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転生魔女と魔法のランタン  作者: 鈴埜
ミハナダの章

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56.池の魔物

 解体場を出て、ギルドの建物へ移動する。そのまま外へと思ったところで再び男性に呼び止められた。迷宮の地図を見せてくれたときの男性だ。


「お二人はもう花を準備されましたか?」

 奇しくも先ほど同じように聞かれた話題に私たちは顔を見合わせる。


「明日とりに行こうと思っています」

「ああ、よかったです。ご存じなかったら恥をかいてしまうかと思いまして。余計な話でしたね」

「いえ。ありがとうございます」

 せっかくだから色々聞いておこう。この街のしきたりを私たちはあまり知らない。




 翌朝起きると、宿屋の主人の甥っ子、ルザが待っていた。黒髪に茶色の瞳、私より少し背が低いくらいの少年だ。


「今日はよろしく頼む」

「うん! 前金でよろしく」

 ちゃっかりしている彼に、銀貨一枚をクロウが渡す。


「あとは採れた花の量で追加一枚だ」

「拡張鞄があるんだろう? 俺の知ってる場所にはかなり咲いてるからさ。余裕だよ。二枚にしてもらってもいいくらいだ」


 調子のいい少年にクロウは顔をほころばせた。

 馬に乗れば半日ほどで帰ってこられるくらいらしい。馬の数を減らすため、クロウとルザが一緒に乗る。


「カナンは馬を操れるのか?」

「あのねえ、冒険者だよ? 馬くらいどうってことないって」

 これは、練習した。かなり練習したのである程度なら大丈夫だ。


「俺の方が上手かったらカナンがこっちな」

 生意気を言う少年を睨み付けながら、私は馬に乗る。馬貸しが手伝ってくれようとしたが、ルザに見せつけるように一人で飛び乗る。


「それじゃあ北に」

 朝日が昇ってまだ間もない。魔物がいるのは基本森や湿地、暗がりが多い。砂漠などには土に潜るものもいる。

 ミハナダ周辺はこちらめがけてくるような魔物は少なかった。

 反対に、ウサギやトリのような形の肉になる魔物はちらほら見かける。


 魚もとれるし、迷宮が戒律で一日閉鎖されようともそう困らないのだ。


 ただ、花があるのは森の中、池の畔だという。


「水の中からあがってくる魔物がさ、結構手強いんだ。顎と牙がすごい。でも、クロウって強いんだろ? こっちが一度強いってわからせたらそのあとは池に潜ったままこっちの様子を見てる」


 強さを誇示することが大切のようだ。


 森に入る前に馬を下り、緩く手綱を近くの木に結んでおいた。強く引っ張ればほどけてしまう結び方で、何か危険なものが現れたときは自力で逃げてもらうのだ。


 宿屋の主人が大丈夫だと言っていたのは事実で、彼は上手に森の中を進んでいる。もちろん私が定期的に〈探知〉をして、魔物がいないのは確認済みだ。形が見えたら大きさを言うと、こんな魔物だろうと教えてくれる。特徴と倒し方も知っていた。


「ルザは案内人をするの?」

「もう少ししたら迷宮に入るつもりだよ。ミハナダの迷宮は本当にやりやすいからさ、友だちと組んで金を稼ぐんだ」

「宿屋の手伝いでなく?」

「おじさんは、子どもがいないからそんな話もあったけど、客のあしらいがなあ。みんながみんな、カナンやクロウみたいな上客じゃないよ」

「私たちは上客じゃないけど……」

「上客だよ。おじさんをあごで使うわけじゃなく、部屋もきれいにしているし、騒音も立てない。かなりいい宿だからさ、泊まるヤツは平気で無茶を言ってくるんだよ。それができないなんて思ってもいない」

 普段泊まる宿は、宿屋の主人の方が上だ。他に迷惑をかけるようなら一発で追い出される。

「おじさんはそうやって客あしらいをするのが好きな人だ。その上でしっかり金をとるのがね。俺はおじさんの宿に旨い魔物肉を収める冒険者の方が性に合ってる。客商売はたぶん妹の方が上手くできるよ」

「妹がいるのね」

「一つ下だけど口げんかじゃ俺は絶対敵わない。いつの間にか俺が怒って俺が大きな声を出すから、妹は泣きそうになって親がくる。怒られるのは俺だ。あいつはこっそりこっちに向かって舌を出してるんだ」

「一枚上手ってやつだね」

「そんな言い方するんだ? 怒らせるのが上手ってことは、怒らせるツボを知ってるってことだろう? てことはそこを避ければいい。最近はおじさんもそれをわかってるみたいで、妹とよく話してる」

 おじが自分から妹に鞍替えしたことに、ルザは特に不満はないようだった。


「冒険者なら色々と準備が必要だね」

「そう。だからこうやって小遣い稼ぎをするんだ」

 十歳なら、人によっては荷物持ちとして迷宮に入る時期だ。腰に下げている装備や胸当てなんかも、迷宮に入るつもりで準備中と言われれば納得だった。


「そろそろだよ」

 ルザの言葉に私は〈探知〉を使う。


「止まって!」


 その結果に驚いて声を上げる。


「どうした?」

「どうせ、ティティムの数の多さにびっくりしたんだろ」

 ルザが笑って、私はうなずく。

 びっくりした。すごい数だ。


「三十はいるんだけど……」

「一体か、二体が池から上がってくるんだ。試されるんだよ。年寄りのティティムが来るんだ。そいつに手こずると、一気に攻められる。圧倒的な力を見せてやらないといけない」

「クロウ……」

「大丈夫だ」


 木の生い茂る森の中を進み、ひらけた場所にやってくる。

 大きな池があった。その池の周りに、スミレのようなきれいな薄紫の花がたくさん生えている。


「根から掘り起こさないと加工できないから気をつけないと。まあ、まずはティティムだよ。クロウが負けたら逃げるよ、カナン」

「やだよ」

 逃げるわけがない。


 水音を立てながら赤茶の塊がのっそりと姿を現す。二体だ。ワニに近かった。ワニほど顔は長くないが、身体の横から突き出た四本の足を交互に動かしずるずるとゆっくり動いている。

 しかしルザは素早いと言っていた。あれはわざとだ。

 口の端から鋭い歯がいくつも見える。


「一体私が凍らせるよ」

 〈氷結〉が効くとギルド職員から教えてもらったのだ。池の畔ならメーネェクの花だと。そのそばに現れるティティムは〈氷結〉が効くと。


「いや、いらないだろう」

 クロウは剣を抜くとティティムが跳ね上がる。クロウの動きの速さに相手も本性を現したのだ。一体がしっぽで地を叩いて大きな口を開け、クロウに迫ると、もう一体が今までの動きとは真逆の素早い動きで下から足を狙っている。


 だが、一瞬でその胴が二つに割れ、地を這っていたティティムの背にクロウがのっている。もう一振りすると、足の下のティティムは前足を失っていた。


「飛び上がってくれた方が切りやすいな。接地しているとどうしても思うように剣の刃を動かせない」

 そういって頭の上から真っ直ぐ突き刺す。


 あっという間に、二匹のティティムは命を落とした。

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