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予想外ってこういうことを言うよね

 

 

 ********

 

 

 私が異世界転生者であることがルカさんにバレてから半月ほどが経った。先日旅に戻った勇者パーティは、今頃どのあたりを歩いているのだろう…と思いつつ日々仕事をこなしている。


 王城決戦編にて、彼らが強奪して魔界と人間の領土の境目から首都までを行き来できる転移装置は壊れてしまったので、冒険は再び振り出しに戻っているはずだ。

 まぁその流れでまた多くの事件や発見があったりするわけだけど、出立して半月となると流石にそう進んではいないか…。


 勇者たち送り出すの辛かったなぁ…彼らじゃないとことは解決しないとわかっていても、何とか大人として代わってあげられないものかと考えてしまう。

 彼らがこの旅に選ばれたのには理由があるし、そんな資格もない私じゃ少年漫画のお約束であるハッピーエンドを信じるしかないんだけど。正直魔法士のネイサン辺りは私の気づいていない場所で死亡フラグが立っていてもおかしくはない。全員生存ルートでお願いします、作家先生…!


「…」


 しかし私には勇者たちの行方よりも気にしないといけないことがある。

 なぜって、先日私が異世界転生者だと告白したその翌日から…私はルカさんに避けられているからだ。

 視線が合わないのは勿論のこと、会話が必要最低限…なのは仕事だから当たり前として、彼は何やら私の姿を見るとそそくさと去っていってしまう。


 彼は決して他人の目を見て話すのが苦手な人じゃないし、特定の個人に対してあからさまに避けるような行動をとるような人でもない。私がヒラの騎士で、所属してる隊も別だから誰かに気づかれたりはしてないみたいだけど、彼の様子がおかしいのは明らかだ。


 最初は気のせいかなって思ったけど、彼が私を狙って避けていると確信を持ってから一週間が経過しているので、そろそろ誰かに怪しまれてもおかしくはない。

 とはいえあんな気まずい話したら当たり前だとも思うし、ルカさんは悪くないと思う。

 どっちかっていうと問題なのは…


「いや、よくないな…」


 邪なことを考えてしまったので思考を霧散させるように頭を横に振った。今考えるにはあまりにも邪念的だ。


「どうしたの?」


 私が急に動いたことに反応したニコが問いかけてくる。今日は彼女と一緒に未だかつてない重要任務の真っ最中だ。

 そう、騎士としては中々の重役…視察に来ている第一王子サミュエルの乗ってきた馬車の護衛を私たちは担っている。


「あーっと…どうもしない、うん」

「…じゃああとで話聞くね」


 私のぎこちない返答に、ニコは呆れた様子で首を横に振った。基本的に隠し事が下手な私を知っている彼女の何とも大人な対応である。それこそ、後で話を聞いてくれることを彼女から申し出てくれるところとか。


「おいそこ、なにやってる」


 ふと意識の外から声が飛び込んできた。聞き覚えのあるようなないような男の声に反応してそちらを見ると、如何にも『やっかみにきました』と言いたげな雰囲気を纏った男の三人組がやってくる。

 やっかみたいのはわからないでもない。要人が乗っていた乗り物の警護なんて本来新人がやるような仕事じゃないもの。


 そうでなくとも私は先の王城決戦で上位魔法を使ったことが噂として広まっているので実は面倒な立ち位置でもある。

 正直目の前の三人組には嫌な予感しかしない。


「喋ってる暇があるなら見回りでもしてきたらどうだ?」

「自分たちは団長よりここの警護を任されております」

「なんだその口の利き方は? センパイへの敬意ってもんもわからんのか」

「団長の命令は絶対ですので」


 新人ってだけじゃなくて女だからって舐められてるなこれは…。こういう輩は私が昇進したところでまぐれだなんだと言い出すのは目に見えてるので何かにつけて文句言ってくるもんだけどさ。


 上位魔法の使用にルカさんを引っ叩いたのと、レオが私を突然婚約者に召し上げるなんて言い始めた全てが重なって、今の私は四方八方に敵まみれである。我ながらよく夜中に刺されないものだと思う。

 しかし私の昇進は今は保留らしい。先の戦での事後処理が終わってないのでそれ次第なんだとか。


「団長も、ここに女を置いたのは華があるからだろ? 実力のねぇ奴は下がってな」

「ちょっと! 何よその言い方!」


 目の前の先輩騎士に向かってニコが噛み付いている。一応私が「やめなよ」と軽く制止すると不服そうながらも引き下がってくれた。


「女は女らしくオリバーの隊で縮こまってればいいんだよ。群れねぇとなにもできないくせに生意気しやがって」

「…は?」


 しかし今度は私がキレてしまって意味がない。意味がないのはわかっているが、原作キャラを馬鹿にするやつは許せん。

 あと群れないとなにもできないのはお前らも一緒だろ。


「オリバー隊長は女性の自立を訴えてくださる素晴らしい方です。彼女の実力は騎士団の全てに知れ渡っている」

「実力ぅ? ただ小綺麗なだけだろあんな女。プロパガンダだよプロパガンダ。その証拠に女だけで群れてないとなにもできないじゃねぇか、その程度なら素直に男に道を譲るんだな」

「なんだと貴様——」


 この言葉の半分くらいは、私に対するただの挑発なんだろう。ここで問題を起こせば私に痛い目を見せて出る杭を打てると思ってるのかもしれない。


 だけどオリバー・クシュナーは女性専門部隊である五番隊を率いる女隊長だ。豪奢な金髪に青い吊り目という派手な見た目に違わぬ強気で冷徹な性格で、主な武器は大型槍。というか五番隊は基本的に大型槍か弓しか持たせてもらえない。彼女たちはその盾のついた大型槍を使って陣形を組み、鉄壁の防御を誇る部隊だからだ。

 しかし原作で描かれているオリバーは弱きものに優しく慈しみを持って接することのできる人格者でもあって、そのギャップがまたカリスマ性に繋がっている。


 というのに、そんな素敵な女性を馬鹿にしようなんて許せん。

 隣で止めてくれてるニコには申し訳ないけど、ここは厳罰喰らってでも一発ぶん殴って…


「おい見ろサミュエル、いい見世物が見れそうだぞ」

「そうだなレオ。騎士団きっての防御の要を馬鹿にできるとは、さぞお強い騎士様なのだろう」


 しかしまたも視界の外から声が飛び込んできた。それに釣られて視線を向けると、サミュエルとレオがなにやらニヤつきながらこちらを見ている。


「だ、団長に、殿下…」


 二人の姿を見て、先輩騎士とその取り巻きはわかりやすく動揺し始めた。だがサミュエルたちはその姿に挑発的な視線を送る。


「いや悪いな、水を差してしまったようだ。続けてくれ」

「オリバーを馬鹿にできるのだ、さぞ実力と人望に優れているんだろう。オレが相手をしてもいい、オリバーに勝てるというお前なら多少は歯応えもありそうだ」

「ひ、ひぃ…」


 あからさまな威圧と故意な挑発に三人組は完全に萎縮してしまっていて、さっきまでの強気さはどこへやら。

 私がそんな三人を睨みつけると、一人がそれに気づいて体を跳ねさせ、ずりずりと後退りを始める。


「「「す、すいませんでした〜!」」」


 挙げ句の果てに三人揃って情けない叫びを上げながら連中は走って去っていった。

 レオとサミュエルがどこから話を聞いていたのか知らないけど、これは厳罰だろうな…上位騎士への侮辱に職務怠慢、減俸で済んだらいいけど。


「相変わらず威勢がいいな、アンブローズ」

「その名前で呼ばないでください。実家に迷惑がかかります」

「ほう、ではイザベラと呼んでやろう。婚約者らしくていい」

「貴方と婚約した覚えなんてないし、ファーストネームなんかもっと呼ばないで! 外堀埋めることしかできないんですか!?」


 相手は私が逆上するとわかっている発言をした上で、さらにキレてる私を見て楽しんでる。でなかったらこんなに不敬な発言をしてる私を見て馬鹿にするみたいにニヤニヤ笑ったりなんかしない。

 趣味悪…そういう態度でルカさんの場所も奪ってきたんだ。やり方が陰湿すぎ。

 名前なんか呼んでほしくないし、正直関わらないでほしい。絶対わかっててやってる。


「イザベラ、まずいよ…人目につくところで団長に噛み付くのはさ」

「挑発してきたのは向こうだもの、知ったことじゃないよ」


 確かにニコの言う通り、誰が見てるかわからない場所で上官であるレオに噛み付くのは絶対にやっちゃいけない。でも今回は相手が今の反応を想定して言ったに違いない言葉だ、言い返されるくらいは思っているだろう。


「おいレオ、気に入った相手で遊ぶのはやめろといつも言ってるだろ」

「遊んでなどいない。オレは至って真剣だ」


 真剣だ、と言う割にレオは馬鹿にしたような視線でくつくつと笑いながらこちらを見ている。めちゃくちゃ神経を逆撫でされているような気分だ。


「はぁ…すまないな、お嬢さん。レオはこう…ルカに対してもそうだが、気に入った相手を振り回すのが好きでな」

「い、いえ殿下! 殿下がこの場でそのお言葉を口になさるのは…!」


 王族がヒラ騎士に謝っちゃダメでしょ! と言う旨の発言をしようとしてハッと言葉が止まる。

 え? レオって、ルカさんのこと気に入ってるの?

 本当に?


「あー…その、ややこしい話だから、続きは馬車の中で話そう」

 

 ***

 

 サミュエルに招待されて馬車の中に入ったレオ、私、ニコ。しかしこの空間で気まずくならないはずもなく、誰が最初に話し出すのかと思っていたらサミュエルが動き出した。


「お嬢さんがレオに振り回されているのは知っている。なんというか、こいつは不器用なんだ、迷惑をかけているのは友人として謝罪しておきたい」

「迷惑とはなんだ。オレに気に入られて喜ばん者などいない」

「真面目に話せレオ…そうだな、そんなにお嬢さんがお気に入りか」

「母親かお前は」


 疲れた様子で私にそう話すサミュエルの姿に、思っていたより彼は苦労人のようだという見解を得る。

 原作での描かれ方的にもっと余裕のある人なのかと思ってたけど、そんな人がここまで振り回されるなんてレオってよっぽど面倒くさい奴なんだな…。


 確かサミュエルとレオ、ルカさん兄弟は幼馴染なんだよね。その設定も相まってサミュエルとレオの関係性は大人気だったなぁ。

 古の例えで言うならば、薄い本が厚くなるレベルだった。


 それにしても、サミュエルが狙ったように私の名前を呼ばないのは私がさっきレオに名前を呼ばれるのを拒否したからだろうか。

 もしそうだとしたら紳士すぎないかこの人。


「イザベラ、お前ルカに避けられているそうだな。なにをしたのか知らないが、乗り換えるなら今だぞ」

「乗り換えるってなんですか、私は一生副団長を追いかけると決めています」


 そうだ、たとえ避けられていたとしてもそれは変わらない。というか、避けられているにしても嫌悪的な感情は見受けられないのでむしろ嬉しさすらある。

 我ながら醜い話だ。


「はっ、そうでなくてはつまらん。何せあの金魚の糞がいいと言うのだからな、天変地異も起ころうというものだ」

「なんですって! また副団長を侮辱するんですか!」

「事実を言ったまでだ。地味で、社交性も低く、特化した五大魔法は風のみ。挙げ句の果てに野心もないとくればあんなものになんの価値がある」

「お前、またそうやって…!」


 レオの発言に反射的に拳が出そうになって、慌てたニコに羽交締めにされた。必死な様子で「どうどう!」と私を諌める彼女の声になんとか平静を取り戻す。


「レオ、いい加減にしないか。話が進まん」

「知らんな、事実だ」


 あの人の実兄とは思えない心無い言葉に私は奥歯を軋ませる。ニコが私の隣で苛立つ私をずっと諌めてくれてるし、私自身も平静を保とうとはしてるけど限界は近い。


「すまないお嬢さん…どうやらレオはルカのことを本気で好いている女性が見つかって浮かれてるみたいなんだ」

「「はい!?」」


 サミュエルから出た思わぬ一言に自分とは思えないほど驚いた声が出た。図らずも同じタイミングで声が出たと思しきニコと向き合って、互いに喋らずとも“信じられない”というサミュエルの言葉に対する不信感と困惑を表情で共有する。

 レオはレオで「ふん」と軽く鼻を鳴らすばかりで特になにも言わないし…もしかして本当なの?


「ルカはまぁ、覇気がないだろう? そのせいか妙な人間に擦り寄られやすくてな」

「隙ばかり持つような無能だからな、アレは」


 聞こえた言葉に反応した私が発言の張本人であるレオを思い切り睨みつけると、レオは相も変わらずご尊大な態度でこちらを見返してくる。どうしてそう堂々と他人を吐き捨てられるのかと問うて胸ぐら掴んでやりたい気分だけど、その隣で困った様子を見せるサミュエルが目に映ったので一旦我慢した。


「ルカは少し人の感情に疎いところがあってな、頭はいいんだが自分が他人にどう思われているのかわかってないことが何度かあったものだからレオはそれを心配してるんだ」

「言いたいことはわかるような…」

「観察力がないわけじゃないからあからさまなものには引っかかったりしないが、好意を向けられるのにあいつは慣れてないからな…友人として俺自身、噂を聞いた時は警戒した」

「…」


 そんなに自虐的なのか、あの人は…というのが最初に思ったこと。

 好意に対する慣れはその人によると思うけど、確かにルカさんがそこに柔軟なイメージはない。そもそも自分が悪口言われてても素知らぬ顔で仕事してるような人だもの。


 私はそんな涼しげなルカさんも好きだけど、話を聞くとそれはそれでなるほどというか、彼は悪口を気にしてないというより“自分が相手から好意的な感情を向けられる”という感覚が基本的にないんだろう。だから悪口はどうでもいいけど好かれたような態度を取られると動揺する。


 それは自虐的と言わずしてなんと言ったらいいんだろうか。

 そりゃあ、そんな人に付き纏ってる人間の話聞いたら周りは警戒するよね…なんて考えてしまってなにも言えなくなってしまった。


「ここまでくればお嬢さんでもわかるだろう? こいつの浮かれ具合が」

「まぁ…」


 サミュエルの言葉に、私は一つの確信を得る。それは“ルカさんの悪口を利用してたのはレオ本人だった”ということ。

 薄々感じてはいた。先日地下牢に入れられていた私の前でルカさんとレオが言い合っていた内容の中に他人を“おもちゃ”と称してレオがルカさんから奪っていた、というものがあったから。


 物語ズレした目線ではあるけど、こういった例でありがちなのは“相手を護るために相手を傷つける、追いやる”というパターン。

 サミュエルの言葉から考えると、自虐的なルカさんの性格を利用しておだてて利用しようという輩は少なくなくて、その中にはまるで本当に彼のことを好きだと思わせるほど演技の上手いやつもいた、という事実が見えてくる。


 そしてそれを突き止めたレオは都度その存在をルカさんから遠ざけるために行動し、なんなら悪口を流布されても表立って口にしないルカさんの性格を利用して彼の価値を敢えて下げていたと…。

 レオの行動は結果としてルカさんから周囲の人間を奪うというものになり、さらにルカさんは本来他人に付け入られるほどあった利用価値を失うことになった、と考えれば目の前のひねくれ騎士団長の考えていたこともわかってくる。


 要するに私はスパイの類と疑われていたわけだ。あからさまに態度に出過ぎて。

 本来彼はカトレアから純粋な好意を向けられているはずだけど、それは誰もが知るような話でもないし…孤独を埋める存在がいれば騙せると思ったやつが居たんだろう。

 しかし疑問も生まれはする。


「殿下の伝えたいことはわかりましたが、私は副団長とそこまで交流があったわけでもありませんし…」

「それに関してはお前が一番わかっているのではないか? イザベラ」

「…」


 だから名前で呼ばないでよ、とは思いつつ先日ルカさんから言われた言葉を思い出す。

 彼はあの戦場でタイミングよく自分のピンチに現れた私を疑っていた。でも俯瞰して考えてみるとそこに無理はない。


 だってあの時私と彼の居場所はとても偶然で行けるような場所ではなかったもの。しかも目の前に敵がいるはずなのにほっぽり出して彼のところにいるなんて、よく考えたら怪しすぎると言われてもなにも言い返せない。

 あの時は必死すぎてなにも考えれてなかったし、我ながら馬鹿だったとは…今考えると思う。


「なにも言わないんだね、君は」

「…言えることがありませんので」


 なにが言えるって言うんだろう。『私は異世界転生者で、漫画の推しを救うために命張りました!』…なんて誰が信じるって?

 そもそもこの世界には漫画もないし日本ほどわかりやすい推し活文化もない。全部説明したって意味がないのは明白だし、別のところで潔白を証明したほうが絶対に双方が納得できるように私は思う。


 だとしても、レオの行動は重度のブラコンだと思うけどね。懸念の種を逐一駆除してまわって、私みたいなぽっと出にまであんな婚約だなんだって騒ぎ立てるなんて。


「ほう、これだけ懸念ばかりが募ってなにも言えることはないと? ますます面白いな、お前は」

「面白くはありませんが…煮るなり焼くなりお好きになさってください」


 身の上話ができないのなら、もはやわたしはまな板の上の鯉。これから刺身にされるか煮付けにされるかはレオとサミュエル次第だ。


「面白いおもちゃを簡単に捨てるわけがないだろう。お前のやってきた数々のトンチキ行為ほど笑えるものもないからな」

「なんですって!?」


 人の必死な行いを“トンチキ”だと!?

 なんのきっかけもないあんたの婚約要求の方がよっぽどトンチキじゃないのよ!

 という思いがうまく言葉にできない私に向かってレオは高笑いで返してくる。こっちは疑いに対して真摯にいようとしてるのに茶化してくるなんて…!

 正直ぶん殴ってやりたい。


「はいはい、落ち着いてイザベラ…団長も弄らないでくださいよ、イザベラはキレっぽいんですから」

「怒れ怒れ、見世物次第ではルカの隊に入れてやらんでもない」

「人の反応を見世物扱いするのやめていただけます!?」

「やめてくれレオ…収拾がつかなくなってきただろうが」


 振り回される周囲に対して大層ご満悦なレオの姿に、込み上がる苛立ちが隠せるわけがなかった。腹の底から湧いて出る怒りを視線に乗せてぶつけているというのに、台風の目であるレオ本人はそれを馬鹿にするようなニヤつき顔で余裕そうに見返してくる。


「レオを許さなくていいが今は控えてくれお嬢さん。君への疑念はないとレオは言いたいんだ」

「そんな態度ではなかったですが?」

「ふはは、言葉の裏も読めんとはその脳みそは鳥と同じか?」

「鳥!?」


 なにを考えたら憤慨してる人間をさらに煽れるのか全くわからない。サミュエルがフォロー入れてくれてるのにその厚意をぶっ壊せる神経も。


「そもそもアレが馬鹿なのが悪い。オレの手間を増やすばかりだからな」

「団長が過敏になっているところもあるのでは? 副団長は子供じゃないんですよ」

「子供か否かの話ではない。アレはオレと自分を比べることに慣れすぎて、己の身に起きた危機になにが起こるかを計算できていないのだからな」

「それをわかっているならどうしてあんな…っ」


 ルカさんの身に何か起きたら、それは騎士団そのものの…ひいては国を傾ける要因の一つになりかねない。だから助けてやっているのだ、とレオは言いたいのかもしれないけど、やり方がひねくれすぎだと思う。

 正面から話しても聞いてもらえないほどルカさんは自虐的だって言いたいの?


「ではお前はなんのためにいる?」

「!」

「オレが万能ならば、お前など必要あるまい。そもそも万能であるならば他人など要らぬからな」

「…っ」


 自分じゃできないって言いたいのだろうか。流石に今のレオの発言は抽象的で掴みきれないけど、私がいることに意味があると言っているようにもとれる。


「オレ自身がアレと会話する必要などない。意味がないからな。だが他人ならば、多少の意味合いも生まれるのだろう」

「…なにが言いたいんですか?」

「言わなければわからないのか? ならばサミュエルにでも訊けばいいだろう、要らぬ節介が好きだからな」


 そう言ってレオはサミュエルに軽く視線を向けるも、サミュエルが何かを言う気配はなかった。なにか私から引き出したいってことのだろうか。


「どうした、イザベラ。黙り込んでは意味がないぞ」

「私に、その価値があると言いたいんですか。彼の方に何かをして差し上げられる価値が」


 都合のいいように考えてはいけない。そう私の脳が警告した。

 一見、レオの言葉を都合よく受け取れば、彼の言葉からはルカさんとの関係性の発展を求められているように取れなくもない。

 しかしそんな都合のいいことは起きるだろうか。あの人が好きだって思いしかない私のなにに相手は価値を感じている?


「なにを勘違いしている。それを証明するのはお前だ」


 私の問いに、レオは冷たい言葉を返して切り落とした。

 そしてその時、また一つレオのことを捻くれたやつだと感じたから…私は彼を真っ直ぐに見る。


「では私が、副団長のお側におります。私が彼の方を護り通す」

「…ほう?」


 私の言葉に、レオは興味を引かれたような表情で静かに返した。しかしその顔はほんの一瞬で、


「おいサミュエル、聞いたか? アレはこのトンチキ女に惚れ込むらしい」


 すぐに私を見下しながら隣に座るサミュエルに向かってそう語りかける。


「自分で誘導しておいて煽るな、全く…」

「誘導とは人聞きが悪いな。新しい見世物を用意しただけだ」

「お前はいい加減口が悪すぎる。お嬢さんに嫌われるぞ」

「そうか? オレとしては感謝してほしいほどだがな? アレの話をすることなど本来必要もない」


 サミュエルの言葉を理解できないといった様子でレオは飄々とした言葉を返す。なにがどうなったらこんな重度のブラコン捻くれ俺様兄貴が出来上がるのか、私には見当もつかないけどレオの言いたいことはわからないでもない。

 兄が自ら出しゃばってきて弟の人間関係をお膳立てしようなんて、あまりにも不器用が過ぎる。

 サミュエルがさっき“懸念はない”と私に対して言ってくれたけど、その詳細を訊けるような空気でもないし。


「っていうか、私副団長と付き合うなんて言ってないですが…?」

「なにを言っている? アレの頬を叩いて愛を叫んだのはお前だろう」

「うん。レオの言う通りだよ」

「イザベラが副団長に告白したの、もうめっちゃ有名だよ」


 三人の言葉を聞いた時、私は顔面からさぁっと血が引いていくのを感じて、過去の己を恥じた。


 私があの人を好きなのはあくまで私の気持ちであって、それが色恋であろうがなんであろうがルカさんに押し付けたいわけではない。

 行動が全く伴ってないどころか正反対のことをつい先日行ったけど、少なくとも同じ感情を返してほしいとは思ってない、のに。


 三人の曇りなき眼を見て思った。私はもはやなにを言っても、この問題においてはただ言い訳をへつらう存在になってしまっていると。


「安心しろ、フラれたらオレがもらってやる」

「…団長のところなんて死んでもごめんです」

「なら結果を出すことだな」


 そう言ってレオはまた高笑いを馬車の中に響かせた。

 もしかして、レオは私の考えてることわかってて追い込んでるんじゃないだろうか。そんな邪推が脳を過ぎる。


 もしそうだったらもちろんだけど、そうでなくとも最悪だ。私は相手に恋愛感情を抱いてもらえるなんて思ってないのに。

 ノワールの店で話したことだって、訊かれたことに嘘をつきたくなかっただけだ。だから意識してもらえて避けられてるだけありがたいって思ってるくらいなわけで。


「…」


 思わず大きなため息が出る。

 あぁ…どうしようこれから。


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