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転生魔女と魔法のランタン  作者: 鈴埜
クロツルバミの章

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9/13

9.迷宮の戒律

 私とクロウの狩りの仕方は簡単だ。私が〈探知〉で魔物の位置を把握し、クロウがそれを倒す。数が多ければ罠を作り、一匹ずつ対応できる通路に呼び込む。少しずつ、確実に、決して怪我をしないようにするのだ。


 特に十階層を越えたのだから、怪我をすれば安全地帯を通ることができない。十階層にいる魔物は同じように木の周りを避ける。血濡れた姿で通る場所は魔物に当たる率も高くなる。

 なるべく怪我をせず、血で汚れないような狩りをするのがベストだ。


 まあ、なかなかそう上手く行くことはない。帰りは基本木から離れて移動する。それにしても、血の匂いをさせていない方がいいので、なるべく安全に狩りをする。


 十三階で狩るのはボユバドムという名の(つの)があるイノシシだった。角の他に、牙もあるし蹄のようなものがあり、墨の材料としてかなり優秀なのだ。


 初めの一体は罠を作る必要もなかった。ボユバドムは丸っこい身体をしていてこちらに気づくと真っ直ぐ突進してくる。クロウなら脇道のある通路で走ってくるボユバドムを待ち構え、寸前で脇道にかわしがてら首をたたき切る。


「どうする? まるっと収めておく?」

「爪は解体しよう。ここには他の魔物もいないんだろう?」

「うん、しばらくいかないと出会わない」


 角と牙と歯が欲しいので頭部はそのまま私の拡張鞄へ収める。蹄を手前で切り落とす。ナイフに思い切り体重をかければ骨も切断できた。このナイフも特別なもので、クロウと二人きりのときしか出さない。まあ、ギルドの解体メンバーにはバレているとは思う。切り口がそれは見事だった。


 迷宮の中に遺体は残らない。

 他の魔物に喰われるか、一定時間放置されると迷宮に取り込まれるのだ。残るのは装備品。突然衣服と荷物が落ちていたら、そこで誰かが亡くなったということだ。持ち物に余裕があれば持てるだけ、なければタグだけを持って帰り、出口でギルドに渡せば、行方不明者として保存してあったタグを合わせて提出され、死亡と見なされた。


 このボユバドムの残りも放っておけば消える。


「次は二体いるんだ」

「位置にもよるが。一緒に行動しているのか?」

「うん。一匹は一回り小さい。私がそちらを相手しようかな」

「危なくなったら迷わず呪符を使え」

「もちろん」

 そこは遠慮無くやらせてもらう。


 迷宮というだけあって、こういった単調な土でできた階は迷路になっていることが多い。行き止まりの道や突然穴が空いていたりする。

 こういった道も、全部調べ、地図が売られている。一層ごとに購入できるが、もちろん深い層になると値段が上がった。十三階は私の墨に必要な素材が採れるので、何回も来ている。道も全部頭に叩き込んであった。

 まあ、私は一度見たら忘れないので叩き込む必要はなかったが。


 クロウも初めての知識なので覚えるのは苦ではなかったようだ。次のボユバドムの場所を言えば、お互いどのような動きをすればいいか言わずともわかった。


 大小のボユバドムは親子というわけではない。迷宮で子どもの魔物はいない。魔物はとつぜん地面から湧いて出ると言われている。外ではいるのだ。魔物も子を産み育てる。子は血肉を必要とするものもあれば、魔力だけが必要なものもいた。


 二匹のボユバドムが通路の向こうに見えると同時に、二体とも突進してくる。小さい方が少し遅い。再び脇道がある場所で迎え撃つ。今度は十字路にした。クロウが道の向こう側に逃げ込んで剣を振るう。大きなボユバドムの頭が飛ぶ。私はこちら側にいた小さいボユバドムの首を狙うが、ずれた。肩の辺りで骨に刃があたり、止まってしまう。やはりクロウのように上手く行かない。左手に構えていた解体用のナイフを腹に突き刺し、身体ごとぶつかる。


 ナイフは柄の部分までしっかり突き刺さり、小さなボユバドムも動きを止めた。


「的が小さい分狙う場所も小さくなるからな」

「うーん、ボユバドムの足が速いのも原因だなあ。もう少し運動しないとか」

「カナンはまじない師だからな……基本的には一緒にいてくれるだけで生存率が上がる」

「それはそうだけど、こうやって迷宮に入るとき仕事がないのも困る」

「役回りというやつなんだが、まあさっさとこれを始末しよう」


 頭部と蹄を切って、鞄へ入れる。血のにおい釣られてやってきた一体をクロウが綺麗に始末した。


 そうやって、休憩しつつ今回はこのくらいにしておこうかといったところで、ふと、おかしな反応が〈探知〉に引っかかった。


「クロウ待って。そこの通路曲がった先、ボユバドムじゃない気がする」

「十三階はボユバドムだけだろう? 何が違う?」

「大きさと数。ボユバドムの小さい個体よりさらに小さい、小型が十はいる」

 それが結構な速さでやってくるのだ。


「罠を使おう」

 クロウが自分の鞄から長い紐のようなものを取り出す。私たちはこういった魔導具に金をかけていた。ランタンの魔法があればなんとでもなる。だがそれを隠して暮らそうと決めたとき、ランタンに頼らず窮地をくぐり抜けられるよう、そのために投資することをいとわなかった。


「クロウ、もうすぐ。そこの角から来る」


 そうして、現れたのはこの階にいるはずがない魔物だ。

 人の頭部くらいの大きさで、短い手足ながら素早く動くそれは、ヂヂヂと鳴き声を上げながらこちらへ駆けてくる。


「サファレ! 尻尾に毒針がある。〈反射〉を使う」

 呪符の入った黒の鞄から一枚取り出し渡す。受け取ったクロウは左手にそれを握りしめた。これで尻尾が当たりそうになっても大丈夫だ。

 代わりに自分には〈防護〉を準備する。一ヶ所に留まっているなら〈防護〉、動くなら〈反射〉だ。


 薄い茶色の尻尾の長いサファレは、全部で十二匹。また随分と肥えている。クロウの罠にどれだけ足止めできるかだ。


 左手で呪符を握り、右手に剣を構えた。さらに目の前にいくつか呪符を並べている。 罠は縄のようなものが道いっぱいにピンと張られていた。足に引っかかるようなものではない。ただ、その上を通った瞬間、発動する。


 ヂュッと鳴き声を上げて、先頭を走っていた三匹が横転した。さらにそれを避けて前に来ようとした個体も二匹、罠から出た細い風の刃に切り裂かれる。後からきた三体がその上を通り抜けてきた。


 小さいと戦いにくい。だがそれもクロウは上手にさばくのだ。薬師をしていたのがもったいないほどの腕前だった。


 サファレは尻尾を己の自由な意思で動かすことができた。小さく、毒針を持つ。これが戦いにくい理由の一つであり、さらに奴らは集団で獲物を囲む。


「奥は私がやる」

 そう言って目の前に並べていた呪符の一つに右手で触り魔力を通す。等級の低い、安い紙に安い墨で描いた。飛び出す〈火球〉はそこまで強いものではないが、サファレには十分だ。狙いをつけて三つ連続で飛ばし触れた瞬間サファレ程度の魔物なら丸焦げだ。

 その間にクロウは尻尾を切り落とし、胴体を真っ二つにしていた。残りの一匹は形勢の不利を見て踵を返した。

 警戒し、迎え撃つ体制をとれるから対処できる。


「サファレの魔石は売れる」

 クロウが罠を解除し、私はナイフで首根っこに埋まっている魔石を取り出す。尻尾の先の毒も罠のためにいい。

 尻尾と魔石を十一取ったらすぐに移動だ。


「サファレは、十八階だったな」

「うん。上がってきてる。急いで帰って知らせないと」


 酒場で話がされていた。二十五層が騒がしいというやつだ。三十層の魔物が上がって来ている。層が深くなれば基本魔物は強くなる。強い魔物が下から上にくれば、それまでいた上の層の魔物はさらに上に逃げる。魔物同士だって食い合うのだ。


 十八階の魔物が、十三階にまできている。

 着実に氾濫(タシュク)が迫っていた。




 ボユバドムの返り血を多少浴びていたので、十層は大回りをした。その分魔物に遭うが、まあたいしたことはない。九層でコウたちに会ったので、事情を話すと彼らも危険はおかせないと一緒に上がることになった。


「サファレは尻尾の先の毒が結構危険なのに無傷なんだな」

「むしろ、サファレ相手に傷を負ったらその時点で毒が回って終わりだよ」

 コウがそれはそうかと笑う。


「呪符いくつ使った?」

「〈反射〉と〈防護〉と〈火球〉。〈防護〉はいらなかった」

「いやいや、それは安心代だよ。仕方ない。触れたらだめなんだから、〈防護〉はカナンの分だろ?」

 アルムが言うとクロウも頷いた。


「後ろに流れたときの心配をしなくていいっていうのは大切だ。動き方が変わる」

「そうそう。サファレ何匹?」

「十二いたが、一匹は逃げたな。罠で五匹死んだ」

「サファレの魔石はそれなりにするから、元は取れるだろうよ」


 皆に慰められてしまった。

 安全を取った。自分でもわかっているのでそこまで落ち込んではなかったのだが。


 チラリとクロウを見たら、頭をポンポンと撫でられた。それを見た三人からも同じようにされて、この子ども扱いはきっと身長差だと理解する。一応成長期なのだが、身長の伸びが悪い。反対に、成人男性冒険者はほとんどがそれなりの身長なのだ。たぶんだが、魔物を取ってきてその肉の一部を宿屋に持っていったり、野営する場合は調理して食べたりする。魔物肉は種類にもよるが味もいいし、栄養もある。さらには力を得ると言われている。普通に街に暮らす人よりも冒険者が力が強かったり発育がいいのは、そのせいだと言われていた。


 しかもこのクロツルバミの迷宮には五階層にとても美味い肉の魔物がいるのだ。なんならその晩の肉が足りないと、酒場の主が迷宮へ狩りに行ったりすることすらある。

 低階層に美味い魔物がいる迷宮は栄えた。


「今日も肉を食べに行く」

「おうおう、奢ってやるよ、カナン」

「言ったな! 俺は結構食べるんだぞ!」

 コウに言い放つと、彼はまた笑った。


 だが、表に出てみれば朝、日が昇ってまもなく。さすがに酒場は開いていない。

 それに、これからギルドへの報告やとってきた素材の受け渡しなどで、すぐに食事に行けそうになかった。


「今夜にしよう。少し眠るだろう? 夜、『ドリスのスープ皿』で」

 冒険者ギルドから近い場所にある酒場だ。


「お腹を空かせていく」

 コウたちは素材の解体は別のところに頼むらしい。どうやら個人的に依頼を受けていたようだ。

 私たちは迷宮に併設された解体所に向かう。大物でない限りここでやってもらえるし、依頼品としてこのまま渡してしまえば解体費はあちらもちだ。


「おかえりクロウ、カナン」

 ギルドの解体担当が奥に通してくれた。すでに受付で氾濫(タシュク)の予兆の話はした。詳しく聞く前に、その証拠でもある魔石と、依頼分を始末してしまおうという話だ。


「おお、ボユバドムと、サファレの魔石。話通りだね」

 受付の一人も一緒に来て、私の拡張鞄から取り出した物を見て唸った。

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