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転生魔女と魔法のランタン  作者: 鈴埜
クロツルバミの章

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7.迷宮へ

 宿に帰って、クロウは冒険者ギルドへ向かった。

 私は〈防護〉の呪符(トゥル)を足すことにする。


 〈防護〉の呪符のための紙と墨はまだ十分残っていた。


 私と呪符は相性がよかった。記憶を燃やす魔女となった私は覚えることが得意だったのだ。それはもう、今までとは違ってびっくりするくらい物事を鮮明に覚え、思い出すことができる。それが魔女の特性の一つだ。

 呪符はたくさんのシンボルがそれぞれ意味を持ち、向きや大きさも事細かな決まりがある。たくさんの決まりに縛られ、複雑に絡み合った中にまた新しい法則を見つける。呪符は常に進化し続けていく。


 呪符の大きさは決まっていない。細かい文様をすべて書き入れることができる大きさであればいい。とはいえ、持ち運べることが、冒険者として生きるまじない師には絶対譲れないことだ。

 となると、どこもだいたい共通した紙を用意する。


 〈防護〉に使う紙はスワランの店のものとは別だ。もう少し低品質でいい。そのかわり枚数を準備する。どれだけ高品質に作ろうが、一撃で飛ぶような攻撃を加えられたときに、すぐさま次の〈防護〉の呪符を発動する方が効率的だ。

 よっぽどの力量差がない限り、〈防護〉の呪符を貫通して次の呪符まで消滅することはない。一つの呪符を破壊した時点で相手の攻撃の呪符の効果も切れる。


 目の前の生成りの紙に、私は息を整えシンボルを描き連ねる。その筆の先に迷いはなかった。初めはこうはいかなかったが、生来の几帳面な性格も幸いし、今ではそれなりに使える呪符を作ることができるようになった。


 まじない師の呪符はそれぞれ微妙に違う。師匠となる人から教え込まれたものは滅多に人に見せない。〈防御〉の呪符のような人目に触れる可能性のあるものは、わざと違う模様を書き入れ、一見してどれが意味のあるシンボルかはわからないようにする。


 私に呪符を教えてくれたのはヴァンとミーアが住んでいた場所の隣街のまじない師だ。

 クロツルバミの迷宮都市がある場所から山を越えた、向こう側の別の国だ。

 この辺りのまじない師とは少し系統が違うかも知れないのであまり人目に触れさせるものではなかった。


 使う墨は二種類。本当のシンボルを描いていく墨と、ダミーの隠しを入れるための墨だ。どちらも乾いたあとの色味は同じで、見分けがつかない。だいたいセットで売られている。


 〈治癒〉の呪符を学ぶことができたのは本当に幸運だった。私はランタンの魔女として迎えられた。とはいえ、ランタンを使うことにはためらいがあった。記憶を燃やすという行為が恐ろしかったのだ。

 そこで、私は他のことで生活をできるようにと考えた。本当に色々考えたのだ。それまでのこと、これからのこと、この先のこと。

 すべてを忘れたクロウと一緒に考えて、まじない師の道を目指すことにした。


 そうと決まれば、街はランタンの魔女には甘い。それをくれと言えば皆がなんでも喜んで差し出してくる。来たるべき脅威に対して恩を売っておきたいのだ。それはもう異常なほどだった。


 彼らを利用するようで申し訳なかったが、私はまじない師に師事し、彼らからあらゆる呪符を学んだ。



 全部書き上げたらもう一度チェックだ。

 石橋を叩き割る寸前までチェックする。こればかりは性格で、もうどうしようもないのだと思う。

 いつも左腰につけている呪符用の鞄から、すべての紙を取り出し並べる。こすれて消えている部分はないかと見たあとに、決めている順番に並べて片付けた。


 もう一つの鞄に手を伸ばす。こちらは濃い茶色の鞄で、魔導具だ。〈拡張〉されている拡張鞄だった。魔導具師の腕によって広さは違うが、外側の大きさとは違ってたくさんの荷物を入れることができる。質が良ければ良いほど重さも感じなくなる。


 準備できることはしておきたいと、どうしても多め多めに作ってしまう。掠れさえしなければいいから、拡張鞄に入れておけば安心ではある。それでも、不安に思ってしまった。


 集中して書き上げて、喉が渇いた。マーニャに水をもらおうと一階へ降りると、ちょうど泊り客の相手をしている。


「いらっしゃい。一泊クル銀なら三枚。他の銀貨ならプラス一枚だよ」

 新しい客のようだった。


 この都市があるクルーゼルム王国はわりと平和な国だ。三方を国に囲まれ、南に海が広がる。しかし三方の国との関係は良好で、冒険者の行き来も盛んだった。クル銀は、クルーゼルム銀貨の略称だ。三枚で一泊ならそれなりだ。高くもなく安くもない。大通りから一本入った静かな場所なので、クロツルバミの迷宮都市を拠点としたり、長逗留する冒険者がよく使う。ようは勝手知ったる者たちがやってくる宿だった。


 私たちは二つのベッドに衝立付き。銀三枚。かなり破格な値段設定になっている。


 厨房を覗くとトールがいて、水をお願いする。コップになみなみ入った水と一緒に、小さな包みを手に押しつけてきた。布きれを開くと、そこには黄色の丸いあめ玉が三つある。


「あ、ありがとう」

「うん」

 トールはマーニャの旦那さんだ。二人でこの宿を切り盛りしている。よく喋るマーニャとは対照的に黙々と手を動かしいつもくるくると狭い厨房内を動き続けている。


 もらったあめ玉を口に放り込みながら階段を上ると後ろから呼ばれる。


「おかえりクロウ」

「ああ。明日は迷宮だ。やはり氾濫(タシュク)の話ちらほら出ているようだ。告知は明日以降始めるらしいが、迷宮に入るときは普段より少し上の階層でという話だった」

 酒場で聞いた話がどの程度出回っているか確かめたようだ。


「でもまあ、十三階なら平気だろう」

「そうだね。早く寝ないと」

 私はそう言って道具を片付け始めた。





 迷宮の中は朝も昼も関係ない。たまに塔型の迷宮もあるらしいが、私は一度も出会ったことがない。迷宮は地下へ潜る。

 朝も昼も関係ないので迷宮入り口はいつも人が絶えない。


 何重にも閉められた門の、小さな通用口を通る。門はクロウの二倍近くの高さがあった。一番外側の受付で手続きをする。

 受付は門のすぐ横、迷宮を囲う壁に食い込むような形で作られていた。通用口を通るには必ずその前を行かねばならない。

 

 その迷宮ごとに決められた入場料を払い、冒険者ギルドで発行された二枚のタグのうち一つを渡す。

 それには銅級(バークル)鉄級(デミルン)などの(クラス)が表示され、登録した名前が記されていた。


「やあ、クロウ、カナン。今日はいくつだ?」

「十三層へ。墨の素材採りだ」

「それは、納品もしてもらえそうかな?」

「そのつもりだ」

「助かるよ」


 クロウのタグを受け取り、そのまま私のタグへと手を伸ばす。


「気をつけて。ヨク神様のお導きがありますように」

「ありがとう」


 ギルド職員は二人分のタグを、手元にある穴に滑り込ませた。

 日によってはかなりの人数が中に入る。受付のテーブルには穴が開いており、その下には箱が設置されていた。

 十層ごとに様子が変わり魔物が変わる。毎日決められた時間にタグは回収され、出てきた時に返却された。その時ランダムで中の様子を聞かれることがある。クロウや私はわりと丁寧に答えるので、聞かれることが多かった。


 あまりに長い間出てこない場合は何かあったかもしれないと、同じ階層を行く者に声をかけることがあった。今日は何も言われないということは、十三階層あたりは平和なのだろう。

 その手前も然りだ。


 赤茶の通用口は明けっ放しだ。そこをくぐると、中をまたぐるりと壁が続く。そして同じ場所に通用口があった。


 三回くぐると、ようやく階段が見える。人が十人は行き交えるほど大きな階段だ。それを潜っていくと、迷宮が始まるのだ。

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