ……そうやって、仲良しを無理やり作るような空気、自分の意識を押し殺してまで、誰かと同じグループにいないといけないということが。

 

 私は考えながらも保健室に向かって歩いていく。

 学校に入ってから、なんだかこころなしか体が重くなった。

 仲良しが苦痛、小さな頃からそうだった気がする。

 いつもふと気が付いたら友達の輪から外れてて、それを笑ってごまかした。

 その度に急いで輪に戻った私を、みんなさっきまで遊んでいたかのように何も言わずに受け入れてくれた。私はそれは優しさなんだと思っていた。


 いや、そう思いたかったんだ。

 簡単な話だった。いつもみんなが受け入れてくれるのは、いてもいなくても同じだから。

 もし、いなくて困るのなら私が輪から外れるはずなんて無かったんだ。外れて困るなら、みんな怒ったり心配する。輪から離れた瞬間に引き戻しに行く。

 本当にその人が掛け替えのない存在なら、そうするはずだ。最初から私は輪の中の一員に数えられて無かったんたのだろう。

 きっとそれは、優しさなんかじゃない。

 仲間じゃない人と遊んであげる。自分にとって必要ない人に居場所を与える。

 人はそれを、哀れみと言うんじゃないんだろうか。


 でも、もしかしたら、みんなそうなのかもしれない。

 掛け替えのない人なんて、誰独りいなくて。友達がいないのが嫌だから、とりあえず集まっているだけなのかもしれない。

 誰もが誰もいなくても困らない。

 誰でもいいから、そばにいて欲しい。


 ……だとしたらすごく。

 

 それは××だ、どうしようもないくらいに××だ――。

 

 私はため息をつきながら、階段の前を通り過ぎる。

 若干の吐き気。重い身体をなんとか動かして歩いていく。

 保健室は角を曲がればすぐのところだ、体が重くなれば荷物も重く感じる。たったこれだけの距離がいつも遠いい。

 でも、実際、必要な勉強道具全てが入っているから、本当に重いのかもしれない。みんなは勉強道具を先生に内緒で学校に置いて帰ってるけれど、私はそれに抵抗を感じる。


 真面目だね、と言った誰かを思い出す。

 違うよ、私は真面目なんじゃない。

 ただ、単純に……。 


 ……ようやく保健室の前についた。

 その保健室の戸に手をかける、どうやら鍵が掛かっているようだ。

 職員室に行く? でも、誰もいないかもしれないし。いや、そもそも誰にも会いたくない。変な先生に見つかって、話しかけられたらやだ。

 このまま待つ? それもいやだ。どうしよう、このままいてクラスメートには会いたくない。

 ふと、玄関の方から足音が近づいてくる。


 先生だろうか。いや、違うかもしれない。

 廊下のかどで身を隠したままで覗き見る。

 ――それは八賀谷君だった。

 私はすこし安心する。

 

 彼は一応は同じクラスメートと言うことにはなる。でも、八賀谷君なら見つかっても何も聞いてこないだろうし、誰にも何も言わないな。とそう思った。

 彼とは八賀谷君とは小学校で同じクラスだった。その後は私は中学の時に親の都合で隣町のマンションに引っ越したため、それからずっと会うことはなかったけど。

 いや、正確に言うと何度か街中とかですれ違ったりしたことはある。でも、中学生になってからは一度も話したことはなかった。

 高校でクラスが同じだと知ったときには少し驚いた、彼と高校が同じだ、ということもそうだけど……むしろ……。 


 八賀谷君が階段を登っていく、教室に向かってるんじゃないみたいだ。こんな朝早くからどうしたんだろう。

 その時、後ろから誰かにポンっと肩をたたかれた。

 そういうことに慣れていない私の体は完全に固まる。


「リアクションが欲しいと思うのは酷かなぁ」


 妙に明るい女性の声。確かこの声は。


「……加藤先生ですか?」

「当ったりー、いや見事正解!」


 肩をたたいた人物の正体がわかったせいか、私は体を動かせるようになっていた。

 私は振り向く。

 朝からテンションが高い、この白衣で眼鏡をかけら女の人は加藤先生。

 白衣を着ているけれど、化学や物理の先生じゃなくてあくまで保健室の先生。生徒のカウンセラーでもあり、休み時間は生徒の体と心の悩みを聞いたりしているらしい。

 誰がこの先生に相談なんかするんだろう。


「ずいぶん、失礼なこと考えてるわね」

「……なんで分かるんですか」

「当たり前でしょ、みんな私を見たら考えるんだもん」


 自覚症状があるのなら、その部分をなんとかしたら良いと思う。

 改善する余地がたくさんある性格だろうし。


「改善たって、それ自分の性格を他人に都合よく合わせてるだけでしょ? 他人に合わせて生きてるって退屈だし、絶対にきりがないじゃん。それなら自分らしく生きてる人の方が楽しいし、そもそも人間的に信用出来ると思うけど」

「その自分らしさの内容にもよると思います。って言うか、人の思考を勝手に読まないで下さい」


 先生は私の言葉に返事をしない。

 聞いているのかいないのか、先生はただにやにや笑っている。

 何なんだろう、やな予感がする。


「今、階段を登って言ったのは確か5組の八賀谷君だったかしらねぇ」


 なんで、私の背後からそれが見えるの?


「いや、珍しい。本当に珍しい。あの、あの藤咲さんが男子に、そう男子に燃えるように熱いまなざしを送ってるなんて」

「送ってません!」


 先生は無視して話を続ける。


「これはどういうことか聞かせてもらいたいわね。いや、むしろ藤咲さんが私に話したいことでしょう。ええ、いいわよ。いくらでも相談に乗ってあげるわ」


 私の思考は読めるはずのクセに、先生はこういうときはあえて都合よく読めないことにする。なんて教師だ。

 ……私、逃げようかな。

 いや、そもそも学校でここ以外に居場所なんて無いし。

 久々に私は自分の性質を呪った。

 もしかしたら、この人はこうやって嫌がらせをして生徒の自立を促す方針なのかも。

 いや、そんな馬鹿な。


「さあ、いらっしゃい。私のカウンセリングルームへ!」


 先生がカウンセリングルームの扉を右手で開けつつ、私に方へと宝塚の劇団員みたいな感じで左手を伸ばして言った。それも、むちゃくちゃに嬉しそうな笑顔で。

 例えて言うなら、新しいおもちゃを見つけた子どものような笑顔だ。


 ああ、今わかった。この先生が生徒の相談を受けてるなんて、なんか変だと思った。

 この先生は生徒に相談をされてるんじゃない。生徒に相談をさせてるんだ。

 それはなんとなく悪質なキャッチセールスを思わる。

 反応しない私を見て、先生は自分から私の腕を掴む。

 そして、私はカウンセリングルームに引っ張り込まれた。

今後、彼女はかなり重要な人物となって行きます。

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