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どうしてこうなった?

 

 

 ********

 

 

 牢を出て、さらに一晩明けた。


「おはよう、アンブローズ」

「え、お、おはようございます…」

「どうしたアンブローズ。昨日のような覇気がないな」

「この状況でそれ言うんですか…?」


 昨日は自分の部屋のベッドで眠れて、それをやたら久しぶりのような錯覚を覚えつつ早朝訓練場で腕の様子を確かめようと訓練場まで来たはいい。

 来たはいいけど、


「その、どうしてお二人はここに…?」


 私は今…なぜかルカさんとレオに挟まれている。

 牢から出たあの後、私はルカさんにお姫様抱っこをされたまま城内の見たこともない部屋に連れて行かれ、そこで待っていたエルシィの治療を受けることとなった。

 確かにエルシィならあの黒ずむまで変色した骨折だって一発で治せるけど、あの子だって疲れているのにどうして私なんか…と思っていたらカトレアを助けたことについてお礼を言われ少し驚く。


 まぁ少し考えればルカさんが話したんだろうとは思えるけどね…私が戦場で護ったルカさんの後ろには、彼が護ろうとしていたカトレアがいたんだから。

 その縁で、ルカさんから再度私の怪我について話をされたエルシィは二つ返事で治療を引き受けてくれたらしい。本気でいい子すぎる。


 エルシィは本当に根っこっから純真なんだよなぁ…戦えるわけじゃないからファンから邪魔者扱いされてたりしてたけど、怪我だって治す人がいなかったらそのまま死ぬんだから、正直彼女の存在は欠かせない。ただでさえ少年漫画は生傷絶えないんだから。

 それに存在が癒しなので彼女にはこのままいてほしい。


 今回の戦でエルシィも奔走していたわけだし私なんかよりあの子に休んで欲しかったけど、そこまでの事情を聞いてしまうと流石に引くに引けなくて大人しく治療を受けた。

 そして翌日になって腕の具合を確かめようと訓練場に来たら、なぜかルカさんとレオが待ち伏せしていたわけである。


「何が起こっているんだ…」


 まるで乙女ゲーの一幕のような光景に震えるオタク。二人に気づかれないようつぶやいたものの、感情は顔に出ている気がする。

 ただでさえ昨日の牢での出来事にまだ整理がついてないのに、どうしてさらに混乱するようなことが起きてるんだろう。


「大丈夫か? アンブローズ」

「ひゃ!? だ、大丈夫です…」


 やばい頭の中が混乱と恐怖に渦巻いていていたらルカさんが知らぬ間にこっち見てた。長いプラチナブロンドの前髪の向こうに見える切長の垂れ目と新緑の瞳が見え隠れしていて動悸がおかしくなってしまう。


「どうしたアンブローズ、リハビリをしに来たのだろう? やり方がわからないのであればオレが…」

「お断りします」


 しかしありがたいことにここにはどうでもいい人間もいるので、すっと脳が冷静になる。

 確かに私はルカさんしか見てないようなものだけど、それでも昨日のことで私の中のレオの評価は地に堕ちた。おかげさまで彼の顔を見ると苛立ちのあまり冷静になれる。


「団長、そろそろ定例会議のお時間です。このような場所で油を売られるのは宜しいと思えませんが」

「問題ないさ副団長。オレだって時には不要な会議を休むこともある。わずかな休息と思えば、これ《、、》の相手をするのも悪くはない」


 昨日までの二人って、こんなに険悪な雰囲気だったっけ…? なんて二人のわずかなやり取りからでも伝わってくる空気の悪さにそんなことを考えた。

 確かにルカさんとレオってあんまり目立って仲のいい印象もないっていうか、兄弟というより仕事上の関係って感じに転生前から思ってたけど…だからこそもっと会話も無機質な感じたったような。


「いや、団長の言い方だと私の存在って暇つぶしじゃないですか…」


 とはいえ、なぜぞんざいに扱われるような言い方をされてまでレオに付き合わなくてはならないのか。

 正直昨日の婚約申し込み…っぽいなにかからレオが何をしたいのか全くもってわからないのに、会議休んでまで私の相手をするなんてますますわからない。

 正直俺様キャラが相手のために時間を割くなんて関係性の発展を示すフラグとしてあるあるだけど、私はレオとのフラグは一切望んでないのでごめん被る。


「暇つぶしであろうがこのオレの指導を受けられることを光栄に思いこそすれ、断ろうとは…オレもいつまでも暇ではない」

「では仕事にお戻りになられることを提案します。まだ多少は定例会議まで時間もありますので」

「そういえばお前は休暇をとっていたな、ルカ…ここまで休暇など使わなかったお前の執心っぷりには感心する。やはりこいつは取り上げ甲斐のあるおもちゃだ」

「彼女を物のように扱うのはやめてください」


 えぇ…何この空気…会話を始めたらどっちかが一言口にするたびに空気がガンガン冷え込んでいくじゃん…。

 死ぬほど困る。確かに腕の様子を側から見てくれる人がいてくれるのはありがたいけど、そのためにこの空気に巻き込まれるこっちの身にもなってほしい。


 そもそも、団長であろうが副団長であろうが自分の隊の人間でもないヒラの騎士に直接指導しようなんて、どう見てもおかしいんだから目立つし。

 レオは会議を休むって言ってるわけだから揶揄い半分かもしれないけど、ルカさんが休暇を取ったっていうのが気になる…何故…。

 そんなことを考えつつも、巻き込まれたくないので少し離れた場所でストレッチをしていたら、付近から聴き慣れた声が聴こえてきた。


「イザベラ〜!」

「ニコ!」


 驚いた私の視線の先ではニコがこちらに駆け寄ってきている。そのまま彼女は私の前で立ち止まったけど、これまたどうしてここにいるのかわからない人が増えたような。


「どうしたの? 仕事は?」

「いやいや、いろんな話が飛んできてそれどころじゃないから半休とってきたの! この何日もバタバタしててまともに話もできなかったでしょ?」

「ニコ…」


 突然現れたので何事かとは思ったけど、彼女の揺れる瞳を見て本当に心配をかけていたんだと気づく。申し訳ないことしたな、確かにあれだけバタバタしてたのに彼女と顔を合わせる暇もなかった。


「ありがとう、ごめんね」

「腕の調子は? 折ったんでしょ?」

「それは…偶然聖女様のご慈悲に預かれてね。この通り」


 苦笑いを返しながら怪我など最初からなかったかのような腕を見せる。言い訳としては苦しいかもしれないけど、まぁ嘘は言ってない…はず。


「えぇ!? 聖女様に!? それはすごいね…そういえば副団長と一悶着あったって話も聞いたけど…」

「あぁ、それは…」


 これはまずいな、あんまり心配かけたくないからなんとか誤魔化したいけど…なんて考えていたら、少し離れたところで話していたルカさんとレオの姿にニコが気づいてしまった。

 その瞬間面倒ごとを覚悟して、こちらに向かって歩いてくる二人から若干視線を逸らす。


「「アンブローズ」」

「!? は、はい!」


 突然ユニゾンしながら名前を呼ばれるとは思ってなくて思わず背筋を正してしまう。視線の先に映る真剣な様子の二人はそのまま間髪入れずに口を開いた。


「選べアンブローズ」

「えら…え?」


 何を選べって? と私が突然の問いに目を白黒させていると、それすらお構いなしに二人は言う。


「オレと」

「僕と」


「「どっちとリハビリを進めるのがいい?」」


「…」


 再び聞こえたユニゾン音声に固まる私。

 いやいやいやいや!? 急にこの二人は何言ってるの!?

 いつの間にそんな話になったんだろう。というか決着はついているような…なんて考えていたら横からそっと肩を叩かれ耳打ちされる。


「イザベラ」

「助けてニコ…」


 私は救いの手を求めてニコに視線を向けた。しかし状況が飲み込めないのはニコも同じ、なので彼女は言葉を続ける。


「何があったの? 二人がイザベラに指導したいなんて…」

「なんて言ったらいいか…色々あったんだけどどこから話したらいいかわかんなくて…」


 本当、何をどう説明したものか。この短時間では説明しきれないし、ルカさんとレオはは私の返答待ってるし。

 でも“推しを引っ叩いて盛大な告白かましたらその兄から婚約を申し込まれて話が拗れてる”なんて信じてもらえる気がしない。


「おい、アンブローズ。こそこそしていないで早く選べ、オレの時間は無限ではないと言っただろう」

「団長のことは気にしなくていい、アンブローズ。リハビリは時間をかけて行うものだから、僕と確実に進めるべきだ」

「「……」」


 待って、どうしてこうなったんだっけ。

 一ミリだって状況が飲み込めない。なんならルカさんには一昨日引っ叩いたので嫌われたって確信してたのに。

 再び救いを求めた私はニコに視線を向ける。しかしニコはお手上げといった様子で首を横に振るばかり。


「えーっとぉ…」


 個人的にはルカさん一択なんだけど、ニコの前で角が立たないようにするにはどうしたものかな…。

 

 ***

 

 結局あの後、ニコが機転を効かせてレオに「ある官僚が呼んでいたので、自分はそれを伝えにきた」と言うことでレオを退散させてくれた。

 今回の救いはニコが半休をとってここにきてくれたことを二人が聞いてなかったこと。ありがとうニコ、今度美味しいケーキ買ってくるね…。


 レオも流石に名指しで呼ばれると対応しないといけないのか、ニコの話を聞いて舌打ちをしながら去っていった。ガラ悪いな…とは思いつつもここは原作通りなので特にイメージが崩れたとかはない。

 そしてニコも「流石に半休だから…」と帰ってしまった。私に一言エールを残してくれるあたり、さすがの陽キャ属性。ありがたい。


「すいません、腕の様子確認していただいて…」


 なので、結果的に今ルカさんと二人きりなわけだけど、なんでもいいから何か言ってないと落ち着かない…だってルカさんが怪我の予後を確認するためと言って私の左腕触ってるんだもの。

 心臓がすごい音を立ててる。体強張っちゃうし、至近距離で見れるの頭おかしくなりそう。


「気にしなくていい、このためにいるんだから」

「あ、そ、そうでした。お手数をおかけします…」

「どうしてそんなにかしこまる? その必要はないと思うけど」

「だって副団長、休暇を取られたって…」


 私なんかのためにそんなことしなくていいのに。申し訳なさはある…ので彼自身も休んでほしい。


「君の腕が折れる原因は僕だったわけだから、これもお礼の一つだと思ってほしい。気にしないでくれ」

「…」


 そこまで言われてしまうと何も言えなくなってしまう。私が勝手にやったことなのにな。

 本当、優しいよね…貴方は。

 でもそれを伝えたら、貴方は「そんなことはない」と言ってしまうのだろうか。


「? どうかしたか?」

「!」


 返答に困っていたら不意に彼が私を見た。図らずも見えてしまった前髪の向こうの瞳に心臓が締め付けられる。


「あ、いやその、副団長が今日もお綺麗ですので、心臓がうるさくてですね」


 もう何もかも言ってしまったのだから、といっそ開き直って感情をそのまま口にした。いやだって綺麗なのは本当だし、ずっと貴方が触ってる左腕は熱いんですよ!

 でも、彼は私の言葉に戸惑ったような表情を見せる。その表情に私は慌てて言葉を付け足した。


「す、すみません! 困らせたかったわけでは…! 申し訳ありません!」

「いや、僕も君を困らせたいわけじゃない。ただどうにも慣れていないだけだ」

「慣れ、てない…」


 まぁわからんでもないけど…私だって人生で褒め称えられる経験なんてしてきてないし。

 でもこんなに綺麗な人をみんな易々見逃すものかな? 前髪が長くて顔がちゃんと見えないからそう思うんだろうか。でも漫画でのキャラ人気はしっかりあったし、みんなに見えている部分の問題ってこと…?


「僕は兄上と違って落ちこぼれであることに変わりはない。地味なのも本当だ。君のような人の方が珍しい」

「落ちこぼれ、とは…? 副団長は決してそのような方には見えませんが」

「いいや、落ちこぼれなんだ…あの家では。キャリントンにとって優秀なのは、要領も良くて社交性もカリスマもある兄のことを言う」

「は?」


 彼の自虐的な言葉に、思わず私は眉間の皺を思い切り寄せてしまった。ルカさんはそれに驚いているけど、それすら私としてはそんな必要はないと感じる。


「それはお二人の表面だけを見て言う“優秀”ではありませんか?」

「え?」

「『優秀』という言葉は、偏った価値観のためにあるわけじゃない。貴方と団長にはどちらにも方向性の違う良さがあって、同じように悪い面があります。その本来表裏一体であるものを、驕った価値観で優劣をつける感覚は私にはわかりません」

「…」

「副団長は副団長でしょう? 私は貴方の素敵なところをたくさん知ってるし、貴方が馬鹿にされる理由なんて一つもないと思ってる」

「アンブローズ…」


 彼ら兄弟の周囲の人間はどれだけ汚かったのだろう。二人には二人の違った良さがあるのに。だからこそそれは欠点にもなる。

 レオは確かにカリスマ性も高いし、オレ様野郎の割には話しやすくて人から好かれてる人物だ。戦闘力も高いし憧れる人が少なくないのはわかる。

 でも傲慢で偉そうで、自己中心的なのも事実だ。作中だけでも自分の戦闘欲を満たすために前線に出ていったことも少なくない。その姿が味方を鼓舞しているといえば聞こえはいいけど、大将が潰れたら組織は潰れるんだ、彼はそれを二の次に考えてる。


 一方でルカさんはいつも冷静な人物だ。己の役割を淡々とこなし、かと思えば周囲への気遣いだってよくできてる。カリスマ性とまではいかないけど、彼と彼の隊の人たちはすごく仲がいいのを私は知ってる。戦闘力だって決して彼はレオに引けをとらない。

 でも冷静で淡々としている彼に冷たい印象を抱く人だっているだろうし、彼の行う優しさはどうしても正論っぽくて重箱の隅を突くような言葉なことも少なくないのも見かけている。彼に悪気がない分周りも言いづらいので、そういったところはやっかまれがちだ。


 こうやってそれぞれにいいところと悪いところがある。適材適所と言うならわかるけど、一方だけをもてはやしていい理由にはならないと思う。


「人間なんですから、いいも悪いもあるでしょう? それはそれぞれを認めることに必要なのであって、一方を貶す理由になんかならない」


 レオをもてはやしてルカさんを貶す奴らの中に、どれだけレオに擦り寄りたいやつがいるんだろう…なんて考える。

 王国騎士団団長でキャリントン家次期当主…レオの立場を考えれば無理もないのかもしれない。きっと縁談の話だってたくさんきているはずだ。


 でも、それはルカさんと比較してレオの方が優れているなんて言葉を口にしていい理由には絶対にならない。

 そう考えると、レオも可哀想に思えてくる。可哀想なんて思われたくなさそうだけど、なんか…物語ではそういうキャラって一番を取り続けるようプレッシャーかけられたりしてるよなって、つい考えてしまって。

 まぁ、ルカさんを貶してるのはあいつも同じなので許しはしないけどな。


「君は、どうしてそんな」

「思ったことを言っただけです。確かに私は貴方を贔屓目に見てしまいますが、それでも公平な評価でない一方的な意見は嫌いです」


 私だって前世ではいい評価なんて得られなかった。真面目に仕事してるのは私なのに他人の顔色窺ってる奴らばっかり贔屓されて。

 なまじ営業だったから取引先に必要なのはそれなりにハッタリが利いたプレゼンと愛想みたいな教えだったし、うまく愛想を振りまけない私は沼に落ちていくみたいに雑務だけが増えていった…。

 営業なんて数字が出なければ即効クビなのに私にそれがなかったのは、最初から雑用をさせるためだったのかもしれない。


「団長が何を思って貴方に接しているのかは分かりませんが、私は副団長を支持しています。自信を持てとは言いませんが、そんな奴もいると思ってもらえたら嬉しいです」

「…!」


 素直な言葉を口にしていたら、なぜか彼が顔を真っ赤にしてよそを向いてしまった。急にどうしたんだろう、いやなこと言ったかな。


「大丈夫ですか?」

「あ、いやその…君は本当に変わっているな」

「そうでしょうか? だとしても私は私の行いに後悔なんてないですよ」


 私は、生前誰よりもルカさんを推していたんだから。

 誰よりもルカさんに幸せになってほしいのは私で、誰よりも彼を「素敵な人だ」と胸を張って言えるのも私。

 だから私は、いつだって貴方に対する行いに後悔なんてない。

 それこそ腕なんてなんでもなかった。命だって捧げられるんだもの。


「…すごいな君は、意志が強い」

「それは副団長も同じじゃないですか」

「僕が?」

「手のひらを見ればわかります。貴方の手に残っているのは全て努力の証。どこでも要領のいい人間がもてはやされがちですけど、努力を続ける方が才能が必要なんですよ」


 幼い頃、道を案内してくれた彼よりもずっとさらにタコも増えて硬くなった彼の手を見て思う。イケメンの手って綺麗なはずなのに、彼の手は細い指とは裏腹にとてもゴツゴツしてて硬い。少し不格好に見えるこれが彼の頑張ってきた日々の証だ。


 私がかけてあげられる言葉なんてこんな程度だし、何が届くかわからないけど…きっと何も伝えないよりいいんだと思う。

 私の知らない貴方は、こんなにも頑張ってきたんだって…嬉しくなったから。


「そういえば、腕…問題なさそうですか?」

「あ、あぁ…綺麗にくっついていると思う。動いても問題はないだろう」

「本当ですか!? じゃあ盾を持つところからですね」


 体感としてなんの違和感もなかったけど、改めてそう言ってもらえれば安心もできる。なのでひとまず傍に置いた盾を取り出そうとして、彼の手が肩に触れた。


「待つんだ。君は昨日まで何があったのか忘れたのか?」

「? 忘れていません。なので一日でも早く感覚を取り戻そうと…」

「怪我は完治してからが本番なんだ。もう何日かは様子を見た方がいい」


 言葉の強さに、彼が真剣に怒ってくれているのがわかる。私は不謹慎にもそんな彼も素敵だ、なんてどこかで考えてしまったけど、私よりも実戦経験が豊富なルカさんがそう言うってことは、今動くのは得策じゃないんだろう。


「わかりました、ではこれは片付けてこのまま休もうと思います。本日はありがとうございました」


 今日わざわざ時間割いてくれたのありがたかったな、なんて思いながら頭を下げる。そこから頭を上げると、そこには安心したように微笑むルカさんの姿があった。


「…」


 え、笑…って…。

 なんて固まっていると、彼の掌が不意に私の頬に触れる。


「こちらこそありがとう。帰りは気をつけて」

「…!」


 待っ…。

 そんな、労わるみたいな。


 なんで笑顔、まって、死ぬ。

 どうして貴方はそんなに、綺麗に微笑むの?


「! すまない。勝手に触れるなど不躾だった…いやな思いをさせてしまった」

 ハッと、何かに気づいたように彼は言う。同時に頬に触れていた掌は離れて、私の心臓は機関車のような音を立てて動き始めた。


 いやなんて、そんなわけないじゃん。

 そんなわけないけど、


「いやなんてあるわけないです! でも、今日は心臓が保たないので失礼しますっ!」


 まだ頬に残る感触に心臓がうるさくて、気づいたら私は走り出していた。

 彼の触れた頬に痺れるように感触がこびりついてる。いい匂いもしたし、かお、だって顔…私に笑って!

 もうどうしたら心が落ち着くかわからないまま、私はひたすら走った。


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