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魔剣のアカリ ~魔王討伐より鍛冶がしたい~  作者: フェアリーP


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第13話 鍛冶師、ついに剣を作る

――あれから、二か月。


 俺たちは、いまだに鉱山にいた。


「……今日もやる?」


「うん!」


 ハリッサは迷いなく答えた。


 俺の前には、何本ものつるはしとシャベルが並んでいる。


 そして、そのすべてが――。


「……壊すんだよな」


「壊すよ!」


 ハリッサが元気よく一本を手に取った。


 ガンッ!


 岩に叩きつける。


 ガンッ!


 もう一度。


 ガンッ!


 さらに一度。


「…………」


 最初の頃なら、俺はこの光景を見て頭を抱えていただろう。


 でも、二か月も続けていると慣れる。


 むしろ、今では安心する。


「よし……今日も平和だ」


「平和?」


「平和だよ」


 神品質のつるはしを岩に叩きつけることが平和なのか、と自分でも思う。


 でも、俺たちの生活ではこれが日常になっていた。


 森で動物を倒す。


 鉱山で採掘する。


 ハリッサが武器や道具を壊す。


 俺が金属を精製する。


 そしてまた新しい道具を使う。


 そんな毎日。


 気がつけば――。


「……レベル二十」


 俺は自分のステータスを確認した。


 ここへ戻ってきたときはレベル十二だった。


 そこからさらに経験を積み重ね、ついに二十。


「結構上がったな」


「強くなった?」


「うん。かなり」


 ただし――。


 ハリッサのほうは、今でも自分のレベルを確認できない。


 本人にとっては、強くなった実感だけがある。


「前より速く動けるよ」


「うん。見てれば分かる」


 ハリッサが笑う。


 その笑顔を見ると、なんだか嬉しくなった。


 でも。


 俺には、ずっと気になっていたことがある。


 この二か月。


 俺たちはずっと鉱山にいる。


 町へ行っていない。


 人にもほとんど会っていない。


 そして――。


「そろそろ、本当に剣を作らないとな」


 俺は鉱山の奥に積み上げられた赤い鉱石を見る。


 レッドミスリル。


 この世界では、赤晶石と呼ばれることになる素材だ。


 ゲームでは何度も扱った。


 でも、今までは武器を作れる技能がなかった。


 それが――。


「レベル二十になったら、覚えた」


 新しく増えたスキル。


【鍛冶錬成】


 簡易的な鍛冶を可能にするスキル。


 しかも――。


「鍛冶場がなくても作れる」


 これが大きい。


 本来、鍛冶は鍛冶場で行うものだ。


 炉を用意して。


 素材を熱して。


 叩いて。


 形を整える。


 でも、鍛冶錬成なら違う。


「魔力を流して……形をイメージする」


 俺は手のひらに赤晶石を乗せる。


「剣……」


 頭の中に形を思い浮かべる。


 刃の長さ。


 幅。


 厚み。


 柄の形。


 重心。


 ハリッサが握ったときの感覚。


「よし」


 赤晶石に魔力を流す。


 淡い光が素材を包む。


 そして――。


 ぐにゃり。


 赤い鉱石が形を変え始めた。


「……おお」


 まるで粘土のように。


 素材が俺のイメージに合わせて変形していく。


 細い刀身。


 握りやすい柄。


 余計な装飾はなし。


 実用一点張り。


「できた……!」


 俺は完成した剣を持ち上げた。


【魔力鉄の剣】


【品質:KQ6】


【製作者:アカリ】


「…………」


 しばらく黙る。


「……え?」


 見間違いじゃない。


 もう一度、鑑定する。


【魔力鉄の剣・KQ6・アカリ】


「KQ……6?」


 俺は思わず剣を持ったまま固まった。


 鍛冶錬成の説明では、通常の鍛冶場で行う鍛冶より二段階ほど品質が落ちるはず。


 それなのに。


「なんでキングクオリティ?」


 ゲーム『ファイナルオンライン』では、武器の品質には大きな差がある。


 ノーマル。


 ハイクオリティ。


 キングクオリティ。


 レジェンドクオリティ。


 さらにそれぞれにレベルが存在し、細かく見れば数百段階もの品質差がある。


「初めて作ったんだけど……?」


 俺は剣を眺める。


 見た目は普通だ。


 でも、握った瞬間に分かる。


 妙に手になじむ。


 重さもいい。


 刃の厚みもいい。


「……これ、かなり出来がいいな」


 鍛冶師としての直感。


 そして何より。


「作るの、楽しい……」


 胸の奥が熱くなる。


 これだ。


 俺が異世界へ来てから、ずっとやりたかったこと。


 戦うことじゃない。


 魔王を倒すことでもない。


 自分の手で、武器を作ること。


「アカリお姉ちゃん」


「ん?」


 気がつくと、ハリッサがすぐ隣に立っていた。


 完成した剣を見つめている。


「それ、私の?」


「うん」


「使っていい?」


「もちろん」


 俺は剣を渡した。


 ハリッサは両手で受け取る。


 そして、軽く振った。


 ヒュンッ。


 空気が鳴る。


 もう一度。


 ヒュッ。


 自然な動きだった。


「……どう?」


「すごい!」


 ハリッサの顔がぱっと明るくなる。


「軽い!」


「そう?」


「でも、今までのシャベルより強そう!」


「そりゃそうだよ」


 シャベルと比べるものじゃない。


 ……たぶん。


 ハリッサは剣を握ったまま、嬉しそうに笑っている。


「これなら、もっと強くなれそう!」


「うん」


 俺も笑った。


 これからだ。


 ここまでの二か月は、準備にすぎない。


 鉱山で素材を集め。


 身体を鍛え。


 鍛冶の技能を手に入れた。


 そして今――。


 ようやく、本当の意味での鍛冶師生活が始まった。


「次はもっといい剣を作ろうかな」


「うん!」


「長さを変えて……重さも変えて……」


「アカリお姉ちゃん」


「なに?」


「私、いっぱい使うよ」


「……うん」


 その言葉が、妙に嬉しかった。


 武器は、作るだけじゃ意味がない。


 使う人がいて。


 その人の力になってこそ、武器には価値がある。


 俺は改めて、ハリッサを見る。


 この子のためなら。


 もっと強い武器を作ってやりたい。


 もっと強くなれるようにしてやりたい。


 そう思った。


 ――ただし。


「……まずは、剣の種類をもっと試してみるか」


「種類?」


「うん。細い剣、普通の剣、重い剣……いろいろ作ってみよう」


「それ、全部使っていい?」


「もちろん」


 ハリッサの目が輝く。


 その顔を見た瞬間。


 俺は気づいた。


「……ということは」


「なに?」


「これから、剣がどんどん減っていくな」


「うん!」


「……まあ、いいか」


 鍛冶師なんだから。


 作ればいい。


 壊れたら――。


 また作ればいい。


 そして俺は知らなかった。


 この日作った一本の剣が。


 これから始まる、異世界での鍛冶人生にとって。


 最初の大きな一歩になることを。

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