7話 働き者カイラン
「先に行っていてくれ。」
竜舎に戻るなり、カイランがそう促した。
「竜房のほうを片付けて来ようと思ってな。」
「ドレイオと竜たちは?」
「奥に進むといるはずだぞ。」
体を綺麗にしているはずだ、泥と汗を洗い落としているころだろうと付け加えた。
そして、自分は一輪車に古びたスコップや箒、バケツなどを、手慣れた手つきで次々と積んでいく。
作業にひと区切りついたのか、ふっと息を吐き、大きく伸びをする。肩の骨がごきりと鳴った。
明るく大雑把な性格のくせに、道具を並べる手つきだけは妙に丁寧だった。箒の穂先をそろえ、錆の浮いたスコップの刃がぶつからないよう向きをずらす。真剣なまなざしに、思わず歩き始めた足を止める。
「行かないのか?」
じっと見つめるエルグを見て、
まだ行っていなかったのか、と一瞬眉を上げたが、すぐに、気になるのだと察したらしい。
「よっと。最後はこれだな。これ、見たことあるか?」
なにやら枯草をきつく束ねた四角い塊を掲げて見せてくれた。乾いた茎のあいだに土くれが噛み、縄が十字に食い込んでいる。
「餌、じゃないよね。さっき見たのとは違うし。」
形状は似ているものの、餌の場所にはなかったはずだ。それに、餌というには見た目が貧相だ。
「違うな。よく覚えていたな。」
カイランがぽんぽんと塊を叩くと、細かな土埃がふわりと宙に浮き、遅れて鼻の奥に乾いた匂いが刺さった。ダンベルでもあげるようにぐっと持ち上げると、肩に乗せて見せた。
「ヒントを授けようじゃないか。」
「ヒント?」
「君は寝るとき、何に寝ている?」
寝ているとき……。ベッドの上に布団を敷いて、枕とブランケット。ということは
「もしかして、それが竜のベッドってこと?」
「正解だ! これを敷いた上に寝るということだ。竜だって冷たい石の上よりいいだろうからな。」
どうやら的中だったらしい。
「手伝おうか。一人ではさすがに運べないと思うけど」
一輪車の取っ手を持ち上げたカイランを呼び止めた。さすがに一人で持っていける量ではないだろう。腕は細いが、取っ手の片側くらいは持てるはずだと思った。
「いや、大丈夫だ。これを見てみろ」
片腕で力こぶを作る。
「これくらいなんてことはない。むしろ君も少ししたら鼻歌を歌いながら運べるようになるくらい鍛えてやるから心配しなくて大丈夫だ。」
むしろ、ドレイオのほうを手伝ってやってくれ、と言った。
「分かった。じゃあ、また。」
くるりと背中を向ける。
「ちなみにそっちじゃないぞ。逆だ。」
振り返ると、逆方向を指さしていた。
そして、その方向から竜の甲高い鳴き声が響く。
「竜も新人のために教えてくれているぞ」
口笛を吹く真似だけして荷車を押していくカイランの足取りは、まるでスキップでもするかのように軽々としていた。




