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魔剣のアカリ ~魔王討伐より鍛冶がしたい~  作者: フェアリーP


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第17話 鉱山の奥にいた、神聖天デュランダル


 ――カン。


 金属を叩く音が、鉱山の奥から聞こえてきた。


 私たちは顔を見合わせた。


「……誰かいるのかな?」


「分からない」


 ハリッサは大剣を握り直した。


 私も周囲を見回す。


 ここは、私たちがずっと採掘していたレッドミスリル鉱山だ。


 鉱石を掘り、金属を精製し、武器を作る。


 そんなことを繰り返していた場所だけど、これまで誰かの気配を感じたことはなかった。


 そもそも、女神アリステラからは、この鉱山には魔物が出ないと聞いていた。


 だからこそ、レベル1の私でも安全に採掘できると思ったのだ。


 ……実際には、レベル1の身体で採掘すること自体が大変だったけど。


「もしかして、別の鍛冶師がいるのかな?」


「鍛冶師?」


「うん。こんなところで金属を叩いているんだから、武器を作っているのかもしれない」


「そうなの?」


「たぶん」


 自分で言っておいて何だけど、根拠はない。


 鉱山で金属を叩く理由なんて、鍛冶以外にもあるだろう。


 それでも、私の頭の中ではすでに新しい鍛冶師との出会いが始まっていた。


 もしかしたら、この世界の鍛冶技術を教えてもらえるかもしれない。


 ゲームと現実では違う部分も多い。


 この世界の鍛冶師が、どんな設備を使い、どんな方法で武器を作るのか。


 知りたいことは山ほどある。


「ちょっと見てみよう」


「うん!」


 私たちは音のする方向へ歩き始めた。


 足元には、採掘された鉱石の欠片が散らばっている。


 壁には赤い鉱脈が走り、ところどころに私が魔法で照らした跡も残っていた。


 進むにつれて、通路は少しずつ狭くなっていく。


 そして――。


 カン。


 また音がした。


 今度は、さっきよりもはっきりと聞こえた。


「……近いね」


「うん」


 ハリッサが小さく頷く。


 その表情は真剣だった。


「何かいる?」


「分からない。でも、向こうに何かいる気がする」


 ハリッサの感覚は、私よりずっと優れている。


 森で狼に襲われたときも、彼女は私より早く気配に気づいていた。


 その彼女が警戒している。


 なら、私も気を引き締めたほうがいいだろう。


 私はアイテムボックスの中身を確認した。


 回復用のアイテム。


 魔法の触媒。


 予備の武器。


 ……そして、女神からもらったつるはしとシャベル。


 ゴッドクオリティの道具だ。


 以前、鍛冶鑑定で品質を確認したときには驚いたものだ。


 見た目は普通なのに、実際には神品質。


 しかも、アイテムボックスの中で補充されるという謎の仕様まである。


 ゲームなら、こんな道具を手に入れたら大喜びしていたと思う。


 でも今は、少しだけ不安だった。


 こんなに規格外の道具を持っていて、本当に大丈夫なのだろうか。


 ……いや、道具に罪はない。


 悪いのは、たぶん使い方だ。


 私は何も考えずに採掘へ使っていたけど、もしかすると、この道具が原因で何かを引き寄せた可能性もある。


 そう考えると、あまり気軽に振り回すのもよくない気がした。


「アカリお姉ちゃん?」


「うん?」


「止まってるよ?」


「あ、ごめん」


 考え込んでいたら、いつの間にか足が止まっていた。


 私はハリッサの後ろについて、さらに奥へ進む。


 やがて通路が開け、少し広い空間に出た。


 そこには、見慣れないものがあった。


 鉱山の壁に背を向けるようにして、一人の人影が立っている。


 黒いフード。


 黒い外套。


 そして、手に持っているのは一本の剣だった。


 男は、目の前にある岩壁を見つめていた。


 まるで、そこに何かを探しているかのように。


 カン。


 男が剣の柄で岩を叩く。


 金属音の正体は、それだった。


「……あの」


 私は思わず声をかけた。


 男がゆっくりと振り返る。


 フードの奥から、こちらを見つめる気配がした。


「何者だ」


 低い声。


 それだけで、空気が張り詰めた。


「えっと、私はアカリ。こっちはハリッサです」


 とりあえず、自己紹介をしてみる。


 相手が誰なのか分からないのだから、まずは名前を聞くのが普通だろう。


 ……たぶん。


 男は私たちをしばらく眺めていた。


 そして、手にした剣を軽く持ち上げた。


「我が名は、神聖天デュランダル」


「……え?」


 その名前を聞いた瞬間、頭の中にゲームの記憶がよみがえった。


 神聖天。


 『ファイナルオンライン』に登場する、意思を持った伝説の武器シリーズ。


 プレイヤーたちが挑戦する、長大な連続クエストの強敵たち。


 確か、全部で百八体だったはずだ。


 それぞれが固有の能力を持ち、普通の敵とは比較にならない強さを誇る。


 ……だったような気がする。


「…………」


 私は必死に記憶を探った。


 デュランダル。


 伝説の剣。


 神聖天。


 イベント。


 攻略方法。


 弱点。


 報酬。


 ……駄目だ。


 名前しか思い出せない。


 そもそも、私は戦闘イベントにあまり興味がなかった。


 他のプレイヤーが攻略に夢中になっている間も、私は鉱山で採掘していた。


 新しい素材が手に入ったら、まず武器を作る。


 鍛冶スキルの経験値が入るなら、多少面倒でも繰り返す。


 品質が上がれば嬉しい。


 失敗しても、素材が残るならもう一度作る。


 そんな遊び方ばかりしていたのだ。


 だから、神聖天の攻略情報など、ほとんど知らない。


 ……いや。


 冷静に考えたら、ものすごくまずいのでは?


 ゲームなら、攻略サイトを見ればいい。


 でも、ここには攻略サイトがない。


 目の前の敵に、攻略情報を聞くわけにもいかない。


「……最悪だ」


 思わず呟いてしまった。


「アカリお姉ちゃん?」


「ううん、何でもないよ」


 ハリッサが不思議そうに私を見た。


 私は小さく首を振る。


 今は、目の前の相手に集中しなければ。


 デュランダルは、私たちを見比べていた。


「……子供か」


 その視線が、私の身体を上から下までなぞる。


「しかも、エルフ……?」


 何か気になることがあるらしい。


 だが、すぐに興味を失ったように、視線をハリッサへ移した。


「そこをどけ。用があるのは、お前たちではない」


「え?」


 私は思わず聞き返した。


「では、誰に用があるんですか?」


「……」


 デュランダルは答えなかった。


 代わりに、彼の視線が私の持ち物へ向けられた。


 正確には、アイテムボックスの中にあるものを見透かすような視線だった。


「なるほど」


 男の声が低くなる。


「その波動か」


「波動?」


「ゴッドクオリティの波動だ」


 その言葉に、私は息を呑んだ。


 ゴッドクオリティ。


 女神が用意してくれた、あのつるはしやシャベルの品質だ。


 どうして、この男がそれを知っているのだろう。


「貴様、神の品質を持つ道具を所持しているな」


「……えっと」


「すべて差し出せ」


 即答だった。


 交渉の余地はない。


「それは、ちょっと困ります」


「なぜだ」


「採掘に使うので」


「……採掘?」


 デュランダルの声が、わずかに低くなった。


 何か間違ったことを言っただろうか。


 いや、間違ってはいない。


 つるはしは採掘道具だ。


 シャベルは土を掘る道具だ。


 どちらも本来の用途で使っているだけである。


 ただ、品質が神品質だったというだけで。


「貴様は、そのようなものを採掘に使っているのか?」


「はい」


「…………」


 沈黙。


 あれ?


 もしかして、使い方が間違っていたのだろうか。


 神品質の道具って、もっと大事に保管するものだったのかな。


 でも、使わなければ意味がない。


 道具は使ってこそ道具だ。


 ……うん。


 やっぱり、私の考えは間違っていないはず。


「アカリお姉ちゃん」


 ハリッサが私の袖を引いた。


「この人、危ないよ」


「……うん」


 その一言で、私は現実に引き戻された。


 そうだ。


 今は道具の使い方について考えている場合ではない。


 目の前の男は、私たちの持ち物を奪おうとしている。


 そして、ハリッサはすでに剣を構えていた。


「アカリお姉ちゃんは、下がってて」


「ハリッサ……」


「私が戦うから」


 その声は、いつもの明るい調子とは違っていた。


 真剣だった。


 私は彼女の背中を見つめる。


 小さな身体。


 けれど、その背中には確かな強さがあった。


 狼を倒したときも。


 猪を倒したときも。


 ハリッサは、いつだって私を守ってくれた。


 だからこそ、今度も頼りたいと思ってしまう。


 でも、相手は神聖天だ。


 名前しか知らないとはいえ、普通の魔物とは違う。


「無理はしないでね」


「うん!」


 ハリッサは元気よく返事をした。


 ……本当に分かっているのだろうか。


「話は終わったか?」


 デュランダルが剣を構えた。


「ならば、始めよう」


 次の瞬間。


 ハリッサの姿が消えた。


「――っ!」


 私の目が、動きを追いきれなかった。


 地面を蹴った音が遅れて響く。


 ハリッサは一瞬でデュランダルの懐へ入り、大剣を振り抜いていた。


 ガキィィンッ!


 金属が激突する甲高い音が、鉱山に響き渡った。


 デュランダルは、片手で剣を受け止めていた。


「ほう……」


 わずかに感心したような声。


「その体格で、この速度か」


「まだまだ!」


 ハリッサは大剣を引き戻し、間髪入れずに二撃目を放つ。


 横薙ぎ。


 返す刃。


 踏み込みからの斬り下ろし。


 重い武器とは思えない速度で、連続して斬撃を繰り出していく。


 その動きは、以前のシャベル二刀流とは違っていた。


 左右の武器で相手を翻弄するのではなく、一本の大剣を軸に、攻撃と防御を滑らかにつないでいる。


 バレンティス剣術。


 ハリッサが記憶を失っても、身体だけは覚えている剣技。


 その技術が、今、目の前で発揮されていた。


 ガキンッ!


 ギィンッ!


 ガガガガガッ!


 剣と剣がぶつかるたび、火花が散る。


 ハリッサは攻撃を止めない。


 一撃を受け止められれば、すぐに角度を変える。


 相手が剣を引けば、間合いを詰める。


 横へ逃げれば、踏み込んで追撃する。


 その一連の動きには、無駄がなかった。


「……すごい」


 私は思わず呟いた。


 ハリッサの剣技は、本物だ。


 ただ力が強いだけではない。


 相手の動きを見て、剣の軌道を読み、次の動きへつなげている。


 記憶を失っているはずなのに、身体は剣の使い方を覚えている。


 彼女が何者なのか。


 なぜ森の中で拘束されていたのか。


 なぜ、これほど強いのか。


 分からないことばかりだ。


 それでも、今は彼女の強さを信じたいと思った。


「ふむ……」


 デュランダルが、わずかに後退した。


「子供にしては、よく鍛えられている」


「子供じゃないもん!」


「その言い分は、どうでもよい」


 デュランダルは剣を持ち直した。


「だが、その武器では我を斬れぬ」


「そんなことない!」


 ハリッサが踏み込む。


 全身の力を乗せた斬り下ろし。


 ガァンッ!


 地面に亀裂が走った。


 デュランダルの足元が、わずかに沈む。


 それでも、彼の身体には傷ひとつついていなかった。


「我が身に、並の刃は通らぬ」


 デュランダルは淡々と言った。


「その程度の武器で、我を倒せると思うな」


「……っ!」


 ハリッサが一歩下がった。


 攻撃が通らない。


 その事実に、彼女も気づいたのだろう。


 しかし、怯んではいなかった。


 大剣を握り直し、再び構える。


「だったら、もっと強く斬る!」


「単純なことだ」


 デュランダルが、笑ったように見えた。


「嫌いではない」


 その言葉と同時に、彼の姿が揺らいだ。


「――え?」


 速い。


 ハリッサの動きも十分に速い。


 それなのに、デュランダルの動きは、そのさらに上をいっていた。


 黒い影が横へ流れる。


 ハリッサが反応する。


 大剣を振り戻す。


 ガキィンッ!


 間一髪で防いだ。


 だが、デュランダルはすでに次の位置へ移動していた。


 上段からの斬撃。


 横からの一閃。


 足元を狙う低い軌道。


 連続する剣撃に、ハリッサは防御と回避を繰り返す。


 今までのように、自分から攻め続けることができない。


「ハリッサ!」


 私は叫んだ。


「無理に攻めなくていい! 防御を優先して!」


「分かった!」


 返事があった。


 しかし、デュランダルの剣がハリッサの大剣を強く弾き飛ばした。


 ガァンッ!


 大剣が宙を舞う。


「しまっ――」


 ハリッサが武器を取り戻そうと手を伸ばす。


 デュランダルは、その隙を見逃さなかった。


 踏み込み。


 剣閃。


 黒い刃が、ハリッサの身体を横切った。


「ハリッサ――っ!」


 私の声が、鉱山に響いた。


 ハリッサの身体が、ぐらりと傾く。


 肩口から腰にかけて、服が大きく裂けていた。


 その下から、赤いものが広がっていく。


 血だ。


 大量の血が、ハリッサの服を染めていた。


「……あ」


 声が出なかった。


 さっきまで、あれほど動いていた少女が。


 私の前で、膝をつこうとしている。


「ハリッサ!」


 駆け寄ろうとした。


 けれど、足が動かなかった。


 恐怖で身体が固まっていた。


 敵が強いことは分かっていた。


 それでも、ハリッサなら何とかしてくれるのではないか。


 そんな甘い期待が、心のどこかにあったのだ。


 彼女は狼を倒した。


 猪を倒した。


 神品質の道具を振り回し、私には持ち上げられない大剣を自在に扱った。


 だから、今回も大丈夫だと。


 勝手に、そう思っていた。


 でも、違った。


 どれだけ強くても。


 どれだけ剣技に優れていても。


 相手がさらに強ければ、傷つく。


 倒される。


 失われることだってある。


「……ハリッサ」


 私の声が震えた。


 ハリッサは、ゆっくりとこちらを振り返った。


 その顔から、いつもの笑顔が消えている。


 それでも、彼女は何かを言おうとしていた。


 だが、声になる前に身体が傾いた。


 ドサッ。


 小さな身体が、地面に倒れた。


「…………」


 時間が止まったように感じた。


 嘘だ。


 嘘だろ。


 さっきまで、普通に話していたじゃないか。


 私の作った剣を嬉しそうに振っていたじゃないか。


 もっと大きい剣がいいと、笑っていたじゃないか。


 それなのに。


「ハリッサ……?」


 返事はない。


 私は一歩、前へ出た。


 デュランダルがこちらを向く。


「娘の剣技は見事だった。だが、我に届くには至らなかった」


 まるで、戦いの結果を報告するかのような口調だった。


「さて、鍛冶師よ。話を戻そう」


 デュランダルは剣を下ろした。


「ゴッドクオリティの武器を差し出せ。そうすれば、苦しまずに終わらせてやる」


 私は、ハリッサから目を離せなかった。


 血に染まった服。


 動かない身体。


 さっきまで、そこにあった温もりが、急に遠くなったような気がした。


 頭の中で、何かが音を立てて崩れていく。


 私は勇者として、この世界に来た。


 魔王を倒すために。


 他の勇者を支援するために。


 鍛冶師として、強い武器を作るために。


 そのはずだった。


 なのに、私は鉱山にこもっていた。


 もっと良い武器を作ろうと、夢中になっていた。


 その結果、ハリッサを危険にさらしたのかもしれない。


 神品質の道具を使ったから。


 この場所にとどまり続けたから。


 私が、ゲームと同じ感覚で考えていたから。


 全部、私のせいなのか。


「……違う」


 小さく呟いた。


 違う。


 今は、自分を責めている場合じゃない。


 ハリッサを助けなければ。


 まだ、何かできるかもしれない。


 私はアイテムボックスを開こうとした。


 だが、その前に――。


「……お前」


 デュランダルの声が、頭上から降ってきた。


「何をしている?」


 私は顔を上げた。


「……何って」


「ゴッドクオリティの道具を持っているのだろう。早く出せ」


 私は、ゆっくりと立ち上がった。


 身体が震えている。


 怖い。


 逃げたい。


 今すぐ、この場から消えてしまいたい。


 でも――。


 ハリッサを置いて逃げることだけは、できなかった。


「……分かった」


 私はアイテムボックスから、女神にもらったつるはしを取り出した。


 見た目は、どこにでもありそうな普通のつるはし。


 だが、鑑定すれば分かる。


 ゴッドクオリティ。


 女神が用意した、規格外の道具だ。


「これでいいの?」


 私は、つるはしをデュランダルへ投げた。


 デュランダルは片手で受け取る。


 そして、つるはしを一瞥した。


「……ふむ」


 わずかな沈黙。


「確かに、ゴッドクオリティではある」


 私は息を呑んだ。


 これで、何とかなるのか。


 いや、そんなわけがない。


 相手は、神聖天。


 ゴッドクオリティの波動を追ってきた存在だ。


 それでも、何か手がかりが欲しかった。


 デュランダルは、つるはしを軽く振った。


「だが、これは武器ではないな」


「……え?」


「我が求めているのは、武器だ。これは採掘道具にすぎぬ」


 デュランダルは、つるはしを地面へ放り投げた。


 ガシャンッ。


 金属音が響く。


 私の最後の期待が、音を立てて消えた。


「……そんな」


「無駄な時間だった」


 デュランダルが剣を構え直す。


「次は貴様だ、鍛冶師」


 私は、再びハリッサを見た。


 動かない。


 返事もない。


 このままでは、二人とも死ぬ。


 私は鍛冶師だ。


 戦闘職ではない。


 剣技も知らない。


 神聖天の攻略情報も、ほとんど覚えていない。


 それでも。


 何もしないまま終わるわけにはいかなかった。


「……ハリッサの剣」


 私は、地面に落ちた赤晶石の大剣を見た。


 刀身には、すでに傷が入っている。


 デュランダルの攻撃を受け、限界に近づいているのかもしれない。


 だが、ほかに選択肢はない。


 私は大剣を拾い上げた。


 両手で握る。


 重い。


 当然だ。


 私の力では、まともに振ることすら難しい。


 それでも、手放すわけにはいかなかった。


「……私は、ただの鍛冶師だよ」


 そう言いながら、私はデュランダルを見据えた。


「でも、その剣は――私が作ったんだ」


 デュランダルの動きが止まった。


 わずかに、興味を示したようだった。


「ほう。エルフが鍛冶をするとはな」


「……何?」


「エルフは金属に嫌われる種族。通常、鍛冶などできぬはずだ」


 その言葉に、私は眉をひそめた。


 金属に嫌われる?


 そんな設定は、ファイナルオンラインにはなかったはずだ。


 少なくとも、私の知る限りでは。


 だが、この世界はゲームと同じではない。


 ゲームでは省略されていた設定が、現実には存在するのかもしれない。


 それに――。


 私はエンシェントエルフだ。


 普通のエルフと何が違うのか、私自身にも分からない。


「……私が鍛冶師だと、何か問題でもあるの?」


「大いにある」


 デュランダルの剣先が、私へ向けられる。


「貴様が何者なのか、興味が湧いてきた」


 その声には、先ほどまでとは違う響きがあった。


「だが、いずれにせよ――」


 デュランダルの姿が、再び揺らぐ。


「ここで死ぬことに変わりはない」


「――っ!」


 私は反射的に大剣を構えた。


 次の瞬間、視界が黒く染まる。


 金属音が響いた。


 衝撃が腕を駆け上がる。


 そして――。


 私の手の中で、赤晶石の大剣が砕け散った。


 破片が宙を舞う。


 刃が折れ、柄が弾け、武器としての形を失っていく。


「……あ」


 私は、砕けた剣を見つめた。


 ハリッサのために作った剣。


 彼女が選んだ、大切な武器。


 それが、一瞬で壊された。


 デュランダルの剣が、私の身体へ迫る。


 避けられない。


 防げない。


 私は目を閉じた。


 その瞬間――。


 鋭い痛みが、身体を貫いた。


「がっ……!」


 息が詰まる。


 熱い。


 身体の奥から、何かが流れ出していく。


 私は地面に膝をついた。


 視界が揺れる。


 意識が遠のいていく。


 ……駄目だ。


 まだ、何もできていない。


 ハリッサを助けられていない。


 強い武器も作れていない。


 魔王のことだって、ほとんど知らない。


 こんなところで終わるなんて。


 嫌だ。


 嫌だ。


 嫌だ――。


「……緊急召集か」


 遠くで、デュランダルの声が聞こえた。


 誰かと通信しているのだろうか。


「……分かった。すぐに向かう」


 足音が近づき、そして離れていく。


「鍛冶師よ。今回は見逃してやる」


 デュランダルは、私たちを見下ろした。


「だが、次に会うときまでに、せいぜい面白い武器を作っておけ」


 その言葉を最後に、気配が遠ざかっていった。


 私は、地面に倒れたまま動けなかった。


 身体が痛い。


 息をするのも苦しい。


 それでも、私は必死に顔を上げた。


「……ハリッサ」


 返事はない。


 血に染まった服。


 動かない身体。


 私は手を伸ばした。


 届かない。


 ほんの少しの距離なのに。


 その距離が、ひどく遠く感じられた。


「……ごめん」


 声が震える。


「ごめんね、ハリッサ……」


 私は、彼女の名前を何度も呼んだ。


 だが、返事はなかった。


 視界が暗くなる。


 身体の感覚が薄れていく。


 最後に見えたのは、地面に散らばった赤晶石の破片と、血に染まったハリッサの姿だった。


 そして――。


 私の意識は、深い闇へと沈んでいった。

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