最終決戦(前編)
※戦闘回です。露骨なグロ描写等はありませんが少なくともいちゃついたりはしません
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カンカンカンカン!
朝も早い時間にその鐘はけたたましく騎士団隊舎内に響き渡った。
鐘の音に叩き起こされた私の元にやってきた伝令によれば、私の予想通り魔族の大侵攻が行われようとしているらしい。すなわち総員緊急出動である。
このけたたましさと突然な感じはいつかのようだと思いつつ、未だ心構えの浅い自分を恥じた。
急いで支度をして班員の点呼を確認したら二番隊の長であるルカさんに伝達。彼があらかじめ用意していた配置表を元に騎士団全体でのミーティングを終えてそれぞれが配置につく。
私の話をうまく誤魔化して話してくれたルカさんによれば、騎士団幹部内での会議では魔族の侵攻より以前にこちらから仕掛ける案も出たらしいけど、事前にルカさんから話を聞いていたレオが反対したらしい。
レオ曰く「なんのために勇者がいると思っている」と言い切ったそうだ。彼なりに勇者を信じたいのだろう、これはファンとして嬉しいが、その言い方だと勇者が生贄にされているようにも見える。相変わらず言い回しで損をしている男だ。
しかし、ここで人間側が仕掛けてしまってはここまで勇者パーティが築いてきた魔族・人間双方の間にほのかに生まれ始めている信用が崩壊してしまう。レオはそれを防ぎたい気持ちもあったのかもしれない。
「すごいことになってるわね…」
とはいえ、避難が済みもぬけの殻の首都であろうとも敵将である国王の首を獲るためにやってきた魔族の大群は、山の向こうから首都の大砦に向かって迷いなく迫ってくる。
魔族というのは特定の族種である人間、動物、植物、御使、神を除いたすべての種に当てはまるわけだけど、そんなバラエティ豊かで人間にはない能力を持った魔族たちの大群を相手に私たち人間は生き残れるのだろうか。
ルカさんに大見栄切った手前絶対に負けられないけど、内心で不安を吐露するくらいは許されたい。
魔族の侵攻は首都だけでなく各地に置かれた主要な砦や拠点の全てに向けられていて、増援は無理っぽいし中々どうして不利な状況だ。
「なんか、嫌な感じ…」
今回の招集を聞いてから、ずっと胸がざわついている。敵を迎え撃つために騎士は考えられた布陣に隈なく配置されているし、ルカさんは後方で作戦指揮、戦意向上を図ってレオが前衛に出ているこの状況で、私は何に怯えているんだろう。
飛び抜けて強いレオや、オリバーを始めとした隊長たちが前衛に出ているのに、どこか安心感がない。
敵が私の予想より多い?
描かれていない強敵の襲来?
勇者たちの敗北…?
確かにどれをとっても最悪な事態だ。特に勇者たちが負けるなんてことは目も当てられないけど、最後の最後で展開をぶち壊してくる作家もいるのでここに関しては本当は賭けの範囲でもある。
「…」
大勢の、本当に数えきれないほどの足音が大砦の前を護る私たち騎士団の前で立ち止まった。その最前列には、四天王ヨナハの姿がある。
ヨナハは鳥獣種と呼ばれる飛行型の魔物を束ねる四天王で、一番忠義に厚いキャラでもあった。部下からの信頼も厚い描写があったし、確かに散り散りになった魔族たちを束ねるには適任なのかもしれない。
正直この戦闘は向かってくる魔族をそのまま打ち返すような戦いなんだと思ってたけど、ここで立ち止まってこちらをあらためて認識するというのは、ヨナハの矜持なのかもしれない。
「人間よ、何故我らを、我らが王を阻む。我らはこれ以上、人の世の中で虐げられる同胞を見過ごせぬと言っているだけではないか」
遠巻きにヨナハの声が聞こえてくる。アニメにも出てきた声だから確かだろう。
「そも我ら人間の中に入り込み、我らの同胞を虐げたのは貴様ら魔族が先だろう。人より優れ、人の持たぬものを多くもつ貴様らを易々と対等とすることはできまい」
「ではその報復に、貴様らが数で迫り我らを追いやったのは正当であるというのか! 人間のみが世界の調和から外れ、だというのに我が物顔で大地を蔓延っている。数だけが取り柄の分際で!」
「そうして我々を見下す輩どもと同じでなどあれるものか! 差別は常に貴様らの貼る看板だろうに!」
「差別ではない、区別だ! 何も持たぬ人間を区別することの何が悪いというのか、我ら鳥獣のものがそう呼ばれるのと変わらぬであろう!」
ヨナハと言い合ってるのはレオなんだけど、正直勘弁してほしい。こんなものの言い合いじゃ、互いに罵り合うカードを片っ端から切ってるだけだ。なんの解決にもならない。
でも、確かに作中で描かれた人間と友好的になってくれる魔族や、話を聞いてくれる魔族が多くないことも知っている。私だって、ここにくるまで何人の魔族を、時に人間を切ってきたかわからない。
それだけ魔族の中にも人間の中にも日和見主義は多いし、魔族は基本的に実力社会だから強いものに付き従う暗黙のルールみたいなものがある。
まぁ、魔王はそういう状況も全部ひっくるめて利用してるんだろうけど…戦争ってこうやって生まれるんだな…。
「…っ」
でも、悔しいけど、私がここに割り入ってもなんの意味もないことは私が一番わかってる。
もしわずか一パーセントの可能性があって戦争を防げたとしても、私にそれを握りしめる力はない。
それにレオが何も考えずあんな不毛な言い合いをしているとも思えない。レオはわかっているんだ、今ここで雌雄を決しなければ要らない争いがずるずるまた長引くんだって。
結局魔族も人間も変わらない。どっちかが勝ったら平和になるなんて絶対じゃないんだ。
人間が勝ったら人間の中で、魔族が勝ったら魔族の中で、また新しい差別が生まれて戦いが始まるのは目に見えていること。
このサイクルの全てが因果なんだ。
誰にも血を流してほしくなくても、護りたいひとを護りきりたくても、私のいた世界と同じ。ここも差別と戦いが普遍的にある。
だから、この戦いは起こるべくして起きている。この嫌な泥のような、胸を締め付ける嗚咽が私一人の力なんてちっぽけなんだと言い放ってくるんだ。
「やはり分かり合えぬか、人間よ!」
「わかっていたことだろう、でなければ血は流れん」
あぁ、戦いが始まる。
張り詰めていく空気と会話の流れに、私はそれを確信した。
それならば迷ってはいけない。
私は何を護りたいのか、その答えはいつだって決まっているから…右手の剣を強く握りしめる。
***
戦いの火蓋が斬られた今、砦前は激しい戦火の只中に在った。
自分の周りで、自分の目の前で、種族なんて関係なくたくさんの命が消えていく。
あちこちで魔法が飛び交い、奇怪な声をあげる飛行生物は空にひしめいていて、埋め尽くされるほどの戦いの中で命が塵と化していくんだ。
「下がれハリアー! 己の身を考えろ!」
「ここでは下がれません! 仲間の命がかかっているのです!」
声を上げる私に向かって、ハリアーさんもそう叫びを返してくる。今彼はピクシーに潰された右目を抱えているのに。
片目が見えないのは戦場において致命的だ。視野が狭くなるし、動体視力がどうしても落ちてしまう。そうなれば敵の攻撃に反応しきれなくなる。
やめてほしい、これ以上戦わないでほしい。
今後援に下がれば治療を受けさせてもらえるかもしれないんだ。今砦の向こうにはたくさんの巫女が教会から派遣されているんだから、すぐに血も止まるし失明は防げるかもしれない。だからこれ以上自分の身を投げ捨てないで。
うちの班は基本的に私が切り込んでバーグさんが前衛としてそれに続き、ハリアーさんがその陰から敵を引っ掻き回して、オースティンさんの魔法とニコの狙撃で後援をもらう戦法が基本だ。陽動をとってくれるハリアーさんが本格的にいなくなってしまうのはどうしても辛い…なので早く治療に向かってほしいんだけど、今彼は頭に血が昇ってるのだろう。
バーグさんがワーウルフにやられて間もない今、気持ちはわかるが冷静になってほしい。
私たちの後方五十メートルは砦の防衛拠点だ。絶対に護り切らないといけないのは確かだけど、補給が受けやすい利点もある。
後方に敵が入り込んでるくらいだから前線はもっと大変なんだろうけど、死んでしまったら元も子もない。
遠くには巨大なゴーレムの姿が見えるし、迫ってきてる魔物は種類も数も多いけど、死神や精霊みたいな二級以上の警戒対象がいないのは幸いかな。
一級警戒対象であるヴァンパイアやエルフは基本的に無関心や中立を保ってるし、精霊は多分勇者たちが作中で同盟を組んだ話があるからここにはいないんだろう。
正直一体でも二級以上の警戒対象が混ざってたら今この場はすでに壊滅してる可能性が高い。それだけ警戒対象の高い魔族は危険な存在だ。
「ニンゲンンンンンン!!!!」
「!!」
一体敵を払ったその陰で、三体のオークが叫びを上げながら近づいてくる。ギラつく斧を振り上げて駆けてくる奴らの方を向いて、まずは先頭のオークの武器を盾で受け止めてそのまま剣先を相手の胸に押し込む。
「ぐおっ…」
そのまま引き抜いた剣の勢いを使ってもう一体を斬り払い、最後のオークは私が手を下さないまま呻きをあげて倒れた。
派手な音が聴こえなかったから、相手を貫いたのはニコの撃った矢に違いない。
彼女の得意とする武器はボウガンだ。速く正確な射撃をするし、その腕は同期で一番だと私は思っている。
「ハリアー、いい加減にしろ!」
しかしその命令に反応が返ってくることはなかった。
私の声を無視してハリアーさんが私より前に出張っているのが正直怖い。片眼のない状態で絶対にやっていいことではないし、そもそもハリアーさんが前衛より前に出るなんて今までなかった。
死んでしまったバーグさんとハリアーさんは付き合いが長いって聞いてたけど、流石に彼は自棄になり過ぎてる。
後方まで抜けてくる敵も増えてきたし、ここは強引にハリアーさんの位置を下げるしかないか。
「ハリアー! 巻き込まれたくなかったら下がれ!」
私はもう一度そう叫んで剣を地面に突き刺してから右手を上空に向けて振り上げる。そのまま人の身の丈程度の火球を適当に二十個くらいのイメージで生み出した。
流石に私の姿を見てやばいと思ったのかハリアーさんが無言で私の後ろまで下がってくる。それを確認してから私は頭上の火球たちをぶん投げた。
「メテオ!」
私が手を振り下ろしたのと同時に火球たちはあちこちに飛んでいく。そして落下した先で爆発し、敵味方問わず吹き飛ばし始めた。
一応騎士団で魔法の訓練をするときは敵味方の識別ができるように叩き込まれるから、味方に大きな損害はないと思うけど…巻き込んだ人たちには申し訳ない…。
しかしこの一撃で目の前の敵はある程度落ち着いた。ここは一度体制を簡単に立て直して…
「!」
しかしふと、先ほどまで周囲で響いていた派手な爆発音が聴こえなくなったことに気づく。その異様な感覚に何か違和感を感じていると、目の前から敵も味方も追いやりながら後方に走って突入してくる味方の集団の姿が在った。
そしてその集団の中心にいた人物を見て私は戦慄する。
運ばれていたのは、ボロボロの傷だらけで意識を失ったレオだったからだ。
「総員前方注意! 前線から押し寄せてくるぞ!」
後方に運ばれていくレオを見た瞬間、私は反射的にそう叫ぶ。まずいと思った、前線で嵐の如く敵を焼き払う彼がいなくなってしまっては、やはり前線を維持する力が落ち込んでしまう。隊長クラスの上位騎士はみんな頭抜けて強いけど、その中でもレオは本当に別格な性能をしてるんだもの。
レオに何があったのかわからないけど、やはり人間側の劣勢は避けられないんだろうか。
「オースティン! 後援入り口にドライアド三体展開! できるか!?」
「三体まででしたらいけます!」
「ハリアー! 増援要請と団長の様子も含めて後方の状況を確認しろ!」
「…了解」
現状をすぐに建て直さないと絶対にまずい。私たちの周囲にいる敵を減らしたいま、次の波が来る前に後援の護りを固めないとレオが倒れて勢いづいた魔族たちが波のように押し寄せてくる。
周囲の班員に指示を出した上で私は耳につけたイヤーカフに指を添えた。これは魔法のインカムみたいなもので、対になっているもう一つのイヤーカフを持っている相手と通話することができる。
「ニコ」
『はい』
「三本用意。団長が後方に入られた」
『了解』
仕事の時のニコは会話がすごく事務的で短い。狙撃手ゆえに余計な部分に意識を向けられないからだ。
そして私が指示を出したのは、一度に三本までの矢を同時発射できる特殊なボウガンの使用。ニコには常に従士が二人ついていて、こういう大きな戦いの時は矢の装填を担当してるんだけど、それでも足りない時とか、突き抜けた火力が欲しい時に使用している。
彼女は三本の矢を一度の射撃で全て別方向に撃つことができるので、それを生かした仕組みのボウガンなんだけど、技術的な理屈は私にはわからない。
三本撃ちはニコの集中力に大きな負担がかかるからあんまり使いたくないけど、念には念を入れないといけない状況だ。使える手は全て使うしかない。
こっちの班は事実上二人の欠員が出てるし、前衛はもはや私だけ。そして遠くには圧されはじめているように見える前線の姿。本当に後がなくなってきた。
「レオがやられたってことは、他の上位騎士もやられる可能性があるってことか…最悪だな」
そもそもレオの身に何が起こったのか、今の私にはわからない。魔族たちを引き連れてきた四天王のヨナハを撃破したとしたら、あの姿は痛み分けだろう。最悪なのが敗北だ、敵の勢いが大きく上がるしこちらはより劣勢を強いられる。せめて撃破できてるといいんだけど。
オースティンさんに防衛拠点の入り口前にドライアドを三体召喚してもらったから、多少の耐久戦はできるはず。巨木の姿をしたドライアドは、体の一部である枝を伸ばして複数の対象に攻撃ができるし、頑丈な精霊だから壁として丁度いい。
ついでに言うとドライアドって上級精霊なんだけどそれを三体も出せるオースティンさんはどうして中位騎士なんだろう。
「どうする…これ以上今考えついてなくてやばいぞ」
本当に他の上位騎士たちが倒れ始めたら洒落にならない。でも相手の数は無尽蔵って言ってもいいくらい多いし、このままでは疲弊したこちら側は押し切られてしまうだろう。
今私の班の前衛は私だけ、ドライアドの維持にコストを割かないといけないオースティンさんは数に入れられない、つまりハリアーさんにお願いした増援が来るまで私とニコと他の班の人でなんとかしないといけない。
防衛がお仕事の五番隊は正門側の防衛を担ってるからこっちには来ないし、増援要請しといてなんだけど増援は期待できない戦況に見える。
「仕方ない。大きい魔法使うしかないか」
本当は魔力消費の大きい魔法を使うときはいろんな理由で指揮官の許可が要るんだけど、今はそんなことすっ飛ばしてもいいだろう。味方を巻き込まなければ言い訳もできる。
少し前の中衛の人たちはすでに前線から流れてきた敵と交戦してるから、できるかぎり前線まで敵を薙ぎ払ってしまいたい。
「うし、やるぞ」
私は再び地面に持っていた剣を突き刺し、盾も一度地面に置く。それから右手に炎でできた大剣を召喚した。
手が焼け爛れそうなほど燃え盛るそれに触れても私の手が傷つくことはなく、重さもない。
なので私はそれを両手で握り込み、野球のバッドのように持ち上げ、思い切り振りかぶる。
「フレイムザンバーぁぁああああああっ!」
叫びと共に薙ぎ払われた剣先は一瞬にして遥か彼方まで伸び、私が剣を振り回した範囲の敵を焼き殺す。前線まで頑張って伸ばしたから、相当な敵を倒せたはずだ。
地面にいる敵の殆どはオークやゴブリン、それにノームが生み出す土人形たち。そんなに耐久力はないから高温の炎で大体塵にできたはず。
私の実力じゃこの戦域全部の敵を倒せるような魔法は使えないし、そのくせ今使った魔法は魔力の消費が激しいからなんとも中途半端だ。
でも敵の勢いは少し削げたはず。今のうちに前線も少し整うといいんだけど。
そして防戦一方の状況から抜け出したい。このままじゃ絶対に負けてしまう。
そう考えると、地面から引き抜いて持ち直した剣の柄を握る力が強くなる。
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