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最終決戦(後編)

 

 ***

 

「!」


 白んでいく意識の中で確かに私は死を覚悟したのに、どうしてか目が開いた。

 しかしふと周囲を見渡すとそこは白いばかりの空間で、どこに壁があるのかもわからない。


「…これは、“私”の手?」


 そしてふと視界に映った手に違和感を覚える。確かに私の視界には、細くて貧相な前世で見慣れた私の手が映っていた。

 よく見ると服装も何故か仕事場の制服で、傷の一つもないその姿にますます脳が混乱する。


『人の子よ』

「え!?」

『人の子よ…』


 ただでさえ混乱しているのに、さらに脳内から声が響いてますます混乱した。しかし声は耳の奥から聞こえるようで、空から響いているようでもある。

 きょろきょろと周囲を見渡すと、ふと、頭上から熱を感じた。


「は…?」


 そしてまた私は目の前の光景に頭が、真っ白になってしまう。


『人の子よ、漸くこうして話ができましたね』


 目の前にいたのは不死鳥だ。

『神託の剣』の後半の花形としてイザベラが使役して、私がその世界で呼び出した、炎で形作られた神聖な孔雀の姿。


 しかし不死鳥は、撫でるように優しい声で私に語り変えている。

 なにこれ、漫画の超展開みたいな…。


『悲しき人の子よ。この世界にはない特異な運命の持ち主よ。貴方が護りたいものは何ですか?』

「護りたいもの…? それはルカさんだけ。世界なんて滅んでいいから、あの人がいてくれたら私は」


 そうだ、世界も幸せも私は要らなかった。

 ただあの人に生きていてほしいと願っただけで、死んでほしくなくて、私のことなんてどうでもいいからあの人に幸せになってほしくて。

 私はそのために捨てられるものは全部捨ててここまできた。あの人には大切な人がたくさんいるから、私はそれを護りたかったのに。


『世界をも要らぬ貴方の覚悟、変わりませんね』

「何が言いたいの…?」

『いいえ、神の思し召しです』


 不死鳥の言葉は曖昧で思わせぶりだ。

 意図が読み取れず問い返しても簡単にあしらわれてしまう。


『では、変わらぬ貴方を祝してその魂に授けましょう。私との契約を』

「え…?」


 今なんて言った?

 不死鳥と契約?


 そんなこと簡単に起きるはずがない。だって不死鳥はこの世界に一体しかいないんだもの。普段召喚できる無契約の不死鳥は、目の前にいる本体ではなく分身だと言われてるほどなのに。

 どうしてそれが、私と契約するって?


『時空を焦がしたその愛は、確かにこの世界を歪めました。しかし貴女は、この世界が常に正しくあるよう努めてもくれましたね』

「正しく…? 確かに私は歪みだろうけど、正しいことなんて何も…」

『いいえ、貴女の行いは正しかった。貴女はこの世界を破滅させることも、確かにできたのですから』

「破滅…私が…?」


 何が言いたいのかいまいち伝わってこないけど、要は原作通りに話を進めようとしたのが正しかったってこと?

 漫画の展開を知ってる私は早々に魔王側につくこともできたし、もしくは勇者たちより早く魔王を討伐しようとすることもできた…でもそれをしなかったのにも意味はありますよ、みたいな話だろうか。


 確かにできたんだろうし、そのことについては考えもした。でもイザベラはどう頑張っても神の器たる魂は持ってないし、物事の根本を良くするには犠牲を払ってでも原作通りにするのが一番効率的であとぐされもないだろうと思っただけで…別に正しい考え方なんかではない。


『貴女がこの世界…物語の形を変える度、世界は歪んでいった。貴女が思っていなくとも、正しき道のりはあったのです』

「なるほどね…」


 私のやり方は随分脳筋だと思ってたけど…それが役に立ってたのか。なんか複雑だな…。


「この物語は幸せに終わるの?」

『このまま終われば、新しき時代を迎えるでしょう。そしてその先で、この世界は本当の意味で歩き出すことができるのです』

「それは、よかった…」


 あぁ、よかった。

 私のやったことは無駄じゃなくて、新しい世界に繋がって勇者たちはきっと幸せな明日を迎えるんだね。

 それでいい、それがいいよ。


『ですので、私との契約は神の思し召し…ささやかな世界からのお礼ということです』

「いいよ今更…私が帰ったってもう」

『いいえ、貴女に奇跡を授けましょう。それは失われた命にもう一度だけ火を灯す奇跡です』

「え…?」


 不死鳥の言葉に私は固まる。

 失われた命にもう一度火を灯す?

 それって、ルカさんが…蘇るってこと?


『奇跡を起こす条件は、私と貴女が契約を交わすこと。そして貴女が真に生を願う相手であること…私と貴女の魂が一つなるその瞬間、奇跡は訪れる』

「…」


 確かに魅力的な話だ。不死鳥と契約を交わせば、ルカさんは蘇るのかもしれない。

 でも私と不死鳥が一つになるってことは、私が死んだら不死鳥の存在がなくなってしまうかもしれない、なんて考えてしまった。


 いかんせん不死鳥は謎の多い精霊だ。何を持って不死と定義されているのかもわからない。

 もしくは私が不老不死になる可能性もあるけど…少なくとも前者はリスクが高すぎる。


「あなたはいいの? 私と一つに…なんて。自分も死ぬかもしれないのに」

『ふふ…面白いことを言う方ですね。私は貴女の亡き後、契約が解かれるだけです。貴女が生きている限り、私の契約者は貴女だけ…というだけですよ』

「私が死ぬまで契約者は私だけ!?」


 まってまってまって!

 そんな伝説じみたこと簡単に起こしたらだめじゃない!?

 無契約の人が不死鳥の炎舞(フェニックスファイア)出せなくなったらどうするの!?


「いやいやいや! 無契約の人が困っちゃうよ!」

『問題ありません。あれは私の尾羽です』

「尾羽…」


 そういう仕組みだったんだ…やっぱ無契約の不死鳥の炎舞(フェニックスファイア)って分身の召喚だったんだな…。


『神は、貴女の選択に間違いないとおっしゃいました。さぁ、迷う暇などあるのでしょうか?』

「…」


 そうだ、迷う暇なんてない。

 あの人を失わないで済むなら、何でもいいから。

 私の幸せは、あの人が幸せであることだもの。


「わかった。契約しましょう」


 たとえ世界が滅んでも、あの人が幸せならそれがいい。

 それに神様が「大丈夫」って言ったなら大丈夫でしょ。この世界神様たくさんいるからどの神様が言ったのかわからないけど…。


『では、私に名を与えてください。貴女の呼び声に気付くことができるように』

「名前ね…」


 どうするかな、急に名前をつけろなんて言われても実家で飼ってた猫の名前くらいしか出てこない。

 あぁ、いやでも、一つだけ思いつくな。


「そうね、『フラン』なんてどうかな。私が一番かっこいいと思う武器からもらおう」


 フランベルジュ。炎を模した剣。

 私が読んだファンタジーの中で、最もかっこいいと思った武器。

 相手は不死鳥だから炎そのものみたいなものだけど、かっこいいからいいよね。


 そこまで考えて、ふと思った。

 私がこの物語で最初に好きになったのはイザベラだった…まぁそれは顔があまりにも良かったからなんだけど、でも、あの漫画を読んでいて最もかっこいいと思ったのはイザベラが不死鳥を呼び出すシーンだったな、と

 だからイザベラの体に入った…なんてことないと思うけど、イザベラってなんか共通点がぽつぽつとあって今更ながらに親近感が湧く。


『フラン…愛らしい響きですね、いいでしょう。では契約は成立とします』

「ありがとう」

『貴女を元の世界にお返しします。今回の対価は美味しいお菓子を所望しますね』

「お菓子!? そんなのでいいの…?」

『首都にあるラ・ルージュ本店のピスタチオパイをホールで三つお願いします』

「は!? あの激高の!?」


 ラ・ルージュ本店って首都で一番高いお店じゃん!?

 ピースのケーキだって金貨三枚はくだらないあのケーキをホールで!?


『楽しみにしていますね』

「いや、ちょ、まっ…!」


 しかし交渉の余地など与えられず、体はなぜか淡く輝き意識が光に包まれていく。

 話はまだ途中だと言うのに。

 

 ***

 

「っ!?」


 あの異様な空間で意識を失って一転、私の眼前には再び絶望的な光景が広がっていた。

 地面に横たわる彼はの瞳は昏く、呼吸は当然していない。

 さっきまでのことがまるで夢だったかのような光景に私は息ができなくなっていく。しかしその呼吸を気つけるように右手に痛みが走った。


「っあ…」


 あまりの痛みに気を削がれ、呼吸を荒くしながらも右手のひらに目を向ける。するとそこには見たこともない紋様が刻まれていた。

 ペンキみたいに真っ赤な線で描かれていたのは、エジプトの象形文字のような鳥の印。でも私が知っているそれとは少し異なっていて、その違和感がこの印を使えと言っているように聞こえた。


「…やってやるわよ」


 私はルカさんの姿を確かに目に入れて、しっかりと見据える。そして右手を拳に変えて、自分の心臓の前に翳した。

 対価の値段がなんぼのもんだ、ルカさんの命に値段はつけられない。ケーキだろうがなんだろうが用意してやる。


「来なさい『フラン』! ケーキくらい好きなだけ買ってあげる!」


 叫んだ瞬間、右手の印が輝き出す。そして私の目の前には、燃え盛る炎の孔雀の姿が現れた。


『ただいま参りました、マスター』


 不死鳥フランは私に向かって丁寧に頭を下げる。

 私はその姿に少し驚くけど、すぐに不死鳥の向こうにいるルカさんに目を向けた。

 当然だけど、周囲の人が驚いてる…。そら私みたいなどこにでもいるような人間が不死鳥なんて召喚したら驚くよね…。


「フラン、ルカさんにもう一度灯火を」

『畏まりました』


 静かに返答を返したフランは、自分の翼の中ほどから一枚の羽を引き抜くと、それを私に差し出してくる。


『こちらがご所望のものになります。お早く』

「えぇ」


 お早く、と言うのは死神が来るかもしれないことについて言ってるんだろう。これだけ多くの死者が出れば、死神は当然仕事をしにやってくる。急がないとルカさんの体から彼の魂が引き抜かれてしまう…そうなったら蘇生なんてできない。


 私はフランから受け取った燃えたぎる羽をルカさんの大きく開いてしまった傷口に押し当てた。

 後方に運ぶため甲冑も脱がされた彼の遺体は本当に無残で、見ているだけで呼吸が浅くなっていく。


 しかし炎で形作られた羽はゆっくりと傷口に馴染み、やがて柔らかな炎で彼の体をほんの一瞬だけ包み込む。

 すると、静かに傷は塞がり少しずつ肌に血色が戻っていった。

 そして、彼の指がほんの一瞬ぴくりと動いて、


「っげっほ、えほっ!」


 急に内臓機能が再開したせいか、急に息を吸いすぎて咽起きる彼の姿が目に映る。


「ルカ!」


 その瞬間にはもう、何も考えられなかった。

 彼の呼吸と同時に私はその体を抱きしめていて、咽こむ彼の背中を撫でながらその熱を全身で感じ取る。


「ルカ…良かった…」


 温かい。体温が私にまで伝わってくる。

 熱とともに彼の香りがする…あぁ、なんてありがたいことだろう。


「ここは…? 僕は、どうなって」


 掠れ声で彼は言う。

 戸惑って無理もない、けど、もう少しだけ抱きしめさせてほしい。


「どうもなにもない…もう少しだけこのまま…」

「セナ…?」


 全身の力を込めて抱きしめる。

 鎧が当たって彼が痛がるかもしれない。わかってるけど、でもこの思いはどうにもできないよ。

 泣きそうなのを堪えていると、そっと背中を撫でてくれる彼の手があった。その優しさにぐっと涙を堪えて、彼を正面からまっすぐに見る。すると前髪越しの新緑の瞳が、戸惑ったまま私を見ていた。


「セナ、君は…」

「ごめんなさい、実は」

『私が蘇生しました』

「「!?」」


 しかししんみりした空気は長く続かず、急に割り入った女性の声にひっくり返される。

 声に驚いて振り向くと、そこにはフランがこちらをやや興味深そうに見つめていた。


『こんにちは、マスターの愛しい人』

「マスター!? ほ、本物の不死鳥だっていうのか…?」

『勿論です。私のマスターはイザベラ・アンブローズですよ、ルカ・キャリントン』

「一体なにがどうなって…」


 完全にルカさんは困惑している。ルカさんどころか、今見えてないだけで周囲の人はみんな困惑してるだろう。

 正直なにから説明したらいいかわかんないけど、フランはなんでもないことのようにルカさんへ言葉を続けた。


『彼女は貴女のために私との契約を選びました。もはや死んだ貴方の身に再び死がまみえる事はないでしょう』

「死が、見える事はない…」


 ルカさんは辿々しくフランの言葉を追いながら私に視線を向けてくる。なので私は同意も込めてそっと頷いておいた。

 きっとこの景色は神様からのご褒美なんだろう。どの神様か知らないけど、とにかくその神は脳筋な私にご褒美をくれたわけだ。


 所謂気まぐれかもしれないけど、そういった気遣いはありがたく受け取っておこう。

 まぁ死んだと思ったのに目が覚めて、さらに目の前に不死鳥なんていたらそらびっくりもするしルカさんには同情するけど…。


「本当に、ルカさんから死の運命は去ったのね?」

『死んだ者に再び近づく死神はいませんよ、マスター』

「…」


 なんか棘のある言い方だな…とは思いつつ、一旦その言葉は飲み込む。

 頭の中に直接響くその声は、どこかで私を揶揄っているようにも聞こえた。


『貴女はまた一つ、運命を歪めました。その影響はこうして出ています』

「…あなたの主人は本来別でいるって、言いたいの?」


 妙に引っ掛かりのある発言に眉を顰める。

 言った言葉はやや当てずっぽうだけど、なんとなくルカさんの死を無かったことにしたこととは別のことに感じた。


『それに関しては…歪めていますが、歪めていないとも言えます。私の主人は貴女であって“貴女”ではありませんから』

「…」

『ですが、この歪みは確かに正しき歪みとも言えるのでしょう。私は貴女の僕たる運命であったのですから』


 私であって“私”じゃない、か…。

 じゃあ漫画で出てきた、あのイザベラが召喚した不死鳥は本当に本物なんだ。

 だからこそ、今回の歪みは歪みであって歪みじゃないんだろう。強いていうなら契約した目的が歪みというか。

 これ、本物のバグ技じゃない?


『さぁマスター。次はどうしますか?』


 そう言って、フランは戦場に向かって振り返る。一見戦闘は完全に終わったように見えるけど、確かルカさんは敵が無尽蔵に湧いて出てるって言ってたような…。


「副団長、班長、伝令です!」

「!!」


 聞いた話が本当なら、とりあえずルカさんには戻ってもらわないと…なんて考えていたら突然聞こえた聞き覚えのある声に体が跳ねる。

 死ぬほどびっくりしたまま振り向くと、そこには片目を眼帯で覆ったハリアーさんの姿があった。


「時空干渉器の所在が判明、対処に当たっていますが敵の防御に押されています。増援をとのことです」


 伝令を伝えてくれたハリアーさんの声は焦りと苦渋に染まっている。正直、これだけ戦闘が長引いて余力のある人員なんてそういないだろう。相手の兵力の方が圧倒的に優っている状態で長時間戦ってたんだから。


 事態が早くにわかっていれば籠城戦に持ち込むこともできたかもしれないけど、基本的に防戦で勝てる戦はない。勝てなければ待っているのは蹂躙だ、私たちから見ても魔族たちはそれだけ敵意を持ってこっちに攻めてきている。


「副団長、私に指示を。私を含む数名での奇襲作戦を提案します」

「却下だ。現存する戦力をこれ以上消費しては、首都の防衛に支障が出る」

「では私が不死鳥を駆りましょう。敵の根城を焼き尽くし、貴方に勝利を」

「なにを言っているんだ! そんな無謀な真似をさせるわけ…」


 私の言葉にルカさんは怒りを返してくる。しかし、その言葉を言いかけた時のそりと一人の男の影が現れた。


「黙れお前ら、燃やすぞ」


 そう言って現れたのは、包帯まみれでボロボロになった金の髪の男。低く不機嫌な声でそう脅しをかけてきたその男は、


「「団長!」」


 包帯ぐるぐる巻きでもわかるほどレオ・キャリントンその人であった。


「おい、そこの」

「は、はい」

「術師までの位置と方角は」

「二時方向、距離は三十です」


 レオは私とルカさんの声をガン無視してハリアーさんに声をかける。

 二時方向ということはほぼ北の方か、距離は三キロ先…となると、確かにあのあたりは人の手が入っていない手付かずの土地だ。そこにあらかじめ魔族たちが潜伏していたんだろう。


「わかった、もういい」


 レオはそれだけ言って話を切ると、聞いた方角に向かって右腕を伸ばし手のひらを向ける。

 彼の掌には、私のように何かの印が刻まれていた。だけど、その線は血で描かれていて私の印よりもずっとずっと複雑な紋様をしている。


「インドラよ、今こそその威光を示せ!」


 何事かと私がレオをぼけっと見ていたら、彼の言葉と共に大きな地鳴りが周囲を揺らし始めた。

 突然のことに驚いて周囲を見渡すと、二時方向に突然厚い暗雲が立ち込め、ここからでもはっきり目視できるほど大きな雷が落ち始める。


「え…」


 そして暗雲より巨大な腕が地面に降り、その拳が地面と接触した時…着地点と思しき場所から大きなキノコ雲が現れた。


「うっそぉ…」


 想定外の光景に思わず言葉を失う。

 キノコ雲って事は核爆発…なんて言わないよね?

 インドラって有名な神話の雷神じゃん。英雄神とも呼ばれるめちゃくちゃ強い神様…。


 この世界の神にインドラなんていたっけ?

 っていうか本当にインドラが神の名だったらレオは神の召喚に成功したってこと!?

 確かにインド系の逸話や神話に現れる爆発表現の一部核爆発のものなんじゃないかなんて考察があるけど、まさか先生そこからネタ取ってきてるの…?


「これで終わりだ。事後処理に入れ」


 そして、レオはそれだけ残して踵を返していった。

 しかし足元はおぼつかず、ふらつく体を弟であるルカさんに支えられながら歩いていく。

 その姿は大変感動的だけど、しかし私がぼーっと二人を眺めているわけにはいかない。


「ハリアー、オースティンを見たか?」

「オースティンはすぐ合流するでしょう。元気そうでしたよ」

「そうか、ではオースティンと合流し周辺警戒にあたれ。怪我人には敵味方問わず手伝いを、状況は都度報告しろ」

「了解です」


 よし、これでハリアーさんとオースティンさんの状況が確認できた。オースティンさん元気そうでよかったな、魔力切れだけで済んだならポーションでも回復するし、下がってもらってよかった。

 これで戦いは本格的に終わるだろう。なので次はニコに連絡しないと、私はイヤーカフに指を添える。


「ニコ」

『はい』

「状況終了、休憩して」

『了解、お疲れ様』

「そっちもね」


 ずっと緊張したまま待機してくれてたであろうニコを漸く下がらせてあげられたことに心底ホッとした。

 彼女は狙撃手だから遠方の警戒もしてもらわないといけない。だから一見敵がいないようでも一番気が抜けないんだよね…声をかけてあげられないといつまでも休めないから、やっと下がらせてあげられる。


『マスター』


 落ち着きつつある戦場に胸を撫で下ろしていると、今度はフランが声をかけてきた。その声に彼女を放置していたことに気づく。

 基本的に召喚した生き物は術者が帰還させるか魔力や生命力が供給されなくなって帰るか、という二択なので彼女もどうしたらいいのかわからなかったのだろう。


「ごめんフラン、状況は片付きそうだからもう帰っても…」

『理解しています。なので一週間後に参りますね』

「え?」


 フランの言葉に思わず固まる。

 精霊ってこっちから召喚しないと精霊界から出られないんじゃなかったっけ?


『私やユニコーンなど…一部は自在に行き来ができますので、来週対価をいただきに参ります』

「…」

『いかがしましたか? マスター』

「いや…大丈夫」


 なんというか…一見清々しいほどに図々しい発言なのに、何も言い返せない。それもそうだ、だって相手は上級精霊で契約者は私だけ、しかも今回一番助けてもらった相手だもの。ものの言い方にけちなんかつけられない。

 とりあえず帰ったら貯金を確認しよう。


「ええっとわかった、来週ね。ピスタチオパイ…だっけ?」

『はい。ホールで三つお願いします。予約をしないと作れないそうなので事前に予約をお願いします』

「わかったわよ…」

『楽しみにしていますね、好物なので』


 伝説の生き物の好物がケーキっていうのはなんとも俗っぽい感じがして夢が崩れそうだけど、なんか面白いからいいか…。

 むしろ高級ケーキを三ホールで人を蘇生する精霊とは一体…ありがたいけど。


『では帰還します。お疲れ様でした、マスター』

「お疲れ様、ありがとう」


 私の言葉に一つ頭を下げてフランは帰っていった。

 ふと空を見上げるともうとっくに夕暮れで、その日の沈んでいくオレンジに戦いの終わりを感じる。

 勇者たちはどうなったんだろう、そんなわだかまりを胸に残したまま。


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