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貴方はいつでも神ですが?

 

 

 ********

 

 

 レオに啖呵を切るような真似をしてから三ヶ月が経過している。しかし相変わらずルカさんからは避けられたまま。

 しかし変化は起きている。それは彼の態度の変化だ。


 あのサミュエルの馬車の護衛をした後、彼を見かけるようになってから明らかに彼の私への態度は変わっている。

 避けられているのは変わらないんだけど、今まではなんだが少し緊張したようなぎこちない様子だったところから、明らかにこちらを視線に入れると不機嫌な様子で去っていくようになった。


 しかし、視線が合うときはなぜかすでに彼がこちらを見ていた、という状況も少なくなく…なにが起きているのだろうとは思っている。

 この三ヶ月の間にも、私がレオとの婚約話を受けたと勘違いしたオリバーが私に決闘を挑んできたり、同じように私がレオに取り入ってると勘違いした人たちから閉じ込められたりとゴタついてて、ルカさんの態度に対して特に対処はできていない。


 特に閉じ込められた時は本当に危なかった。元は大きな屋敷だった廃墟に閉じ込められたものだからゴースト系の魔物の相手をしないといけなくて。一緒にいたニコが機転を利かせてくれなかったらなにかしらで死んでいたかもしれない。

 とはいえ、流石に露骨な態度で少し軽蔑しているような視線をルカさんから向けられているのは少し傷つく。でも告白紛いみたいなことをしてから馬車の護衛までも時間は経ってるし、時間置いて考えてみたら「気色悪い」とか思われたのかもしれない。


 いや、どう考えても気色悪いだろ。異世界から来て「貴方が好きです」なんて、とんだストーカーだよ。どう考えても押し付けだったのは変わらないし頭おかしい人の行動だ。

 本当に申し訳ない。あんな顔させたいわけじゃなかったし…いやそれは、言い訳か。


「はぁ…」


 いやでも大きなため息が出る。これは由々しき事態だ。

 推し(ルカさん)の負担になっているのは当然そうだし、私としても…まぁ仕事上は困らないんだけどさ、どうせ目上の人すぎて滅多なことじゃ話しかけたりなんてしないから。


 でも私の心は困る。推しの供給が絶たれるのはどうしも困ってしまう…!

 わがままな話だけど、やっぱり彼の姿を時折眺めるくらいはさせてほしい。あの美しいプラチナブロンドの長い前髪が風に揺れて、少しだけその奥の新緑の瞳が見えた時、私は嫌なものを全部忘れられるから。


 どんなに苦しい訓練が待っていても、目がまわるような忙しさでもここまでやってこれたのは、全部彼を見ていられたからだ。

 私のことは嫌いで全然構わないので、時折だけ見ていても許されないだろうか。


「いや…」


 でも嫌か、そんなの。気持ち悪いもんな…そう思って首を横に振る。ストーカーにストーカーされ続けるようなものなんだから、ここはルカさんを第一に考えて行動しないと。

 いつかはカトレアだって魔王討伐から帰ってくる。あの子なら私と違ってルカさんから信頼されてるし、きっと彼の幸せに携われるだろう。


 そうだよ、それが一番いい。

 彼が幸せになってくれれば、それで…


「あ…」


 しかしどんなに心を整理しようとも今私が持っている書類は騎士団副団長ルカさんに渡さなくてはいけない。

 本当は気まずいから遠回しに断ろうとしたんだけど、隊長から逃げようとしたのがバレて逃げられなくなった。


 とにかくとっとと済ませてしまおう。書類渡すだけなんだから体感的には一瞬で終わるし。

 ルカさんだって嫌なものは見ていたくないだろうしね。


「副団長、いらっしゃいますか?」


 意を決して副団長執務室のドアを叩く。そのまま内心気まずさで震えつつ声をかけると、目の前の扉が勝手に少し開いた。

 確かこの部屋のドアに自動開閉術式なんて組み込まれてなかったと思うんだけど…とは思いつつ、開いたということは入っていいのだろうと考えながらそっと部屋の中に入った。


「失礼、致します…」


 立ち入った部屋の中は相変わらず静かで、ルカさんの座る執務机の椅子の後ろに置かれた大きな窓は換気のためか少し開いている。

 最初に目に入った窓から少しだけ視線を前に向けると、そこには当然だけどルカさんの姿があるわけで。


 見ているだけで心臓が痛い。

 存在の美しさに脳がバグを起こしそうになる。今日も美しい、神様、さすが美の化身。


 今日もプラチナブロンドの長い前髪が新緑の瞳を隠してしまっているけど、そもそも前髪がある状態でも麗しいのでなにも問題なんてなかった。体細いのも綺麗だし、肌綺麗だし、声かっこいいし、性格も好きだし、なにをとっても隙がないなこの人。


 というか瞳が見えた瞬間私は彼の美しさに心臓が爆散してしまうのでこのままでないと話もできないのでは?

 もう本当言葉が出ない。賞賛しきれない、そこに存在してくれるだけで今日は最高にいい日になる。


「…っ」


 って、いやいや仕事をしなくては。

 ルカさんは私のこと嫌がってるんだから、早く部屋を出ないと。


「隊長より書類をお持ちしました。先日の隊員による城壁の破損に関する報告書になります」

「…あぁ、そこに置いておいてくれ」

「了解しました」


 静かに言葉を返してくれるルカさんの表情は今日も渋い。今日のあの顔が私になぜか向けられてると思うと気が重いけど、これ以上深入りするのも嫌がられるだろうしもう仕事以外で話をするのは無理だろうな。

 むしろ今までが幸運すぎたんだ、早く部屋を出よう。


「では、失礼いたし…」


 所詮は書類を渡しに来ただけなのですぐ入ってきたドアに向かって振り返る。そのまま早足くらいの意識で前に進み始めた時、何かが私の腕を掴んだ。

 驚いて反射的に後ろに頭を向ける。

 それから私の視界に映ったのは、美しい新緑の瞳が前髪から垣間見えた彼の姿。


「副団長…?」


 なにが起きているんだろう、そうは思った。

 でもそれ以上に、彼の顔を正面からちゃんと見たのなんていつ以来だろうかと、つい考えてしまう。


 やっぱり今日も彼は綺麗だ。何かを焦っているように見えるけど、その姿は少し珍しいし。

 あの軽蔑的な視線も中々見れないので嬉しくなかったと言ったら嘘になる。でも、こうして正面から見れる方が、やっぱり嬉しい。


「あ、いや…」


 しかし私の言葉に彼はすぐ視線を下げた。それでも腕は掴まれ続けていて、彼にしては珍しく行動がちぐはぐに見える。


「…っ」


 何かを言いかけては止めるような仕草が数回続いて、それを私は素直に不思議に思った。

 なにを言いたいんだろう、そう考えた時ふと嫌な妄想が脳を過ぎる。

 わざわざ引き留めてまで私が同じ職場にいるの嫌だって言いたいのかな…でも確かにそういうことって言いづらいし、私から話を切り出した方が…


「あの」


 落ち込んでいく気分の中、先に沈黙をやめたのはルカさんだった。声に反応して沈んでいた視界が自然と上がる。

 でも彼は私と目が合うとすぐに少し目を伏せて、気まずそうに口を開く。


「その…君の目にはまだ、僕は映っているのだろうか」

「…え?」


 彼の言葉の意味が汲み取れなくて、思わず疑問が口をつく。

 どういうことなんだろう、そりゃ当然答えは決まってるけど…。


「今日も副団長は世界で一番麗しいですが…?」


 そのまま感情を口にしていいか悩んだけど、かといって言うべき言葉も見つからなかったので素直に思ったことを言うことにした。

 まぁこんな言葉が聞きたかったわけじゃないだろうけど、一旦これで様子をみよう。


「…!」

「!?」


 しかし、なぜか彼は私の言葉にぱぁ、と表情を明るくする。

 いやいやなんで? 今の言葉に貴方がそんなに喜ぶようなイメージはないけど?


「あの、副団長…?」

「よかった…」

「…? よか…?」


 “よかった”ってなんだろう。全く彼の態度の中身がわからない。

 しかし目を白黒させて困惑する私に向かって、彼は少し嬉しそうに微笑んで私を視界に移す。


「すまない、驚かせた。しかし訊きたいことがあるんだ」

「訊きたいこと、ですか…?」


 え? なに? 訊きたいことってなに?

 っていうかその笑顔なに?

 なんでそんな嬉しそうな顔するの?


 いや、待って、心臓持たないよ、めちゃくちゃ笑顔可愛いし綺麗じゃん…。

 私という存在が貴方の笑顔という光で消し飛んでしまいかねない。


「急ですまないが、君がよかったら近々時間をもらえないだろうか?」

「じかん…?」


 やばい、語彙が喪失してる。

 ずっと嬉しそうじゃん、可愛すぎない?

 なんでそんないいところ見せてくれるの? 私は今見ていいものを見ているの?

 お金払わないといけないんじゃないこれ?


「あ、いや、すまない。急な話だし無理にとは…」

「だめじゃないですが! だめではないんですが!」


 そこから彼が、話を把握できてない私に向かって申し訳なさそうな表情をするものだから、思わず言葉が飛び出た。

 そして同時に腕を振り払ってドアの外まで飛び出し彼と距離を取る。

 だってこのままじゃ、


「貴方の笑顔は私の心臓が崩壊します! なので今日は失礼します!」


 言える言葉をなんとか言い放って体の向きを変えてから、他に言うべきことがあると思い出して慌ててドア枠に身を隠して顔だけ彼に向けた。


「私は時間なんていくらでもありますので副団長に合わせます! お教えいただければ問題ありませんので! では!」


 それだけ言い残して私は部屋のドアを乱暴に閉めてから廊下を駆け出した。荒ぶる脳と心臓に駆られるようにして。

 なんだあの可愛い笑顔は! と。


 天使か? 妖精なのか? それとも神なのかルカさんは!


 安堵したように綻ぶ口元、緊張を解いたような目元、光の灯った瞳に少し赤いようにさえ見えてしまった頬!!

 なにあれ死ぬ、死ぬから…!


「私の心臓が死ぬからぁ!」


 思わず叫んだ。

 そして私にできるのは、少しでも気を紛らわせるために自分の持ち場まで全力疾走することだけ。


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