第14話 ハリッサに合う武器を探して
完成したばかりの剣を手に、ハリッサが立っている。
俺は少し離れた場所から、その姿を眺めていた。
「……どう?」
「すごくいい!」
ハリッサは嬉しそうに答え、剣を軽く振った。
ヒュンッ。
空気を切る音が響く。
もう一度。
ヒュッ!
今度はさっきより速い。
「……」
俺は思わず目を細めた。
速い。
明らかに、以前より速くなっている。
「ハリッサ」
「なに?」
「二か月前より、かなり強くなってるよね?」
「そう?」
「うん。動きが全然違う」
「よく分からない」
ハリッサは首を傾げた。
「でも、前より剣が軽いよ」
「剣が軽く感じる?」
「うん」
なるほど。
剣そのものが軽くなったわけじゃない。
身体の力が上がったことで、以前より軽く感じているのだろう。
「じゃあ、今の剣より少し重くしても大丈夫か」
「うん!」
即答だった。
「……本当に?」
「大丈夫!」
俺は思わず笑った。
この二か月、ハリッサはずっと鍛えてきた。
狼や猪を相手に戦い続け、鉱山では神品質のつるはしやシャベルまで振り回している。
身体能力は、最初とは比べものにならない。
なら――。
「今のハリッサに合う武器を、改めて探してみよう」
「うん!」
俺は完成した魔力鉄の剣を見る。
【魔力鉄の剣・KQ6・アカリ】
初めて作った武器。
それがいきなりキングクオリティだった。
改めて考えると、とんでもない。
鍛冶錬成は、通常の鍛冶場で行う鍛冶より二段階ほど品質が落ちる。
それなのにKQ6。
「……俺、意外と鍛冶の才能あるのか?」
「あるよ!」
「即答だね」
「だって、すごい剣だもん」
ハリッサが剣を見つめる。
その顔を見ていると、もっと良い武器を作ってやりたくなる。
「よし」
俺は鉱山から採った赤晶石を取り出した。
「次はこれで試してみよう」
レッドミスリル。
ゲームでは、ミスリル系素材は魔力との相性がいい。
魔法やスキルを付与しやすく、しかも軽い。
その代わり、高硬度金属と比べると、単純な硬さや鋭さでは不利な部分がある。
ハリッサは今のところ魔法も使えない。
だから、魔力伝導性だけを考えれば赤晶石は少しもったいない。
それでも試す価値はある。
「同じ素材で、厚さだけ変えてみるか」
武器を比較するなら、条件はできるだけ揃えたほうがいい。
俺は赤晶石を加工し、刀身の厚さを少しずつ変えていく。
細いもの。
標準的なもの。
厚いもの。
さらに厚いもの。
そして大剣。
最後に、それよりさらに重量を持たせた大剣。
鍛冶錬成によって、次々と形が生まれていく。
「……楽しい」
思わず呟いた。
素材の量。
刀身の厚み。
重量。
重心。
握ったときの感触。
少し条件を変えるだけで、武器そのものの性格が変わる。
ゲームでは数字として見ていたものを、今は実際に手で確かめられる。
「アカリお姉ちゃん、まだ?」
「もう少し」
「まだ?」
「もう少し」
「まだ?」
「……ハリッサ」
「うん?」
「鍛冶師が集中してるときは、ちょっと待って」
「分かった!」
ハリッサは素直に離れていった。
……数秒後。
「できた?」
「早いな!」
俺は笑いながら、完成した六本の剣を並べた。
赤晶石の細剣。
赤晶石の剣。
厚みを増した赤晶石の剣。
さらに厚い赤晶石の剣。
赤晶石の大剣。
そして、一番重量のある赤晶石の大剣。
「六本!」
ハリッサが嬉しそうに声を上げる。
「全部使っていい?」
「うん。ただし、無理に全部使う必要はないよ」
俺はそれぞれを鑑定する。
「……おお」
品質を確認していく。
【赤晶石の細剣・KQ4・アカリ】
【赤晶石の剣・HQ7・アカリ】
【赤晶石の剣・KQ1・アカリ】
【赤晶石の剣・KQ3・アカリ】
【赤晶石の大剣・KQ4・アカリ】
【赤晶石の大剣・HQ8・アカリ】
「……またバラバラだ」
同じ素材。
同じ鍛冶錬成。
それでも品質には差が出る。
鍛冶師としては、興味深い。
「やっぱり、鍛冶って奥が深いな」
「どれが一番強いの?」
「品質だけなら、単純には決められないよ」
品質が高ければ、それだけ優れている。
でも、武器は品質だけで決まらない。
使う人間との相性がある。
重さ。
長さ。
重心。
攻撃速度。
そして戦い方。
「だから、実際に使ってみよう」
「うん!」
ハリッサは六本を順番に確認した。
細身の剣を持ち、軽く振る。
次に普通の剣。
そして厚みのある剣。
最後に大剣。
動きを見ていると、答えはすぐに分かった。
「……やっぱり重いほうがいい?」
「うん!」
ハリッサは迷わなかった。
「こっちが一番好き!」
一番重い大剣を持ち上げる。
ブォンッ!
大剣が空気を切り裂く。
「これ!」
「一番重いけど?」
「うん!」
「疲れない?」
「大丈夫!」
ハリッサは楽しそうに大剣を振る。
その姿を見て、俺も笑った。
「そっか」
これで分かった。
ハリッサには、軽さよりも重量を活かした武器のほうが合う。
細かい技術で切り裂くというより。
圧倒的な身体能力で。
大きな一撃を叩き込む。
バレンティス剣術との相性もいいのだろう。
「じゃあ、これを使う?」
「うん!」
「分かった」
俺は頷いた。
「この大剣を、もっとハリッサに合わせて調整しよう」
「もっと強くなる?」
「もっと強くする」
「やった!」
ハリッサが嬉しそうに笑った。
俺も嬉しかった。
武器は、ただ強ければいいわけじゃない。
使う人がいて。
その人の力を引き出して。
その人と一緒に成長していく。
それが、本当の意味での武器なのかもしれない。
「……鍛冶師って、面白いな」
俺は改めてそう思った。
ゲームでは、性能の数字を見て武器を選んでいた。
でも現実では違う。
目の前の人間が実際に振る。
その動きを見て。
その力を知って。
その人に合った武器を作る。
俺はハリッサを見る。
八歳の少女。
記憶を失っていて。
自分の過去すら分からない。
それでも、剣を握ったときだけは迷わない。
なら――。
「もっと強い剣を作ってあげないとな」
「うん!」
返事は、やっぱり即答だった。
俺は赤晶石の大剣を手に取る。
まだ改良できる。
もっと強く。
もっと扱いやすく。
もっとハリッサの力を引き出せるように。
そう考え始めたら、もう止まらなかった。
「……次は、刀身の形も変えてみるか」
「アカリお姉ちゃん!」
「ん?」
「いっぱい作って!」
「了解」
鉱山の中に、二人の声が響く。
俺はまだ知らなかった。
この試作の中から、ハリッサの愛用武器となる一本が生まれることを。
そして――。
俺自身もまた、鍛冶師として少しずつ変わり始めていた。




