52.昇格
素材取りをギルドに任せて、食事をすることになった。
この間会った酒場だ。しかし、私はもうすっかり眠くて眠くて半分目を閉じている状態になってしまっていた。
「カナンはいくつなんだ」
「確か、十三だな」
私の口は肉を食べるのに使っている。代わりにクロウが答えた。
「体力はこれからだな。本人はやれる気でいても、身体が追いついていない感じか」
「まじないの腕なら銀級にもなれるんじゃないか? 〈氷結〉の呪符を見ていたが、どれもこれもそっくり同じだった。あそこまで精巧に同じように書き続けるのは並大抵の努力と集中力じゃない」
「そうだな。だが、銀になるにはそれこそ体力が追いつかないだろう。もう少し育ってからかな」
私はもう、栄養を摂取するのに必死で、彼らの会話に反応できなかった。ただひたすら口を動かしている。
「こりゃもうダメだな」
「六階への往復を二日で済ますのは、大人でも休憩が少なくて大変だ」
「けどよ、迷宮内でゆっくり休めるのは六階くらいだからな」
「ミハナダでは三階で狩りをするのがいいかな」
「半日で行ったりきたりがベストかもしれないな。墨の材料が必要で六階まで行きたいときは声をかけろ。喜んで同行するよ」
「〈身体強化〉の呪符を最初から最後まで使った方がいいかもな」
コルハンたちのありがたい話を聞き終えると、いい加減限界ギリギリの私をクロウは担ぎ上げた。
「明日昼でいいか?」
「ああ、ギルドで」
今日の成果を山分けするのだ。
「じゃあ、その後カナンに墨屋と紙屋を紹介するよ」
テマクの声が聞こえる。
もう目を開くことを諦めていたので、私はなされるがままに宿屋へ戻った。
そして、風呂に入らずベッドで寝てしまった。
「やだーっ!! シーツ替えてっ!! 布団替えてっ!! せっかくのきれいな宿があ」
この清潔で風呂付きの宿に一日で慣れきってしまい、風呂に入っていないのにベッドで眠るという暴挙に懺悔する。
「仕方ないだろう。宿についた頃はもうすっかり寝入っていた」
「体力の限界を呪う……お風呂入ってくる」
「もう少ししたらギルドに向かわないといけない。早めにな」
ゆっくり入ることも許されないらしい。
大急ぎで全身を洗って湯船に浸かる。疲れはほとんど抜けた。私としてはそれだけですごいと思えるのだが、冒険者としてはそれでは足りないようだ。
髪を乾かさなければならないし、長湯はしてられない。早々にあがって布でよく拭いた。この宿の布は水をよく吸収してなかなかよいものだ。ハマムの風呂に置いてあるものに似ている。だがこっちの方が肌触りがもっといい。
旅の途中、宿をとったとき隙を見てハマムに行き、風呂には何度か入った。
しかし、商隊と一緒に移動してからはさすがに行っていない。そろそろ様子を見に一度飛ばねばと思うが、ロアーナがいるので気づかれるのが嫌だった。
ここを離れてからのことになりそうだ。
「カナン、髪を」
私をソファに座らせると後ろから容赦なく頭をかき回す。
ドライヤーがあればいいのに、髪が傷んで仕方ない。
「少し、染料がとれてきているな」
「えっ、それは拙いね。今夜染めようか」
「そうだな。染め粉は?」
「もう一回分はあるから、これを使ったら買わないといけないね。どっか適当な街で買ってくるよ。ここを移動してからかな。ロアーナに変に詮索されても嫌だし」
今いる場所で買うと、髪を染めていることがバレてしまう。
特にこの街では、私の金も、クロウの銀も目立つのだ。
ギルドに行くとすでに四人は揃っていた。
解体場で受け取りのはずが、ギルド職員に奥へ通される。
コルハンたちはニヤニヤしていた。
通された部屋には男性がいた。促されて中央のローテーブルを囲んだソファに座る。
「私はミハナダの冒険ギルド長をしている、ネジャティという。コルハンから君らの狩りの様子を聞いた。二人とも今の級より上で相応しいという話だった。この人数であれだけのウィラントの牙を手に入れてきたのだから、十分ランクアップの資格はあると思っている」
昨日夢うつつに聞いていた話だ。
コルハンたちがギルドに話したのだろう。私がチラリとクロウを見ると目が合う。
「ありがたい話ですね。試験を受けなくていいのは」
「銀級になれば緊急時にはギルドの要請に応えねばならぬ義務が発生するのでそのあたりの契約は結んでもらうがな」
そう、それが面倒なところだが、街にいるときなら参加するしかなくなる。
「構いません」
私はタグが新しくなるだけだが、クロウはいくつかサインをして新しいタグをもらう手続きをした。
「おめでとう、クロウ、カナン」
「手を回してくれたんだな、ありがとう」
「ありがとう、コルハン」
私も続けると、彼は首を振る。
「カナンの後押しはテマクだ。呪符の練度については俺にはわからん」
「ありがとう、テマク」
「あの呪符を描くやつが鉄級を名乗ってるなんて、こっちが困るからな」
タグは新しく作るのでまた明日渡されるそうだ。そのまま解体場へ行き金を受け取ることにする。
相変わらずここは、色々な匂いがした。
「よお、コルハン。今夜はおごれよ」
「この間おごってやったばっかりじゃねえかよ」
地元民だからか、知り合いがかなり多そうだ。
「言われた通り、半分はまだ牙をそのまま残してある。残り、どのくらい売ってくれるんだ? ウィラントの牙が入ったってんで、墨屋が列をなして待ってる」
「とりあえずこの金から〈氷結〉代はこんなところか」
先に換金していた分から呪符代が支払われる。今回テマクは呪符を使わずに終わったそうだ。
「……どうするカナン、そちらの取り分、二分の一の金と、二分の一の牙だ。牙を売るならここで売っておけ。それが一番丸く収まる」
列をなして牙を取り合うのだ。自分の墨でもないのにどこかに売ったら恨みを買うということか。
「二分の一でも、百以上あるんだね……半分は売って金にしてしまおうかな」
「そりゃありがたい。テマクはどうする」
「俺は十残しておいてくれたらいい。他は売るよ」
「よし、そうなると……」
横から女性がさささとやってきて、手際よく牙を分ける。
結果かなりの儲けになった。
「これは効率がいいなあ……」
私のつぶやきを耳ざとく聞きつけたのはコルハンだ。
「よし、来週も潜るか!」
「そのためにはさ、紙を手に入れないと。〈氷結〉は結構いい紙で書いてるんだよね」
「墨屋で墨を頼んだ後、紙探しだな」
テマクは付き合ってくれるらしい。
まじない師は準備が八割だ。しっかりやらねばならない。
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銀級になったら緊急時に召集がかかるようになります。街にいたらね!!
このあと八月は水曜日から土曜日まで4回更新します。




