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魔剣のアカリ ~魔王討伐より鍛冶がしたい~  作者: フェアリーP


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第10話 パーティー申請、ハリッサ!

 ハリッサと一緒に森を歩き始めて、しばらく経った。


 俺たちは、まだ鉱山を見つけられていない。


 そもそも、この森が広すぎる。


 どこまで歩いても木。


 右を見ても木。


 左を見ても木。


 振り返っても木。


「……本当に、鉱山なんてあるのかな」


「あるんじゃない?」


 ハリッサは気楽に答える。


「アカリお姉ちゃんが探してるんでしょ?」


「そうだけど……」


 俺は周囲を見回す。


 ゲームなら、ミニマップを開けば目的地くらい分かる。


 ファイナルオンラインでは、採掘ポイントやダンジョンの位置まである程度把握できた。


 でも、今はミニマップがない。


 地図もない。


 目印もない。


 あるのは、ひたすら続く森だけだ。


「やっぱり、地図が必要だな」


「地図?」


「うん。町を見つけたら買おう」


「町って近いの?」


「……分からない」


「そっか」


 ハリッサは特に気にした様子もない。


 俺としてはかなり困っている。


 ゲームなら、目的地に向かって走ればいい。


 でも現実では、同じ景色が続けば簡単に迷う。


「この世界、ゲームより不便だな……」


「ゲーム?」


「あ」


 思わず口に出してしまった。


「なんでもない」


「?」


 ハリッサは首を傾げる。


 俺は誤魔化すように前を向いた。


 それにしても――。


 歩く速度が違いすぎる。


 俺の身体は十歳くらい。


 ステータス上の年齢は一歳。


 レベルはまだ低い。


 力も体力も、かなり低い。


 対してハリッサは八歳。


 俺より身体が小さい。


 なのに。


「アカリお姉ちゃん、遅いよ?」


「……ちょっと待って」


 ハリッサが立ち止まった。


 俺も足を止める。


「大丈夫?」


「大丈夫……」


 息を整える。


 身体年齢が十歳くらいとはいえ、俺の体力はかなり低い。


 レベルが上がれば多少は楽になる。


 それでも、ハリッサについていくのは大変だった。


「ハリッサ、少しゆっくり歩いてくれる?」


「うん!」


 素直に速度を落としてくれた。


 助かる。


 でも――。


 その速度でも俺より速い。


「……やっぱりおかしい」


「何が?」


「いや、なんでもない」


 俺は改めてハリッサを見る。


 細い身体。


 小さな手。


 八歳の少女。


 それなのに、身体能力だけは明らかに普通ではない。


 拘束具を軽々持ち上げていたことを思い出す。


「ハリッサ」


「うん?」


「ちょっと聞きたいんだけど」


「なに?」


「バレンティス剣術って、どんな剣術なの?」


「剣術?」


「うん」


 ハリッサは少し考える。


「分からない」


「分からない?」


「うん。説明はできないけど、こうするのは分かる」


 近くに落ちていた太い枝を拾う。


 そして――。


 構えた。


「……」


 空気が変わった。


 さっきまでの幼い少女とは、雰囲気がまるで違う。


 身体から余計な力が抜けている。


 足の位置。


 腰の向き。


 腕の角度。


 すべてが自然だった。


「これが……バレンティス剣術?」


「たぶん」


 ハリッサが枝を振る。


 ヒュッ。


 風を切る音がした。


 もう一度。


 ヒュッ。


 今度は俺には、ほとんど軌道が見えなかった。


「……すごい」


「そう?」


「うん」


 俺は思わず見入っていた。


 鍛冶師として武器を作るなら、使い手のことも知っておきたい。


 どんな動きをするのか。


 どんな重さを好むのか。


 どんな剣を必要とするのか。


 それによって、作る武器は変わる。


「ハリッサ」


「うん?」


「その枝、もう少し強く振ってみて」


「こう?」


 ブンッ!


 空気が鳴った。


「…………」


 俺は言葉を失った。


 枝なのに。


 ただの木の枝なのに。


 まるで本物の剣のように見えた。


「……剣、必要だな」


「うん!」


「いや、今の返事は何?」


「剣、欲しい!」


「ああ……そうだよね」


 本人も欲しかったらしい。


 俺は笑った。


「鉱山を見つけたら、ちゃんと作るよ」


「ほんと?」


「うん」


「約束?」


「約束」


 ハリッサは嬉しそうに笑った。


 その顔を見ていると、早く作ってやりたくなってくる。


 鍛冶師として。


 いや――。


 それだけじゃないのかもしれない。


 ハリッサが使う武器を、自分で作ってやりたい。


 そんな気持ちが少しずつ強くなっていた。


 しばらく歩いていると、ハリッサが突然立ち止まった。


「……アカリお姉ちゃん」


「どうした?」


「あっち」


 ハリッサが森の奥を指差す。


「何かいる」


「何か?」


 俺は耳を澄ませる。


 ……何も聞こえない。


「俺には分からないけど」


「いるよ」


「どれくらい?」


「分からない」


「人?」


「たぶん違う」


 ハリッサはじっと森の奥を見ている。


 俺には何も見えない。


 音も聞こえない。


 それなのに、ハリッサには分かるらしい。


「……索敵能力まで高いのか?」


「さくてき?」


「ああ、いや。なんでもない」


 ゲームなら、感知系スキルでも持っているのだろうか。


 でも、今の俺にはハリッサのステータスを見ることができない。


 そもそも、本人がステータス画面を開けない。


 分からないことだらけだ。


「まあ、今はいいか」


 俺たちはそのまま歩き続けた。


 そして俺は、あることを思いついた。


「そういえば……」


 ファイナルオンラインには、パーティーシステムがある。


 パーティーを組めば、一定範囲内にいる仲間と経験値を共有できる。


 回復魔法や支援効果も共有できる。


 大人数になるほど経験値効率は落ちるが、二人程度なら問題ない。


「現実でも使えるのかな?」


「何が?」


「パーティー」


「パーティー?」


「仲間になるシステム」


「仲間?」


「そう」


 俺は試してみることにした。


 ゲームでは、メニューからパーティー申請を行う。


 でも、この世界にはゲーム画面がない。


 なら――。


「パーティー申請、ハリッサ!」


 ハリッサの手を握る。


 すると――。


 ふわっ。


 何かが繋がったような感覚がした。


「……?」


 俺自身も驚いた。


「今の……」


 ゲームで感じるパーティー成立時の感覚に似ている。


 ハリッサも目を丸くしている。


「なんか……変な感じ」


「嫌な感じ?」


「ううん」


 ハリッサは首を横に振る。


「アカリお姉ちゃんが近くにいるって、分かる感じ」


「……それなら成功かな」


 俺は少し安心した。


 ゲームのシステムが、現実でも使える。


 また一つ、ゲームと現実が繋がった。


 ただし――。


「これもゲームと同じとは限らないんだよな」


 俺はそう呟いた。


 実際、魔法は違った。


 ステータスも違う。


 食事も必要。


 疲労もある。


 経験値の入り方も、ゲームとは違う可能性がある。


 だから、何でもゲームと同じだと思うのは危険だ。


「でも、パーティーを組めたなら……」


 少なくとも一つ分かった。


 ハリッサと俺は、正式に仲間になった。


「これからも一緒に行こう」


「うん!」


 ハリッサは嬉しそうに頷いた。


「ずっと一緒?」


「……まあ、しばらくは」


「じゃあ、ずっとだね!」


「いや、話が飛んでない?」


「飛んでないよ?」


「そうかな……」


 ハリッサは当然のような顔をしている。


 俺は苦笑した。


 どうやら、この子は思った以上に素直らしい。


 そして俺も――。


 いつの間にか、この子と一緒に旅をすることを当然のように考えていた。


 俺は鍛冶師。


 ハリッサは剣士。


 なら。


「早く剣を作らないとな」


「うん!」


 ハリッサが笑う。


 俺も笑った。


 目指す場所はまだ分からない。


 鉱山も見つかっていない。


 町の場所も分からない。


 魔王がどこにいるのかも知らない。


 それでも――。


 少なくとも、やることは決まった。


 鉱山を探す。


 素材を手に入れる。


 ハリッサの剣を作る。


 そして。


 俺たち二人で、この世界を生きていく。


「よし。行こう、ハリッサ」


「うん、アカリお姉ちゃん!」


 二人並んで、森の奥へと歩き出した。


 その先に待っているものが何なのか。


 このときの俺たちは、まだ知らなかった。

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