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魔剣のアカリ ~魔王討伐より鍛冶がしたい~  作者: フェアリーP


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第6話 魔法には、◯◯が必要だった

 森の中を歩き始めてから、どれくらい経っただろう。


 正確な時間は分からない。


 時計なんて持っていないし、太陽の位置も、異世界に来たばかりの俺にはまだよく分からない。


 ただ、一つだけ分かっていることがある。


「……疲れた」


 まただ。


 少し歩いただけなのに、足が重い。


 一度立ち止まって息を整える。


 自分では普通に歩いているつもりなのに、身体は正直だった。


 ゲームのキャラクターなら、こんなことで疲れたりはしない。


 だが、ここでは俺自身が動いている。


 身体は十歳くらい。


 それなのに、ステータスは――。


 レベル1。


 力2。


 体力2。


「……鍛冶師になる前に、身体を鍛えたほうがいいんじゃないか?」


 思わずそんなことを考える。


 しかし、すぐに首を振った。


 今の俺に必要なのは筋トレよりもレベル上げだ。


 レベルが上がれば、きっと身体能力も伸びる。


 少なくとも、力2のままでは鍛冶師として仕事を始めることすら難しい。


 問題は――。


「魔物がいないんだよな」


 周囲を見回す。


 大きな木。


 草。


 岩。


 さらにその向こうにも木。


 森はひたすら続いている。


 動物の気配は時々する。


 鳥の鳴き声も聞こえる。


 だが、今のところ俺に襲いかかってくるような魔物は見当たらない。


「まさか、本当に平和な場所なのか?」


 女神は、ここは比較的安全な場所だと言っていた。


 赤ミスリルの採れる鉱山もある。


 ただし、普通の鉱山なら強い魔物が出る可能性があるとも言っていた。


 俺が送られた場所は、その中でも魔物の活動が少ない場所らしい。


 つまり。


「安全すぎて、レベル上げができない……」


 なんとも微妙な状態だった。


 素材を探しに来たのに、鉱山はまだ見つからない。


 レベルを上げたいのに、魔物も出ない。


 さらに、つるはしは重すぎる。


 魔法も使えない。


「……困ったな」


 俺は頭を掻いた。


 そのときだった。


「ん?」


 何かが視界の端で光った気がした。


 俺は立ち止まる。


 木々の隙間。


 少し離れた場所に、淡い光が見えた。


「……なんだ?」


 俺はそちらへ歩いていく。


 一歩。


 二歩。


 途中で疲れたので、少し休む。


「身体が弱すぎる……」


 愚痴をこぼしながら、ようやく光の近くまでやって来た。


 そこにあったのは、小さな木だった。


 枝に、赤く光る実がいくつも実っている。


「……果物?」


 手を伸ばす。


 実はほんのりと熱を持っていた。


「温かい……」


 ただの果物ではない。


 俺はゲーム時代の知識を思い出す。


 火属性に関係する素材。


 赤い。


 光っている。


 そして、触れた瞬間に感じるこの熱。


「まさか……」


 鑑定を使ってみる。


「鑑定」


 目の前に表示が浮かぶ。


 ――ファイアフルーツ。


「……やっぱり!」


 俺は思わず声を上げた。


 ファイアフルーツ。


 火属性魔法の触媒になる果実だ。


 俺は急いで実を採る。


 しかし、すぐに手を止めた。


「……待てよ」


 俺は周囲を見る。


 赤く光る実が、いくつもある。


 しかも一本の木だけではない。


 少し先にも、同じような木がある。


「こんなにあるのか?」


 ゲームなら、魔法触媒は序盤でもそれなりに手に入る。


 だが、ここは現実だ。


 本当に使えるのだろうか。


 俺は一本の実を持ったまま、もう一度ステータスを確認する。


 火属性魔法。


 ちゃんと表示されている。


「じゃあ……」


 試すしかない。


 俺は少し開けた場所へ移動した。


 周囲に燃えやすそうなものがないことを確認する。


 手に持ったファイアフルーツを見る。


「これを使って魔法を発動できるなら……」


 俺は右手を前へ出した。


「ファイア!」


 瞬間。


 ――ボッ!


「うわっ!」


 手の前に、小さな炎が生まれた。


 赤い炎が一瞬だけ揺らめく。


 熱が顔に伝わる。


 俺は目を丸くした。


「出た……!」


 思わず笑ってしまう。


 さっきまで何度やっても何も起きなかった。


 それが、触媒を手にしただけで簡単に発動した。


「そういうことか!」


 俺は急いでステータスを見る。


 魔力の数値が一つ減っている。


 さらに、持っていたファイアフルーツが一つ消えていた。


「魔力1と、ファイアフルーツ1個……」


 つまり。


 この世界では、魔法を使うために魔力だけでは足りない。


 属性に対応した触媒が必要なのだ。


「ゲームには、こんな仕様なかったぞ……」


 俺はしばらく呆然とした。


 『ファイナルオンライン』の知識は、この世界で確かに役に立つ。


 だが、完全に同じではない。


 そこが重要だった。


 ゲームの知識をそのまま当てはめるだけでは、失敗する。


 逆に言えば。


 ゲームには存在しなかったルールを理解できれば――。


「もっと効率よく使えるかもしれない」


 俺は魔力の残量を確認する。


 少し時間が経つ。


 すると。


「……戻った?」


 減っていた魔力が、少しずつ回復している。


「……一秒で一?」


 試しに時間を数える。


 一。


 二。


 三。


 確かに回復している。


「魔力は自然回復するのか」


 これもゲームとは少し違う。


 俺は思わず頷いた。


「なるほど」


 魔法を一発使う。


 魔力が減る。


 時間が経つ。


 回復する。


 触媒さえ確保できれば、かなり魔法を使える。


 なら――。


「触媒を集めよう」


 結論は早かった。


 俺はファイアフルーツをどんどん採取していく。


 赤く光る実。


 それを見つけるたびに採る。


 アイテムボックスへ入れる。


 また探す。


「これだけあれば、しばらく困らないな」


 採取しているだけでも楽しい。


 鍛冶師として、素材が目の前に大量にあるというだけで気分が上がる。


 しかも、これは魔法に使える。


 俺にとっては、新しい素材と同じようなものだった。


 さらに探索を続けていると――。


「今度は青か」


 別の木に、青く光る実を見つけた。


 鑑定する。


「ウォーターフルーツ」


 水属性魔法の触媒。


「これも使える!」


 さっそく一つ採って、魔法を試す。


「ウォーターボール!」


 水の塊が生まれ、そのまま前方へ飛んでいった。


「おお……!」


 思わず拍手してしまう。


 今まで何もできなかったのが嘘のようだ。


 俺は青い実も大量に採取した。


 ファイアフルーツ。


 ウォーターフルーツ。


 どちらも十分な数が集まった。


 そして、俺は新しい目標を見つけていた。


「風と土も欲しいな」


 ゲームの魔法使いなら、属性が多いほどできることが増える。


 敵の弱点を突く。


 環境に合わせる。


 素材を加工する。


 使い道はいくらでもある。


「できれば光と闇も……」


 だが、それらしい実は今のところ見つからない。


 俺は周囲の植物を観察する。


 色。


 形。


 光り方。


 葉。


 実。


 根。


 何か見落としていないか。


「……そういえば」


 俺はふと気づいた。


 さっきのファイアフルーツ。


 最初から、あんなに分かりやすく光っていた。


 なのに。


「俺、最初にここを通ったとき……気づかなかったよな?」


 森に入ってから、かなり周囲を見回したはずだ。


 食べられるものはないか。


 危険なものはないか。


 魔物はいないか。


 鉱山はどこか。


 ずっと探していた。


 それなのに、こんなに目立つ実を見落としていた。


「……なんでだ?」


 俺は首を傾げる。


 考えてみても答えは出ない。


 鑑定を使わなければ見えないわけでもない。


 今は普通に見えている。


「まあ、いいか」


 今は原因を考えても仕方がない。


 それより重要なのは――。


「他にも魔法の触媒があるはずだ」


 風。


 土。


 光。


 闇。


 そして、できれば回復に使える薬草も欲しい。


 この世界では怪我をする。


 ゲームのように、簡単に治せるとは限らない。


「回復薬があるなら、それも探さないとな」


 俺は周囲を見渡した。


 森は広い。


 鉱山もまだ見つからない。


 体力も少ない。


 でも。


「やることは増えたな」


 俺は笑った。


 魔法が使えないと思っていた。


 つるはしも持てない。


 レベルも上げられない。


 先ほどまで、問題だらけだと思っていた。


 だが、触媒というものの存在が分かっただけで、一気に可能性が広がった。


「ゲームと違うなら、違うなりに攻略すればいい」


 それが俺のやり方だ。


 知らない仕様なら調べる。


 使える素材なら集める。


 便利なものなら試す。


 そして――。


「いつか、すごい武器を作る」


 俺はアイテムボックスに大量のファイアフルーツとウォーターフルーツが入っているのを確認した。


 これだけでも、かなり安心できる。


 あとは、風と土。


 光と闇。


 それから回復に使えるもの。


 できるだけたくさん集めよう。


「……そうだ」


 俺は空を見上げた。


「まずは生き残らないとな」


 魔王を倒す。


 その前に。


 レベルを上げる。


 鉱山を探す。


 素材を集める。


 鍛冶の準備をする。


 やることは、いくらでもある。


 俺は十歳くらいの小さな身体を動かし、再び森の奥へ向かった。






 ――この森が、思っていた以上に巨大なことにも気づかないまま。


 そして、俺の異世界生活が、少しずつ「ゲーム攻略」から「現実の探索」へ変わり始めていることにも気づかないまま。


 ただ一人。


 大量のファイアフルーツとウォーターフルーツを抱えて。


 俺は歩き続けた。

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