動きの見えない初手までに
改定と執筆を同時に行っています。内容は変わりませんけど、少しでも読みやすくなれば、と思います。
すこし、時間はかかりそうなのですが、気長にお待ちいただけるとありがたいです。
父が嫌いだった。
母も嫌いだった。
弟も嫌いだった。
父は弱い、老いた生き物だった。
母に見限られ、自らの子どもを理解する知恵も柔軟さも持ちえず。
新たに何かを始めることなんて出来はしない。
自分に都合のいい言い訳だけをして生きていく。
憎んではいない。
ただ、生きていることが哀れだった。
母も弱い、女という生き物だった。
新たに男を作り、それを父と呼べと言った。
男を捨てたくせに、男がないと生きていけない母は。
父を勝手に見限り、罵り。女という生き物がいないと生きていけない父と、それを罵る自分が全く変らない生き物だということを知らなかった。知ろうともしなかった。
女は身勝手で、何も見ない。他人の苦しみと弱さを知らない、無知な生き物だ。
これも、憎んではいない。
ただ、見ていておぞましいと思うだけだ。
弟も弱い、子どもという生き物だった。
子どもは、他人の痛みに鈍感だ。
他の人間が痛みに耐えて生きていることなんて、知りもしない。
いや、痛みをこらえているのを知ると、血を流すのを知ると。
笑う。
残酷で、優しくすればそれが当然だと思い込む。
でも、憎んではいなかった。
ただ、生まれながらにして救いがなかった。
そんな中、彼だけは『特別』だった。
彼は、だけど、彼は……。
自分を『たくさんある、よくあるものの一つ』だとそう言った。
第五話 『停滞』と『流動』の『同一性』
なぜか、気が付くと。
俺は美弦にやり込められていたわけで。
「……俺はなにもしてないんだよ?」
「わかってるってば」
「ただ単に、そう……夢の話だからね?」
「しつこいなぁ、いいから早く!」
俺はため息をついた。
まぁ、今日は学校が休みだったので、どうせ状況を整理しようとは思っていた。
その過程で、美弦に話すのも悪くはないだろう。
……話を整理するための手段として、誰かに聞かせることはとても効果的な手段であるし。
人が悩みことを誰かに話すことで楽になるのは、それがごちゃごちゃした情報を、脳の中で処理し整理するのに適した作業だからだ。
ただし、美弦にこういう話をする際には、一応……こういうルールがある。
一つ、これは現実の話ではなく、それによく似た何かだ。
一つ、この話の主人公は、俺ではなく、Kくんだ。
一つ、俺が話せないこと……ではなく、設定されてないことにはあまり突っ込まない。
などなど、あくまでこの話はフィクションであり、現実の団体、人物、事件とはまったく関係がありません。という前提のもとで行われる。
まぁ、美弦もそのつくり話を聞き、自分の意見を述べてくれた。
もちろん、あくまで作り話として。
「つまり、今の疑問点はさ。その1、Hさんがどんな事件に巻き込まれたか。その2、襲ってきた男はなんなのか。その3、Hさんの目的はなんなのか。ってところ……かな」
このHはもちろん、藤咲だ。
襲撃して来た男は、とりあえず正体不明、としておく。
「ふうん、で、Kくんの今後はその女の子をどうやって護るか。事件を解決するか。が目的な訳ね?」
「そう」
もう一度言うが、Kくんはあくまで俺だ。
でも、この場では俺でないことになっている。
「そのためには情報を集めて、疑問を解消する必要がある……と」
どんな事件かわからなければ事件は解決できない。目的がわからないから、彼女は護れない。だから、まずは情報を集めなけらばならない。
「ああ、でも実際厳しい状況だよ」
「確かに。ちょっと手の出しようがなさそう。Kくんは誰かの手は借りれないの?」
「……出来ればKくんは、誰かを動かす以上は決め手が欲しいと思い込んでるんだ」
「どうして?」
「必要以上に他の人を危険に巻き込みたくないらしくて。完全に事件を手玉に取るまではリスクを負いたくないんだよ。まぁ、利用できるものを全て利用するぐらいの気概があれば、話は早いんだけど」
まるで他人事のようだ。
自分で話していて違和感がある。
「まぁ、手玉にとる、まではいかなくても事件の手がかりを掴んで、積極的に真相を追えるぐらいの体制じゃないとさ。リスクを冒す意味がない。それ以前に、Kくんはさ。四六時中、Hさんに護衛を付けたいと思ってるんだけど……無理だ。どこから来るかもわからない奴相手に迎撃できるなんて、そんな動きの出来る知り合いはいない。……まぁ、最悪Kくん自身がそうしてもいいんだけど」
「……Kくんにそれはやめて欲しいかな」
「わかった」
まぁ、いざとなったら実行するつもりだけど。
でも、このままの感じだったら。
「手を借りないわけにもいかない……かな」
賭けの要素が高いけど、単独じゃどうしようもないな。
「Kくんは、そんなにのんびりしてていいの? 今すぐにでも手を打たないと危ないんじゃない? ……いや、もう遅いくらいかも」
「そんな、昨日今日で襲ってこないよ。たぶん」
昨日にも死体が発見されているだろうし、あまり騒ぎは重ねたくないだろう。
……実はあのあと、公園の様子を調べたのだが、すでに警察がやって来ていた。
俺がわざわざ危険を犯してまで、現場の状況を調べたのは、もし、誰にも発見されていないのなら、死体を発見されるように直に手をくわえる必要があったからだ。
下手すると、死体が男の仲間に隠蔽される可能性があったからな。
あの男が単独犯という可能性もあるが、もしそうなら、犯人が死んでもなお藤咲さんが意地を張る理由はなくなっているはずだ。
「なんだか、たぶんって言ってる割に、やけに自信ありそうだけど。すぐにでも関係者は始末したいのが犯人の……集団なら、悪の組織? ……の思考じゃないの?」
「まぁ、ちょっと自分でも甘いかな、とは思うよ」
だが、少なくとも一度は襲撃に失敗している以上、次は警戒して、絶対に確実で用意周到な方法で来ると考えられる。
ならば、そのための準備として時間は必要だろうし、確実な手段として、こちらの油断をさそうためにも、数日から、長くても1ヵ月くらいの期間をあけて臨んで来る可能性が高い。
また、複数の第三者による介入(つまり俺やウツロギの)があった以上はしばらくは俺の素性など、彼女の周囲の人間についても調べるだろうことは確実だと思われる。
彼女を消したとしても、彼女が持っている情報かなにかが漏れば、なんの解決にもならないのだから。
よって、相手側の情報収集が終るまでは、彼女は恐らく安全だ。
「……なんか、結局さ。コウはさっきから、こうだと考えられる、可能性が高いと思われる、恐らくはそうだろう……って、曖昧な表現ばっかりだね」
「悪かったな」
「って言うか、人の命が賭かっているんだよ?わかってる?」
「……わかってるよ」
「遊びでもゲームでもないんだからね?」
「わかってるってば」
俺はこれでも真剣にやっている。
賭けている命は自分だけじゃなく、賭かっているものは藤咲さんの命だけでもない。
ウツロギはどうでもいいけど。
「……まぁ、ようするにさ。Kくんは目が覚めていても、寝ぼけてる時と思考レベルが変わんないってことでしょ。常に曖昧で微妙な思考回路」
なんか本当に五月蝿いな、美弦は。
なんでここに来て、そこまで突っかかって来るんだよ。
「……で、結局どうするの?」
「なにが?」
「Kくんは、知り合いに頼むの? 頼むんだったらなにを? 誰に?」
「それは……一応考えてるよ」
「思いついてないんだ」
五月蝿いな。
でも、こうしてると、子どもの遊びみたいだな。
自分で言うのもなんだけどさ。
……とりあえず、それは置いといて。
「あとは……そうだな。関係のありそうな事件があれば知りたいけど」
「残念だけど、それだけの情報じゃ絞り込めないんじゃない?」
「……まあ、そうだね」
事件なんて星の数ほどある。他の人からしたらどうでもよくて、当事者にとっては衝撃的な数多くの事件。その中から、目的のものを取り出すのは不可能だ。
「ねぇ、コウ?」
美弦は顎に、華奢な手を添える。
「本当に例の事件は関係ないの?」
「……例の事件ね」
俺はテレビに目を向ける。
若い女性を狙った連続猟奇殺人。
「一件目は女子高生……だったけ?」
「うん、そう。Hさんは高校生って設定なんでしょう。可能性はあるんじゃない?」
「それは、いや、ずいぶんご都合主義って言うか、なんていうか」
その言葉に美弦が諭すように言う。
「あくまで……作り話の話なんでしょう?」
俺は頷く。
「……そういえば、そうだったね」
そんなはずはない、という思考に捕らわれてはいけない。美弦はそれを言っているのだ。 常識に捕われるな、と。
そうだ、相手は異常なんだ。正常な世界で考えるな。
現実はいつだって、想像の斜め下を行く。
俺の顔を見ながら、さらに美弦は言葉を続ける。
「タイミングで言うならHさんの様子がおかしくなったのは……昨日の朝からでしょ?」
「まぁね」
「この事件と関係あるとすると時期は合うんだよね」
……どういうことだ?
どうやら、事件について俺の知らない情報が美弦にはあるらしい。
でも……。
「美弦は……Kくんにはこの事件に関わってほしくないんじゃなかったっけ?」
「目の届かない範囲でやられるよりマシと思うことにした」
ああ、ほっといてもやると思われてるんだ。
「だいたいコウ……Kくんなら、いずれ知ることだろうし」
「……まぁ、そういうことなら素直に話を聞くことにするよ」
と、なると……。
事件の概要の確認をしておくか。
「まずさ、コウはどこまでわかっているの?」
どこまでって言われても。
「まず、最初の1人は女子高校生だったけ?」
「そう、あとは?」
「……さぁ?」
呆れたような目で美弦が俺を見る。
「2人目は今年入社したばかりのOL。3人目は20代前半の女性」
「ああ、そんなだったね」
覚えてるわけないだろ、俺をお前と同じ殺人マニアだと思うなよ。美弦。
俺はそんなニュース、嫌いなんだからな。
「で……4人目は女子大学生だったよ」
その情報にはさすがに驚かされた。
「へえ、4人目ね。いつの間に?」
「発見は一昨日の夜かな。放送されたのは昨日だけど」
「……ふうん」
「ね、可能性はあるでしょう?」
確かに。
発見された当日に犯行が行われた可能性もある。藤咲がその犯行現場か、もしくは……そう、それこそ犯行後の死体を目撃した……とかなら、彼女の取り乱した様子にも説明がつく。
犯人に命が狙われた以上は、犯行自体を目撃したと考えるとしっくりくるな。そのせいで、犯人は目撃者を消そうとした。
まぁ、笑えることに時期は合うわけだ。
でも、そんなの辻褄が合うだけだ。
可能性があるというだけでしかない。
と、ふと事件の被害者を思い返して違和感を覚える。
なんだ?
「……美弦」
「なに、どうかした?」
「4人の被害者の年齢は?」
「えっ、なにいきなり。えーと、だいたい……最初の娘は高校生で……16歳。次が、OLで21歳。3件目はフリーターで22歳。4件目が大学にストレートに入ってて4年生だから……えーと」
「21~2歳ってところだな」
コイツ、年齢だけでいいのに、わざわざ細かいことと一緒に憶えてるんだな。
……器用な奴。
でも、なるほどだな。
共通点はあるし、あとは……。
「だからさ、コウ。なにを思いついたわけ?」
「いや……話はずれるけどね。俺はこの事件、しっくりこないんだ」
「どういうこと?」
「一つは、犯人の犯行の目撃例が全くない。と言う点」
今まで一度も目撃されていなかった犯人が、ここに来て一介の女子高生に目撃されるミスを犯しているとするとそこに不自然さを感じる。
だがそれよりも、根本的に今まで誰にも目撃されないようにどうやって人を殺していたのかという謎の方が大きい。
「犯行の時間帯はいつだかはっきりしないけどさ、昼なら難しいだろうし、夜なら女性ってこともあるし相手が警戒しているだろう? 犯人が人通りの少ない場所で待ち構えていたなら、なぜわざわざ被害者はそんな危険な場所を通ったのかな?」
「どこかで連れ去って、安全な場所で殺したとかは?」
「それ、意味ない。連れ去るタイミングをとるにも犯人は人気のない場所を選ばないといけないだろ?」
「まぁ基本的にはね。でも、どこかの屋内。カラオケボックスとか、トイレとかならどう? フツーの店を装った犯人のアジト、そこに偶然遊びに来た女性を襲っている、とか」
なるほど。死体は後から適当に捨てている、と。
「被害者は自ら犯行現場に向かったってことか」
やはり美弦は頭の回転が早い。それとも以前からそのことについて考えていたのか、どちらにしてもその論理的な思考回路は他の女子とレベルが違うように思う。
でも、もしそれなら犯人の店に入る所を誰かには目撃されるだろう。捜査する警察だってわかりやすそうなものだけど。どうなのだろう?
俺は自分の意見を頭の中でまとめようとする。
が、美弦は先に話を進めることを求めた。
「他に引っかかる点は?」
俺は少し戸惑いながらも、美弦に合わせて話を進めることにする。ただし、この件について考えながら、だ、
「あー、うん。確かではないんだけどさ、ねぇ被害者の写真とかあるかな」
「……なんでそんなもの、持ってると思うわけ?」
「えっ、ないの?」
美弦が被害者の写真を持ってないだって?
もし、そうなら意外すぎる。
「……あるけど」
ですよねぇ、ないわけないですよね!
「って言うか、私ってそういうイメージなんだ」
と、美弦はそうブツブツいいながら、どこからかファイルを取り出した。
持ってきてるということは、最初から出す気だったんじゃないか?
美弦は一件目から、順番に被害者の写真……正確にはプリントアウトした画像を並べる。
「で、どうなの?」
「なにもそんなにムスっとしなくても」
「別にしてませんけど?」
不機嫌そうな美弦を無視して、俺は机の写真を見比べる。
こうして並べると……やっぱり予想していた通りだ。
「ほら、一件目以外の被害者だけ隠すと」
「……ああ」
「ね? なんとなく雰囲気が、みんな似てる」
「目の印象とか、鼻筋とか……なんとなくね、そんな感じはするけど」
「まぁ、年齢が近いのもあるだろうけどね。こうなると年齢や、顔立ち……一件目だけ、ね違和感があるんだ」
あくまで、これは予想にしか過ぎなかった。
なんとなく被害者の年齢を聞いていて、2件目~4件目の被害者の年齢に共通性があると疑問に思っただけのことだ。そう思って、外見を確かめただけに過ぎない。
海外での猟奇事件とかの情報を見るに、犯人は自分の好みで標的を決めるからな。
……だいたい、被害者のタイプも似てくるわけだ。
「って言っても、美弦。それは予想してたんじゃない?」
「まぁね、それくらいは私も考えたよ」
まぁ、当然だろうな。美弦なら。
写真を並べて持ってる本人が気付いていないはずない。
「で、美弦。一応、参考として一つ聞きたいんだけど」
「なに?」
「世間に被害者の内臓が持ち去られてるなんて、明らかに警察がマスコミに流しそうにない噂が広まったのは……どの事件の時点?」
即答する美弦。
「ああ、それはもちろん、二件目から……ね」
どうやら美弦はこれも予想していたらしい。
「まぁ、情報も証拠もない中で、あまり確定的に話したくはないけど、全ては二件目以降の犯人が一件目に犯行内容をかぶせようとしたんじゃないか……と俺は思う。犯行の内容はまだしも、被害者のタイプが似過ぎてるし」
「でも、一件目の事件の情報は犯人しか知りえないんじゃない?」
「……まぁ」
そりゃ、そうだろうけど。
でも、俺は知っているのだ。
(ただ、最初の一件目の事件は若干趣が異なる)
(持ち去られていた内臓がたった一つだけ、肝臓のみ)
(実はこの事件の最初とされている犯行は、実は別件なのではないか)
(この金檻 戒がこの事件の第一発見者ということだからだよ。八賀谷 コウ)
結局、自分の発想がアイツと同じ地点と言うのには腹立つな。
……いっそ、アイツが犯人なら全て解決なんだが。
金檻 戒。
アイツに聞ければ、この事件に藤咲が関係ありそうかわかりそうなものなんだが。……出来れば、それはやりたくない。
悪魔と契約するようなものだ、ろくな結果にならないのは目に見えている。
悪魔と契約、とまでいかず取引するにしても、駆け引きの材料は必須になる。そのためには、情報においてこちらに少しでもアドバンテージがないといけない。
それに、もう一つ。
最初の一件目。
この被害者の女子高生の顔が……いや、と言うよりは雰囲気と言った曖昧な印象でしかないが、その被害者の目。
どこかが藤咲 マミに似ているのだ。
*
結局、俺はある人物に電話を掛けた。
あまり気は進まないが、こういう時に頼りになる人間はそう多くない。
ベル音が携帯の向こう側から鳴る。
二度、三度。そして止まる。
「はい、佐才です」
案外、礼儀正しく電話に出るのが、佐才登と言う人物だった。
「俺だけど」
「俺なんて言う名前の知り合いはいないな」
「……八賀谷コウですが」
「ああ、着信の時点からわかってるよ」
ふざけてんのか、コイツは。
礼儀正しく電話に出ても、礼儀正しく対応しないのが佐才登と言う人物だった。
この野郎。
一度、考え直そうかと思ったが、自分が大人になろうと思い直す。
「……登、暇か?」
「忙しい、と言えば後が怖いな。暇だ」
いちいち余計な一言を付け加えるよな、コイツは。
「ちょっと面倒なことなんだけどさ」
「ちょっと? かなり、だろ」
「……かなり、面倒なことなんだけど」
「まぁ、お前の電話が面倒じゃないことはなかったしな」
うん、やっぱ切ろうか。
……いやいや、心を広く持つんだ。大人になれよ、俺。
「で、話を受けてもらえるかだけ先に教えてもらえる?」
「内容は?」
「聞いてからのお楽しみだ」
「まぁ、どうせ、退屈してたしな」
こんなまどろっこしい言い方をしていても、今まで登が俺の頼みを受けなかったことはない。
その辺は安心して、頼めるんだけど。
「とにかく、やるかどうかの二択で言ってくれよ」
「いちいち情報を出し惜しみされると、モチベーションが下がる……」
「切るぞ」
「やる」
登は俺が本気だと感づくや否や、すぐに態度を翻した。
登が断らなくても、俺がこんな風にしびれ切らし、頼みを受けてもらう前に取り下げることは一度や二度じゃないのだった。
登の対応も慣れたものだと思う。
って言うか、余計なやりとりしないで最初からそう言えよな。危うくまたキャンセルするとこだったじゃないか。
「で、どんなことやらかすんだ」
「それはまだ、言えない。とりあえず、頼みを聞いて欲しい」
「都合いいな」
まぁ、仕方ないだろ。その辺は。
俺が黙っていると登が口を開く。
「そういや、自転車に挟まってたゴミ、どうした?」
「あ、それ、捨てた」
「捨てた……だと」
「ああ、もう思い切りな。わざわざ捨ててやったんだから感謝しろよ」
「……へえ、そりゃ珍しい。いつから綺麗好きに?」
「俺はいつも清潔な男だ」
「……よく言う」
なんだコイツ。
尋問し始めたぞ、俺を。
「……そういえばな」
「ああ」
「学校の前の公園で死体が見つかったらしいぞ」
「へえ、初耳だな」
嘘じゃない、耳にするのは初めてだ。
「……そうか」
「ああ、ニュースにそんなのあったか?」
「いや、そう言う訳じゃない。実は第一発見者は張山でな、アイツから連絡が来て知ったんだ。まだニュースには出ていない」
「張山が?」
あのバスケ部の?
「アイツは放課後、バスケ部の部活に出ているんだよな?」
「ああ、そうだ。ただ、その日はたまたま早めに部活をフケて来たらしい。その帰りに死体を見つけた……んだそうだ」
「へえ」
なるほど。
素直に部活出てりゃいいのに、タイミングの悪い奴だな。
「で、例の連続猟奇殺人と関係あるのか?」
「さあな、お前の方がよく知ってるんじゃないのか」
「なんだ、それ」
「……もし、お前が本当に事件について全く知らないなら、まずこう聞くはずだ。いつ起こったんだ、ってな」
それは……確かに。
事件が起きた、と登は言ったが放課後の後すぐ、つまり夕暮れ時だとは誰も言ってない。
俺が「アイツは放課後……」と聞くのも流れからは不自然だし、部活動を終えてその帰りつまり、発見されたのが夜でも別におかしくない。
「まったくお前が時間について触れずにいるのも奇妙な話だろ」
「……でも、それ根拠として弱くないか?」
「かつ、いつもお前は放課後には部活に出ている」
「まぁ、あれが部活と言えるかも不明だがな。でも、昨日は出ていない可能性もあるだろ」
「ああ、その通りだな。昨日は特にわざわざ自転車の掃除してくれていたわけだしな」
……ああ、もう。
嫌になるくらい察しがいいなコイツ。
「お前、人を問い詰めて楽しいか」
「お前こそ、ばれるかばれないか、ぎりぎりのラインの科白で人を試して楽しいか?」
「別に試した訳じゃない。あえて言うなら、癖みたいなもんだ」
そう、俺はあえてそのことを隠そうとはしなかったのだった。
それも、狙ってやっている訳ではなく、自然体で。
「無意識でやってるならいいとでも?」
「……うるさいなぁ」
「そのうち、色々なくすぞ。特に信頼的なものを」
人から信頼得ようなんて思ったことねぇよ。
とは、あえて言わないことにしておく。
なんか格好悪いから、人として。
「その辺は今は聞かないでくれ、ちゃんといずれ説明するから」
「隠し事するのは構わんが、どこのなにを隠してるかぐらいは説明しておけ。……どこまで触れたらいいのかわからなくなるからな」
「よくわからんアドバイスありがとう。今後に向けて検討しとくよ」
「で?」
「で、ってなんだ」
「俺はなにすりゃいいんだ?」
…………。
始めからそれを言ってくれ。
回りくどく、本題の前にくどくど説教するのが大好きなのが佐才登と言う人物だった。
さて、それでもとりあえず一人は決まったわけだ。
……一つ目の手は。




