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転生魔女と魔法のランタン  作者: 鈴埜
ミハナダの章

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72.昼の興行と大型船

 いい感じに時間も潰せたので、三人で興行の天幕へ向かった。

 食べ物の持ち込みは許可されている。道中の露店で飲み物を買った。


「ほら、カナン。奢ってやるよ」

 ナイフ投げで報酬を受け取ったアザールがそう言って買ってくれる。

「ありがとう」

 もらえるものは遠慮せず受け取る方針だ。


「カナンはクロウといつ頃から一緒にいるんだ?」

「ええとね」

 実際は三年ほどだがそれでは話が合わないのでもう少し話を盛っている。


「二人でに旅を始めたのは二年くらいだよ。その前に二年ほど。師匠が亡くなって、三人から二人になった。結構年だったからね」

「その師匠には拾われたんだっけ?」

 そのあたりはすでに飲みの席で話している。それくらいには親しくなっていた。


「そう。私もクロウも。師匠はいいおばあちゃんだった」

 教えてもらいながら旅をして、小銭を稼いでしのいできた。そう説明したのだ。


「二人とも定住する気はないのか? ミハナダはカナンの呪符にも合っているだろう。真面目に迷宮に潜ったら、一軒家を借りるのも買うのもそう何年もかからなそうだが」

 それはそうなのだ。〈氷結〉であそこまでいい稼ぎを得られるなら三年くらいは住んでいたかった。自分の持ち家でなくてもいいが、貸家を借りて生活するのも悪くなかった。


 しかし、ここがロアーナのテリトリーならば話は変わってくる。魔女の範囲内で生活はしたくない。思わぬことで私が魔女だとバレるのは避けたい。ロアーナのように黙っていてくれるとも限らないのだ。クロツルバミは本当に残念だった。


 魔女の気配のしない、実入りのいい迷宮を探してまた旅立つ。


「変に注目を浴びてしまったからなあ」

「そんなこと気にしなくても、次また他の冒険者が呼ばれれば話題はそっちに行くだろう」

 アザールが笑う。


「でもまあ、クロウがいい男過ぎるからな。注目されるのはこの先ずっとだ」

「女はとられるな……クロウは相手を作らないのか?」

 子どもに聞くことではないだろうと思ったが、私がアザールたちのハードルを下げたことを思い出した。


「私は別にいいよと言うけど、たぶん、師匠がくれぐれも私を頼むとクロウに念押ししていたから。クロウは優しいんだよ」

 そういうことにしておこう。


 だが将来、私と一緒に旅してはいけなくなるかもしれない。私がランタンの魔女であるということで、彼と一緒にいられない出来事が起こるかもしれない。

 そんなとき、クロウの面倒を見てくれる人がいてほしいとも思うのだ。


「そのうちどこかの迷宮に定住するんだろうけど、ずっと一緒にってわけにいかないし、ずっと冒険者を続けていられるとも限らないでしょう? いい人ができればいいなと思うんだ。クロウは……一人で生活できないから」


 そう、絶対に間違いなく一人で生活は無理なのだ。


「冒険者には結構いるぞ、潜って狩ってしかできないヤツは」

「まずご飯が作れない。火の前に立ったらたぶん立ちっぱなしで動けない」

「そこまでか!?」

「包丁もだめかな」

 持たせてみたら流血事件になって、慌ててランタンを使ったのは二人でヴァンの家に住み始めてわりとすぐのことだ。刃物について教え込まねばならなかった。


「調味料が覚えられない。だからすごい味の物体が生み出される」

「そんな風に見えないが」

「衣類も洗濯できない。石鹸の扱いもわからない」

 恐ろしい量を使って、井戸の周りを泡だらけにしたのはいい思い出、とは言いがたい。後始末が大変だった。


「とにかく生活全般がだめなんだよね。世話を焼いてくれる、世話を焼くのが好きな人じゃないと。あと、そんなクロウの姿を見ても幻滅しない人」

「二人で貸家を借りてって話になったらカナンが苦労しそうだな」

「そうなんだよね。洗濯も、金を払って頼めば引き受けてくれる冒険者の宿屋が彼の性に合いすぎてるんだ。でも本当に、いつか冒険者としては動けなくなるときがくるから、それまでに住みやすい迷宮のある街を見つけたいなとは思ってるんだ」


 そんな風に話す私に二人は首を振っている。


「あちらの言い分も聞かないとだが、苦労してるんだな、カナンは」

「そうだよ! クロウの外見だけで寄ってくる人じゃ困るんだよね。かといって必要以上に女性と仲良く話さないからなあ、クロウは。気をもたせてしまうから、だって」

「そりゃ、あいつに話しかけられたら、女どもなんてみんな舞い上がるに決まってる」

「言われてみれば、話しかけられてから応えてだったな」


 クロウはクロウなりに予防線を張ってはいるのだ。大変薄い膜なので、狙いにくる女性たちからしたら無いに等しいものだったが。


 気立てがよくて、世話焼きで、できれば店を持っていて、薬師に関わるような商品を扱うことがなく、外側だけを見ているわけではない女性ならば、私は立ち去ろうと思うのだ。

 それでももう少し先かなと思っている。

 日常生活で突然名前を把握できないものが出てくるので、どうしてもまだ心配で引き渡すことはできない。


 ランタンの芯だということがバレたら、どんな扱いを受けるかわからないのだ。手厚く保護されるかもわからない。今ようやく冒険者のランクが上がってきた。ランタンの芯ではなく冒険者のクロウとして認めてもらえるような何かを成してから分かれた方がいいなとは思っていた。


「なじみの一人でもできれば、その街から離れがたくなるかもしれない」

「できるのかなあ。一人を相手したら自分もって列をなしそう? 商売だとそういったことはないの?」

「商売だと……だが、クロウなら列ができそうだな」

 それは嫌だなと思った。




 今日も一番前の席で、子どもたちが席取りをしていてくれた。


「カナンいらっしゃい! 楽しんでね!」

「昼間は光の演出はあんまりないから、少し内容も変わるのよ」

「最初の姉ちゃんたちの綱渡りはあるよ!」


 口々に言いたいことを述べて子どもたちは嵐のように去って行った。

 買ったものやもらった物を食べながら二度目の興行を見たが、やっぱり思わず声を漏らしそうになって、口を塞いで見ることになった。食べ物は噴き出しそうで危なかった。


 危ないけれどそれがスリリングでやめられない。


 最後にこれで終わりだと演者が全員勢揃いして挨拶をした。大きな拍手がなかなか鳴り止まない。もちろん私も思いきり手を叩いた。

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