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異世界ビール物語~醸造家の異世界転生~  作者: 麦汁酵生


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第八十七話 実りの封陣、赤き果は冬を越えさせる ―Fruit and Spice Beer―

 神麦畑の再植え付けが一段落したころ、グランエッジには奇妙な静けさがあった。


 平穏ではない。


 戦の前、吹雪の前、あるいは酒が本格的に発酵を始める前のような、内側に圧を溜めた静けさだった。


 村人たちは働いていた。表向きはいつもどおりに。畑を耕し、家畜を見て、水車を回し、薪を割る。けれど誰もが知っている。神麦畑を荒らした者たちは、ただの盗人ではない。修道院の一部勢力と地方貴族の私兵がつながっているなら、相手は一度の失敗で諦めるような連中ではなかった。


 次はもっと巧妙に来る。


 その予感が、村の空気をわずかに張らせていた。


 醸は蔵の前で、戻された神麦の苗を見ていた。根を傷めた株のうち半分ほどは持ち直し、淡い緑を小さく揺らしている。だが、完全に元通りとは言えない。今後しばらくは収量が安定しないだろう。


「見てるだけで伸びれば楽なんだけどな」


 醸がぼそりと言うと、


「それができたら農夫は全員酒蔵に転職してるわ」


 背後からレティシアが返した。


 振り向くと、彼女は腕を組み、相変わらずの呆れ顔をしていた。その隣ではミーナが紙束を抱え、眠そうな目をこすっている。


「徹夜か?」


「半徹夜。結界の補助式、書き直してた」


「寝ろ」


「醸も寝てないでしょ」


「俺は大人だからいいんだよ」


「それ、大人が一番言っちゃ駄目なやつ」


「最近、ミーナの正論が鋭いな……」


 ミーナは紙束を広げた。そこには畑の見取り図と、新しく組み直した防御結界の設計が細かく書き込まれている。出入口、警報式、土脈との接続、さらには侵入者の魔力残滓を記録する補助符まで。以前よりはるかに複雑だ。


「これでかなり強くなる。でも」


「でも?」


「結界は“入らせない”か、“入ったのを知らせる”かのどっちかが基本。両方盛ると負荷が大きいし、相手が数で来たら、やっぱり突破される可能性はある」


 醸は頷いた。


「つまり、“侵入されたあとでも村側が立て直せる”仕組みがいる」


「そう」


 レティシアが言う。


「Sahtiで追跡はできた。でも、毎回あんな綱渡りはしたくない。畑を守るだけじゃなくて、村人たちがすぐ動けるようにしたい」


 そこで、醸の中に前夜からぼんやりしていた考えが、少し輪郭を持った。


「保存性が高くて、すぐ使えて、村全体で持てる酒」


「回復薬のラガーじゃ駄目なの?」


 ミーナが首を傾げる。


「駄目じゃない。でも、今回は傷を治すだけじゃ足りない。寒さ、疲労、恐怖、夜間の長時間警戒……そういう“削られる力”をまとめて支えたい」


 レティシアが眉を上げる。


「つまり、戦闘用というより籠城用?」


「近いな。しかも、神麦を大量に使わずに作れるもの」


 神麦を節約しつつ、村の防衛力を底上げする酒。


 必要なのは派手な一撃ではなく、広く長く効く支えだ。王都で貴族を驚かせる酒ではない。豪胆な戦士を一時的に強化する酒でもない。夜通し見張りに立つ老人や、避難した子どもをあやしながら水を運ぶ女たちや、朝まで火を絶やさず鍛冶を続ける男たちに必要な酒。


 そのとき、蔵の裏手から甘い香りが風に乗った。


 振り向けば、村の子どもたちが山採りの木苺を大籠に入れて運んでいる。夏から秋へ移るこの時季、山の陽だまりには野生の赤い実がよく成る。小粒で酸味が強く、そのままでは少し渋いが、煮詰めて蜜にすれば保存も利く。


「……あ」


 醸はその実を見て立ち上がった。


「どうしたの?」


 ミーナが訊く。


「果実だ」


「急に雑な答え」


「いや、でも大事なんだよ。果実の酸、香り、糖。そこに香辛料を組み合わせれば……」


 醸はもう半分、自分の頭の中へ潜っていた。


「温める力と、気を保つ力を酒に乗せられるかもしれない」


「新しいビール?」


「Fruit and Spice Beer。果実と香辛料を使う、拡張型のビールだ」


 レティシアが少し笑う。


「また始まったわね、“何か見えた”顔」


「今回はちゃんと村のためだぞ」


「いつもそう言うのよ、あなたは」


     


 その日の午後、醸は村中を歩き回った。


 山採りの木苺。乾燥させた林檎片。去年の冬越し用に残されていた蜂蜜少量。香辛料としては、王都経由で入ったコリアンダーと乾燥オレンジピールがまだ少しある。加えてこの土地ならではのものとして、エッダが保管していた山椒に似た痺れの実、甘い香りを持つ森桂皮、それに身体を温める赤根草。


「全部入れる気?」


 エッダが目を細める。


「全部は入れません。やりすぎるとただの薬湯になる」


「普段のあんたの酒も、だいぶ薬湯寄りだけどね」


「否定できないのが悲しい」


 素材を並べながら、醸は考えた。


 今回の酒の役目は三つ。


 ひとつ、寒さと疲労に対抗する持久力。


 ひとつ、不安と緊張で削られる集中力の維持。


 ひとつ、村に“まだやれる”という気持ちを戻すこと。


 果実はただ甘く香るだけではない。味の輪郭を明るくし、人の心を前へ向かせる力がある。香辛料は量を誤れば暴れるが、正しく使えば芯を温め、呼吸を整え、酒の効きを特定の方向へ導ける。


「ベースはエール寄り?」


 ミーナが帳面を持って覗き込む。


「いや、今回は中間だな。軽い発酵感を残しつつ、回復にも少し触れたい。完全な魔力回復一本じゃない」


「神麦は?」


「最小限。味の芯に細く通すだけ」


「じゃあ、効果は」


 レティシアが尋ねた。


「たぶん“消耗を先払いで防ぐ酒”になる」


 彼女は言葉を吟味するように繰り返した。


「消耗を……先払いで防ぐ」


「傷を治すんじゃない。崩れきる前に支える。冷え切る前に温める。怯えきる前に息を整える」


「守りの酒ね」


「ああ。畑も村も、今はそれがいる」


     


 仕込みはいつもより静かに始まった。


 麦芽の香ばしい甘みを引き出したあと、木苺を潰して加える。赤い果汁が麦汁の中へ落ちると、金色だった液は少しずつ夕焼けのような色味を帯びた。そこへ乾燥林檎の柔らかい甘さを重ね、最後にごく少量の蜂蜜を垂らす。


 香辛料は慎重だった。


 コリアンダーは香りを持ち上げるために少し。オレンジピールは重さをほどくために少し。森桂皮は芯の温かさのために欠片だけ。赤根草は煎じすぎると土臭くなるので、最後に短く触れさせる。山椒に似た実は、ほんの数粒。


「すごい匂い……」


 ミーナが目を丸くした。


「ビールというより、お祭りの台所みたい」


「いい表現だな」


 醸は笑った。


「たぶん今回は、それで正しい」


 蔵の中には、麦の甘さだけではない鮮やかな香りが満ちていった。赤い実の酸、柑橘の軽やかさ、香辛料の温かい影。いつものビールが“土と水と火”の匂いだとすれば、今回はそこへ“季節の色”が混ざっている。


 村人たちも自然と集まってきた。酒好きだけではない。仕込みの匂いに惹かれた子ども、赤根草を届けに来た老婆、鍛冶の休憩中に顔を出した男たち。蔵の中の空気が、久しぶりに少し明るかった。


「なんだか、怖いことが少し遠くなる匂いね」


 パン屋の女将が言う。


「そうなればいいな」


 醸は木杓子を回しながら答えた。


「酒だけで全部は解決できないけど、解決する人間を支えることはできる」


 発酵は穏やかに進んだ。


 Sahtiのときのような、祖霊が桶を鳴らすような荒い気配はない。代わりに、泡は赤みを帯びた夕雲のように柔らかく広がり、香りは日に日に丸くなっていく。木苺の鋭さが和らぎ、林檎の甘やかさが下支えし、スパイスがその間を細い線のように縫っていく。


 三日後、試飲の日が来た。


     


 最初の一杯は、村の夜警隊に回された。


 日が落ち、山風が冷えを増すころ、見張り台の下で小さな木杯が配られる。今回の酒は見た目にも印象的だった。淡い赤銅色。光にかざすと、夕焼けと琥珀の中間のように揺れる。泡立ちは控えめだが、香りは華やかで、冬支度の果実庫を開けたような安心感があった。


「では」


 醸はひと口飲んだ。


 最初に来たのは木苺の明るい酸味だった。だが尖ってはいない。すぐ後ろから林檎の丸みが支え、麦の甘さが土台を作る。そこへ遅れて、コリアンダーとオレンジピールがふわりと抜け、最後に森桂皮と赤根草のごく穏やかな温かさが胸へ落ちた。


 派手ではない。


 けれど、飲み込んだあとに身体の中心へ小さな灯がともるような感覚がある。肩の力が抜け、呼吸が深くなり、張りつめていた神経が“鈍る”のではなく“整う”。


「……いい」


 レティシアがすぐに言った。


「眠くならないのに、怖さだけが少し遠くなる」


「それだ」


 醸は頷く。


「狙ってたのはそこだよ」


「足先の冷えも引く」


 夜警の男が驚いたように自分の手を握る。


「しかも、腹に重くない」


「見張り中に鈍る酒は駄目ですから」


 ミーナも飲んで、しばらく目を閉じた。


「魔力の巡りも少し楽になる。すごく回復するわけじゃないけど、消費が荒くならない感じ」


「節約型か」


「うん。結界維持には向いてる」


 それを聞いた醸は、ようやく胸のつかえが少し下りるのを感じた。今回の酒は奇跡のような大勝利をもたらすものではない。だが、村を守る夜を一つ越えさせるには、十分な力になりうる。


 酒はその晩から、“封陣果酒”と呼ばれ始めた。


 果実の香りで心を閉ざさず、香辛料で身体を冷やさず、神麦の細い力で結界維持を下支えする。防衛と避難のために配る酒として、これ以上なくわかりやすい名だった。


     


 だが、その真価が示されたのは三日後だった。


 夜半、畑ではなく村の水路側で警報が鳴った。


 甲高い鐘ではない。ミーナが改修した補助式が、異常魔力を感知したときだけ鳴らす低い石音。ご、と鈍く響くその音に、村の空気が一瞬で変わる。


「来た!」


 見張り台の声が飛ぶ。


 男たちが飛び起き、女たちが子どもを抱え、各家の灯りがともる。だが前回とは違った。混乱が広がる前に、配備されていた“封陣果酒”が木樽ごと開かれ、避難誘導役と夜警、結界維持役へ順番に配られていく。


「一口ずつ! 飲みすぎるな!」


 醸も蔵から樽を運びながら叫ぶ。


「寒いところに出る人から回せ!」


 水路側へ駆けつけると、暗闇の向こうで黒装束の影が三つ、いや四つ動いた。前回のような雑な畑荒らしではない。村内の導水路を止め、混乱に乗じて別働隊を入れるつもりなのだろう。やり口が変わっている。


「敵も学習してるわね」


 レティシアが剣を抜いた。


「こっちもな」


 醸は樽栓を閉め、深く息を吸う。


 村人たちはすでに酒を飲んでいた。頬にほんのり色が戻り、足取りがぶれない。寒風の中でも手がかじかまず、指示が頭に入りやすい。子どもを連れた母親たちも過剰に怯えず、避難小屋へまとまって動けていた。結界を支えるミーナの額には汗が滲んでいたが、呼吸は乱れていない。


「右岸の符線、維持できる?」


 醸が叫ぶ。


「できる! でもあと二分、誰か補助を!」


 若い術士見習いが“封陣果酒”を一口飲み、震えていた手を握り直す。


「……いけます!」


 その声は、さっきまでより確かだった。


 水路へ降りたレティシアたちが影と交錯する。鋼が夜に鳴る。相手は前より洗練されていたが、村側は崩れない。寒さで足を取られず、恐怖で指示が飛ばず、疲労で立ち位置を誤らない。それだけで防衛はこんなにも変わるのかと、醸は息を呑んだ。


 そして決定打になったのは、果実香だった。


 “封陣果酒”を飲んだ村人たちの吐息には、赤い実と香辛料の匂いがほんのり残る。それが夜気の中に漂い、避難小屋や見張り台の位置を仲間同士が感覚的に把握しやすくしていた。闇の中で、“人のいる場所”が安心の匂いとしてわかるのだ。


「醸!」


 ミーナが叫ぶ。


「敵の片方、導水弁のほう!」


「見えない!」


「匂い! 果酒を撒いて!」


 言われるまま、醸は木杯に酒を汲み、水路脇の石へ思い切りぶちまけた。果実と香辛料の香りが一気に立ち、風向きが変わる。その瞬間、闇に潜んでいた影が鼻先で僅かに動いた。


「そこ!」


 レティシアの一閃が走る。


 敵は深手を避けて退いたが、導水弁の破壊は阻止された。残る影も、村人たちの連携に押されて撤退する。長くはない戦いだった。けれど前回と違い、村は一方的に荒らされなかった。備え、耐え、押し返したのだ。


 石音が止み、風だけが残る。


 その中で、誰かが小さく笑った。


「勝った……?」


「いや、追い返しただけだ」


 レティシアが呼吸を整えながら言う。


「でも、充分よ。今回はこっちが守り切った」


 村人たちの間に、遅れて実感が広がっていく。泣き出す子もいた。へたり込む男もいた。だが、それは絶望ではなく、張っていた糸が切れた安堵の涙だった。


 ミーナがその場に座り込みながら、木杯を掲げる。


「封陣果酒、成功」


「名前、正式採用なんだな」


 醸が苦笑する。


「だってもう、みんなそう呼んでるし」


「悪くない」


 レティシアも珍しく素直に言った。


「甘すぎないし、気持ち悪くならないし、怖い夜にちょうどいい」


「感想が実戦すぎる」


「実戦用だもの」


     


 翌朝、村の広場では小さな炊き出しが行われた。


 昨夜の防衛で大きな被害は出なかった。軽傷者はいたが、ラガーの回復薬で十分対処できる範囲だった。何より大きかったのは、村人たちの目から“次もやられるだけだ”という色が薄れたことだった。


 醸は広場の隅で、残った果酒樽を見つめていた。


「また一つ、酒が増えたわね」


 レティシアが隣に来る。


「増やしたくて増やしてるわけじゃないんだけどな」


「でも、必要だから造った」


「ああ」


 醸は頷く。


「今回は派手じゃない。英雄の酒でもない。けど、こういうのが一番大事なのかもしれない」


「縁の下ってやつ?」


「そう。誰かが立ってる間、その足が冷えないための酒」


 ミーナもやってきて、帳面を開いた。


「記録するよ。木苺、乾燥林檎、蜂蜜少量、コリアンダー、オレンジピール、森桂皮、赤根草、痺れの実微量。効果は、冷え耐性向上、疲労蓄積の緩和、精神安定、結界維持補助、夜間連携補助」


「最後のだけ妙に軍事的だな」


「昨夜、ほんとに役立ったもん」


「事実だから反論できないな……」


 広場では子どもたちが、昨夜は泣いていたのが嘘みたいに走り回っていた。炊き出しの鍋からは湯気が立ち、村の女たちが笑いながらパンを切っている。鍛冶屋は壊れた水路蓋を叩き直し、猟師は夜の足跡を確認しに出る準備をしていた。


 生活が戻っている。


 ただ耐えたのではない。守った先に、ちゃんと朝が来ている。


「なあ、レティシア」


「何」


「相手、また来ると思うか?」


「来るわ」


 彼女は即答した。


「しかも次は、もっと奥を狙う。酒か、人か、流通か。神麦だけとは限らない」


「だよな」


「でも」


 彼女は少し空を見た。


「今度は、こっちも前より準備できる」


 醸はその言葉を聞き、ゆっくり息を吐いた。


 敵は消えていない。陰謀も終わっていない。むしろここからが本番なのだろう。けれど、酒はもう単なる奇跡の産物ではなかった。傷を治す酒。魔力を戻す酒。追跡する酒。そして今、村を夜のあいだ支え続ける酒。


 奪われるたびに、新しい答えが生まれる。


 壊されるたびに、次の醸造が必要になる。


 それは悔しくもある。だが同時に、前へ進む理由でもあった。


「次は、もっと攻める酒がいるかもな」


 醸が呟くと、


「ええ。守るだけじゃ足りなくなる日が来る」


 レティシアが答える。


「そのときは?」


「そのときは、そのときに合う一杯を造るさ」


 ミーナがにやりと笑う。


「じゃあ、また忙しくなるね。ビール薬師さま」


「その呼び方、最近ますます定着してるな……」


「諦めて」


「うん、たぶんもう遅い」


 広場の向こうで、風に揺れた神麦が朝日を受けた。


 まだ弱い。まだ少ない。けれど折れてはいない。


 そしてその傍らには、赤い果実の香りを残した木樽が並んでいる。


 傷ついた村には、傷ついた村なりの酒がある。


 その一杯は剣の代わりにはならない。


 けれど剣を握る手を、震えないよう支えることはできる。


 醸は木樽に手を置き、静かに目を細めた。


「次は誰の夜を越えさせる酒になるんだろうな」


 その問いに答えるように、山から吹く風が赤い実の残り香をさらっていった。


 甘く、温かく、そして確かに前を向かせる香りだった。



     


 季節が変わり始めた頃、旅人から奇妙な話を聞いた。


 南の交易路を歩いてきたという男で、療養のために立ち寄ったのだが、話の途中でこんなことを言った。


「南の方の村で、変な酒が出回ってると聞きました。飲んだ者が妙に従順になるとか、逆に異様に攻撃的になるとか。効く人間と効かない人間がいるらしくて、それが予測できないのが怖いと」


「どのあたりの話だ」

 醸が問うと、男は首を振った。

「どこかまでは聞いてないですが、川沿いの交易都市と言っていたような……ベルメとか、その辺りだったかと」


 醸はその名前を胸の中に留めた。変な酒。従順になる。攻撃的になる。効く人間と効かない人間がある。


 自然に発酵した酒でそんな効果は出ない。神麦を悪用するか、あるいは全く別の何かを使っているか。どちらにせよ、酒を人の意志に干渉する道具として使っているなら、醸造師として見過ごせない話だった。


「レティシア」

「聞いてた」

「ベルメって知ってるか」

「川沿いの中規模の交易都市。商業的には活発だが、力のある商会が多くて政治的には複雑な場所よ」

「そういう場所に変な酒が流れてる」

「……厄介ね」


 まだ全貌は見えない。だが、誰かが「酒の力」を悪い方向に使おうとしているかもしれない。その予感だけが、仕込みの合間にじわりと染み込んできた。


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