最終決戦(中編)
※戦闘回です。露骨なグロ描写等はありませんが少なくともいちゃついたりはしません
※キャラの死亡描写があります
***
「副団長! なぜこちらに!?」
突然、ルカさんが防衛拠点から私のいる後衛までやってきた。ルカさんは作戦指揮として防衛拠点に居るはず。自分の班の人間も連れてるとはいえ、どうしてここに?
ここまでで少なくともオリバーとツヴァイがすでに後方に下がらざるを得なくされている。騎士団の中でも指折りの人間が後方に送られる状況はすんごくまずい。
でも戦力の半分以上が失われたら撤退の合図として狼煙が上がるはず。なにが起きているの?
「敵の数がどう考えても異常ゆえに調査した結果、相手が禁呪を使っていることが判明した。このままでは無限に敵が現れ続ける」
「なんですって!?」
彼の言葉に驚きはするけど、納得もできる。私から見てもおかしいと何度も思ったくらい敵が湧いて出ていたのは事実だ。
「密偵部隊と教会の調査により、行方不明だった時空干渉器が使用されていることが判明した。なのでここは敢えて撤退せず、操作をしている魔族を討伐するまでの間僕が囮になる」
「副団長が囮!? 危険です、おやめください!」
「だが今動けるのは僕しかいない」
「貴方がいなくなってしまっては、統括は誰が行うというのです!」
私の主張に対して、彼はとても冷静で静かでいる。そして、彼はしんと静かな声音で私に問うた。
「この戦域全てに効果を発揮できる魔法はもはや神霊召喚以上のものだけだとしてもか?」
「!!」
彼の一言にハッとする。
確かに、首都を覆うように作られた巨大な砦の周囲全てに影響を及ぼせる魔法なんて殆どない。しかもさっき話に出てきた『時空干渉器』は本来王城に保管されているはずの遺物…どうして敵が持っているのか検討もつかないけど、確かに時空干渉器を使えば異なる時空から増援を持ってくることもできるだろう。
この無限に湧き出る敵を始末して派手な囮になるには、もはや戦域全体にアプローチできるほどの大技を使うしかないと、ルカさんは言っているんだ。
神霊とは神の一つしたの階級で、要は神の御使。上級天使や大悪魔がここに含まれる。
そして私が見た限りでは、神霊召喚ができると言われているキャラはサミュエル、レオ、オリバーを始めとした上位騎士の中でも隊長クラスの存在と、ルカさんだけ。
そして隊長たちはみんな前線にいて疲弊しているし、レオとオリバーは後方に下がってしまっている…確かに言い返す隙もないほどルカさんの言う通りだ。
彼が神霊召喚を行えるのはキャラクターガイドブックでの後出し情報だけど、ルカさんの実力を考えればおかしいことでもない。
「第八班には増援の第一班と共に僕の援護を。理解したな?」
「…了解しました」
確かにルカさんの言ってることは正しいし、今やるには一番効果の大きいやり方なんだろう。
なんだろうけど、悔しさが滲む。
ハリアーさんを下げたのは彼に治療を受けさせるためだし、きっと彼が帰ってこないのはそれを察してくれたからだろう。でも彼や死んだバーグさんを失うような私の未熟さがなかったら、もっとルカさんの役に立てたかもしれないのに。
結果としてルカさんを戦場に出さざるを得ない状況の要因の一つになってしまった。それが悔しい。
「オースティン」
「はい、班長」
「第一班サベリアに拠点防衛の引き継ぎを行い、こちらに参加を」
「勿論です。地面でもなんでも割りましょう」
地面を割る…大地断割を使うのか。
確かに今は使うしかないかもしれない。周囲の援護がやりづらくなるから使いたくなかったんだけど。
「そうだな…頼むぞ」
「了解です」
短いやり取りの後で、私は再びイヤーカフに触れた。なるべく簡潔にものを伝えないと。
「ニコ、副団長の護衛任務だ。大地断割を使用し戦域を分断する」
『了解。上空射撃のみ続行します』
「そうして」
こちらも短いやり取りで通話を切って周囲を見渡す。おしゃべりできてるだけあって敵は多くない、やるなら今だ。
「行くぞオースティン」
「了解です、いきます!」
前方に両手を構える。私は私で割れた地面を境目にして炎の壁を展開するためだ。
割れた地面を乗り越えてくる奴がいても困るからね。
でもこの壁より中に敵が入ってきてもルカさんの連れてきてくれた増援の人がいるしなんとかなるはず。
ただ悔しがっても仕方ない、今はやれることをやらなくちゃ。
「火炎障壁!」
「大地断割!」
魔法の発動と同時に、私たちの前方十メートルまでの地面が一定範囲地割れによって分割される。そして割られた地面の境目には人の身の丈より大きな炎の壁が発生した。
障壁とトラップ、それにニコの狙撃があればしばらくは時間が稼げるはず…ルカさんが詠唱を行う時間はあるだろう。
「副団長!」
「わかっている!」
ルカさんが両の手を重ねて前に突き出す。
静かに佇む彼は、集中を詠唱に重ねるように唇を開いた。
「『応えよ』」
一つ、言葉が落ちる。
それは詠唱の始まり。一つの言葉に彼の魔力が周囲の空気に伝播して伝わっていく。
「『其は風のはじまり、其は流れゆく時の姿、其は切り取られし残影』」
神霊召喚には必ず詠唱が必要になる。なぜなら神霊には目に見える姿がないから。
神霊は精霊と神の両方の側面を持つゆえにその意識は常に自然の中に溶け込んでしまっている。
その神霊を人の魔力で形造り使役するのが神霊召喚だから、神を召喚するよりも難しいと言う人もいるほどのもの。
神を召喚するには資格が必要になる。それ故最も難しい召喚魔法は神の召喚だと言われているけど、神霊召喚は最も繊細な召喚魔法だ。
「『我は其を形造り、雄大な大地を征く術を与えよう。我は其の姿を水面に写し、世界を映す瞳を与えよう。波間を踊り木々を揺らす偉大なる奇術の精よ、我の前に姿を現し従僕となれ!』」
詠唱と共に彼の周囲が輝く魔力に満ちていく。体内で生成される魔力と外気に含まれる魔力が強く混ざり合って生まれるこの現象には、膨大なエネルギーが含まれている。
やがて彼を包む魔力は竜巻となり、その大きさは見上げても先が見えないほどとなって神霊としての姿を表した。
「『出でよ神霊——アネモス!』」
最後の詠唱と共に竜巻は大鷲の姿となって宙に顕現する。
壮大と言って過言でないその大きさであっても、舞い飛ぶ大鷲の神秘溢れた姿は私の心を惹きつけた。
「これが…神霊」
神霊アネモスは吹き荒ぶ竜巻によって形作られた大鷲の姿を雄大な動きで操っている。神霊の姿は術者の想像に依存した姿をとるから、ルカさんにとって風という元素には大鷲のイメージがあるのだろう。
何十メートル、いや何百メートルもあるかもしれない大鷲は優に空を待っている。それでも、大鷲の眼下にいる私たちが竜巻に巻き込まれないのは、あくまで相手が自然現象ではないことの現れなのかもしれない。
「ゆけ、アネモス。全ての敵を舞いあげろ!」
ルカさんの命を受けて大鷲は空を駆け出していく。舞い上がった翼はその道筋に点々と竜巻を落とし、その風にたくさんの敵が巻き込まれていくのが見えた。
あの敵たちは戦場の外へ運ばれるのかもしれないし、そのまま死にゆくのかもしれない。それは神霊の気まぐれだ。
「総員、再度周囲警戒! まだ終わってないぞ!」
しかし本当に何も終わっていない。まだ召喚した神霊は出てきたばかりだ、ルカさんが本格的に狙われるのはここからかもしれない。
これだけ派手に魔力を使えば魔力探知に長けた魔族が指示を出してこちらに戦力を回してくるだろう。
全ての敵が竜巻に巻き込まれたわけじゃないし、空からやってくる魔物もいる。
神霊召喚は召喚時の魔力も維持コストも桁違いにかかる上、常に姿をキープさせないといけないからルカさんは絶対に戦えない。どころかすぐにジリ貧になるだろう。
だから私たちがいる。
彼の護衛として、一瞬たりとも気を抜くことなんてできない。
***
「っくそ!」
炎の壁の内側では最悪の事態が起こっていた。
どうやら敵の生き残りにゴブリンがいたらしく、地面の下から土塊の人形たちがひっきりなしに地面から這い出ては襲いかかってきていた。
この世界のゴブリンは小人の老人のような姿で、土塊を人形に変えて敵に向かわせ自身は少し離れたところにいることが多い。
しかしこちらは炎の壁で遠くまでは見えないし、地面を割ってしまっているから遠くにはいけない。壁と割れた地面で相対的に迫ってくる敵は減っているけど、正直土塊の人形の数はバカにできないものだ。
オースティンさんの操る土魔法は飲み込まれて相手が強くなっちゃう可能性があるし、ルカさんが連れてきてくれた第一班の人たちの中には水魔法の使い手がいるけど、そっちも土魔法とは相性が悪い。
炎魔法なら相手を燃やして崩壊させられるけど、使い手である私の魔力は大技の使いすぎでもう半分を切ってしまっているし、大元であるゴブリンを倒せないと意味がない…はっきり言って最悪だ。オースティンさんはさっきガス欠起こしてたから後方に下がってもらっちゃったし。
ニコに手伝いを頼みたいけど、上空の敵の数を見ればそんな状況でないことも明白…。手数として喚んだオオトカゲはやられて帰っちゃったし、誰か味方が倒してくれると信じるか、炎の壁を飛び出して仕留めるか?
「!」
次の手を考えている余裕はない、と言わんばかりに人形たちの隙間と縫って炎の矢が壁を突き抜けて飛び込んできた。真っ直ぐに飛んできたそれを盾で弾き飛ばすと、別方向からもう一発の矢が私に向かって飛んでくる。
しかし、視界の端ではルカさんに向かっていく矢が見えた。私はルカさんを優先して、二の腕を一発分の矢が突き抜けるのも構わず彼の前で盾を構えると、
「!!」
背後から、ドッ…と重たい音が聞こえて、思わず振り返る。
「え…?」
それは確かに何かを貫いた、重たい音。
重たい音が、確かに彼を貫いていたんだ。
「嘘」
振り返った先にあったのは、甲冑ごと心臓部を貫かれて項垂れるルカさんの姿で。
その瞬間、確かに私の時間は止まって、次に動いた私の目玉に映ったのは、ハーピィに抱えられて空を飛ぶゴブリンの姿だった。
「ふざけんな!」
私は持っていた剣を思い切りぶん投げてゴブリンとハーピィを撃ち落とす。そのすぐ後で、一際大きな突風が周囲の敵を掻っ攫って過ぎ去っていった。
同時に私が展開していた炎の壁も消え去って、あたりはもぬけの殻のようにしんと静まっていく。
「ルカさん!」
吐きそうなくらい大きな音を立てた心臓が私を突き動かす。周りなんかもう気にしてられない、彼の元へ行かなくちゃ。
ほんの数歩走るだけなのにとてつもなく遠く感じる。やっと辿り着いた彼の元で、彼の着けている冑を、外して、
「嘘…」
その奥にあったのは、生気のない瞳と口元から流れた黒ずんだ血。肌に血色なんてない、彼は何も見ていない。
誰か嘘だって言ってよ。
私、こうしたくなかったから今ここで、こうやって、戦ってたのに。
私の策が甘かったんだ、もっと上空まで警戒が行き届いていたら。ニコ以外にも狙撃手はいると思っていた部分があったし、目の前のことでいっぱいになってた。
私じゃダメだって言うの?
無駄だとわかっていてもこの戦争を止めるべきだった?
いや、そうだったのかもしれない。
私の選択は根本から間違ってて、世界に生まれた小さなバグをもっともっと大きくできれば変わったのかな。
因果律に逆らってでも、彼が生きてくれればそれでよかったのに。
「…そうだ、私がそれに気づかなかったから」
私は死んだってよかったのに、どうして世界を変えようとしなかったんだろう。
そのために私は、世界を変えたらよかったんだ。
“できない”って決めつけてたから、こうなったのかもしれない。物語は物語の通りに進むのができれば正解なんだって、勘違いしてたせいだ。
「『顕現せよ』」
ぽつり、とそれは口からこぼれ落ちる。
「『顕現せよ、炎の申し子。汝空を駆りて炎纏し時、全ての罪を焼きつくさん』」
私のせいだ。
私が集中の配分をミスってニコと狙撃手たちに上空の敵を任せきりにしたから。
魔力を扱う効率が悪くて、もっとたくさんのことができたはずのイザベラの才能を活かせなかったから。
「『火の粉と共に舞い散る羽根を抱き、真紅の瞳に全ての罪を映し出す時、灰となる世界に君臨せし者よ』」
ジリ貧なんて言ってられなかった。
他の班の状況も把握しきれなくて、私が指示を出すことを優先したせいで。
「『天空に舞え、炎の翼。汝、我が従僕となりて今一度契約の時を迎えよ』」
誰も悪くない。
ここまでの時間があって成長しきれなかった私が悪い。
だから全部燃やしてしまおう。
ずっとずっと、燃えたらいいんだ。
「…『舞い飛べ不死鳥。不死鳥の炎舞よ』」
詠唱を言い切ると、体が熱で膨れ上がるような感覚に襲われる。これは炎魔法ではよくあることだ。
でも、本来私に不死鳥を呼び出せるほどの魔力は残ってない。だから目に映る景色は瞬く間に白んでいく。
「…」
全部燃えろ、燃えてしまえ。
このまま不死鳥よ舞って、敵を生み出してるとかってやつのとこまで飛んで、そうしてこの戦争が終わったらいい。
貴方はもうここにいないんだ。
貴方がいないなら、二度も貴方の死を見てしまった私はもう、頑張れないよ。
だからこの命を全部炎に変えてしまおう。魔力のない人間が次に持っていかれるのは、命だから、その全部を炎に。
「…さようなら、ルカ」
もうちょっと続きます
どこまでいっていいのかわかんないんですが、主人公が泣くようなことにはならないです
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