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転生魔女と魔法のランタン  作者: 鈴埜
クロツルバミの章

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10.ドリスのスープ皿

 ギルドお抱えの解体師は腕がいい。冒険者ギルド以外の解体師は必要な物を最優先とするが、冒険者ギルドの解体師はすべてを優先する技術を持っていなければならない。

 冒険者が命を賭して持ち帰った素材を余すところなく取り出さなければならないからだ。


 まあ、査定が下がったと冒険者と揉める羽目になり、せっかくの素材が冒険者ギルドに 納品される率が下がるので、彼らも慎重にことを進めるというわけだ。素材の扱いもとても丁寧だ。


「ポユバドムは全部納品でいいのかな?」

 受付のお兄さん、ユリンは笑顔でそんな風に聞いてきた。もちろん拒否だ。


「俺の墨も作るからだめ。解体はして欲しい。その分の解体費は払う。そうだな……これとこれ、ううん……これ」

 拡張鞄から出したボユバドムの角を三つ選ぶ。


「目利きだな、一番いいのから選んでやがる」

 解体師のシルはこの解体場のまとめ役だ。そんな人に褒めてもらうのは大変光栄だった。今年で四十だと聞いた。冒険者をやめてギルドに入る者も多い。彼もそんな流れだった。


「他はそちらに納品する」

 解体費はあちら持ちだ。さらにサファレの魔石の鑑定に入る。


「十三階でサファレが出るなんて、いよいよだな」

 シルが天井の明かりに透かしながら、魔石の透明度を見ていた。魔石は質がよくなればなるほど透明度が高くなる。サファレのそれは薄い黄色だ。


「クロウさんとカナン君が嘘をついているとは思っていなかったんですが……サファレがあるのなら確実ですね。すぐ領主様に連絡をします」


氾濫(タシュク)の予兆があるなら、領主様の騎士様が入るんでしょ?」

 カナンが問うと、シルが頷いた。


「冒険者も積極的に募る。入場料は無料となる」

「パーティーならいいかもね」

 人数分の入場料がなくなるのはかなり大きい。大人数で、本来戒律(ルール)の木をいくつも越えねばならぬような魔物が低階層に現れる。それでいて補給も簡単にできるのだ。若い冒険者はこれ幸いと積極的に参加するだろう。


 反対に、迷宮の構図をきちんと把握し、一匹ずつ対峙するような狩りをする私たちにはあまりうまみはない。人は多くなるし、不確定な動きをする人と魔物が混在する。その階層にいない魔物も現れ、戦い方が不規則になる。クロウは私を守りながら動こうとするから、効率も悪くなる。〈探知〉の魔導具も人と魔物の区別をつけるのに大変だ。依頼がかかり、なかば強制的に参加させられないかぎりお断りしたい。


「入って三層くらいまでかなあ……」

「墨を加工してもらったり、ゆっくりしてもいい。今回サファレの魔石分もあるからかなり余裕はできるだろう」

 そんなことを話しているうちに査定が終わり紙を渡される。


「角は清算している間に解体してやるよ。先に受付に持っていけ」

 礼を言って、シルのサインが入った素材の値段が書かれたものを受付へ出す。悪くない儲けだ。正直サファレの魔石が、倍以上狩っているボユバドムの素材の値段を超えた。階層が一つ変わるだけで魔物の強さが変わるのだ。


「出てきたのがサファレでよかった」

 クロウの言葉にうなずく。

 二人で安定して対応出来るものだったのが幸いした。


 金を受け取り、山分けする。あとでそこから二人の必要経費を出し合って、武器や防具、呪符(トゥル)のために使うお金を工面する。一番始めにクロウに管理させようとしたが、自分の取り分をなくして私のものにしようとするので、まず分けることにした。もし何かあったとき、それぞれがそれなりの現金を持っていなければいけない。


 そのまま解体場に逆戻りして素材を受け取り〈拡張鞄〉に片付ける。この素材を今度は墨屋に持っていかなければならない。

 呪い師は何かと金がかかるのだ。


「さすがに眠いだろう?」

「そうだね、墨屋は明日にしようかな」

「今夜はまた遅くなりそうだが……」

 酒場に行くとどうしても帰るのは夜遅い。


「でも、氾濫(タシュク)も気になるから、酒場で気分がよくなった冒険者が口を滑らせてくれるのを聞くのは大事だよ」


 十階層台にまで上がってきているのなら、かなり急を要する。後手後手に回っているという噂のクロツルバミ伯爵であっても、さすがに捨て置けはしないだろう。


 シルのところで角を受け取ると、受領書にサインしてギルドを出る。仕事が終わったと頭が認識したところでどっと眠気が押し寄せてきた。


「カナン?」

「眠い。朝ご飯もいらないや」

 それでも湯を使わねば。汗と埃にまみれた姿でベッドに寝転ぶ気になれない。


「湯屋に行くか?」

 私は慌てて首を振る。それは嫌だ。

 裸になり頭から湯を浴びることができるのはいいが、どうもマナーが悪くて綺麗な湯とは言いがたい。

 いや、それが普通なのだが、私には耐えられない。


「綺麗好きなくせに湯屋は嫌いだなあ」

 綺麗好きだから嫌なのだ。私の衛生観念からいくとあそこは一発アウトな場所だ。


「風呂付き一戸建てが欲しい」

「それは……難しいな」

 ずっとここで暮らすのならそういった選択肢もあったろうが、正直いつ移動しなければならなくなるかわからないのだ。


「夕飯を食べた後、風呂付きの宿に一泊するか。サファレの魔石代もかなり入ったことだし」

 クロウの提案に驚きと喜びが素直に顔に出てしまった。

 見上げるクロウは苦笑している。


「ついでに髪染めもし直そう。少し、光っている部分がある」

「え、それは拙いね。わかった。材料はまだあるよ」


 定宿に着くと、湯をもらって身体と頭を拭く。今はこれで我慢だ。夜は風呂に入れる。嬉しい。


「おやすみクロウ」

「ああ、おやすみ」

 クロウも軽く湯を使って、朝の光が目に飛び込んでこないよう丸まって眠った。迷宮は時間があっという間に過ぎるので、やはりどうしても疲れる。空腹を上回る睡眠欲に支配され、私は夢も見ずにぐっすりと眠った。




 私とクロウが動き出したのはもう日が沈もうとしている頃だった。正確にはなかなか起きない私を、待ち合わせの時間があるからとクロウが起こした。

 慌てて支度をして出掛ける。何も食べずに寝たせいで身体がだるい。身体を動かすエネルギーが足りない。


「抱えて行こうか?」

「嫌だ! 悪目立ちする」

 この時間は冒険者が多く行き交う。街の人だって家路につくところだ。もう十三にもなったのに、クロウに抱っこされて移動するのは恥ずかしい。


「早く行こう。コウに肉を奢らせる」


 『ドリスのスープ皿』は迷宮の冒険者ギルド近くにある飲食店の中で一番美味いと言われている酒場だった。迷宮から出てきた冒険者が、とにかく腹ごなしにやってくる場所でもある。

 迷宮に籠もっていた冒険者はとにかく汚くてくさい。土に、汗に血に汚れている。あんまりにもひどいとお断りされることもあった。そして自然にそういった者は一応遠慮して固まって座っている。


 コウたちはすでに来ていて、入って右手手前に固まっている迷宮を出てきたばかりの冒険者たちと真逆の、左手奥に席を取っていてくれた。

 私たちの姿を見つけると手を上げる。

 長いテーブルがずらっと横並びに並んでいて、注文の品を受け取るごとに金を払うシステムだ。待ち合わせをしているときは飲み物をテーブルに置いておけばいい。私の果実酢と、クロウの酒が空席の場所に置いてあった。私とクロウは向かい合う形になる。一番端の席なだけましだった。


「ずいぶんすっきりした顔をしてるな、カナン」

 向かいのクロウの隣に座るコウが自分の前にあった肉をぐいっと押しやってくる。たぶん、迷宮の鳥によくにた魔物の肉を揚げたものだ。衣に味がついているので定番の美味しさだ。


「がっつり寝た。お腹が空いて肉ならいくらでも食べられそう」

「なら、頼め。今日はコウのおごりだ」

 私の隣はアルム。さらに隣にレナンだ。


「お前らには奢らないぞ。自分の分は自分で頼め」

 とはいえ、テーブルに大皿がやってくる形式なので誰が頼もうと皆で食べることになるのだ。私は心得たりと、次々横を通るお姉さんに頼んだ。


「肉美味い」

「おう、もっと喰え」

 適度に野菜も頼んだ。パンも食べたい。


「さっきギルドから発表があった。明日の朝の一つ鐘から、登録さえすれば入場料が無料になる」

 つまり、氾濫(タシュク)防止の狩りが始まるということだ。


「十層から推奨だとさ。クロツルバミ伯の騎士団は昼には入るそうだ」

「コウたちは入るのか?」

 クロウが尋ねると三人は頷いた。


「浅い層でそれなりの魔物に会えるのは助かるからな。買い取り金額は変わらない」

「それでも十層は越えるつもりだがな」

 レナンの言葉にアルムも頷いた。


「騎士団は三十九層を目指すらしい。それに便乗しようという奴らも多いよ」

 別に組んで戦わなくてもいい。ただ、先頭を騎士団が行ってくれるのなら、そのすぐ後ろについていればかなり奥まで進むことができる。しかも、魔物の討伐を目的としているのだ。強い魔物はあらかた騎士団が殲滅してくれる。残った数匹を相手にしつつ、踏破階数を更新できるチャンスだ。


 今三十層までは事前登録なしで入ることができるが、それより下は申請をしないといけなかった。それが今回は騎士団についていけばいい。


 その後、まだ数が多いようなら上級クラスの冒険者に指名依頼が届くのだ。ロンが言っていた、クロウにも声がかかるかもしれないとは、このことだ。


「二人はどうする?」

 チャンスだと、躍起になる冒険者たちは多いだろう。だが、私たちは混雑している場所は不利になる。どちらかが怪我をすれば一気に危険が増す。人が多くなり、魔物の動きも読みにくい中、落ち着いて狩りはできない。


「俺たちはたぶんいかないよ」

「墨作って呪符作ってる」


「そうかやっぱり二人は不利か」

 そうつぶやくコウに、アルムが頷いた。

「狩りの仕方が違うからな」


「特に何が来るかわからないのは問題だ。呪符も好きなだけ使うわけにはいかない」


 迷宮狩りのいいところは、その階層に出る魔物が決まっていることだ。それだけでかなり手順が変わる。


「俺たちと一緒にどうだと誘おうかと思ったが……ダメだな」

「そうだな。気持ちはありがたく受け取る。また迷宮が落ち着いたら潜るよ。それまではまあ適当に」

「サファレに遭ったんだもんな。結構儲けただろう。あれは数がいるし毒があって面倒くさい分、魔石がいい値段になるからな」

 おかげさまで風呂付きの宿に一泊できる。

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