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転生魔女と魔法のランタン  作者: 鈴埜
クロツルバミの章

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6/8

6.街の酒場

「少し早いが夕食に行こう」

「うん」


 マーニャの店で頼んでもいいが、いつも夕飯は別の場所で摂るようにしていた。なるべく外からの冒険者が入ってくるような酒場に行って、噂話に耳を傾ける。またはなじみがよく出入りする酒場で目新しいことはないかと話を向ける。


 そうやって時勢を気にするように生きなければ冒険者はやってられない。


 十三歳の私を酒場に連れてというのが多少ネックではあるが、一応もう冒険者登録をしている。冒険者になれば子どもとして扱われない。表向きはそういわれている。実際はみんなして人の頭をぽんぽんと気軽に撫でる。身長が足りないせいなのだろうが、地味にイラっとした。

 なぜなら中身は三十近くの成人女性なのだから。

 とはいえ、そんなことを公言するわけにはいかず、甘んじて受け入れる日々だ。


 そして、どちらかというと酒場より問題なのは……女性たちだ。


「クロウ、寄って行かない?」

 酒場の手前の女性がたくさんいる通りであちこちから声がかかる。今日行くことにした店への最短距離はどうしてもここを越えなければならない。

 というよりも、酒場の近くにこういった施設があり、また、こういった施設のそばに酒場がある。


「カナンは宿に戻りなさいよ。うちの下男に宿まで送らせるわよ」

「帰りに露店で夕飯は買って帰ればいいのよ。ねえ、うちに寄っていってよ」


 女性たちの執拗な誘いを、クロウはまったく表情を変えることなくスルーする。こちらへ来てからずっと態度は変わらないのに彼女たちは諦めないのだ。

 クロウは誰の目から見ても綺麗だった。長い黒髪を後ろで一本にまとめ、背は高いがそこまでがっちりしたようには見えず、威圧感もない。アイスブルーの瞳と彫りの深い顔立ちはどこか品がある。

 冒険者としては舐められがちだが、女性からは絶大な支持を受けているのだ。


 それが一向になびかない。


 進行を妨げるようなことはしてはならない。それはどこの花街でも守らねばならないルールだ。足を止めた途端、女性がたかっていく。


 彼女たちはあの手この手でクロウを引き留めようとする。


「カナン、〈虫除け〉がそろそろ必要なんだ」

「わかった、後で届ける」

 店から顔を覗かせた采配が声を掛けてくる。最初はクロウの足を止めるための策だったのが、私の呪符(トゥル)の質がいいと定期的に買ってくれるようになった。臨時収入になってありがたい。


「もう! 本当にツレないんだから」

 女性たちの憤慨した声を背に、私たちは酒場へ向かった。


 私の手を取るクロウを見上げる。こういった場所ではクロウは決して私の手を放そうとしなかった。


「別に一晩くらい留守にしても構わないよ」

「そういったことにもまったく興味がわかない」

 少し困ったような表情で言われると、私もそれ以上は何も言い返せない。記憶を失ったせいなのかどうなのかすらわからない。あまり踏み込んではいけないことだと思っている。


 今日は行きつけの、迷宮都市に暮らして迷宮に潜る冒険者が多い酒場に来た。酒場の隅の方に案内され座る。中央には若い冒険者が随分と羽振りよさげに料理を山盛りテーブルに載せていた。


「よお、カナン。怪我したんだって?」

 門でのやりとりを見ていた者がいるのだろう。常連の耳にまで届いているようだ。ここに集う冒険者たちはすぐ情報を共有する。拾ってきてはこの酒場内ですり合わせるのだ。


「もう治った。俺の呪符は質がいいからな」

「相変わらず自信家だ」

 ロンは笑いながら横に座って酒を注文する。三十前半のベテラン冒険者だ。右頬に深い傷がある。なんでも四十層の大物にやられたとか。嘘か本当かはわからない。


「迷宮はどうだ? 平和か?」

 クロウがロンの前に注文したつまみの皿を押しやる。ロンは礼を言いながら口に放り込んだ。


「ああ。問題なしだ。潜るのか?」

「墨の材料を取りにな」

「ああ、そりゃいい。ちょうど依頼が出てたな。まあ、見たのか。うん。時期としても悪くない。十三層でもとれそうだ。髪より骨が欲しいって話だ」

 骨ならなおよしだ。私の墨も骨だ。


「二十五層は少し騒がしい。三十層の魔物が上がってきているそうだ。もう少ししたら討伐依頼が組まれるんじゃないかって話だ。それまでに呪符を用意しておいたほうがいいかもな」

 討伐の規模によってはクロウが呼ばれる。クロウは銅級(バークル)の上だ。すべてを忘れたはずなのに、覚えることにした剣の才能が開花した。もうすぐ一つ上の階級に上がることもできそうだ。

 私はまだ鉄級(デミルン)の中で、本来なら呼ばれないがクロウが行くなら一緒に行く。一人向かわせるのは心配だった。


「三十層以下に行く冒険者があまりいなかったのか」

「まあ、ここいらで稼ぐのは二十層台で十分だからな。級を上げる目的や、それこそ深部への名声目的じゃない限り三十層以下に行くヤツはあまりいないな」


 潜れば潜るほど珍しい素材に出会える確率は上がるが、魔物も強くなる。出入り口は一層にしかないのだ。行きもそうだが帰りの道のりも考えなくてはいけない。安全をとるのが普通だ。

「この間までいたパーティーは?」

「ああ、アラベルたちか。ほら、お前らが護衛に出てすぐだ。次の迷宮都市に移動した。若い奴らが多いから、見識を広めたいと次々移る」

「なかなか強いパーティーだと聞いていたが」

「まあそうだな」

 強いパーティーがいると、探索済み階層が進むことが多い。そういったことを目指すパーティーにはクロツルバミ伯が特別に報償を出すと聞いていた。しかし、一ヶ月もしないうちに移動するということは、そういった話がなかったのだろうか。


「ここの最深到達階は五十三階層だ。彼らじゃそれを越えられないだろうと思われたのかもしれないな。それか、最近クロツルバミ伯の動きが鈍いとも言われているんだ」

「鈍い?」

 大人は大人の会話に入られるのを嫌う。見かけは大人でも一般常識が三歳児なクロウに話をさせているのもハラハラするが、煙たがられる方がもっと悪い。普段は上手く話に割ってはいるのだが、つい言葉が出てしまった。

 だが、ロンはそれには何も言わずこちらを見てにやっと笑った。


「許可や、何やら、動きが鈍い。クロツルバミ伯がの印が必要な仕事が滞り気味だという話だ。これはかなりの情報だぞ?」

 とは言うが、きっとこの酒場の中ではもう広まっていることなのだろう。

 こうやって教えてくれるようになったのもここ二ヶ月ほどだ。

 最初の一ヶ月なんて話しかけられもしなかった。定住する気はあるか、実力はあるか、人となりはどうか。全部観察されてようやくお眼鏡にかなったのかこの酒場にクロウが誘われた。


 私はとにかく、落ち着きたい。移動してばかりの暮らしは嫌だ。街にはそれぞれ街の人間が集まる場所がある。迷宮都市で認められたのはかなり嬉しかった。


 その後は港町シウォールの話をクロウや私がして、ロンが質問をいくつか重ねた。


「お前らと一緒に来た新しい二人ってのはどうなんだ?」

「よくわからない。あまり護衛任務には慣れていなかったようだが」

 人の評価を下すことができるほど、こちらも何か特別なわけでもない。クロウはかなり言葉を選んでいた。私もそのくらいの評価がいいと思う。


「なんでもローレンが家に連れてったって聞いた」

 そこで私は反応を間違えた。

 普通は、驚くところだ。へえ、と漏らしたクロウ。それはいつも通りだ。クロウは大げさに驚いたり声を上げたりしない。いつも穏やかなのだ。それはみんなが知っているところ。だが私は、こういったとき食いつく方だった。自分でもわかっている。反応を間違えた。


 ロンがまたにやりと笑った。


「吐いちまえよ」

「カナン……」

 ちょっと呆れたような目で見られると困る。

 だが失敗したのは私だ。


「ううう、持ってる武器の質に対して腕が伴ってない」

「それは、弓の方? 剣の方か?」

「剣だよ」

 スルシュだ。


「そうか。いい情報ありがとよ」

 そう言ってロンは席を立つ。クロウがポンポンと私の頭を撫でた。

「もうっ」

 情報を与えに来たと思わせて、持っていく。これだから街の酒場は侮れない。


「ロンには敵わないな」

 別に漏らしてもかまいはしない。ただ、誰から漏れたかはあからさまになってしまうだろう。ローレンに顔を合わせ難くなる。気まずい。


 礼だということか、甘い蜜がたっぷりかかったふかし芋が運ばれてきた。持って来たのはこの酒場の娘だ。

「はい、カナン。元気そうね、クロウ」

 彼女もクロウに熱心に近づく。クロウはとくに気にした様子もなく礼を言って受け取った。


「カナンは怪我をしたんですってね。自分で呪符が描けるっていいわね。私も困った時はお願いするわ」

「正規料金はもらうからね」

「ツケと相殺でといいたいところだけど、あなたたちいっつもちゃんと払っていくものね」

 ツケができるほどの関係性ではないし、なるべくツケ払いはしないと決めている。いつ突然街を発つことになるかわからないのだ。宿代も前払い。姿を消しても困らせることがないようにしておかねばならない。


「呪符なんて使わなくていいならそれにこしたことはないよ」

「拡張鞄を持っている人には言われたくないわ。カナンのはずいぶんと入るのよね」

 仕事の途中だと言うのに、酒場の娘、リアナはクロウの隣に座ると一緒になって食事を始める。持ってきた私の蜜がけふかし芋を、だ。


「いいだろう。これだけは自慢できる。たまたま盗賊に襲われてる商人を助けて、礼にもらった」

 ということにしている。

 拡張鞄は容量によって値段が変わる。大きな獲物がまるっと入るくらいと認識されているが、実はそれこそ家一軒が入ってしまうほどなのだ。もちろん内緒だ。


「運がいい子ね。そういえば知ってる? 最近衣装屋がクロツルバミ伯のお屋敷に何人も呼ばれたのよ。一人二人をたまにならわかるけど、十人近くが一気にっていうのは珍しいわよね」

「衣装屋? 夫人が?」

「いいえ、それが違うの。伯爵様の専属でもないらしいわ」

「新規のってこと?」

「そう。おかげで友だちの知り合いが頼んでいた、ローブの納期が延びたらしい」

「平民の衣装屋?」

 それはおかしいだろう。


「いろんな衣装屋よ。高級品から、平民の冒険者用まで。靴も合わせてよ」

「最近って?」

「昨日くらい」


 はあ、とため息をついた。

 どうもリアナは時間の表現が独特ですれ違いを起こす。


「それは、最近とは言わないな」

 クロウが口を挟むと、リアナは真っ直ぐ彼に向かって微笑みかけた。


「二人とも最近来てくれなくて寂しかったわ、ならどう?」

「リアナ! サボってないで運べ!」

「はあい」

 私とクロウが答える前に、叱られたリアナは肩をすくめて立ち上がった。


 その後は入ってきたとき目についた羽振りの良さそうな冒険者の話を聞いていた。

 どうやら街の冒険者に連れてこられたらしい。おだてら、持ち上げられて、たくさんの情報を引き出されていた。


 連れてくるときわざとわかりにくい道を通っていることだろう。よっぽど帰り気をつけないとここには二度とたどり着けない。


 それでも、最近の迷宮の話は重要なので私は耳を傾けていた。

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