~藤咲マミの視点 8
私はどうしたらいいんだろう。
通学路を歩きながら私はそう考えていた。
警察に言うのが一番なのかもしれない、でもそれは逆にしちゃいけないようなそんな気がしていた。
言わないで過ごす、その方が命が安全って言う訳でもない。むしろ言った方が安全なはずだ。警察と関わりたくないのだろうか、私は。
いや違う、なにも大人から聞かれたくないし、大人に何も言いたくないんだ
大人と関わりたくない。でも、本当にそれだけなんだろうか。
私は自分がどうしたいのか、何を考えているのか、よくわからない。
それでも私の中で確かだったのは「とにかく警察には言うつもりはない」ということだった。
急ぎ足で歩いていた私は、ふと自分が腕時計を見ようとしていたことに気付く。
私はいつの間にか無意識のうちに歩く早さを遅めたり、早めたりして学校に着く時間を調節していた。……八賀谷君に会おうとしていた。
でも、そうやって自分で気付けるからにはまだ無意識じゃないのかもしれない。
ああ、もうまだ頭の中がごちゃごちゃしてる。
とにかく私は、なにもなかったことにしてこのまま生活していくしかないんだ。考えても仕方ないんだから考えるな、私。
余計なこと全てを振り払うために、私は学校まで一気に走り出した。すぐに心臓の鼓動が早くなって、息が続かなくなる。なんだかお腹が痛い。
どうしようもなくなって、校門の前で私は上半身を前に倒して休んだ。両手を膝の上に置く。視界が一気に狭まって、自分の足元しか見えなくなった。
なぜか今日はすぐに息が切れる、いつもとは大違いだ。
一生懸命に呼吸を整えようとする、けどあせってそれすらもうまく出来ない。
いったいどうなってるんだろう、今日は変だ。身体も頭もうまく働かない。
「あの、大丈夫?」
突然、私の目の前に影が差した。それから聞き覚えのある男子の声。
八賀谷君だ。
私は顔を上げる。
そこには心配そうなのか、戸惑ってるだけなのかわからない八賀谷君がいた。彼は私の前に立ってどこか居づらそうにしている。その目には私が映っていた。
「保健室行った方がいいよ、顔色悪いみたいだし」
八賀谷君は、少なくとも表面上は心配しているかのように言った。
なぜかそのときの私は八賀谷君のその態度が気に入らなかった。
自然と怒りが感情を支配する。
「大丈夫だから私に構わないで」
私はそう言って、すぐに体勢を戻した。なるべく平気そうに背筋を伸ばして歩き出す。
八賀谷君はそれでもその態度を止めない、私に目を向けたままだ。
もうその目も気に入らなかった。
「でも」
八賀谷君が軽く右手を伸ばしながら言う。
私はその手を反射的に払った。
「構わないで!」
私は彼を避けて走り出す。
その途端に目の前が真っ暗になったような錯覚に陥るが、それでも私は走るのを止めない。彼は追って来ることはなかった、当たり前だ。
玄関なんてすぐに目の前のはずだったのに、着いて靴を履き替えた頃には人とまともに話せるかも危うい状況だった。
荷物が重い、いつもよりずっとずっと。
私は保健室の向かう。
八賀谷君に言われたからじゃない、私の行く先はそこにしかないからだ。私は彼に言われても言われなくても、もともとそうするしかない。
もう、いやだ。




