動き出す人々
「あらあ、藤咲さんじゃない。……休みの日なのにわざわざ来たの?」
「ええ、まぁ」
「……ふーん」
なんだか、なんとも言えないような目で、加藤先生に見られた。
「なんですか?」
「いやぁ、別にぃ。あ、なんか飲む?」
「……先生も休みの日なのに来るんですね」
「まぁ……一般生徒は休みだろうけどね。色々ある生徒もいるからさ」
そう言って先生は、コーヒーメイカーへと向き直る。
その色々ある生徒の中には、ついこの間から、私も含まれているのだろう。
「もしかして、邪魔ですか?」
「ううん。こんなに早く来る子、いないから……あと1,2時間は大丈夫かな」
「……そうですか」
「で、藤咲さんは私になにか相談ごとなの?」
「はい……いえ、そうじゃなくて、なんて言ったらいいのか」
「うん」
加藤先生は相槌を打ちながら私にカップを手渡した。
中身は……結局、コーヒーのようだ。
前に言ってしまったけど、あまり好きではなくて。まぁ、嫌いではないんだけど。
「その……やりたいことはあるのに、どうしたらいいのかわからなくて」
「あー、そう……」
先生は椅子に座り、ひまわりのカップを手の平で回す。
「んー、相談ではないって言うのは?」
「あの、どう話したらいいのかわからないので。相談にならないって言うか。自分で考えたいって言うか」
「ふーん」
「自分で考えたいって言ってなんですけど……ここしか来るとこなくて」
「そっか」
先生はコーヒーを口に含む。
私もカップに口をつけ、……一瞬、緊張する。そして、ふっとその暖かさが、自分にとって適温だと知ると一気に安心した。
加藤先生の顔が緩む。
「じゃあ、悩んでいくといいよ。気の済むまで」
「……ありがとうございます」
「どうしても……なんていうのかな、悩みの内容じゃなくて、なにか手段が欲しい時って言うの? そういうことがあったらなにか答えられるかもしれないから。そう、なんでもいいから気が向いたら言ってみて」
「あっ、はい。でも……」
「でも?」
先生は首をかしげる。
「私、なんて言ったらいいのかわからなくて」
「んー、表現の仕方がわからない……ってこと?」
「たぶん、そうです」
「じゃあ、こういうのは?なるべく近い感じのたとえ話で話す」
「たとえ……ですか?」
「そう」
そう言われても、なにも思い浮かばない。
たとえ話、とか。自分の気持ちを表現するとか。
……そういうものは得意じゃないし。
「藤咲さん、小説は読む?」
「一応は。あまり多くはないですけど」
「じゃあ、それで。たとえばねぇ、あー、誰にも言えない事件に巻き込まれちゃった。あら、私、どうしたらいいのかしら?……みたいな」
私は驚きと、僅かな感動が入り混じったような、複雑な衝撃を受けた。
「あの、ちょうどそんな感じです」
「あらあ、本当に?ややこしいわねぇ」
「はい……ですね」
加藤先生と私は同時に、ため息のようなものをついた。
「なら、そこに……そう、刑事や探偵みたいな。ホームズみたいな人はいないの?」
「……います」
「じゃあ、その人に……ああ、任せるわけにも、協力するわけにもいかないのね?」
私は黙って頷く。
「じゃあ、その人とはどんな関係なのかしら?」
「どんな?」
どんなって、……どんなだろう。
友達なのかな?
「あの……わかりません」
「そう?じゃあ、あなたはその人をどう思ってるの?」
どう思う、か?
好きとか、嫌いとか?
いや、そういうことじゃなくて。そもそも、そこまで親密でもなくて。
ただ、私が勝手に……思ってるだけで。
「私は……護りたい人だと」
「その人を護るために、頑張ってるのね?」
「はい」
「じゃあ、あなたは事件をどうしたいの?」
……どうしたい。
私は、彼を護りたくて、彼らを助けたくて……でも、助けることは出来なかったから。次は失敗出来なくて、だから。
………………。
「私、気が付いたら相談してますね」
「違うよ」
加藤先生は当たり前のことを言うように、断言する。
「状況を整理してるだけ……でしょ」
それは、確かにそうなのかもしれないけど。
でも、一人じゃ出来てないことには変わりないんじゃないかな。
「あなたは気にするだろうけど。私は、そうね、メモ用紙のような役割をはたしているだけだわ。どうせ使うなら、きちんと活用しなきゃね」
「……はい」
でも、思う。
私は結局、甘えているだけなんじゃないかって。
なにも出来てないし、戦えてないし。
……私は本当はなんにも変わってない、じゃないのかな。
――駄目だ。
そんなんじゃ、駄目だ。
私は、ここにそんなことを考えに来たんじゃない。
ここを逃げ場にしてるわけじゃない。
私は、ここに解決するための方法を見つけに来たんだ。
「私は事件を、自分の力で解決したいです」
「そう、解決したい。……じゃあ、あなたの解決ってどんなものを言うの」
「どんなもの……が解決?」
「そうよ。そうね、事件の犯人を捕まえたい、自分と大切な人の安全を確保したい。最終的な目標はなんなのか、それを決めなきゃ……誰もなにをしていいのかわからないと思うわ」
「そう、ですね」
私は捕まえたい、わけじゃない。安全だけを求めてるわけでもない。
護りたいし、助けたい。でも、私の助けるって、なにが助けるなの?
私は……犯人を責めたいの? 憎いの?
私は……。
「止めたいんです」
「止めたい?」
「犯人を止めたいんです。もう、こんな事件が起こらないようにしたい。もう苦しむ人がいちゃいけない。ただ、それだけなんです」
そう言葉にすると、すとんと自分でも納得できた。
でも、あれ? とも思う。
私ってこんな人間だったっけ?
「なるほど、ねぇ」
先生は何度も頷く。
そして、コーヒーを飲み干し、口の端を拭いた。
「……でも、どうしたらいいのかわからないのね?」
「……はい」
「それは止め方がわからない、って言うのもあるんじゃないかしら」
「そうです」
「それと、こうね。犯人が誰なのか、どこにいるのか。それがわからない」
「……はい」
そう、それさえわかれば、私にだってどうにかしようがあるはずだ。
犯人が誰か、さえわかれば私にだって、出来ることはあるはず。
先生は私を見て、微笑む。
「ああ、なら、もうすることは決まってるんじゃないの?」
そして、ヒマワリのカップをすこし、傾けた。
*
「あらあ……わざわざ何か用でしょうか」
加藤は新しく淹れなおしたコーヒーを片手に、入り口に向き直る。
先ほど出て行った藤咲 マナミ。
それと入れ替わりのように現れたのは。
「……神城先生?」
数学教師である神城 由枝だった。
問われた神城 由枝は、その人形のような顔に苛立ちを浮かべていた。
この場に八賀谷コウが居れば、それが珍しいことだと思うだろう。
「どういうつもり?」
加藤は首を傾げる。
「なにがです」
「……彼女をいったいどうしたいの?」
「おっしゃっている意味がよくわかりませんが……」
加藤は困惑した様子でそう言った。
「彼女を危険にさらすつもりか、とそう聞いているのよ」
そう聞かれ、加藤は考え込むような表情を数秒だけみせる。が、ようやく納得した、とでも言うかのように頷いた。
「……ああ、彼女が事件……とそう言っていたことですね。立ち聞きは正直、どうかと思います」
「質問に答えなさい」
神城 由枝の声に、怒りの色が増す。
加藤は呆れ半分に、もう半分はやはり困惑を添えて、返した。
「確かに、物々しそうな話に聞こえましたでしょうが、あれは例えですから。……あまりにそのまま真に受けないで下さい」
先ほどとは違い、カップから湯気が立ち昇る。
加藤は、その香りを楽しみながら、内心を落ち着かせる。
「子ども達にとって……本来は、大人にとってもそうですが、日々起きることは本人にとって、すべて事件と呼ぶのにふさわしいくらいに大変なことなんです。……それが、他の人にとってどんなにくだらなくて、どうでもいいことだったとしても」
そう言って加藤は微笑んで見せた。
「もっとも、人々はすぐにそれを忘れてしまいますどね。特に、他人の時には」
「……物はいいようね」
「神城先生は……ずいぶんあの子が気になるご様子ですね」
神城 由枝はその綺麗に整えられた眉を歪めた。
加藤は鼻を鳴らす。
「でも、私は貴方の行動の方が気になります。1年生の八賀谷くんと、相当親しくしているようですね」
「それがなにか?」
「……このところは私の、いえ、藤咲さんの周りをよく嗅ぎまわっていらっしゃるようで」
神城は答えない。
「もしかして、最近、八賀谷くんが藤咲さんと一緒にいるのは貴方がそうしろ、と言っているからではないんですか?」
「へえ、いろいろとよく考えるのね? そんなくだらないことを」
神城 由枝は冷たい刃のような視線を、加藤に突きつける。
「…………っ!」
一瞬、その視線に気圧されるようなそぶりを見せるも、加藤はすぐに持ち直した。
「……あまり、教師として逸脱した行動をしていらっしゃるのはよくないですね。今は見てみぬフリですみます。ですが、それもほどほどに。……そうでないなら、私にも考えと言うものがありますから」
「考え?」
「他の先生方や……そう、PTAの耳に入れば、貴方も困るんじゃないですか?」
神城 由枝の頬が僅かに緩んだ、がその視線の鋭さは全く変化はない。
「……つくづく人を馬鹿にしている」
「……私は本気ですよ」
「まぁ、いいわ。私もいつまでも貴方と話している暇はない。……ここで失礼するわね」
踵を返し、黒く輝く髪が一瞬だけ広がる。
「あまり余計なことをしない方が身のためよ……加藤先生」
そう一言付け加え、颯爽と神城 由枝は部屋から立ち去った。
加藤はそれを見て、深く息を吐き出す。
たが、その目は睨みつけるように、神城 由枝が出て行った扉を見つめていた。
*
私は学校の前の公園、昨日の惨劇の場に来ていた。
ここに来ることに抵抗がない訳じゃない。
今でも、彼を死なせてしまったこと、無関係の人達を巻き込んでしまったこと……あの時の自分自身の無力感、誰も助けることの出来なかった自分への怒り。来ないわけにはいかなかった。
周囲に張られているテープや足止めを踏み越えて、私は現場に踏む込む。
当然、人は周囲に見当たらず、鳥のさえずりや木々が風にざわめく音が聞こえる。
何も起こっていないかのような、いつもどおりの朝。
不審なものは見当たらない。
――この目には。だけど、聴こえる。その中に、複数の……聞き慣れない声と音。その中には、どこかで聞き覚えのあるものが混ざってあった。
これは……誰かが私をつけている?
これは犯人だろうか。
今後の問題点は、犯人はおそらく私の素性を知っていて、いつでも殺せるだろう、と言うこと。
これからは他の誰かが襲われるという、タイムリミットとともに、自分自身の安全も守りながら行動しないといけない。
私は一人だ。
自分の身は自分で守らないといけない。
その上で、彼らを助ける。
具体的にどうしたらいいのかわからないけど、でも何もしないわけにはいかない。
もし、私に出来ることがあるとすれば、今は情報を集めることだけ。
こんなにも私はなによりも無力な存在。だけど、一つだけ価値がある。
それは知っていると言うことだった。
犯人にとって、私は知っている存在であり標的。
だけど、私は犯人のしてしまったことを一部ながら知っていて、また犯人自身をまた、ある意味標的にしている。
ここが唯一の、私にとって有利な点だ。どうあっても必ず、犯人に接触出来る。
ふと、誰かがいる気配。
とてもとても静かな音。
こんなに近くにいるのに、まだ本当にいるのかどうか確証が持てないくらいに静かで、まるで在感がない。
強いて言えば、ネコに近いような気がする。ネコはどこにでもいる一見してすごく可愛い生き物だけど、その本質は狩猟を行う肉食動物だ。日常的に足音を殺すように出来ているし、獲物を見つけたときに出さえ、一切の気配と音を殺し獲物に一瞬で近づく。だけど、それよりも静かなこれはいったいなんだろう?
でも、なんというか危ない感じではないし。むしろ、なにかを傷つけるような動的な感じがしない。今周りでざわめいている木々のよう。
……これは音が小さいんじゃなくて希薄な感じ?
もしかして……?
「ウツロギくん?」
私はそう、と問いかける。
でも、返事はない。
なんとなく、目には見えなくてもなんらかのリアクションがあったようには思う。
たぶん、頷いた?
私はそのまま近づいていく。生えている背の低い木々をかきわけて。さっきまでの自分では考えられない、無防備な状態で。
いつ殺されるか、そんな状況だったはずなのに。
……もちろん、そこに彼はいた。
なにも言わずに、一本の木を見上げている。なにを思って見上げているのか、その表情からは読みとれない。
「何してるの?」
一拍おいて、抑揚のない返答。
「……まずは探しにきた」
「なにを?」
彼は私の言葉に答えずに、視線で辺りを探る。
警戒しているようにも、油断しているようにも見えない。
ただ、機械的に注意を巡らす。余計な意図は一切無く。
「ウツロギくんってば」
私はもう一度、彼に呼びかけた。
「一つは今見つけた。もう一つあるとすれば……」
遠くを見るかのようにウツロギは呟く。
まるで私が見えていないかのように。
「……あの男はなにを見たのか」
「え?」
あの男……このタイミング、場所で言うあの男。それはどう考えても一人しか想像できない。昨日襲ってきた、あの人。
その人がなにを見たのかを、気にしている?
これはどういうこと?ウツロギくんが犯人を捜している、いや、より正確に言うなら、たぶん事件の真相を探ろうとしている?
……そんなどうして!?
私は必死に自分を落ち着かせようとする。
出来るだけ冷静に……私がなんとかしなくちゃいけない、助けられるのは私だけなんだから。そう、自分に繰り返し心の中で言い続ける。
私はなんとか、平静を装いつつウツロギくんに話しかけた。
「あの、ちょっといい?」
首を傾げるウツロギくん。
ただし、2㎝だけ。
ちょっと、って言うか普通に見逃しかけた。
わかりにくいけど、聞いてはくれてるんだよね?
「あの男って、昨日の?」
ウツロギくんは頷く、かっくんと大きく唐突に。
リアクションの大きさに微妙に差があるなあ、とかちょっと気になった。
そのまま、ウツロギくんは言葉を続けた。
「そう、昨日のことだ。あの男がなにを見、知り、感じ、考え、思い、発見していたのかそれが何なのか、そこにいったい何があるのか。そこに目的がある」
それってつまり……?
「興味、ようするに好奇心ってこと?」
ウツロギくんは表情に一切の変化を起こさず、首を一度だけ左右振る。そして、それを合図にしたかのように、動作を終えてから話し出した。
「違う。好奇心、興味深い、心惹かれる、などといった感情の問題ではない。知りたい、と言う探求心でもない。知らねばならばない、あくまでそういう絶対必須条件の一つだ」
絶対必須条件。
それがなにを意味しているのか、私にはわからない。だけど、必ずやり遂げなければならない、と言うその意思はわかる。
他に選択肢はない、そういう風にもとれる。
だけど、私には彼がなんのためにそこまで固い表現を使うのか、その決意がどこからもたらされているのかがわからない。
「もしも……だけど」
私は無駄だと思いつつも、念のために問う。
「私がそれを……その答えを探すのを駄目だと、そう止めたらどうするの?」
ウツロギくんは今度は間髪入れずに答えた。
「その言葉は無視される、現在の目的は優先順位が高い。言葉だけでなく、物理的に止めようとした場合も同様。……ありえないと判断しているが、もし仮に無視できぬほどの物理的妨害と成れば、それに対しいかなる手段も行使せざるをえない」
それは彼にとって当然の答えであり。
同時に私にとっても、当たり前に過ぎる答えだった。
お互いに絶対に譲れない、と言う。
*
封鎖された公園の領域で、ならぶ男女。
それを見つめる、二人の影。
それが、俺。
「おいおい、思わぬ組み合わせだな。なぁ、篤史」
それに対し俺は一言。
「確かにね、二人に接点があるとはあまり思わないからね」
そう、登に同意の意を示した。
登は嬉しそうに笑う、どうやらよっぽど退屈していたらしい。
まぁ、確かにさ、黙って女の子の後をついて行くなんて登向きじゃないし、ウツロギが橋本以外の女の子と居るなんてかなりの話題性だけどね。
学校の前でだいぶ待たされていたのが効いているみたいだった。
そう俺達、つまり有元篤史と佐才登の両名は、コウの指示によってこうして彼女の尾行を行っていた。
休日に早朝からメールで起こされ、きちんとその頼みを聞くなんて、すごく友達想いだと我ながら思う。
こっちにもそれなりに思惑があって言うことを聞いているわけだけど、少なくともコウの言うことを聞いていると退屈しなくていい、と言うのは登の科白。
コウは理由も説明せずに、藤咲マミを追えと指示を出してきた。そのために休日のはずの学校前で待機しろと。全く、いったいどこから指示を出しているのかは置いておいて、クラスメートを待ち伏せしろ、と言う人間性には問題あると思う。
しかも、待ち伏せを指示した場所にきちんと標的来てるし。まさか、こんな時間から校内に居るとは普通は思わないだろう。
それは置いておくとして、待っている間、登の苛つき具合はかなりのものだった。元々、じっとしているのが苦手な性分なのはそれなりに付き合いが長いので知っているけど。
でも、そんなに待つのが嫌なら、わざわざバイクで飛ばしてまで来なくても良かったんじゃないかと思う。
そう考えると、急ぎの頼みだって言われてものんびり自分のペースで来た俺は正解だったわけで。
それはそれとして、目の前の光景は改めてみても、何とも言えないものだった。
登校拒否児の藤咲(正確には登校はしているんだけどね)とあのウッツー(コウはなぜかウツロギって呼んでる)、一応クラスメートなんだけど、今まで関わりがあったとは思えない。
「篤史はどう思う?」
佐才が聞いてくる。
「どうって……」
俺は二人を見直す。
「なんか怪しいな、とは思うけど」
俺はそう返すも、そこまで二人の関係性そのものには興味を見いだせない。
「たまたま会っただけじゃ?」
「……この公園でか?」
「まぁ、事件が起きた昨日だけどさ、関連性があるってのは穿ちすぎじゃないの? サスペンスドラマじゃないんだし」
だいたい事件とは言いつつも、実際なにが起きたのかは佐才も現時点ではわかっていないわけで。その状況から考えることが出来ることも、そんなに多くはない。
だいたい情報はクラスメートの目撃証言だけで、本当に人が死んでいたかどうかさえもその証言からは定かじゃない。
普通に考えれば、登もコウも基本的に考え過ぎだ。世の中、そこまでドラマティックに動いていないのが常識と言うものだろう。と言うか、こいつらいつもこんな感じで疲れないのかな、って思う。
登は二人を指して言う。
「でも、ほらなんか話してるぞ」
「そりゃ、一緒にいれば話さない方が不自然でしょ」
確かに親しげ、と言う雰囲気でもない。そうは言っても、ウツロギが誰かと親しげにしているところなんてまず見たこと無いわけで。常にウツロギを御している橋本ですら、親しげと呼ぶには程遠い気がする。
あえて客観的に見るなら、二人の間に緊迫感が漂っていると言えなくもない、それでもウツロギはどう見てもいつもどおりなんだけどさ。
「とりあえずは様子を見たら?」
「ああ、元からそのつもりだよ」
佐才は無邪気そうに笑う。
あとに続く、一言がなければ誰もが元気の良さそうな好青年だと思うだろう。
「――いざとなれば誰であろうが、だからな」
いざとなれば。
それが具体的になにを指すのか、未だに俺は理解していない。
もしかしたら、佐才本人も理解していないのかもしれないが、そんなことはこいつにとってなんでもないことにしか過ぎないのだろう。
そうして、嬉しそうにイカレタ笑みを浮かべる登。
俺はそれに呆れながらも、同じような笑みを浮かべる。
それが俺という、有元篤史という人間だった。




